リアルタイム配信のその後
「さて、バステトさんも仲間になりましたし、そろそろ配信を切りますね」
『まだだ、まだ終わらんよ!』
「えっ?」
そろそろと思ってリアルタイム配信を終わろうとしたところ、視聴者からストップが入る。
まだ何かやることがあったかな……?
『マーメイドクイーンの召喚、忘れたとは言わせませんよ』
『あんな強力なスキル、みんな使いたいに決まってるじゃないですか』
『オレはむしろマーメイドクイーン様に召喚されたい。っていうか下僕になりたい』
『たらしさんがすぐに公表しないってことは、習得がかなり難しいかすぐには再現できないかなんでしょうけど』
おい、今なんか性癖拗らせた人が混じったぞ。
……さておき、あんな大規模で強力なスキル、気にならないって言ったら嘘になるよなあ。
「一応動画は撮っていますので、あとでアップしておきますね」
『助かる』
『マーメイドクイーン様のご尊顔を多く見られるだけでも感謝』
『分かる』
なんか増えたぞ。
さておき、早めにアップしておこうか。編集は……特になさそうだからポチッとな。
「ということでアップしました。それでは今度こそ配信を終わりますね」
『サンキュー神様ー!』
『1ゲトできなかった……』
『よろしければまたマーメイドクイーン様の動画を撮ってください』
『投げ銭、投げずにはいられないッ!』
などなど、癖の強い人含む多くのコメントが付いて配信を終えるのだった。
さて、次は……。
「あ、バステトさん、お待たせしました」
「大丈夫にゃ! 待ってる間に美味しいもの食べさせてもらってたにゃ!」
「ふふふ……バステトさんが嬉しそうに食べてる顔を見てると、私も嬉しくなります」
バステトさんの口元を見ると、ハチミツやらフェアリーシロップやらが少しくっついている。
……こりゃ、日々の食事代が嵩みそうだな……。
「バステトさん、口元にハチミツとかが付いてますよ」
「んー? にゃーはあんまり気にしないにゃ!」
「いえ、こちらが気にしますので……」
俺はアイテムボックスから布を取り出すと、バステトさんの口元を丁寧に、かつ優しく拭く。
「んー、やっぱりコウは優しいにゃ! 仲間になって正解にゃー♪」
バステトさんはそんなことを言いながら、尻尾をぶんぶんと揺らす。犬かな?
それにしてもバステトさん、おそらく大人だとは思うんだけど、割とこどもっぽいところがあるな……。そこがかわいいんだろうけど。
「あ、そういえば、誰の仲間になるんです?」
「それはもちろんコウにゃ! あと、そっちの……」
「アトラスだ」「アテナです」「レックスです」
「そう、そっちの3人にも手を貸すにゃ! 猫の手も借りたい時に声を掛けて欲しいにゃ!」
あ、そのことわざこっちにもあるんだ。
さておき、フェアリーたちみたいに個別に仲間になるわけではないんだな。基本的には俺のホームにいることにはなるんだろうけど。
「それじゃあ、恒例のあいさつ回りに行かないとですね」
「あー、確かにコウは交友関係が広いからなあ」
「……ボク、めっっっっちゃくちゃ驚いたから、バステトがどんな反応するか楽しみー♪」
「ふーん? そんなに凄いのにゃ? あ、それとにゃーはバステトだけど、種族名であって名前じゃないにゃ。にゃーたちは基本的に名前は持たないけど、コウたちはそれだと不便にゃ? 付けて欲しいにゃ」
あ、バステトって固有名詞じゃなくて種族名なんだ。……まあ、他のプレイヤーがバステトを仲間にしたい! って時に固有キャラだと困るしね。よくRPGでも神話から取った名前なのにザコキャラとかいるし、まあそういうものなのだろう。
さておき、名前か……タマとかミケだと怒られそうだし、そもそも三毛ではないし……。
バステト……キャット……ドイツ語ではカッツェ……うーん。
同じエジプト由来ならセクメト……は既にいそうなんだよなあ……あとはマウとか……。
困ったな……アナグラムしても思いつかないぞ。
「それなら、フィーリアちゃんってどうですか?」
俺が困っていると、アテナさんが助け舟を出してくれる。
「ん! いい感じにゃ! じゃあ、にゃーは今日からフィーリアって名乗るにゃ!」
バステトさん……もとい、フィーリアさんも喜んでくれているみたいだし、助かった……。
そういえば、フィーリアってどこ由来なんだろうかと思い、こっそりアテナさんに聞いてみると……。
「ポルトガル語で『娘』って意味です。いつかペットモンスターに付けようと思って考えていたんですけど、バステトちゃん、表情豊かでこどもっぽいところがあるから、コウさんの『娘』みたいだなってことで……」
