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髪喰い虫 勇者の息子である狩人と悪役令嬢にされてしまった女の恋する旅路  作者: はなだ とめX
第2章 男は女を守ることを誓い山小屋をめざす A面
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51話 ドゥネイブ

曲の構成をするようなつもりで書いてきましたが、どうやらそれは間違いだったようです。次作は、最初からドーンっと、サビから書いていこうと思っています。で、できるかな(汗)?



 少しずつだが、襲ってくるウルフの数は減っていった。


 槍を持たせれば、女はかなり使えるようだった。また火の魔法を使おうとしていたが、詠唱に時間がかかり、実践では使えないと判断したのか、小石に火を纏わせ小型投石器で放っていた。戦闘センスもなかなか悪くない。


 「俺から離れすぎるな。このまま後退しながら、川へ向かう」


 女は槍を振るいながら、頷いて了承の合図を返す。


 深追いはせず、襲ってくるウルフだけを倒し、俺は女と並んで一歩一歩後ろへ下がっていく。


 岩場から川へ行くには小さな崖を降りなければならない。


 道が下りに入ると、見下ろす形になったウルフは、好機を逃さんとばかりに、その攻勢を強めた。前方から波状攻撃をして来ると同時に、左右から、俺たちの背後へ回り込もうとしたのだ。


 「前を頼む!」


 俺は『魔法の袋』から風迅の弓を取り出すと、左右に散ったウルフたちを狙って一撃必殺で倒していく。


 女も槍を巧みに操り、ウルフの波状攻撃に上手く対応していた。


 そして川まで辿り着くと、俺はそのまま川へと飛び込んだ。女も躊躇わずあとに続いた。

 

 ウルフは川の中までは追っては来ない。川辺に並び、地団駄でも踏むように遠吠えを繰り返していた。


 「このまま対岸まで渡ってしまおう」

 「えっ? 対岸はオークのテリトリーではないのですか?」


 すでに底に足が突かなくなった女は、俺の首に腕を回して浮いていた。


 「この辺はもうオーガのテリトリーだ」


 「オ、オーガ⁉」

 女は、水の冷たさもあるのかもしれないが、顔から色が抜け落ちていた。


 「あっ、もしかしてオーガは狩人とお友達とか? 狼のように、オーガと仲良くなった物語があったりするのですね」


 「ん? 友達ではないな。物語はあるのかもしれないが、俺は知らない。興味があるなら、山小屋に父が残した文献があるから、読んでみるといいぞ」


 山小屋には、この国や母の里、そして父の故郷という遠い国の物語を集めた部屋があった。


 「い、いえ、そんな話をしているのではなく、オーガのテリトリーに勝手に入って大丈夫なのでしょうか?」


 「まあ、テリトリーと言っても、万遍無くどこにでもいるわけじゃないからな。それにゴブリンみたいに神経質じゃないし、随時警戒しているわけでもない。一晩、邪魔するくらい何の問題ない。……それから、もう足がつくだろ!」


 オーガを無暗に怯えている女にちょっとイラついた俺は、女の腕を首から振りほどいた。


 そして、ジャブジャブとオーガのテリトリーに上陸した。河原は小石が敷き詰められているようになっていて、所々に小石が積み上げられている。どんな意味があるのかは判らない が、これはオーガの子供がする遊びだ。


 俺は比較的平らな場所を捜し、そこで焚火の準備を始めた。とにかく冷えた体と濡れた服を何とかしなければならないと思ったからだ。


 「おまえは水浴びでもして来い。朝から一度も髪を洗ってないだろ」

 「えっ!」

 女は手を口に当て、目を見開いて驚いている。


 「なんだ?」


 「あ、あなた様、今、――おまえ――と仰いましたが」


 「あぁ、悪いか? お嬢様とでも、呼べってか?」


 「いえいえ、あなた様は、わたくしのことを、ずっと――アンタ――とお呼びになっていましたが、――おまえ――に昇格したのが、嬉しいのです」


 「……。どうでも良いから、髪喰い虫を流してこい」


 「はい!」

 

 昇格なのかどうかは判らないが、俺の中で、女の存在が変わってきていることは自覚していた。だからと言って、女が言うような――結婚――にまで飛躍することはない。何と言うか、初めて出逢った同世代の仲間。それが一番しっくり来る。


 焚火の火が安定するまでの間に、俺はテントを張り、自分が脱いだ服と女の脱ぎ捨てていった服を、テントの上に掛けた。


 火の前でさすがにスッポンポンになるのは危ない。俺は裸のまま耐火エプロンを首から掛ける。そして火が安定したところで、やぐらを置き、その上にドゥネイブを置いた。


 ドゥネイブとは、丹念に粘土を捏ね、それを任意の形に生成して、しばらく乾燥させてから、窯で焼くのだ。簡単に言ってしまえば、土で出来た鍋である。かなり手間暇が掛かるわりに大したものは出来ない。


 ――これはあくまでも趣味だからね――。


 なかなか巧く出来なかったことに、父は悔しそうな顔をしていた。


 父が死んでからというもの、俺はずっと父を追っていた。ユレイブの街で聞こえてくる父を慕う声やその人気。何でもこなす超人のような人。また女が言ったように勇者でもあるようだった。俺は自分の知らない父に戸惑った。知れば知る程どんどん偉大な存在に膨れあがっていく父。それに追い縋るように、俺は、父の残した文献や論文を、何とか父の息子であろうと、切迫した思いに駆られながら読み漁った。


 だが、この不格好なドゥネイブを見ていると、実際に俺が知っている父は、英雄でも、勇者でもなかったことを思い出す。優しくて、子煩悩で、いつも俺の反応をみて面白がっているような人だった。

 

 「そう言えば、上手くいかないことも沢山あったな」 

 俺はフッと笑う。


 「楽しそうですね。どうしたのですか?」


 いつの間にか、水浴びから帰った女が訊いてくる。以前のように綿布を体に巻いてドレスのようにしていた。


 「なんでもない。それよりコイツを頼む」


 俺は、骨付きのホロホロ鳥の肉、ボアの肉をスライスしたもの、山小屋で栽培した根菜と葉野菜、ゴブリンテリトリーで採取したキノコやノビル、そしてトゥーフーを、『魔法の袋』の中から一気に取りだした。


 トゥーフーとは、豆を粉砕したものを綿布で濾して、海水から塩を作る過程で出来る結晶を入れて固めたものである。とろっとしていて、ふわっとしている。父に言わせると、その名も似てるが微妙に違うらしい……。これも父が、なかなか上手く出来なかった物のひとつだった。


 「もはや、『魔法の袋』のことを隠す気もありませんのね。信頼の証しでしょうか?」


 俺は、湯が滾ったドゥネイブへ、骨付きホロホロ鳥の肉を放り込み、ボアのスライス肉を一枚一枚を丁寧に開いてから入れていくと、蓋をして、火の番を女に頼み、そのまま水浴びへ向かった。

 



 

 


評価、ブクマ、よろしくお願いします。



短編 クロネコの夢

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