人魚たちとの交流
「……よし、これだけ抗混乱ポーションがあれば、ライアたちも人魚の歌が聴けるな」
人魚と遭遇してから、俺たちはいったん村へと帰ってきていた。
ペットモンスターにも人魚の歌を聴かせてあげたいということで、各自で抗混乱ポーションを作るためだ。
幸い全員が生産職だからアイテムのストックはいつも多めにしているので、材料が足りないということがなくて安心した。
もし足りなかったら本土まで買い出しに戻らないといけないからね……。
そういえば、人魚の歌を動画に撮って流した場合、それを聴いた人たちは混乱してしまうのだろうか?
もしそうなら、古い木の枝を折って町にモンスターを大量召喚する並みのとんでもないテロだけど……それが起きるなら既に攻略動画で起こってるだろうし、動画では状態異常は起きないと思う。
それなら動画に撮ってみんなに聴いてもらえばとも思ったけど、動画で聴くのと生で聴くのとでは違うんだよなあ。俺も昔は音楽なんてCDでいいじゃん! って思ってたけど、タケルに連れられてゲーム音楽のコンサート行った時に衝撃を受けたんだよね。それ以来、機会があれば行くようにしてる。
そういうのをライアたちにもぜひ味わってもらいたい。
「作った抗混乱ポーションはアイテムボックスに収納して……と。さて、残った時間は……」
「きゅー!」
「ライア?」
「的当てに行きたいって言ってるよー。コウと一緒に遊びたいんだろうね」
「よし、それじゃみんなで遊びに行こうか。エファはどうする?」
「もちろんボクも行くよ! ……それで、一番になった人が最下位の人に命令できるってのはどうー?」
「きゅっ?!」
エファの言葉にライアを始めとしてみんなが反応する。
うーん、何か嫌な予感が……。
しかし、なんとか俺が1位になって企みは阻止されることに。ちなみに最下位は僅差でニア。
命令は『肩が凝ってるので肩を叩いて欲しい』という無難なものにした。……のだが、割とニアは喜んでくれた模様。どうやら、俺から頼られるのが嬉しいのだとか。そういえば、戦闘以外だとあんまり頼み事はしてないかもしれないな……もう少し頼ってみるのもいいかもしれない。
「あ、コウさんも的当てですか?」
「そうですね。アテナさんもみんなと的当てで遊ぶんですか?」
「はい、今日の後半は別行動だったので寂しい思いをさせちゃったので。たっくさん遊びますよ!」
「アテナ、早くやるニャ! 今日こそ称号をもらうニャ!」
「クー!」
「……」
ケット・シーのアルスがみんなを引き連れて的当てへと向かって行く。今日こそって言ってるということは、結構な頻度で本土の的当てに通ってるのかな。
そういえば、シールドのルシードはどうやって的当てをやるんだろう? 気になったのでアテナさんに訊ねたところ、アテナさんがトスをした石を盾で弾き返して的に当てるのだそう。
なんか凄いテクニカルなことしてるな……しかも、ルシードが一番的当てが上手いのだとか。アテナさんとの付き合いが一番長いペットモンスターだし、阿吽の呼吸の域まで達してるのかな?
