セクメト②
「さて、今日はどのようなゲームとやらを持ってきてくれたのだ?」
「ええと、今回はですね……」
砂漠での一連の出来事が一段落して、俺は砂漠でも遊具などの設置をしていたのだが、トランプを気に入ったセクメトさんから他のゲームも所望され、それを作っては提供する日々だ。
できれば戦略性のあるゲームがいいのだとか。タイガさんの策にハマって負けたのがよっぽど気になっているんだろうな……。
「……コウ殿、今回は儂もいるのはなぜなんだろうか?」
「ええと、将棋だと俺だけじゃできないですからね……タイガさんは将棋ができるとお聞きしましたので」
少し前に焼肉大河でタイガさんと会った際、話が盛り上がった時に趣味の話などもしていて、その時に聞いたのを思い出したからだ。
タイガさんは将棋、チェス、囲碁などが趣味らしく、時々公民館などで他の人と手合わせしているのだとか。
「なるほど、儂と対局しているのを見てもらい、どんなゲームか説明するということか。分かった、それでは始めよう」
「ありがとうございます、助かります」
そして対局が始まったのだが……。
「王手」
「……参りました」
つ、強い、強すぎる!?
俺は小学生の時以来だったので駒の動かし方を覚えているぐらいだったのだが、タイガさんは容赦なく飛車角で俺の陣地を蹂躙していき、10分も経たないうちに決着となった。
「ふむ、次は飛車角落ちでやってみるか」
「お、お願いします……」
そして、タイガさんの飛車角落ちで対局が始まったものの、一方的な戦局は変わらず……。
「参りました……」
「なるほどな……我もタイガの強さが理解できた気がするぞ。先を読む力……か」
横から見ていたセクメトさんもタイガさんの強さに感心したようだ。
「ふむ、我もタイガと共に旅をして、自分を見つめ直すのもいいかもしれないな」
「……ということは……?」
「……コウ殿、元ボスがNPCの仲間になるのはどうなのだ……?」
タイガさんがセクメトさんに聞こえないように小さな声で耳打ちしてくる。
……あの強さのボスが仲間になっていいものだろうか。ゲームではボスが加入しても弱体化されるのが一般的だが……。
「……よくある弱体化は……されそうにないですよねえ」
エファもフィーリアも仲間になってから弱くなったという声は聞いてないし、そのままのレベルとステータスで仲間になりそうな予感しかしない。
あまりもの強さに『がぁぁっ! パ、パワーが違い過ぎる……』ってタイガさんのパーティーの人たちが思わなければいいのだが……。
「しかし、セクメト殿がここにいないと砂漠が荒れないだろうか?」
「ふむ……昔は確かに小競り合いはあったな。だが、今は交流を持つモンスターたちもいて、以前よりは平和になったぞ。だから我がいなくても問題はないだろう。……というか、我はそういったものには元々関与していなくてな」
あー……確かに統治よりも強くなる修行をひたすらしてそうなイメージはあるな……。
その辺はヘカさんに任せきりだったのかな。その辺は聞いてみたいけど、ヘカさんが行方知れずになったのを気にしているかもしれないし、今聞くのは止めておこう。
それにしても、セクメトさんがタイガさんのパーティーに入ったらタイガさんのギルドだけ強くなり過ぎてバランスが崩れてしまうような……でも、属性相性もあるだろうし、最終的にはいい感じのパワーバランスになるか……?
……まあ、マーメイドクイーンさんの召喚スキルを持ったうちが人のことは言えないのだが。
「ああ、我は戦闘になっても手を出さずに見学させてもらうぞ。そうでないとタイガたちの戦い方が観察できんからな」
あ、それなら安心かな。
確かに見ることで学ぶことも多いだろうし、見るだけならギルド間のパワーバランスも崩れないだろう。
……一部のセクメトさんファンと言うか信者と言うか……からは色々な目で見られそうだけど。
「……だそうなので、タイガさん、諦めてください」
「う、うむ……」
どうやらタイガさんも腹が決まったらしく、セクメトさんをNPCの仲間として迎え入れることになったのだった。
「ところでコウ。コウが我だったらあの時タイガとはどう戦う?」
「あの時ですか? そうですね……」
俺は少しの間セクメトさんの戦いを脳内で振り返る。
もし、俺がセクメトさんと同じ力を持っていたのなら……。
「……セクメトさんは初撃で地面を抉ってましたよね?」
「ああ、その程度なら朝飯前だ」
「それでしたら……タイガさんが盾を構えている所で、あえて手前の地面を攻撃しますね」
「……ほう」
「そうすれば地面が抉られてタイガさんがバランスを崩す可能性が出てきます。その隙を突けば……」
「なるほどな。そういう戦い方もあるのか……」
俺の説明に頷くセクメトさん。
……こういう風に素直に話を聞ける人って、もっと強くなると思うんだよな……。ただし、鵜吞みにし過ぎるのもよくないけど。
「他にも、スピードは確実にセクメトさんの方が上なので、スピードで翻弄して死角から攻撃する、とかですかね」
「ふむ、我は正面突破こそ戦い! と思っていたが……それだけでは勝てんということだな」
「ただでさえ強いセクメトさんが戦術を覚えれば、鬼に金棒ですね」
「鬼……? 聞いたことのない種族だな……そういうのもいるのか。強いのなら戦ってみたいところだ」
ああ、ことわざが通じないこともあるのか……まあ、強い者が強いモノを使ったら更に強くなるというたとえって言っておこうか。
「……さて、タイガよ。先ほどの戦術が有効か確かめたいのだが……」
「えっ。せ、セクメトさん、ここでやるんですか?」
今いるのはピラミッドの一室。周りのものが壊れたら困るから戦闘訓練するのなら外か隠し階段の先のダンジョンでやって欲しいところだ。というか地面を抉るなら確実に何か壊れる……。
「ああ、そうだな……つい、覚えたことはすぐ試してみたくなる性質でな……すまん」
「いえ、分かって頂けたなら大丈夫です。……タイガさん、あとで存分に付き合ってあげてくださいね」
「う、うむ……」
タイガさんが渋い顔をする。あの力強い攻撃をこれから先、何回も受けることになるんだろうなあ……。
そんなタイガさんに同情しつつ、俺はフィーリアやバステトたちと新作のボードゲームで遊ぶことにするのだった。
**********
「……で、なんでここにタイガさんとセクメトさんが……?」
後日、俺がトレントの島でウォータースライダーを設置していると、タイガさんたちが訪ねてくる。
タイガさんのレベルだと、もうここのダンジョンでは経験値を稼げそうにないと思うんだけど……。
「いや、コウの知り合いに上位種が大量にいるとタイガに聞いてな」
「ぶっ?!」
思わず吹き出してしまう。タイガさんに巻き込まれたーッ!?
