↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髪喰い虫 勇者の息子である狩人と悪役令嬢にされてしまった女の恋する旅路  作者: はなだ とめX
第2章 男は女を守ることを誓い山小屋をめざす A面
47/79

46話 事情

昨日まで【第1章 A面-2】とするつもりでいましたが、【第2章 男は女を守ることを誓い山小屋をめざす A面】としました。



 「アンタ……、誰なんだ? 何を知ってる?」

 俺は女を見た。


 しかし女は急に腰砕けになりその場に座り込んだ。ゴブリンの群れに囲まれた時でさえ、ここまで怯えた顔はしなかった。


 「もうしわけ ありません すこし おさえて いただけ ませんか」


 「あっ、すまない」

 俺は、気づかぬ内に威圧に魔力を込めてしまっていたようだ。一息ついて、心を落ち着かせる。


 『勇者』という言葉を聴いたのは、これが二度目だった。一度目は母の口からである。殺気が洩れてしまったのは、『勇者』という言葉に引っ掛かりを覚えただけでなく、女が貴族だからと言うのもあったかもしれない。けれど、この旅路の中で、俺は女のことを――本当に貴族なのだろうか――と何度も思った。それは嫌悪ではなく、その逆だった。


 ユレイブの街でも、たまに貴族というのを見掛けたことがあった。大抵、高飛車で平民になど目も向けない。ただそれは良い方の貴族であり、悪い方だと、平民から平気で搾取しようとする。風の一族であった母などは見目が良かった所為もあって、何度も貴族から攫われそうになった。


 ユレイブのような王領地の場合、数年単位で領主(代官)が変わる。その度に貴族は母に目を付け、大量の金貨で買おうとしたり、「税として差し出せ」と命令したり、従者に襲わせたりもした。


 毎度、父が領主の屋敷に出張って行って、ものの数分で解決してしまうのだが……。その後の貴族は、母に手を出してくるどころか、任期が終わるまで逃げ隠れするようになってしまう。そしてまた別の領主に代わると、同じことを繰り返すのだ。


 それが、俺には不思議で仕方がなかった。


 「どうして、パパが行けば、すぐに解決するの?」

 一度、俺は父に訊ねたことがあった。


 「話せば判ってくれるんだよ」

 父は、俺の頭を撫でながら言った。


 「勇者リオから屋敷に乗り込まれたら、王様でも蒼褪めるでしょうね」

 母を見ると苦笑いだった。


 「えっ、パパは勇者なの?」

 「違うよ。狩人だよ。エリスの夫であり、フォーリオのパパだよ」

 

 父は優しく笑っていた。




 「御不快な思いをさせてしまったようで、大変申し訳ありませんでした」

 女は片膝を付き、頭を下げて、右手を左胸においた。


 「何の真似だ?」

 女の今の態度の方が不快だ。俺は貴族などではない。


 「最大の謝罪の意を、あなた様に……」

 「俺は怒ってなどいない。ただなぜ、アンタがそんなことを言ったのか、疑問に思っただけだ」


 少なくとも、俺が――過去に勇者であったらしい――父の息子であることを、女は知っていたということである。


 「では、お話します。実を言いますと、わたくしロザンナ・サグランティーノは、勇者リオ様の御子息であられるフォーリオ・ユレイブ様へ嫁ぐようにとの王命を、父、侯爵により申し渡され、ユレイブの街へと罷り越したのでございます」


 ゴシソク? オウメイ?


 「何を言ってる? さっぱり意味が解らない」


 女はフーーっと長く息を吐くと、何かを考えるように一度目を瞑った。そしてクワっと目を見開き、話を始めた。


 「わたくしは、あなた様に嫁ぐ為にユレイブへ馳せ参じたのでございます。ところが、その途中で口惜しくも卑劣な盗賊に攫われてしまったのでございます。そこから逃げ遂せたまでは良かったのですが、森で迷い、そしてあなた様と偶然お逢いすることになるのです。その時はまだ、――わたくしの貞操をほぼほぼ奪った――あなた様がどなたか存じ上げませんでしたので、嫁ぎ先の夫になるはずだったフォーリオ様にはもう顔向けできないと思っておりました。いっそ死に……たくはございませんでしたので、死んだことにして、どこかでひっそりと暮らそう、などと思っておりましたの。ですが、あなた様とお話しているうちに、あなた様のお話によく出て来る――父――が、昔から演劇などでよく知っております勇者リオ様像と重なるところがございましたので、ついカマを掛けるつもりで――山小屋――のことを訊ねてみたのでございます。するとあなた様は山小屋の存在をお認めになるではないですか。それでわたくしは、もしかすると……と思ったのでございます。そして翌日のことでございました。あなた様が川で弓を射ていらっしゃる時、朝の陽の光に照らされ、きらきら輝いている大きな黒い目を拝見したのでございます。その時わたくしは、あなた様が勇者リオ様の御子息であられるフォーリオ様であると確信致しました。森の中で偶然遭った――わたくしの貞操をほぼほぼ奪った――狩人が、完全に貞操を奪われたとしても、まったく、全然、なんの問題もない嫁ぎ先の相手であるフォーリオ様でございましたの。わたくし、その幸運に歓喜いたしましたわ。川の中で神に何度も感謝いたしましたわ。そしてその神のお導きを素直に受け入れることにしました。ただこのことは、髪喰い虫の問題が解決した後にすべてお話するつもりでございました。決して悪意があって隠していたわけではございません。この様なタイミングになってしまったことは口惜しゅうございますが、改めて、自己紹介いたします。あなた様の妻、ロザンナでございます。末永くよろしくお願い致しますわ」


