深水の鉱石
「……さて、まずは深水の鉱石で杖を造ってみようか」
揺りかごづくりが落ち着いた頃、本土に戻ってようやく深水の鉱石を使った武器づくりを始める。
その間にも深水の鉱石が貯まっていって、いつの間にやら20個ほどアイテムボックスに入っていた。揺りかごのお礼だとか魔石のお礼だとかで。アトラスさんの方も含めたら40個か。
おかげで水属性の装備が量産できるからありがたいのだけど。
貯まった深水の鉱石を、まずは加工屋で魔玉に造りなおしてもらうのだけど……。
「おいおいおい、これは深水の鉱石じゃないか! どこで手に入れたんだ!?」
と驚かれる始末。アイテムの説明文の通り、かなり入手困難なようだ。
ドワーフの杖の店の時と同じぐらいの驚きかたなので、トレントの枝と同じぐらいの入手難度なのだろうか。
そう考えると、トレントの島って素材の宝庫だよなあ……トレントの枝はトレントと、深水の鉱石はマーメイドと親交が無いと入手不可……いや、入手はできるけど難しいわけだが。
「今回は5個加工して頂きたいのですが……」
「そ、そんなに持ってるのか?! 分かった、全力を尽くそう。2時間ほど経ったらまた来てくれ」
「分かりました、それではお願いします」
いえ、まだ15個ほどあるんですけどね。
さすがに驚かれ過ぎると思ったので、まずは5個からだ。
さて、できあがるのを待つ間に、久々に町を回ってみようかな。
「おお、公園が賑わってるな……」
俺が滑り台などの遊具を寄付した公園が、こどもと保護者で満員御礼となっている。
ちゃんと順番を守って使ってくれてるし、みんな笑顔で遊んでくれているのを見ると、造ってよかったなと改めて思う。
ただ、保護者の方たちがずっと立ってこどもを見守るのは疲れるかな?
せっかくなので休憩スペースも作ろうかなあ……よし!
俺は公園の一角に椅子と丸テーブルを設置し、保護者たちがテーブルを囲んで談笑できるようにした。
そして、こども用の小さいテーブルと椅子も用意し、更に……。
「ねーねー、コウおにいちゃん、それなーに?」
「これはトランプというもので、これを使って遊ぶんだよ」
「ふーん……? どうやるのー?」
「これからライアたちに実際にやってもらって俺が説明をするから見ててね」
「はーい!」
・
・
・
「わー、おもしろそー! やってみたーい!」
食いつきが凄いな……身体を動かす遊具はあるけど、身体を動かすのが苦手な子もいるだろうし、もっと早く広めておけばよかったかなあ……。
更に、保護者も混じって遊ぶこともできるし、親子の交流にもよさそうだ。
「それじゃあトランプをいくつか置いてくから、遊んでみてね」
「はーいっ! コウおにいちゃんやさしいからすきー!」
「わたし、大きくなったらコウおにいちゃんのおよめさんになるのー!」
「きゅー!?」
突然ライアが俺に抱き着いてきてアピールする。
どうやらこどもの言うことを真に受けてしまったようで……。
更にレイやニアたちも続き、てんやわんやに。
そんな穏やかな時間はあっという間に過ぎていき、2時間が経過する。
**********
「おう、できてるよ。まさか深水の鉱石を加工できるなんてなあ」
「もし今後も手に入ったらお願いできますか?」
「もちろんだ! やりがいのある仕事だったよ」
……もしとは言ったけど、あと15個あるんですよね。
でも、他に使い道があるかもしれないし、しばらくは鉱石のまま持っておこう。
俺は深水の鉱石から作られた魔玉……ここでは深水の魔玉とでも言っておこう……を5個、加工屋から受け取る。
さて、これで杖を造ったらどんな感じになるか……楽しみだなあ。
「さあ、今回の杖はどんな感じにするかな……」
せっかくの水属性の杖なんだ、できれば見た目もこだわってみたい。
深水の鉱石はマーメイドたちのおかげで手に入れられたんだから……。
俺はまず木をチェンジプラントで変形させていき、普通の杖の形を造る。
そして、別の木はマーメイドが何かを抱いているような造形を施す。これを普通に造ってたら数日どころじゃない時間がかかるよなあ……チェンジプラント万歳。
そして、マーメイドに深水の魔玉を抱かせ、マーメイドと杖を合体させてつなぎ目を補強すれば……。
「よし、こんなところかな。マーメイドに色を付ければもっとよくなるだろうけど……性能が気になるのでこれで完成、っと」
