フラワーイーター
「──ということで、皆さんに力をお借りしたいのですが……」
フィアから帰ると俺はギルドに行き、フィアでの一件を皆に話す。
今日は珍しくギルドメンバー全員が揃っていたのもあり、すぐに対策を練ることにした。
「まずはフラワーイーターがどんなモンスターか知る必要があるな」
「実際に森を見回って、一度戦闘してみますか?」
「そうですね、そして実力差があり過ぎるようなら、他のプレイヤーに協力を仰ぐ必要があると思います」
確かに、俺たちはプレイヤーの中でも中の下ぐらいのレベルだ。
もし俺たちが敵わない相手であれば、上位のプレイヤーたちに手を貸してもらわないと。
「花を食べるということは、草食動物なんでしょうか?」
「それならそんなに大きいモンスターでもないのか……? いや、草食動物でもゾウはでかいな」
「俺がフィアに行った時も帰る時も、森が荒らされていると気付かなかったので、そんなに大きくはないと思います。……とりあえず、現地で調査するのが早そうですね」
見知らぬモンスターのことを話していても分からないままだしね。
百聞は一見に如かず。俺たちは3パーティーに分かれてフィアの周辺を捜索することにした。
「それでは三手に分かれてそれらしきモンスターを探しましょう……妖精の方たちも協力してくれるそうです。姿は分かっているそうですので」
「皆さま、よろしくお願いいたします」
……まさか、族長のティターニアさんが同行してくれるとは思わなかったが。
でも、相手の姿が分かっているなら心強い。
「私たちも隠蔽魔法で近づき、攻撃魔法で撃退しようとしたのですが……勘が鋭く、更に私たちの匂いも分かるらしく、射程距離まで近づくことができなかったのです……」
確かに野生動物とかって勘が鋭いとか聞くしなあ。名前的には動物ではなくモンスターっぽいけど。
俺はそれを聞いてペットモンスターをライアに変更する。バインドで拘束できるからだ。
「ちなみに大きさはどれぐらいでしょうか?」
「そうですね……コウさんの腰ぐらいの高さでしょうか。それと、それほど好戦的ではないようです」
「ありがとうございます。それなら音を立てずに捜索した方が良さそうですね」
こうして俺たちはフォーリア森林の捜索を始めた。
(……コウさん、あのモンスターです)
捜索を開始して20分ほど経ったところで、ティターニアさんが小声で俺に知らせる。
俺は皆に知らせてモンスターの方を見る。
薄い茶褐色の体毛、白い斑点、頭から生える角。
その時、俺たちパーティー4人の思いが重なる。
((((鹿じゃん!!!))))
確かに鹿は植物や花のつぼみなどを食べるけど、まさか鹿のモンスターとは思わなかった……。
そして、俺たちが驚いていると、フラワーイーターはこちらを見て速攻で逃げていく。
距離にして50メートル近く離れているのに……相当警戒心が強いのだろう。
「……やはり、手強いですね……」
「でも、姿は分かりましたし、全員に連絡を入れておきます。……しかし、ただ倒すだけでは解決しないような気がしますね」
「というのは……?」
「いえ、モンスターは倒すと『戦闘での記憶を失って復活する』と聞いたことがあります。それなら、復活した後にもここにきて花を食い散らかすのではないでしょうか?」
「確かに……」
「それなら撃破せずに撃退して、『ここには強い者がいるから他に行こう』と思わせるのもありかもしれません」
あえて倒さずに追い払えば、この森を避けるはず。
ただ、それはそれで他の森などに移住しそうではあるが……ヴァノリモ大森林だとクイーンドリアードさんにメッされそうな気はする。
「あとは交渉するとかですかね……フェアリー族はモンスターの言葉が分かるんですよね? エファも会話してましたし」
「そうですね、ただ、すぐに逃げてしまうので交渉自体ができないと言いますか……」
「分かりました。乱暴になりますが、逃げられないようにライアのバインドで拘束してから話をしてみましょう」
「私はアラクネネットを持ってきているので、バインドの後に更に使えば拘束時間を増やせそうですね」
「それなら、あとはもう一回見つけるだけだな。花がある所にいるとは思うが……」
しかし、俺たちはこの森にはそんなに詳しくない。
それなら、とティターニアさんの方を見る。
「そうですね、それでしたら私たちが普段蜜を採取している所へ向かいましょう」
「ありがとうございます、助かります」
「いえ、私たちこそ協力して頂いている身ですので……それでは参りましょう」
その後、フェアリーたちが蜜を採取している花畑を転々としてみることに。
他のパーティーにも連絡し、それぞれ別の花畑に向かうことにした。
すると……。
(いました。あそこです)
ティターニアさんが小声で俺たちに話しかける。
ティターニアさんが指し示す先には、花を食べている一匹のフラワーイーターがいた。
(ライアのバインドの範囲まで近寄れるといいのですが……)
(それならおれがスピードアップをかけるぞ)
(それからボクが隠蔽魔法をかけるね。ライアは飛べるから足音も立てないしね)
なるほど、確かに飛んでいれば隠蔽魔法の欠点のうち、音に関しては克服できるのか。
匂い……は、周りに木々が多いこともあって、木の精霊であるドリアードのライアの匂いもバレづらいはず。
(それならライア、お願いできるかな?)
