召喚スキル
『おい、全体周知見たか?』
『見た見た。召喚スキルだろ? ……ってことは誰かが召喚スキルを手に入れたってことだ』
『いったい誰たらしさんなんだ……』
『ヘルプを見たけど、MPを消費してモンスターを召喚してスキルを使ってもらえるってことは、パーティーの人数が+1されるようなものか』
『プレイヤー+ペットモンスター+NPC+召喚で疑似パーティーができちゃうな』
『そのプレイヤーでパーティーを組めばもはや小隊だな』
『全員違う属性で組めばバランスもいいし、偏らせたら特定のモンスターの攻略が楽になるし……研究のし甲斐があるな』
『ただ問題は……』
『そう、どうやったら召喚スキルが使えるようになるか、だな……』
『詳細はよ』
……などと掲示板が賑わっているころ……。
「ええと、どうして俺たちと召喚の契約をしていただけたんです?」
「れー」
「ついて行くことはできないけど力を貸してあげたいから、だってさ」
「なるほど……」
確かに赤ちゃんを置いてペットモンスターとしてついてくるのは躊躇われるよなあ……。
だから、召喚に応じて手助けをしたいってことか。
ということは、他のモンスターでも同じような状況なら召喚可能になるし、もし赤ちゃんのいないマーメイドたちならペットモンスターになるかもしれないってことか。
「ありがとうございます、お力が必要になった時は頼らせて頂きます」
「れ!」
「ところで気になっているのですが、マーメイドの赤ちゃんは何を食べるんですか?」
「れー」
「魔石を食べるって言ってるよー。その辺は普通のモンスターと同じみたい」
「それならこれを……好物があるかどうかは分かりませんが……」
俺は買いだめをしておいた魔石をアイテムボックスから取り出し、マーメイドたちに渡す。
これで赤ちゃんを育てるのが楽になるといいんだけど。
「れー?!」
「大丈夫ですよ。その代わり、また歌を聴きにきてもいいですか?」
「れ!」
「……コウ、ボクが翻訳しなくても何となくで会話できてない?」
「まあ、ライアたちと長く過ごしてたから、身振り手振りで何となく……」
「そういうものなんだ……あ、渡したいものがあるからちょっと待っててだって」
「渡したいもの……?」
マーメイドたちは各方面に散らばって、水の中へと消えていった。
水中に何かがあるのだろうか?
しばらく待っていると、取ったどー! と言わんばかりに勢いよく1人のマーメイドが戻ってくる。
手には大きめの石を持っているが……少し光っているような……。
「れ!」
「ありがとうございます。頂きますね」
「れー!」「れ!」
そして他のマーメイドたちも戻ってくる。
そのマーメイドたちの持ってきた石はアテナさん、アトラスさん、レックスさんにそれぞれ渡されていく。
「今日は歌だけでなく石までありがとうございました。次に来るときも魔石をお持ちしますね」
「「「「「れー!」」」」」
俺たちはマーメイドたちに見送られながら、地上へと戻っていった。
**********
「コウ、さっきの石の詳細はもう見たか?」
「いえ、これからですね……こ、これは……?」
【深水の鉱石:ランクC、水の魔力が多く籠った鉱石。普通の属性鉱石よりも属性補正値が高い装備を造ることができる。人間では普通には採掘ができない貴重な石。これを見てるあなたは人間だと思うけど、どうやって手に入れたの?】
なんで質問されるんだよ!?
