伝授スキル
「……まあ、そうなるよなあ」
翌日、掲示板を覗くと伝授スキルの話題でいっぱいだ。
どんなスキルが伝授されるのか、どこで誰に伝授されるのか……それらの予測が飛び交っている。
一応、ヘルプにも項目が追加されたからある程度は分かるとは思うんだけど……。
と思いながらヘルプを開いてみる。
【伝授スキル:NPCなどから伝授されることで獲得できるスキル。伝授スキルはスキルポイントで習得できないスキルのため、基本的にはNPC専用のスキルとなっている。……そうなると、そのNPCは最初にどこから習得したのってなるよね。分かる。さておき、特殊かつ有用なスキルが多いので習得できれば冒険の助けになるだろう】
あっ、アイテム説明文さんちーっす。出張お疲れ様でーす。
とりあえず分かるのはNPCから伝授されるってことだけか……いや、NPCなどってあるから他にも可能性が……?
バイスさんが言ってたのはノッカーだから、『NPCなど』の『など』はモンスターなんだろうけど……モンスターも広義ではNPCってカテゴリに入るよなあ。
ま、その辺はおいおい分かっていくだろう。たぶん。
そして、補助魔法無効化鉱石と状態異常無効化鉱石が採掘されるようになったので、今日も加工屋はフル稼働なんだろうなあ……EXマジックポーションの在庫はまだあるし、差し入れとして持っていこうかな。
……そういえば、EXマジックポーションは作れるようになったけど、EXポーションはまだなんだよね。HPだけが回復するフェアリーシロップがあれば作れそうなものだけど……今はHPとMP両方が回復するフェアリーシロップぐらいしかないんだよね。この辺も研究したいところだ。
「さて、まずはEXマジックポーションを作ろうかな。ブラウン、手伝ってくれる?」
「らー!」
ブラウンに手伝ってもらうと、400回復が500回復に、35%回復が40%回復に効果アップしたものが作れるんだよね。
これを差し入れすれば待ち行列の解除に役立つはず……。
「今日も何か作ってるにゃ?」
「コウは研究熱心だよねー。ボクも見習わなきゃ」
「今日は差し入れのEXマジックポーションをね。いつかはEXポーションも作ってみたいけど、HP回復だけのフェアリーシロップの作り方が分からないんだよね」
「あー、確かにボクもそれは見たことがないかも」
エファもないんだ。HPとMPの混合はあるのに……。どうにかしてHP回復だけを抽出できないものだろうか……。
まあ、最悪EXマジックポーションを作って回復魔法で……という方法があるといえばあるけど。
とりあえず、今はできることをしよう。そう思いながらEXマジックポーションをMPが続く限り生産していく。
「……よし、終わりかな。ブラウンも手伝ってくれてありがとう」
「らー!」
俺は手伝ってくれたブラウンの頭を撫でてあげる。ブラウンは撫でられるのが好きなのか、頭をこちらに差し出してくるんだよね。
しばらくブラウンを撫でた後にエインズの町へ行こうとしたのだが、その前に掲示板をもう一回チェックしておこう。何か進展があるかもしれないし。
「……ん? なんだかレス数が一気に伸びてるような……」
さっき見た最新のスレのレス数は120程度だったのに、今では800を超えている。
何があったのかと思って覗いてみると……。
『あのさあ……俺、道具屋のお姉さんが好みだったもんだから頻繁に通って、時々プレゼントしてたんだよね』
『ああ、確かにあの子はかわいいな。でもいきなりどうした?』
『いや、今日お店に行ってプレゼントあげたらさ……スキルを教えてもらったんだよ』
『なん……だと……?』
『伝授スキルktkr』
『スキル内容kwsk』
『ええと……「メンバーズカード(パッシブスキル):これを持っていると、とある場所にあると言われる秘密の道具屋を利用することができる。運がいいと普通の道具屋には売ってない希少品が置いてある可能性も……」だそうだ』
『……カードなのにスキル?』
『それはまあツッコミどころではあるが……希少品ってのが気になるな』
『その秘密の道具屋、店員さんが赤毛のお姉さんな気がする』
『……もしかして、NPCと仲良くなったらスキルを教えてもらえるのか?』
『あー……俺、全然そういう交流してこなかったわ……次から意識しよう』
『他の人も同じような条件で教えてもらえたらほぼ確定だな。お客さまー!お客さまの中にNPCと仲が良い人はいませんかー!?』