「な、なるほど……」
俺、まだこんなに大きい娘がいるような年齢じゃないんだけどなあ……ま、フィーリアさんが喜んでくれているならいいか。
**********
「おー、人間がいっぱいにゃ!」
配信の後、俺たちはエインズの町に戻ってフリーマーケットに立ち寄っていた。
さっきのフィーリアさんの食べっぷりを見ていたら、俺たちもお腹が空いてきたのだ。
……まあ、ワールドクリエイターズ内で飲み食いしても、現実のお腹が膨れることはないのだけど。
それにしても、周りからの視線が気になるなあ。おそらく、フィーリアさんが気になって見ているからなんだろうけど。
「とりあえず、焼き鳥と緑茶と……あとデザートにカットフルーツを人数分……と」
俺、ライア、レイ、スコール、ブラウン、ニア、エファ、フィーリアさん。
8人ぶんだからかなりの出費ではあるが、みんな普段は魔石だからね。今日ぐらいは奮発してもいいだろう。
「ところで、町に入ったら急にコウの周りにモンスターが増えたけど、どうしてにゃ?」
「あー……確かにその辺の説明はしてなかったですね」
俺は簡単に、ペットモンスターは外では1人だけという制約があることを説明する。
「ふーん、変な縛りがあるんにゃー」
「まあ全員出せたらゲームバランス……もとい、指揮が大変ですし」
「そんなものなのかにゃー。……ところで、どこで食べるにゃ?」
「ええと、この辺は人が多いので向こうの公園で食べましょう」
公園とは俺の買った土地で、遊具が置いてあるところだ。
そこに机と椅子を設置してみんなで机を囲んで食べることにしよう。今日はフリーマーケットだから、こどもたちも親に連れられて覗きに行ってるから、人は少ないはず。
「んーっ……♪ この焼き鳥、美味しいにゃあ……」
椅子に座るや否や、すぐに焼き鳥に齧りつくフィーリアさん。
猫はネギがダメなのでフィーリアさんの分の焼き鳥はももにしてみたけど、バステトって種族もネギがダメなのかなあ。
ファンタジーな世界なので、その辺はないとは思うんだけど……今度運営に問い合わせてみるかな。
「きゅー♪」「るーっ♪」
ライアとレイはねぎまと皮を交換して半分ずつ食べてるみたいだ。仲がいいなあ。
「がーう」
スコールは風をうまく操って串から肉を抜き取り、そのまま口に運んでいる。
「らーっ」
「ふぇー!」
ブラウンはニアが食べづらそうにしているのを見て、串から肉を抜き取ってあげている。気遣いのできるいい子だな……。
エファは小さいから少量で満足するため、同じ風属性で仲がいいスコールに分け与えているようだ。
こうやって見ると、性格もさまざまだなあ。個性的でどんどんペットモンスターを増やしたくなる……。これが運営の罠か。
俺はそんな皆を見守りながらも、掲示板で砂漠の攻略情報をチェックする。
結界を張っている正体を突き止める部隊は結界アイテムを見つけたし、結界アイテムを造る方法も判明したな。
残ったモンスターを見つける部隊はバステト……フィーリアさんを見つけた。
結界を突破して先を調査する部隊は……ピラミッドまで到着して、内部のマッピングを行っているようだ。
ピラミッド内部には昇りと下りの両方の階段があり、上階には砂漠と同じモンスターが、下階にはミイラや黒いモヤのような魔法生物? らしきものなど、新規のモンスターが出てくるらしい。
地下には黄金でできたモンスターとエンカウントしやすくなる爪とかが、宝箱の中にあるのかなあ。それと、妙に攻撃力が高かったり、即死魔法を使ってくるミミックと同種のモンスターとか。
ただ、ピラミッド内部には罠が多く、入りなおすたびに位置が変わるので攻略がしづらいそうだ。マップ自体が変わることはないので、罠の解除スキルを持つ斥候を探索パーティーに加えれば良さそうかな。もしくは自分で罠の解除スキルを習得するか……。
そういえば、ピラミッドを発見したのにイベント開始の合図がないってことは、今回のはイベントではないのかな。まあ、そんなに短期間でイベントを連発しても、始めたばかりのプレイヤーも追いつけないだろうし……。
それでも、新規モンスターは出てくるし、新規の仲間NPCもいる。新規モンスターをペットにしたいというプレイヤーも多いし、イベントがあったらそっちに注力しちゃうからこれぐらいがいいのかもしれないな。