「それでは私も行きますね。明日はみんなで人魚の歌を聴くのが楽しみです!」
「俺もです。みんなが気に入ってくれるといいのですが」
「大丈夫ですよ、あんな綺麗な声はたぶん聞いたことがないでしょうし」
「確かにそうですね」
混乱する歌だからもっとこう脳にくる系の声かと思ったけど、普通に綺麗な声だったんだよね。
もしかすると歌も複数の歌があって、効果もそれぞれあるのかな。機会があれば明日人魚の子に聞いてみよう。
**********
「れ!」
次の日、ペットモンスターのみんなも連れて第二階層に行くと、すぐさま人魚に声をかけられる。
そして、それと同時に誰かを呼ぶような声を出すと、5人の人魚が集まってくる。
もしかして合唱をしてくれるということだろうか。
「それでは、みんなが混乱しないように抗混乱ポーションを飲んでもらいますね」
「れ?」
『なんでそんなことをするの?』と言わんばかりに首を傾げる人魚たち。
もしかして、人魚たちは混乱耐性がデフォルトで備わっているのだろうか。
「ええと、実は人魚の……あなたたちの歌声を聴くと、俺たちは混乱してしまうようでして」
「れーれー」
「コウ、違うって言ってるよー。歌にも何種類かあって、人によって使い分けてるみたい」
「ということは……もしかして、混乱耐性が無くても大丈夫なんですか?」
「れ!」
……帰る前にもっとちゃんと聞いておけばよかった。
でも、ここのダンジョンを攻略目的で潜るなら必要になるだろうし、そういう人たち向けに売ってもいいからムダにはならないかな。
「それでは準備をしますね」
俺はアイテムボックスから全員分の椅子を取り出すと、それに座ってゆっくりと人魚たちの歌を堪能する。この前の1人の時に比べて、声が重なるのが心地いい。更に洞窟内ということもあり、歌が反響するのも味わい深いな。
俺たちは人魚が一回歌い終わると他のペットモンスターの子に交代して……を繰り返した。
歌を聴き終えた後は感動して涙ぐんでいる子、真似して歌い始める子など様々で、いい刺激をもらえたようだ。
……そういえばこのゲームでは歌を聴くのは初めてだったなあ。ファンタジー世界だからそんなに歌の文化が根付いてないのかもしれない。聖歌とかはあるかもしれないけど。
「ありがとうございました。それではこれでMPを回復してください」
俺は人魚たちにMP回復のためにEXマジックポーションを渡す。
彼女たちは歌に魔力を乗せているらしく、歌うとMPを消費するからだ。
「れー♪」
味が気に入ったのか、人魚たちは嬉しそうに飲んでくれている。うーん、生産者冥利に尽きるなあ。
「そういえば、今回はどんな歌を歌ってたんですか?」
「れ!」
「体力を回復する歌って言ってるよ。他にも、攻撃力や魔力を上げる歌とかもあるんだって」
「バフ付きの歌かあ……それは凄いな」
人魚をペットモンスターにできれば、補助要員としてかなり優秀だと思う。
ただ、歌という特性上、ヘイトを溜めやすそうではあるかな……? その辺でバランス調整されてそうだ。
「ちなみに、昨日俺たちが最初に聴いた歌はどんな効果だったんです?」
「れ!」
「それも体力を回復する歌だってさー」
「なるほど、ありがとうございます。ちなみに、それは歌の練習だったんですか?」
「れー…………れ!」
人魚は少し迷ってからエファに言葉を伝える。
そして、川に入って俺たちを手招きする。どこかに案内してくれるのだろうか。
俺たちは陸上ルートで人魚の後を追いかけていくと、少し岩が入り組んだ場所に到着する。
そして、先に到着していた人魚たちが小さな人魚を抱いていた。
「もしかして……赤ちゃんですか?」
「れー」
「わぁ……かわいいですね……」
「きゅぅぅぅぅ……」
つまり、この子のために子守歌代わりに歌を歌っていたのかな。
今はすやすやと眠っているけど、泣いていると体力を使っちゃうだろうし、体力を回復する歌だったのだろう。
「……そうだ、アテナさん、アトラスさん、レックスさん。ちょっといいですか? さっきの歌のお礼に、赤ちゃんのためのものを作ろうと思ったのですが……」
「お、いいじゃねえか。おれはガラガラを造ろうか」
「あ、それならぼくがガラガラに人魚の絵を描きましょうか?」
「それはいいな。コウ、それじゃおれとレックスでガラガラを造るぜ」
「それなら俺は……揺りかごを造りましょうか。アテナさん、揺りかごの布部分をお願いできますか?」
「分かりました! ただ、ここは湿気が多いのでどうしましょうか……」
「確かに木も腐りやすいかもしれませんね……もしかしたら、水属性を付与すれば調和していい感じに軽減されるかもしれませんが……」
「赤ちゃんの肌に触れる部分でもありますし、同属性なら喜んでくれるかもですね」
よし、これでいったん造ってみよう。
もし合わなかった時のために、無属性のものも保険として造っておくと良さげかな。
「人魚さん、歌のお礼に赤ちゃんのための道具を造ろうと思うのですが……よろしいですか?」
「れー♪」
「ありがとう、楽しみにしてる。だって。ボクたちも何か手伝えそう?」
「それならエファはフェアリーシロップを作ってもらおうかな。他の子は俺の手伝いをしてもらって……」
こうして俺たちは人魚の赤ちゃんのための道具づくりを始めるのだった。
**********
「よし、こんな感じかな」
だいたいはチェンジプラントで形を整えて、あとは揺れる時の調整かな。
揺れるように底面部分を湾曲させるのだけど、チェンジプラントでもいい感じの丸みを持たせるのが少し難しい。
何回か試行して、ようやくいい感じの揺れを作ることができた。
あとはこれに水属性を付与して……。
「きゅー、きゅー」
「ん? どうしたの、ライア」
「んー……ライアも赤ちゃんが欲しいみたい」
「……へ?」
何か凄い爆弾発言をされた気分なんですけど!?