……なるほどなあ。
でも、俺は加工屋の人とはそこまで仲はよくなかったような……でも、いろいろな鉱石を持って行ったおかげで顔は覚えててもらえたみたいだし……好感度とかがあるのかな。
何にせよ、新規発見者が出たから今回は俺の出番はなさそうかな。よかったよかった。
**********
「……ということで、こちら今日の差し入れになります」
「それはありがたいが……もう教えられるものは何もないぞ?」
「いえ、補助魔法無効化鉱石と状態異常無効化鉱石が発掘されたので、おそらく忙しくなるだろうと考えてお力になれればと思っただけですので、お気になさらず」
「……ま、それなら今後お前さんの力になれるようより一層努力することにする。これでいいか?」
「はい。それではまた寄らせて頂きます」
……よし、これでピラミッド攻略が進みやすくなるかな。
フィーリアが使っていた状態異常無効化鉱石が手に入ったんだから、ピラミッド内で操られての同士討ちはなくなるはずだし。
……そう、思っていたのだが……。
『ようやく状態異常無効化鉱石を加工してもらえたんだが……』
『おお、おめでたい。これでピラミッドも攻略できるな』
『いや、効果範囲があのバステトが使っていたものとは違うんだよ』
『どういうことだってばよ?!』
『あのバステトが使ってたのは戦場がまるまる覆える結界だったろ?』
『鉱石を回収してきたパーティーが使った時も同じ範囲だったな』
『ああ。だけど、俺が加工してもらったのは属性反射鉱石と同じで直径5メートルぐらいだったんだ。ちなみに加工前でも試したけど、やっぱりそっちも5メートルぐらいだ』
『うーん……加工の仕方によって効果範囲が変わるのか、それとも別の産地があってそちらでは効果が高い鉱石が採れるのか……』
『謎なのだ……』
『5メートルだとちょっと効果範囲が心許ないな。前衛と後衛ならこれぐらい離れることもあるだろうし』
『全員が持ってればいいけど、それだと消費MPもかさむしなあ』
『そして誰か1人でもうっかり結界の更新を忘れると、操られる……と』
『もう少し効果範囲を広げて、パーティー4人をカバーできる範囲になって2人で更新しあえるようになれば永続できると思うんだよな』
『うーん、もう少し考えてみる』
……どういうことだろうか……。
まさかの効果範囲が5メートルとは……属性反射鉱石も同じ範囲だったし、補助魔法無効化鉱石も同じ5メートルなんだろうか?
ただ、補助魔法無効化の場合は敵の補助魔法を無効化したいのだから、もっと広いと思うのだが……。
……よし、まずは掘りに行ってみよう。
**********
「よ、ようやく2つとも手に入った……」
無心で各所で掘り続けること1時間ほど。
俺はホームに戻り、手に入れた補助魔法無効化鉱石と状態異常無効化鉱石に魔力を籠めてみる……が、どちらも5メートルぐらいにしか範囲が広がらなかった。
「んー……どうしてだろう……何か加工の仕方が関係あるのか……?」
加工の仕方を考えてみるも、何も解決策は見い出せず。
うーん、いったん気分転換でもした方がいいのかな。
「ふぇー」
「ん? 何かあったの?」
「ふぇ!」
ニアがとあるものを掲げる。
それは卵の殻。
「ああ、もしかしてまたゆで卵が食べたいの?」
「ふぇっ!」
……実はみんなに料理を振舞おうと思って、こっそり現実で料理を練習していたのだけど、なかなか上達せず……。
で、試しにほぼ失敗しないゆで卵をみんなに食べさせてあげたら、これが思った以上に好評で。
こうやってニアみたいに催促してくることが増えたのだ。
よし、ちょうどいいし気分転換に作ろう。
「それじゃあ少し待っててね。全員分のを作るから」
「ふぇ!」
「さて……それじゃ頂きます」
「るー♪」
「コウ、塩をもらえるかにゃ?」
「あ、ボクもボクもー! ちょっぴりかけるのが美味しいんだよね!」
「きゅー」
「ライアはそのまま派なんだよね。その辺が選べるのも楽しいんだよねー」
食べ方も人それぞれである。
俺はそのまま齧り付く派で、塩はたまにかけるぐらいだ。
「コウー、ボクのゆで卵を切ってもらえるー?」
「了解。それじゃあ……」
俺はエファのゆで卵を、食べやすいように輪切りにしてお皿に並べる。
「この白と黄色の模様が綺麗なんだよねー」
「らー!」
確かに綺麗に層になってるから面白いよね。
……ん? 層……?
