岩石砂漠の攻略に向けて
「へー、ピラミッド内部にはそんな罠があるのか……」
俺は昨日の掲示板の書き込みを見ながら朝を過ごしている。
今日は出勤日なので早めに起きて皆に魔石、エファとフィーリアには食料を渡してからログアウトし、朝食の前に少し見るだけにしていたのだが……。
罠が多くて探索しづらい上に仲間が操られるのか……そしてそれは岩石砂漠の鉱石で防げるかも……と。……そうやって情報を集めているうちにそろそろ出勤の時間だ。
俺は急いで朝食を食べ終えて、食器を簡単に洗ってから出社することに。
「よう、コウ。大活躍だったな」
「タケシか。まあ、偶然の産物だな。マーメイドクイーンさんが召喚スキルを与えてくれるなんて思ってなかったからさ」
「そうそれ。その召喚スキル目当てに、あの後何人も挑んだんだけどさあ……」
「相手にされなかったのか?」
「まあそんなところだ。たぶん積み重ねが足りないんだろうが……下心ありきの貢ぎ物は見透かされてるんじゃないかって噂だ」
「クイーンだけあってしっかりしてそうだもんなあ」
クイーンドリアードさんも遊び惚けることもあるけどちゃんと長をしてるし。遊び惚けることもあるけど。
クイーンビーは……ビーたちのまとめ役をちゃんとしてるしね。行動は突飛だけど。
マーメイドクイーンさんは他の2人に比べたら厳格な人だからなあ……揺りかごで即爆睡するけど。
……ん? 意外とみんな抜けてるところがあるな? まあ、そんなところが愛されて人気なのかもしれない。
そういえば、クイーン○○と○○クイーンの違いってなんだろうか……まあ、株式会社○○と○○株式会社みたいなもので、違いなんてないんだろうけど。
「で、それとは別に岩石砂漠を調査してる攻略班もいるんだが……」
「ん? 何か問題でもあったか?」
「やたら強いモンスターが配置されてたり、モンスターの数がやたら多かったり……そして、そうでもない岩石砂漠もあるんだが、そこでは鉱石は採れなったらしい」
「なるほど、重要拠点だから守備を固めているのか。多いだけだったらマーメイドの混乱の歌で……」
「いや、そうはいかないんだよな。例の鉱石で状態異常が無効化されててさ」
「あー……そりゃそうか。鉱石が採れるんだから敵さんも活用してくるよな」
「そういうことだ。……で、ここでもコウの力を借りたいんだが……」
あの結界外からの全滅劇を見ていたらそうなるよな。
でも、それはできない。
「でもさ、あの時と同じくマーメイドクイーンさんを呼び出して攻撃したらどうなると思う?」
「どうなるって……敵は全滅するだろ?」
「……岩石砂漠の地形自体も破壊されかねないだろ? 鉱床への入口があったら塞がるおそれもあるだろうし」
「ああ……そういうこともあるのか……。確かにあの時、地形も結構破壊されてたしな……」
そう、マーメイドクイーンさんの全体攻撃は強すぎて地形すら破壊する恐れがあるのだ。強すぎるのも考えものだな……。
「それならまた総動員して敵を叩くしかなさそうかなあ」
「そのためにも、水属性の武器をどんどん造ろうと思ってるよ」
「なるほど、頼んだぜ。……っと、そろそろ始業か」
「ああ、それじゃあ今日も頑張ろうぜ」
**********
「……あれ? アテナさんからメッセージが届いてる」
昼休みにアプリでワールドクリエイターズの情報を確認していると、アテナさんからメッセージが届いているのに気付く。
開封してみると『この前のゲームセンターにまだライアさんのフィギュアは残っているでしょうか?』という質問だった。
どうも実際に開封して作った服で着せ替えをしていたら、サンプルと開封用の2つでは物足りなくなってしまい、新しく取って増やしたいとのことだ。
ちょうど買い物をして帰ろうと思っていたところだし、ついでにゲーセンを覗いてみるかな。
と、その旨を返信して、俺はタケシと岩石砂漠の攻略についての話し合いを始めるのだった。
「あー……ラスト1個か」
帰り道、ゲーセンに寄って確認してみると、ライアのフィギュアは残り1個まで減っていた。
他の子たちももうほぼ完売状態なので、ここで取っておかないとすぐになくなっちゃうだろうな。
……なんとか600円で取れたので、今度アテナさんに会えたら渡してあげよう。
それにしても、フィギュアのライアの服かあ……俺も着せてあげたいけど……。
ゲームではステータスやスキルでの補正があるからアクセサリーは作れるけど、現実では……ネ。
感覚自体はゲーム内でもあるので0から始めるよりはマシなんだろうけど、なかなか難しいよなあ。素材はどこで買うのとか裁縫道具の準備とか……。
そう考えると、現実でも服を作ってるアテナさんって凄いな……。
**********
「マーメイドクイーンさん、約束の追加のお礼です」
「ふむ、ご苦労。これは……揺りかごに布を更に追加したものか?」
「いえ、敷き布団と掛け布団ですね。普段は海の中で過ごされているので、暖かいのは不要かもしれませんが……」
「いや、何事も試さずに決めつけるのはよくないぞ。実際に余も人間の道具を使うまでは良さを知らなかったからな。それでは試してみようか」
マーメイドクイーンさんはロッキングベッド……もとい揺りかごに寝転がる。俺はマーメイドクイーンさんに掛け布団をかけて……。
「……すぅ」
……もう寝たー!?
