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43話 肩を抱き寄せられています

今日の話を出すかどうか、かなり悩みました。重要な回だと思っているのですが、2章以降も続けるなら……です。1章で終了するなら不要な説明なのです。



 わたくしが、超大作とも言える――竜王山南西の森とユレイブ近郊――の地図を必死で目に焼き付けておりましたところ、――終わった――とばかりに立ち上がったフォーリオ様は、止める間もなく、一瞬にして風の魔法で小さな竜巻を作り出し、あっさりと地図を消し去ってしまわれました。


 何もない地面を、わたくしはただしばらく茫然と眺めておりました。


 我に返り、舌打ちしたい衝動に駆られますが、淑女なのでそんなことはしませんよ。さっさと一人歩いて川の方へと向かうフォーリオ様の背に、恨めしげな視線を向けるだけです。


 それにしても、アレはどうやっているのでしょう。料理をされていた時から気になっておりましたが、フォーリオ様は瞬時に魔法を発動されています。詠唱をしている様子が一切ありません。


 フランチェスカ王国の最高学府であるフランチェスカ王立大学院、通称、貴族学校でもその様な光景を見たことは御座いませんでした。


 ただ――勇者リオ様は無言のまま魔法を放っていた――という話は、どこかで聞いた憶えがありました。けれど授業中の話などではなく、教授が仰ったことでもありません。おそらく食堂か何かで、茶飲み話として、誰かが言ったことでしょう。


 現実味に欠けるお話であり、わたくしは戯言として聞き流しておりました。フォーリオ様の魔法を見るまではすっかり忘れていたことです。ちなみに演劇に出てくる勇者様は、抒情的で派手な詠唱をおこないます。


 フォーリオ様は 詠唱もせず、どうやって魔法を発動させているのでしょう。


 不思議でなりません。


 わたくしたち人は精霊から魔力を与えられています。学校などの教育機関では混乱が生じないよう【精霊化魔素】という言い方をしていましたが、一般的にはどれも十把一絡げに魔力と言います。誰もそんなことを考えて【魔法】を使ったりはしていないからです。


 わたくし自身も、貴族学校でそう習っただけであり、これが本当に正しいと実感したことはございません。けれど今回はフォーリオ様の不思議を紐解く為、少々アカデミックに参りたいと存じます。


 【魔素】は文字通り【魔法】の素となるものですが、【魔素】については何も判っておりません。普通に空気中に漂っているものであり、当たり前のようにどこにでもあるものです。


 ただし【魔素】そのものは、人にとっての【魔法】の素にはなりません。逆に濃すぎる【魔素】は人体に悪影響を及ぼし、稀に発生すると言われている魔素だまりなどに遭遇した場合、下手をすれば死ぬこともあるそうです。


 精霊が媒介した【魔素】、つまり【精霊化魔素】になって、漸く人の体内に取り込まれるようになるのです。


 わたくしの場合ですと、火の精霊から【精霊化魔素】を戴いております。それが人の体内に蓄えられるとその属性を失います。だからと言って、ただの【魔素】に戻るわけではございません。人の体内で【魔力】へ変わるのです。そしてその【魔力】を精霊へ還元する形で【魔法】を発動しています。


 この辺の説明をする時に、ごっちゃにならぬよう、学校では【精霊化魔素】という言葉が用いられるようになったとのことです。補足ですが、光闇の属性の人は、火風水土のどの精霊が作り出した【精霊化魔素】も吸収できてしまうのだそうです。


 人の体内にある【魔力】には属性がありません。ですので、初級程度なら大体どの魔法にも使えます。


 一例ですが、

  光魔法【ライト】わたくしの頭を照らしたアレです。

  闇魔法【やすらぎ】眠れない時など安眠を促します。

  火魔法【着火】料理などで使います。

  風魔法【そよかぜ】暑い時などに便利です。

  水魔法【水生成】グラス一杯程。しかも魔力が混じる為、飲料には不向きです。

  土魔法【掘削】小さな穴を掘ることが出来ます。

 などがあります。


 わたくしは、光寄りの火属性ですので、【やすらぎ】の魔法は少々苦手にしておりますが、使えなくもありません。


 王都では、これらの初級魔法を貴族平民に関わらず、10歳ぐらいから成人する15歳になるまでに修得してしまいます。もちろん、必要な魔法だけを覚えるという人も、――魔法など必要ない――と一切魔法を学ばない人も多くいらっしゃいます。