「……で、最近はここにいることが多いと聞いてな。それで、ここにはどんな上位種が……」
「ふむ、ウォータースライダーが設置されているということはコウが来て……ん?」
セクメトさんがぁ……。
マーメイドクイーンさんとぉ……。
出逢ったぁ……。いや、出遭ったと言うべきか……?
「……ん? もしかして、コウの知り合いの上位種というのは……」
「ふむ、余のことだろうな」
「……なるほど、少し手合わせ願いたいのだが……」
「……余はこれからウォータースライダーで遊ぶ。すぐに終わらせてやろう」
「上等ッ……!」
セクメトさんが一直線にマーメイドクイーンさんへ駆けていく……が。
「むっ」
途中で軌道を変え、マーメイドクイーンさんの側面へ回った……かと思うと、更に軌道を変え……を繰り返し、どこから攻撃が来るか分からないように縦横無尽に駆け巡る。
セクメトさんが戦術を勉強しているのが分かるな……以前なら正面から殴りにいっていただろうし。
……そして、最終的にはマーメイドクイーンさんを背後から襲う。
しかし……。
「……そこか」
「ぐぅっ……?!」
マーメイドクイーンさんは一切無駄のない動きで、完全にカウンターをセクメトさんの顔に叩き込んだ。
そして、セクメトさんの身体は宙へふわりと舞い上がり、海へと着水する。……セクメトさん、火属性なんだけど海は大丈夫なんだろうか……。
しかし、すぐにマーメイドクイーンさんが海へと入り、セクメトさんをお姫様抱っこして陸へと戻ってくる。……男前だ……。
「な、なぜ我の仕掛ける方向が分かったのだ……?」
「それは、こういうことだ」
マーメイドクイーンさんはセクメトさんを地面へと降ろすと、大きな水の塊を作り出す。
そして次の瞬間、大きな水の塊は一瞬で何もなかったかのように消し飛んでしまう。
「??????」
セクメトさんは何が起きたのか分からないようで、目をパチパチさせながら頭にクエスチョンマークを浮かべている。
すると、マーメイドクイーンさんは言葉を続ける。
「我は『水』を感じることができる。これで分かるか? ……コウ?」
「え、ええと……あくまで予測に過ぎませんが……」
「よし、それではコウ、解説をしてみるがいい」
「分かりました」
さっきの水の塊には意味があるはず……それなら。
「先ほどの水の塊……あれは消し飛ばしたのではなく、目では見えないほどの小さな無数の水に分割したのだと思います」
「……ほう」
「それをマーメイドクイーンさんの周囲に張り巡らせ、その水がセクメトさんに当たることで、セクメトさんの位置を把握していたのでは……と考えます」
「見事だ」
「ま、まさか、そんな芸当ができるなんて……」
いや、ホントにそれ。
そんなに器用なことができるなんて……しかも、目では見えない水を管理できるなんてさ……。
「……完全に我の負けです。師匠と呼ばせてください」
「断る」
「な、なぜです!?」
「師になれば、コウの遊具で遊ぶ時間が減るではないか」
「あそ……ぶ……???」
「うむ、コウの遊具……ウォータースライダーは面白いぞ。ぜひやってみるといい」
「わ、分かりました!」
セクメトさんは困惑しつつ、ウォータースライダーの頂上へ。
そして、ウォータースライダーを滑り降り、宙へと放たれて着水し、マーメイドクイーンさんへ浜辺に連れ帰られる。
「……どうだ?」
「確かに楽しいですが……戦いのヒントになるようなものは……」
「お前は今、早く強くなろうと焦っているように感じられる。心に余裕がなければ、良い戦術も思い浮かばないはずだ。時には時間を忘れてしっかりと遊ぶことも重要だ」
……良いことを言っているように見えて、実はマーメイドクイーンさんがただ単に遊びたいだけじゃ……と思ったけど、黙っていることにしよう。
まあでも、良いアイデアが思い浮かぶ時って、実際に遊んでいる時が多かったりするんだよなあ。
そういう意味では的外れではないはず……。
「……ありがとうございます、それでは今日はしっかり遊ぶことにします」
「うむ。……それではコウ、今日もよろしく頼む」
「は、はい」
……こうして、今日の海岸はいつもより賑やかになるのだった……。