ちなみに新規モンスターでペットにしたいランキング1位はラミア。やはり女性型モンスターだけあって人気が高い。個体によって胸の大きい子や小さい子がいるらしい。運営、こだわってるな……。
2位はリザードマン。戦力として高い評価がされている。人間用の武器や防具を流用できるから、自分のお古を渡すことで装備費用を節約できるのも強みだ。
3位は意外なことにスネーク。現実でもヘビをペットにしてる人もいるから、その辺りが強いのかな? 毒持ちだから、毒を取り出して武器に塗って使いたいという人もいるんだとか。
「……よし、そろそろ挨拶周りに行こうか」
「分かったにゃ! どこから行くにゃ?」
「まずは…………」
**********
「……つ、疲れたにゃ……」
「やはり海を渡るのは疲れますよね」
「そうじゃにゃくて! クイーンドリアードにキングウルフ、シルフ・アルラウネ・バンシーの上位種に、エルダートレント、マーメイドクイーン……フェアリーにまで顔が利くにゃんて思ってなかったにゃ!」
「だよねー。ボクもずーっと驚きっぱなしだったもん。分かる、分かるよー」
一通りの挨拶行脚が終わり、本土へ戻ってくるなりフィーリアさんが膝から崩れ落ちる。相当気を張っていたのだろう。
ちなみに、NPCは1人までしか連れて歩けないので、今回はアテナさんに同行してもらい、俺がエファ、アテナさんがフィーリアさんを連れている形だ。
……そういえば、まだ紹介できてない人が……。
「あ、お義父さまなのーっ!」
「ひえっ……今度はクイーンビーにゃ……? しかも、お義父さんって……」
「まあ、いろいろありまして……」
「お義父さま、この人は誰ですの?」
「ええと、フィーリアさんという方で、砂漠で出会って……」
俺はクイーンビーにフィーリアさんを紹介し、フィーリアさんにもクイーンビーとこういう関係になった経緯をざっと話す。
「も、もう驚くのに疲れちゃったにゃ……」
あっ、フィーリアさんが宇宙猫みたいな顔してる。確かにバステトという種族も猫だけど。
「それならよろしくお願いするの! お義父さまの仲間なら、ワタクシも仲間……お友達ですのっ!」
「あ、は、はいにゃ……」
「それじゃあお義父さま、今日はフィーリアお姉さまにハチミツをお渡ししてもよろしいですの?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございますの! それではお姉さま、これを食べて欲しいですの!」
「あ、ありがとうございますにゃ……」
相変わらずクイーンビーは勢いで押し通ってるな……ま、クイーンビーらしいけど。
そして、俺たちにハチミツを渡したクイーンビーはトレントの島のアルラウネさんの方に配達に向かって行った。
「あ、嵐のような人にゃ……」
「悪い子じゃないんですけどねえ」
「……そうにゃね……あ、それとコウ」
「なんですか?」
「もう仲間だから呼び捨てでいいにゃ。畏まった言い方もしなくていいにゃ」
「ええと……それじゃ、フィーリア。これでいいかにゃ?」
「ま、真似しちゃダメにゃーっ!」
「ふふっ、お二人とも、仲良しですね」
と、コントのようなことをしている横で、アテナさんはそっと微笑んだ。
**********
──その頃の掲示板──。
『うーん、どうやってもラミアもリザードマンも……それどころか普通のモンスターもペットにならないなあ……』
『やっぱり操られてるってのがデカいんじゃないか?』
『だよなぁ……ピラミッドを攻略すれば操られてるのを解除できるのかな』
『お、おいぽまいら! 大変だ!』
『もちつけ、インターネット老人会の開催か?』
『そうそう。じゃ、なくて……これ!』
『……これ……プレイヤーが操られてる……?』
『ああ、ピラミッドの地下を探索していたパーティーなんだけどな……急にメンバーがこうなったそうだ』
『本人はなんて言ってる?』
『「突然身体の自由が効かなくなった。意識はあるのに仲間を攻撃し始めて……最悪な気分だぜ……」だそうだ』
『もしかしてこれ……モンスターを操っているやつの状態異常攻撃か……?』
『だとしたら対策が欲しいな……あ、バステトの使ってたあれなら……?』
『ああ、今は攻略班が総出で岩石砂漠を当たっているらしい。鉱石さえ出れば防げるだろうからな』
『でも、そんな重要地点、操っているやつが何も対策をせず放置なんてするはずないよな……』
『たし蟹』
『でも、これでピラミッドが攻略できるかどうかなんだ、やってみる価値はありますぜ!』
こうして、ピラミッド攻略の準備が始まるのだった。