「どうしたにゃ?」
「いや、何でもないよ。それじゃあ食べようかな」
食事の後、俺は試しにオークションで3つの状態異常無効化鉱石を落札する。
そして、元々持っていた状態異常無効化鉱石を丸い形に変形させる。
次に、その丸い形にした鉱石を、別の鉱石を変形させて包み込んでみる。
「……これで魔力を籠めたら……」
俺は二層になった鉱石に魔力を籠めていく。
すると……。
「効果範囲が……伸びてる……!」
その距離、およそ15メートル。
5+5で10になるかなと思っていたけど、まさか15メートルになるとは。
更にもう一層を作って三層にして発動させると、なんと30メートル!
そして、四層だと50メートル……上がり方の法則は何となく分かったけど、これをフィーリアが使っていた鉱石まで広げようと思うと、かなりお金を使っちゃうな……。
ピラミッド内部を探索するなら、100メートルもあれば充分かな。となると、あと+二層ぐらいだろうか。
これを2つ用意すれば、パーティー内で結界を更新しあえば大丈夫なはず。
「ただ、これのつくり方を公表するということは……」
そう、チェンジオーアの習得方法を公開しないといけないということ。
みんながスキル目当てに一気に加工屋におしかけないか心配ではあるな……。下手すると仕事の邪魔になっちゃうし……。
とりあえずは100メートルの結界が張れる鉱石を作って、タイガさんやタケルのパーティーに使ってもらおうかな。
それでどこまで行けるか確かめてもらって、公開を考えよう。
**********
「さて、それじゃあ成果報告なんだが……オレのパーティーは最下層と思しきところまでは到達したが、肝心のボスが見つからなかったな」
「儂の方もだ。最上階にも行ってみたが、これといった仕掛けも何もなく……」
「あ、最下層に行く途中に宝箱は何個かあったが、エンカウント率の上がる黄金の武器はなかったな」
「懐かしいことを言うな、タケル殿」
「懐かしいのか……? ま、とりあえずはマッピングを進めていこうと思ってる。道中に不自然に狭い空間もあったし、隠し通路があるのかもな。もしくは仕掛けか……」
「姿を見せないが、操るスキルはどこからか使ってくる……となると、よほど用心深い敵なのだろうな」
「分かりました、ありがとうございます。スコールの穴掘りで隠し階段などが見つかればいいのですが……まずはマッピングからのようですね」
他のダンジョンだと最下層には魔女のようなボスモンスターがいるものなんだけどなあ。
……何にせよ、100メートルまで効果範囲を広げれば操るスキルは無効化できるみたいだし、これを量産するのが当面の目標かな。
「ところでコウ殿、どうやったら結界の範囲を広げられるかの質問が大量にきているのだが……」
「あ、オレの方もだ」
「う゛っ……」
「ということで、後は頼んだぜ!」
「あー……」
こうして、加工屋さんに迷惑をかけないようにと注意しながら、チェンジオーアの習得方法を公開することになるのだった……。