前の初揺りかごも早かったけど、掛けた瞬間に寝ちゃった……。
普通は自分の体温で布団が暖かくなってから眠たくなりそうなものだけど……とりあえず起きるのを待つか……。
その間に俺はアテナさんとメッセージのやり取りをし、ライアのフィギュアを確保したことを伝える。
アテナさんは普段は少し遠いところに住んでいるらしく、次に遊びに来た時に受け取りたいとのことだ。
また、タイガさんやタケルと岩石砂漠の情報を交換し、俺ができることがないかを考える。
マーメイドクイーンさんの召喚だと地形を破壊しかねないし、それ以外となると……。
「……ん?」
ふと揺りかごの近くを見ると、マーメイドクイーンさんの三叉槍が地面に置かれている。
そういえばこの三叉槍、確かマーメイドクイーンさんが水の加護を与えてたよな……。
ある程度の実力があれば加護を与えられると言っていたが、マーメイドたちも加護を与えられるのだろうか?
「れー!」
と、そんなことを考えていると、マーメイドたちがマーメイドクイーンさんが寝ている揺りかごを指差し、自分も寝てみたいというジェスチャーをする。
なるほど、あんなにぐっすり寝てるのを見ると、自分も同じようにしたいよね。
「それなら今度はみんなの分を持ってきますので、待っていただけますか?」
「れー……」
あ、すぐに使いたいのかションボリしちゃったな……それなら別の贈り物を……。
「ええと、それならこれを使ってみてください。今から組み立てますので」
俺は水辺から少し離れたところに滑り台を造っていく。
足元が不安定なのでしっかりと固定し、滑るところの傾斜はやや緩やかに。
仕上げに水のタンクを造り、そこにウォーターで水を貯めていく。
「それじゃあ昇ってきてもらえますか?」
「れ!」
1人のマーメイドが頂上にふわふわと浮いて昇ってくる。ライアたちもなんだけど、足で歩けない子は浮遊しながら移動するんだよね……ファンタジー世界ではあるんだけど、マーメイドが浮くのは少し不思議な光景だ。
「それでは水を流しますので、ある程度水が流れたらここから滑ってみてください」
「れっ」
俺はタンクの仕切りを開けると、水が滑り台部分に流れ込んでくる。水量を調整しながら、ウォータースライダーを完成させ……。
「はい、それではどうぞ」
「れ……? ……れーっ♪」
最初は不思議そうな顔だったけど、滑り始めると目をキラキラと輝かせながらウォータースライダーを滑り降りていく。
そして、その光景を見ていた他のマーメイドたちも興味を持ったようで、どんどん頂上に飛んでくる。
「はい、順番にお願いしますね」
「れ!」
マーメイドたちは行儀よく一列に並び、少しずつ間を開けながら滑り降りていく。
そして、着水すると再び飛んでこちらに戻ってきて……を繰り返し、何回も遊んでくれる。
「……ほう、面白そうなものを造っているではないか」
「マーメイドクイーンさん?! 眠られていたのでは?!」
いつの間にかマーメイドクイーンさんが揺りかごから起きてきて、隣に立っていた。
き、気づかなかった……そして、いつ起きたのだろうか?