【マーメイドの杖:ランクB、水属性+60、地属性-60、MP+51、魔力+99、魔防+21、マーメイドを模した意匠が施されている杖。深水の魔力が宿っているため、水属性の補正が大きく上がる。ところで、マーメイドの意匠があるからマーメイドの杖という名前だが、他の属性の魔玉を持たせてもマーメイドの杖ってなるのややこしくない?】
そうだよね。マーメイドの杖なのに火属性ってなんじゃそら! ってなるよね。
……ではなく。
これだけ水属性の補正値が高ければ、砂漠の攻略に使えそうだ。
更にこの杖を装備して水属性の補正値を上げて、木に水属性を付与してアクセサリーなども作れば……。
まあ、その辺は他のプレイヤーもやってるだろうから、この杖を量産するのが先決かな。
前衛は敵の攻撃でのダメージを減らすために火属性の防具を付けるのもありだろうし、まずは武器からだ。
「あ、そうだ」
マーメイドクイーンさんは肖像画を欲しがってたから、木でマーメイドクイーンさんの像を造るのもいいかもしれない。
よし、そうと決まれば……。
**********
「おお、これは余ではないか」
「はい。木で造らせて頂きましたが……いかがでしょうか?」
「ふむふむ、よく余に似せているな……記憶だけでここまで造れるとは」
いえ、動画で見返してズルしました。
さすがに記憶だけで造れるはずがないので。
「うむ、気に入ったぞ! ……そうだな、これをコウに譲ろう」
マーメイドクイーンさんは近場の岩に座り、自分の尾を指し示て俺に手招きをする。
俺はマーメイドクイーンさんに近づくと、そこには剥がれかけた鱗があった。
「鱗……でしょうか?」
「そうだな。余の魔力が宿っているから、何かを作り出すコウにはいいだろう?」
「はい、それでは頂きま……」
手を伸ばしてふと気付く。これ、若干のセクハラなのでは……?
「どうした?」
「いえ、お身体に触るのは失礼かと思いまして」
「よいよい、コウたちは特別だからな」
「分かりました、それでは……」
俺は恐る恐る鱗を指で挟み、そっと剥がした。
「んっ……」
急に艶めかしい声出すの止めて頂きます?! ライアたちが見てるんですよ?!
しかしライアたちはマーメイドクイーンさんがまだ怖いのか、特に何も言わなかった。マーメイドクイーンさん、クイーンだけあって割と圧があるんだよなあ……。クイーンドリアードさんとは大違いだ。
しかしこれ、後からライアたちに詰められるパターンでは……。
まあそれを気にしても仕方がない。まずはこの鱗を何に使うか考えないと。
「あ、コウさんじゃないですか。戻って来られてたんですね」
「本土まで深水の鉱石を加工に行ってたって聞いたが……どうだった?」
「ええ、こんな感じになりました」
俺はマーメイドの杖のステータスを表示して2人に見せる。
ステータスの高さに2人とも驚いているようだ。
「これなら防御が硬い砂漠のモンスターたちにも対抗できそうだな」
「ん? お主らは砂漠のモンスターと争っているのか?」
「はい、何かに操られているような感じなのですが……」
「そうか……それなら深水の鉱石を多めに持っていくが良い。少し待っているがいい」
マーメイドクイーンさんはそう言うとマーメイドたちを引き連れて水の中へと潜っていった。
……そういえば、アトラスさんとレックスさんはマーメイドクイーンさんへの納品だったのかな?
「アトラスさんとレックスさんは三叉槍と肖像画の納品ですか?」
「ああ、できるだけいいものを造ろうと思ってこだわってたらだいぶ遅くなってな……」
「僕はラフを何枚かお見せして、気に入られたものを清書してました」
「なるほど、こだわりの逸品ということですね」
「気に入ってもらえるならいいんだが……元々の三叉槍の出来がいいから評価は厳しそうなんだよな」
「元のはそんなにステータスが高かったんですか?」
俺はステータスは見てないけど、歴戦の武器って感じで威厳を纏っている感じだったな。
持つ者に影響されたのだろうか。
「まあな……ランクとしてはA+か。おれが造れたのはBだから……やっぱり厳しいよなあ」
「A+!? エルダートレントの杖でもAランクですよ!?」
「おそらく素材自体がかなり貴重なんだろうな。おれはさすがに普通の素材しか用意できなくてな……ま、当たって砕けるか」
「……戻ったぞ。ふむ、それが三叉槍か」
俺たちが会話をしていると、大量の深水の鉱石を持ち戻ったマーメイドクイーンさんたちが陸に上がってくる。
そして、鉱石を置くとマーメイドたちはもう一度潜っていった。そんなに鉱石があるのか……?