 口さがない貴族などは、初級魔法のことを、生活魔法、平民魔法などと見下した言い方をする場合もございます。……はい。わたくしも、フォーリオ様に逢った当初、そう発言しておりました。あの時はいろいろ不安定だったのです。……反省しております。


 そして、これら初級魔法であっても、【魔法】を発動させるには【魔力】と同時に【詠唱】が必要になってくるのです。


 【詠唱】とは、――神の御言――による神や精霊への呼び掛けです。【詠唱】がなければ、いくら魔力量が多かろうと【魔力】は動きません。当然、【魔法】も発動しません。


 【魔法】を学ぶと言うことは、各種精霊に向き合う為の――神の御言――、つまりは【詠唱】を学ぶということなのです。


 攻撃など大量に【魔力】を使う上級魔法の場合は、親和性の高い精霊の力とそれに伴う長ったらしい【詠唱】を修得する必要がございます。


 それらを学び、研究する為には、15歳(成人)から入学を許されるフランチェスカ王立大学院に進まなければなりません。入学に際する身分の条件はありませんが、通っているのは貴族ばかりです。平民出身の生徒は学年に一人いるか、いないかといったところでしょう。


 殆どの平民が成人と同時に働き始めることと、多額の費用が難点になっているようです。それが貴族学校と称される所以でもあります。


 先程、フォーリオ様が使った風魔法の竜巻は上級魔法でございます。しかも威力を抑えるという制御までしていらっしゃいました。【詠唱】を使って竜巻の魔法を発動するとすれば、どんなに速く見積もっても、童謡を一曲歌いきるぐらいの時間は必要になってきます。それを瞬時に発動されるのですから、やはり【詠唱】はされてないと考えるのが妥当ではないでしょうか。


 これは勇者様特有の――火風水土の基本四属性――とも、土台となる――光闇の二極属性――ともまったく違う別物であり、次元が違う勇者だけの属性と言われている――聖属性――に起因している能力なのでしょうか。


 すると、御子息であるフォーリオ様はそれを引き継いでいるということになります。しかしフォーリオ様は風魔法を使っていらっしゃいました。


 やはり、さっぱり判りません。


 なお、魔物の場合は精霊が介することなく、直接【魔素】を吸収することが出来ます。そして体内にある魔石によって【魔力】を作り出すのです。魔石というのは属性を持つ石のことです。ですので、属性が固定された【魔力】しか作り出すことが出来ません。それを【属性魔力】と言います。火属性の魔石を持つ魔物ならば、火の属性の【魔力】しか作り出せないということです。もちろん火の【魔法】しか使えません。無論【詠唱】もしません。


 人にとっての属性とは、精霊との相性のことであり、魔物が持っている魔石の属性のような明確なものではないのです。これが人と魔物の、魔法に関する大きな違いです。



 そんなことを考えていますと、フォーリオ様は木陰に身を隠しながら、わたくしへ手招きをされていました。オークに見つからぬよう、わたくしも身を低くして川辺へ近づきます。


 すると、フォーリオ様からガッと引き寄せられてしまいました。思わず声を出してしまいそうになりましたが、何とか堪え忍びました。


 「それでな、あの合流地点の北西から流れてくる川の方だが、裾がかなり広くなってるだろ。だから、かなり浅くて流れも緩やかなんだ。そこをオークが渡ってくる」


 わっ、わたくし、今、フォーリオ様に肩を抱き寄せられています。……まあ、知っていますよ。知ってはいるんです。すぐ先の対岸に数匹のオークがウロウロしていますので……。木陰に隠れる為に体を寄せ合っていることぐらいは……。


 でも恋愛初心者のわたくしは、このシチュエーションにドキドキがとまりません。


 「オークってヤツは問答無用だからな。当然、話も通じないし、ゴブリンと違って意思疎通は出来ない。見つかれば必ず襲ってくると思っておいてくれ」


 「オークはゴブリンより頭が悪いのですか?」

 「いや、そうじゃない。……殺しすぎたんだ。父と俺が」


 ――殺しすぎた?―― どういうことでしょうか。


 フォーリオ様は、その後しばらく、無言のまま考え込んでしまわれました。




評価、ブクマ、よろしくお願いします。



昨日ブクマをしてくださった方、本当にありがとうございます。今話を書く後押しになりました。

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