……それはさておき、水属性が更に強化されるなら、砂漠の攻略にはうってつけだな。
これを量産できれば攻略にも役立てるはず……。
「これで武器を造れば砂漠の攻略が楽になりそうだな……サソリのモンスターは硬そうだから、ハンマーに取り付けて力と水属性の相乗効果でぶっ潰すのもよさそうだな」
「俺は杖に取り付けて水属性の強化をしての水魔法で対策しますかね」
アテナさんとレックスさんは俺たちに託してくれるようだ。武器ならアトラスさん、杖なら俺が造り慣れているのもあるしね。
こうして深水の鉱石の使い方はすぐに決まることに。
あとは召喚スキルを確認しておかないと。
「次は召喚スキルですね。個人によって内容が違うのでしょうか?」
「それでは私もスキル説明を開いてみます」
「よし、それじゃあおれも……」
俺たち4人は全員召喚スキルの説明を開いて見比べる。
どうやら、プレイヤーによってスキルの違いはないようだ。ちなみに召喚スキルで使えるものは以下の通り。
クールタイムはすべて2分。
【ウォーターボール (アクティブスキル):水の塊をぶつけて攻撃する。水属性。消費MP15】
【癒しの歌 (アクティブスキル):パーティー全員のHPを70回復する。消費MP30】
【闘いの歌 (アクティブスキル):パーティー全員の攻撃を1.2倍にする。重複不可。効果時間:1分。消費MP50】
【魔力の歌 (アクティブスキル):パーティー全員の魔力を1.2倍にする。重複不可。効果時間:1分。消費MP50】
【混乱の歌 (アクティブスキル):敵全体対象。50%の確率で混乱させる。消費MP40】
やはり歌に関してのスキルが多いな……混乱の歌はニアの金切り声に比べて消費MPが多いけど、召喚だから少し多めに設定されているのかな。
しかし、これを任意のタイミングで使えるのはかなり大きいな。補助としてかなり優秀だ。クヴァーナ砂漠の南の森はモンスターが大量に出現するから、混乱の歌が効果的だろうし……。
「ところでコウ、この召喚スキルについて掲示板が賑わってるんだが……」
「……習得方法、どうやって説明すればいいんですかね……」
「ええと、第二階層で偶然歌を聴いて、赤ちゃんマーメイドにプレゼントして……?」
「一応、全部録画はしてあるんですけどねえ……他の人が全部同じ工程ができるかというと分からないですよね。とりあえずアップしてみましょうか」
その後、アップした動画に大量にコメントが付くが、やはりマーメイドの歌を偶然聴くのが難しく、なかなかうまく行かないようだ。運が絡むのはどうしてもね……。
しかし、いくらかのパーティーかは第一階層と第二階層をシャトルランして歌を聴き、マーメイドと仲良くなって召喚契約まで漕ぎつけられたようだ。
そのパーティーたちは協力してクヴァーナ砂漠の南の森のモンスターたちを撃退し、南の森をモンスターから解放することができたらしい。
これでフラワーイーターたちが故郷に戻れるといいんだけど。
**********
「コウさん、今日もマーメイドたちに魔石を届けに行きますか?」
「そうですね、本土に一回戻って魔石を調達してきましたし、好みも把握できていますしね」
「あとは第一階層のウンディーネたちとも仲良くなれるといいんだがなあ。第二階層に行くまでに戦闘回数が多くなっちまうしな」
「僕がウィンを連れていって対話しようとしたんですけど、無理だったんですよね……できればウンディーネたちは傷つけたくないのですが……」
確かにウィンちゃんの同族を傷つけるのは憚られるよね……できるだけ戦闘を回避するルートも構築しているけど、どうしても数回の戦闘が起きてしまう。第二階層へのショートカットでもあればいいんだけどなあ。……隠し通路とか無いかな?
まあ隠し通路を探している間にウンディーネたちに見つかって、戦闘になりそうな予感しかしないけど。
「それでは今日もマーメイドたちの所に行きましょう」
俺たちはウンディーネたちを避け第二階層へと降りていく。
すると、見慣れないマーメイドの後ろ姿が遠くに見えた。いったい誰なんだろうか?
「れー!」
俺たちの足音に気付いたのか、いつものマーメイドが水面に姿を現す。
そして、マーメイドの声に気付き、遠くにいた見慣れないマーメイドもこちらへとやってくる。
……あれ? 他のマーメイドたちよりも大きいような……。
「おお、うちの若い衆が世話になっているようだな。余はマーメイドクイーン。マーメイドの女王だ」
「じょ、女王様でしたか! これは失礼を……」
俺たちはすぐさまその場に跪く。まさか上位種が来ているなんて考慮してなかった……。
「よいよい、面を上げよ。こやつらと契約をしているのだ、それなら余にとっても友人のようなものだ」
「あ、ありがたきお言葉……恐縮です」
「もっと砕けてもよいのだぞ? 余が許そう」
「わ、分かりました」
凛とした顔。海のように深い青の長い髪。貝殻で造られたビキニ。……と、それでは収まりきらないほどのクイーンサイズの胸。なんなの? クイーンドリアードさんといい、開発者はクイーンは大きいものっていう決まりでもあるの? ……あ、クイーンビーは割と普通サイズか。
「ところで赤ん坊の世話をするものを作ってくれたそうだな」
「揺りかごのことでしょうか?」
「うむ。揺れが穏やかな海を連想させて安心するのか、幸せそうな顔で眠っているぞ」
「お役に立てたなら何よりです」
「そこで、だ」
「は、はい。何かありましたか?」
「あの揺りかごとやらを余のサイズで作ってもらえないか? 余も試してみたくてな」
マーメイドクイーンが揺りかごを??? 女王という立場上、いろいろ疲れがたまるから癒しが欲しいのだろうか?