それを見届けるとマーメイドクイーンさんはアトラスさんから三叉槍を受け取り、じっくりと眺めていく。
「ふむ、いい出来ではないか。気に入ったぞ」
「しかし、元の三叉槍よりも性能は落ちてしまっていてですね……」
「それは問題ない。こうすればいいのだからな」
マーメイドクイーンさんは呪文のようなものを唱えると、三叉槍が光り出す。
そして光が収まると、三叉槍から魔力のようなものが感じられるようになる。
もしかして魔法を付与したのか……?
「マーメイドクイーンさん、今のは……」
「ん? 知らぬのか。水の加護を与えたのだ」
「加護……?」
「そうだな、余のようにある程度の実力を持つモンスターなら、加護を与えるのは造作もないこと。これにより武器が強化されるのだ」
「なるほど、ありがとうございます」
つまり、キングウルフさんは風の加護、クイーンドリアードさんは地の加護を与えることができるのか……?
ある程度の実力というのがどの辺なのかは分からないが。
「さて、あとは肖像画だな」
「は、はい。これになります」
「おお……ここまでのものができるとはな……飾っておきたいが、水の中では紙はダメになってしまうな」
「マーメイドクイーンさんはこのダンジョンの最奥に住まわれているのではないのですか?」
「いや、余は海の底で暮らしているぞ。このダンジョンの最奥には別のモンスターがいるな。……しかし、揺りかごと肖像画があるならここで暮らすのもいいだろうな」
いえ、貴女が第二階層に来たら、何も知らないプレイヤーが間違って攻撃を仕掛けて酷い目に遭いますよ!?
こんなところで出現していいレベルのモンスターではないので……。下手するとラストダンジョンの宝箱を開けたら出てきて水属性の即死級の全体攻撃してくるモンスターより酷いですよ。
……などと言えるはずもなく、マーメイドクイーンさんはここへの移住に乗り気だ。
「れー!」
そして、マーメイドたちはどんどん深水の鉱石を運んでくる。いったいいくつあるんだ……?
「さて、コウ、アトラス、レックスには対価を渡そう。持っていくがいい」
「ええと……アトラスさん、レックスさん、とりあえず三等分しますか?」
「……だな」
「こ、こんなに頂いてもよろしいのでしょうか……」
「よい。砂漠のモンスターを駆逐するのに必要だろう? 代わりにまた揺りかごなどを持ってきてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
こうして俺たちはそれぞれ50を超える深水の鉱石を手に入れるのだった。
そして、それらから水属性の武器を造り、タイガさんとタケルのパーティーに納品して、余ったぶんはオークションで欲しい人たちに行き渡るようにする。
更に、マーメイドたちとの交流で深水の鉱石を手に入れられることを掲示板で説明した。これにより、マーメイドたちとの召喚契約で満足していたプレイヤーたちも再びここを訪れるようになり、深水の鉱石を手に入れられるプレイヤーが増えていった。
これで砂漠の攻略が楽になるといいんだけど。
そして、マーメイドクイーンさんに関する動画もアップしたところ、マーメイドクイーンさんのファンクラブができてしまった。爆誕してしまった。
『一人称が余で見た目も凛としているのに揺りかごに興味あるのか……』
『そういうギャップいいよね……』
『いい……』
『ハンモックもだけどゆらゆら揺れるのって意外と気持ちいいぞ』
『なるほど、今度試してみるかな』
『しかしまあ……デカいな。何がとは言わんが』
『お嫌いですか?』
『いいえ、大好物です』
『これからは第二階層は気を付けないといけないな。間違って攻撃しようものなら反撃で即死だろ』
『我々の業界ではむしろご褒美です』
……いろいろな人がいるなあ、と掲示板を見ながら思うのだった。