 何かに取り憑かれたようなギラギラした女の目が怖かった。早口で言いたいことを言い終えた女は、フッと息をつき、以前母が見せてくれた、カーテシーだったか、コーテシーだったか、場違いな貴族の挨拶をした。


 「……そんなこと何も知らないぞ、俺は」


 長いし……、頭に全然入って来なかった。ただ何も言わず捨ておけるような話でないのは判る。

 

 「そうなんですわ。何も知らずに運命に導かれるように出逢ってしまったわけですから、もはやこれは政略結婚ではなく、恋愛結婚と言えますわね」


 女は、目を細め、どこか憂いを帯びたような顔をしていた。


 うん、さらにわけが判らない。ここは一旦、忘れよう。


 ――判らなくなったら原点に戻りなさい――と父が言っていた。ならば、原点はなんだ? 俺は一体何をしている?


 ――髪喰い虫に侵された女を助ける為に山小屋へ向かっている――そこで俺は思い出した。 今朝、洞窟の前で水浴びしてから、女に頭も体も洗わせていなかったことを。


 「忘れてたが、取り合えず水浴びしとくか?」

 

 「えっ、今、ここでですか? 恥ずかしいですわ」


 女は、ベッドの方をちらちら見ながら、顔を赤らめている。


 「この先のことを考えると、ここで水浴びしといた方が良いんだよ」


 おそらく明日は走り通しになる。かなりタフな一日になるはずだ。朝は、かなり気温も水温も下がっているだろうから、部屋がストーブで温まっている今のうちに、きちんと水浴びをしておくべきだと、俺は考えた。


 「わたくしとて貴族の矜持がございます。ここでは拒否致しますわ。せめて身嗜みを整えてからにしてくださいませ」


 毅然としているが、何を言っているのやら……。頭は打ってないはずだが、目覚めてからの女は少しおかしい。この森で髪喰い虫に寄生されたのなら、脳まで侵されるにはまだ早すぎる。もしかすると、もっと以前に……。見た目は元気そうであるが、もはやここは一刻の猶予を争う。


 「あ~も~、いろいろ問題事項が多すぎて、いろいろ間違っていて、いろいろ面倒くさい。とにかく裸になれ」


 ――(怪我をして)どうしたら良いか判らなかったら、とにかくすぐに冷やせ!――

 と父が言っていた。


 「えっ? こ、こ、ここでは……ダメです。そもそもまだ夜にもなっていませんわ」


 「アンタ、ちょっと頭がおかしくなってないか?」


 俺は、女のブーツを無理矢理脱がせ、ベストを取り、上着を剥ぎ取り、パンツを抜き取ると、「ア~レ~」とか「イヤ~ン」とか「そ、そんなご無体な~」とか色々言っていたが、全部無視して、真っ裸にした女に崖降下用ハーネスを再び装着する。


 そして、引っ張るようにして、川側の小さな扉から川辺へ出ると、そのまま女を川の中へと放り込んだ。


 女は水の中でバタバタ暴れていた。浮いたり、沈んだり、なかなか良い水浴びっぷりだった。これで髪喰い虫も一網打尽だろう。やはりかなり水温が下がっているようで、女の顔から血の気が引いていた。また流れもかなり速く、油断していると、女は瞬く間に流れていった。50ブキン(1ブキン=1歩巾=70cm)ほどの長さがあったロープが半分程、手元から消えたところで、俺は女を川から回収した。


 川から上がって来た女の顔は真っ青であり、オーガも然もやという恐ろしい形相だった。


 「殺す気かぁー-!」

 女はハアハアと洗い息を吐き、鬼気迫る顔だった。


 「おっ、正気に戻ったか? 水浴びも出来たし、一射二兎だな」


 「この恐怖、この屈辱、許さんぞ、フォーリオ・ユレイブ。侯爵令嬢であるこのわたくしが、これだけ甘く囁き誘惑しているのに、まったく女扱いもせず、さらにはこの仕打ちか! なんだ? この恰好は? 変態か? わたくしは変態さんなのか? なぜ素肌にハーネスなんだ? スハダーニー・ハーネスという名のイカれた性癖の持ち主とでも思ったのか? えっ? 聞いてるのか?  フォーリオ・ユレイブ‼」


 さらに頭がおかしくなってるな。まだ冷やしたりないのだろうか……。


 「もう一回、川に放り込んどくか?」


 さすがに心配した俺が本気で考えていると、「あっ、ごめんなさい。ウソです。もう川はイヤです」と女は泣きついて来た。






評価、ブックマーク、よろしくお願いします。


新章に至るまで書き続けられたのは、あなた様のお陰でございます。いつも『いいね』ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。