「いや、皆の楽しそうな声が聞こえてきてな。それで目が覚めた」
「なるほど……」
自然の中では寝ている時に攻撃されることもあるだろうし、大きい声や音に敏感に反応するようになっているのかな。だから、皆の楽しそうな声で起きたのだろう。
「よし、余も滑ってみるか。水の勢いは強くできるか?」
「それでは仕切りを全開にしてみます。……その前にタンクに水をめいっぱい貯めていきます」
「うむ、それでは待機しているぞ」
マーメイドクイーンさんは楽しそうな表情で水が貯まるのを待つ。クイーンドリアードさんは威厳のために他のドリアードとはあまり一緒に遊ばないのに、マーメイドクイーンさんは割と積極的だな……。
「それではいきますね」
「ああ、来るがいい」
俺は仕切りを一気に全開にすると、水が大量に流れだす。
マーメイドクイーンさんはそれに乗り、勢いよく水の中へと滑って行った。
バシャーンと大きな音を立て、マーメイドクイーンさんの身体は水中へ。
そしてすぐに浮き上がり、こちらまでやってくる。
「なるほどな……自分で泳ぐのとはまた違った楽しみがあるな」
「お気に召しましたでしょうか?」
「ああ、これはまた褒美をやらねばな……」
また大量の深水の鉱石だろうか? いや、もしここでアレを頼んでみれば……。
「それでは、マーメイドさんたちに頼んで、俺たちの武器に水の加護を付与して頂くことは可能でしょうか?」
「……いや、余以外では加護は無理だな」
「そうでしたか……」
もし加護が付与できるなら、岩石砂漠の攻略に役立つと思ったんだけどなあ……。
うーん、他の方法を探した方がよさそうか?
「……コウ、なぜ余ではなくマーメイドたちの加護が欲しいと? 余の加護の方が強いであろう?」
「確かにそれはそうなのですが……自分の手に余るほど強い力をいきなり持つと、道を誤りかねませんから。今の自分たちの武器よりも少し強いぐらいの武器であれば、それがないと思いまして」
「ほう、殊勝な心掛けだ。よかろう、それなら余の加護を受け取るがいい」
「え、ええと……マーメイドクイーンさんの加護だと強すぎる気がしますが……」
「ふっ、心配するな。余ほどの力があれば、加護の調整など容易いことよ」
あ、調整できるんだ。……それもそうか、クイーンドリアードさんも力を抑えてタイガさんたちを迎え撃ってた時期もあったし。
それなら弱めの加護を付与してもらえれば、岩石砂漠の攻略に使えそうだ。
「それでは、加護1回につきどれだけのものを納めれば良いですか?」
「そうだな……一番弱い加護であれば1回で我らの魔石3日分でよかろう。今回はこの……これは何と言う?」
「ええと、ウォータースライダーですね」
「なるほどな。ウォータースライダーの礼として4つまで付与しよう。ただし、地属性のものに付与はできん。相性が悪いからな」
「分かりました。それでは……」
俺はアイテムボックスにある武器の在庫の中から、タケルの使う双剣、アルテミスさんの弓、タイガさんの槍、そして俺の使うハンマーを取り出す。双剣は1つ扱いか2つ扱いか悩むが……2つ扱いなら俺のハンマーを次に回そう。
「なるほど……それでは少し離れているがいい」
マーメイドクイーンさんは床に置かれた武器に呪文を唱え、水属性の加護を付与する。
いつ見ても神々しいな……マーメイドクイーンさんを信奉するプレイヤーがいるのも頷ける。
「……よし、それでは持っていくがいい。次からは魔石を頂くぞ」
「ありがとうございました。それでは次回もよろしくお願いします」
「うむ。それでは余はウォータースライダーに戻るとするか」
……相当気に入ったんだなあ。
そのうち海岸あたりにも造ろうかな……そうすればこのダンジョンの中よりも長いコースが作れそうだし……。
**********
「さて、武器の性能を見てみるかな。とりあえずは俺のハンマーを……」
【マーメイドハンマー(水の加護):ランクA、水属性+120、地属性-120、攻撃+255、マーメイドクイーンの加護を受けたハンマー。名前がマーメイドクイーンハンマーではないのは、武器名が長くなり過ぎるため。MQハンマーとかにするとちょっとダサい気がするし。なお、ハンマーメイドというダジャレ名称も考えたが、他のスタッフに全力で止められた。おのれ……】
よくやった他のスタッフ!
……さておき、俺、弱めの加護って言いましたよね?!
なんで属性補正が3ケタ突入してるの?! あと攻撃力も高すぎない?! 渡したのは普通の攻撃+40ぐらいのハンマーだよ!
いや、マーメイドクイーンさんの強さから考えるとこれでも弱いって判断なんだろうな……上位種怖ぁ……。
ちなみに他の武器も軒並みやたら補正が高く、現在流通している武器の約2倍程度の攻撃力になっている。
攻略にはありがたいんだけど……これ、量産できたらまずいやつでは?
などと考えながらも、俺はタケル、タイガさん、アルテミスさんにメッセージを送ることにするのだった……。