赤ちゃんを見た時に凄い慈しむような目をしてたけど……母性本能を刺激されたのだろうか。
「確かにあのかわいさを見たらねー、ボクも欲しいって思っちゃったもん」
「きゅー」
「それじゃあ、時々ここに様子を見にきてあげる?」
「きゅ!」
「それがいい! って言ってるよー」
……なんとか一安心である。
そういえばライアはモンスターの卵から産まれたけど、最初は赤ちゃんではなかったんだよね。
さすがに赤ちゃんから育てるのは……というゲーム上の都合なんだろうけど、人魚みたいにモンスターの赤ちゃんもちゃんと実装されてるんだな。
「コウさーん、布の方はできましたよ!」
「あ、それでは俺も水属性を付与して完成です。アトラスさんたちも完成したら届けにいきましょう」
アテナさんの言葉によって考えるのをいったん止め、俺は揺りかごに水属性を付与して完成させる。
喜んで使ってくれたら嬉しいな。
そしてアトラスさんたちもガラガラの作製が終わったようで、今日中に届けることができそうだ。
それにしてもレックスさん、筆が速いなあ。普通なら数時間かかると思うんだけど……。
レックスさんいわく、絵を描くのは趣味だと言ってるけど、趣味でここまでクオリティを維持して速く描けるものなんだな……。
**********
「お待たせしました。それでは使い方を説明していきますね」
「れ!」
「これは揺りかごと言って、赤ちゃんを寝かしつける時に使う道具です」
「背中が痛くならないように、水属性の布を折り重ねて敷いています。それと、掛ける用の布もありますので、暖かくして寝られますよ。……人魚さんは水属性だから、このぐらいの温度と湿度が心地よいのかもしれませんが……」
俺たちは揺りかごの説明をして、実際に赤ちゃんを寝かしつけてもらう。
そして、揺りかごをそっと揺らすと、赤ちゃん人魚はキャッキャと笑い始めた。どうやら気に入ってくれているようだ。
「で、こっちはおれとレックスで造ったガラガラだ。文字通り振るとガラガラ鳴る道具だ」
「ぜひ実際に赤ちゃんをあやしてみてください」
レックスさんはガラガラを人魚に渡すと、人魚は赤ちゃんの傍でガラガラと音を立てさせる。
赤ちゃん人魚は音を立てるものが不思議なのか、そっとガラガラに手を伸ばして笑みを浮かべる。どうやらこちらも気に入ってくれたかな……?
「きゅー!」
「はいはい、順番ね」
ライアも赤ちゃんをあやしたいのか、自分もガラガラを使いたいとアピールする。
でも、まずは人魚の人たちが先だからね。これからガラガラを使っていくんだから、慣れておかないと。
「れー♪」
その後、赤ちゃんが眠ると人魚が俺たちに話しかけてくる。
「んー……道具のお礼に契約がしたいみたい」
「契約……?」
「うん、すれば分かるって言ってるよ。それと手の甲を出して欲しいって」
「こうかな……?」
俺は人魚に手の甲を差し出すと、人魚はそこにそっと口づけをする。
すると、淡い光があたりを照らし始め……。
【INFO:マーメイドとの契約が完了しました。これに伴い『召喚』スキルを獲得しました。MPを消費することで、契約したモンスターを呼び出し、スキルを使用してもらうことが可能になります】
【INFO:召喚スキルを獲得したプレイヤーが出たため、召喚スキルをヘルプの項目に追加しました】
そして、アテナさんたちも同様に人魚……もといマーメイドたちとの契約が完了する。
……2個目のINFOは全体周知だったし、こりゃしばらくは掲示板が賑わうな……と思うのだった。