それなら似たようなものでロッキングチェアというものがあるが……。でも、寝る時に使用したいのだろうし、試しに作ってみようかな。大人用の揺りかごベッド……ロッキングベッドもあるし、それを参考にしよう。
「分かりました。それでは寸法を測らせて頂きます。アテナさん、お願いできますか?」
「はい!」
「れー!」
「ん? なるほど、お前たちも揺りかごが欲しいのか。頼めるか?」
「分かりました、それでは人数分用意します……が、まずは1回使って頂いて、合っているかどうかを確かめさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ。合っても合わなくても礼はする。よろしく頼む」
「それでは……」
俺はアイテムボックスから木材を取り出し、チェンジプラントで形を作っていく。
アテナさんも布などを取り出してベッドに使う敷き物を作り始める。
「ほう……人間は器用なのだな。そこの2人も何かを作るのか?」
「おれは武器を造ります」
「僕は杖などを……それと、絵を描きます」
「なるほどな。それでは今度、余の槍を造ってもらえるか? それと、肖像画も欲しいな」
「槍とは……その三叉槍のことですか?」
「うむ、長年使用したのでそろそろガタがきていてな。ま、これがなくとも余は強いのだが……」
「分かりました。次にここを訪れる時にお渡しします」
「僕も次回に肖像画をお持ちします」
「ふふ、楽しみにしているぞ」
……と、アトラスさんやレックスさんが会話をしている間にも俺は作業を進めていく。
今回はサンプルだし、ある程度の作りで止めて……と。
「完成しました。アテナさん、布を敷いて頂けますか?」
「はい、それでは……」
「ほう、これが余の揺りかごか。それでは早速……」
マーメイドクイーンさんは揺りかご……というかロッキングベッドへ仰向けに寝転がる。
そして、ゆらゆらとロッキングベッドを揺らし始め……あれ?
「……マーメイドクイーンさん?」
「…………すぅ」
もう寝てるー!?
それだけ気持ちいいということなのだろうが……女王がみんなの前で寝るのはこう……威厳的にいいのだろうか……。
「れー!」
「えっと……クイーンだけずるい! って言ってるみたい」
「え、ええと……とりあえず、人数分作ろうか……」
こうして、マーメイドの数だけロッキングベッドを作り、マーメイドたちは全員眠りへと誘われたのだった……。
**********
「はっはっは! いやぁ、すまないな。あまりに気持ちよくてつい、な……」
「い、いえ……気に入って頂けたのでしたら何よりです」
「しかもこれから更に良くなるのだろう? 楽しみにしているぞ。そして、まずは試作品の礼についてだが……」
「もし可能でしたら、ここに来るまでにある第一階層のウンディーネたちと戦闘をしたくないので、可能でしたら間を取り持って頂けないでしょうか?」
「ふむ、その程度のことで良ければ、帰る際に余がついていこう」
「ありがとうございます。これでいろいろとものを届けに来るのが楽になります」
「うむ、正式な揺りかごも楽しみにしているぞ」
こうして、俺たちはマーメイドクイーンのおかげで第一階層のウンディーネたちと戦闘することがなくなった。代償として、戦闘がなくなったためにペットモンスターにする方法が調べられなくなったのだが……まあ、それは他のプレイヤーに任せよう。
しかし、まさかマーメイドたちの女王が力添えをしてくれるとは……世の中分からないものである。そう思うのだった。