(きゅっ)
こうして俺たちはライアにスピードアップと隠蔽魔法をかけ、フラワーイーターに近づいてもらうことにした。
姿が見えないのでどこまで接近しているか分からないが、そろそろだいぶ近くまで……。
「キュイ?!」
フラワーイーターが声を上げる。おそらくライアのバインドで拘束されたのだろう。
俺たちもスピードアップをかけ、すぐに接近する。
「アラクネネットを使います!」
アテナさんは射程距離に入るとすぐにアラクネネットを取り出してフラワーイーターを捕縛する。
かなりの大きさの鉱石喰らいでも拘束できるんだ。フラワーイーターの体格なら数分は効果が続くはず。
「……さて、フラワーイーターさん。俺たちはあなたを退治しにきたわけではないんです。どうしてここの花を喰い荒らしているのか、教えて頂けますか? フェアリーさんたちが花から蜜を採れずに困っているんです」
「きゅ、キュイ……」
「ありがとうございますコウさん、あとは私が話してみます」
「ティターニアさん、それではお願いします」
俺たちは邪魔をしないように一歩後ろへと下がる。
拘束が解けた時に逃げられないように一応周りを囲んではいるが、フラワーイーターは観念したのか逃げる様子はなく、拘束が解けてもティターニアさんと会話を続ける。
そして……。
「コウさん、ありがとうございます。おかげさまで彼らの事情が分かりました」
ティターニアさんが怒っていない……ということは、同情の余地がある理由だったのだろうか。
「その事情と言うのは……」
「そうですね……元々この子たちは砂漠のはるか南にある森で暮らしていたそうです」
砂漠……クヴァーナ砂漠のことだろうか?
はるか南に森があるのか……まだプレイヤーに発見されてない森なのかな。
「ところが、突然その森に砂漠のモンスターが大挙して押し寄せて、棲み処を追われたそうなのです」
「砂漠のモンスターが……?」
この辺りではある程度の住み分けがされているのか、他のモンスターのテリトリーに踏み込むことはあまり聞かないな……魔石目当てでモンスター同士の戦闘はあるけど、そこまで大規模なことはない。
「それで、放浪の末にこの森にたどり着いたそうですね。途中で散り散りになったため、この森にいるのは7人だそうです」
「なるほど……それで、ティターニアさんはフラワーイーターをどうされるおつもりですか?」
「私の一存では決められないので、他の子たちと話し合ってみます。私としては共存できれば良いのですが……」
「キュイ……」
7人なら何とかなる……かな?
しかし、どうして砂漠のモンスターが森を襲うようなことをしたのだろうか。
「コウさん、コウさんは砂漠に行かれますか?」
「はい、たまに素材目当てで行くことはあります」
「どうやら、砂漠のモンスターたちは少々様子がおかしいようです。何かに操られているかのような……そのような雰囲気であるとフラワーイーターが言っています。もし、モンスターに遭遇したらお気をつけください」
……実は遭遇したんだよなあ。
サソリのモンスターだったけど、なんか雰囲気が変わってる感じはあったかもしれない。
他のプレイヤーもクヴァーナ砂漠に入れるようになったし、動画を見てみようかな。
「ところでティターニアさん、花ではありませんが……ハチミツを使ってのフェアリーシロップづくりはいかがですか?」
「そうですね……もちろん可能ですし、ビーのハチミツであれば高品質のものが作れます」
「それでしたら──」
**********
「お届けにあがりましたのーっ!」
数時間後、クイーンビーが進化したビーたちを従えてフォーリア森林へとやってきた。
もちろん、大量のハチミツをビンに詰めて、だ。
「ティターニアさん、クイーンビーたちにハチミツを提供してもらって、花はフラワーイーターに譲ってあげるということはできませんか? ……ティターニアさん?」
「はわわ……はわわ……クイーンビーの上位種……」
あー……確かに性格は明るくて人懐っこいけど、上位種だもんね……。エファ同様に怖がるのも無理はないかぁ。
「大丈夫ですよ、クイーンビーは友好的な子なので」
「そうですの、お義父さまの頼みとあらば、何でもお手伝いしますの!」
「そ、そうなのですか……」
ティターニアさんには慣れてもらうしかないな……そして、後ろのフェアリーやフラワーイーターたちにも……。
これから長く付き合うことになるだろうし。
「ティタちゃん、もしかしたらクイーンビーのハチミツでフェアリーシロップが作れるかもしれないんだよ! 提案を受けようよー!」
「そ、そうですね……しかし、それだとクイーンビー様たちの利益が無さそうな気がしますが……」
「ワタクシとしては作ったフェアリーシロップをちょっともらえれば大丈夫ですの! この前エファちゃんに作ってもらったのも美味しかったですの!」
「そ、そうなの、エファちゃん?」
「う、うん。ボクもそこまで気に入られるとは思ってなかったけど……」
「それでしたらその条件で受けさせて頂きます」
こうして、クイーンビーたちとフェアリーたちとの協定が結ばれ、クイーンビーたちからはハチミツを、フェアリーからはフェアリーシロップをそれぞれ提供する形で落ち着くことに。
また、ビーやクイーンビーのハチミツでフェアリーシロップを作るようになり、フェアリーたちの花の需要が減ったため、フラワーイーターたちもフォーリア森林で過ごせることになるのだった。
ただ、花でフェアリーシロップを作ることにこだわりがある子たちは、フラワーイーターたちが食べる前に蜜を確保する形にしたらしい。
とりあえず、一件落着……なのかな?
それにしても、フラワーイーターたちの棲み処が襲われた件が気になるなあ。
操られているようだった、ということは呪いか何かだろうか。砂漠といえばピラミッド、みたいなイメージがあるけど、ピラミッドの呪いとか……?
今後、砂漠の調査が進んで行けばその辺が明らかになっていくだろうか。
まずは掲示板に今回の件を書き込んで、情報を集めていこうと思うのだった。
シルフ(シルフィー)のキャライメージを活動報告にアップしました。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2353312/blogkey/3587144/




