39話 ツカエナイ オンナデ スイマセンデスワ
新しい作品を書き始めましたので、今後は月~木で更新していきたいと思います。
「いいか、今日まではただ歩けばよかったが、本当に大変なのはこれからだ 。明日からは本格的に魔物のテリトリーを横切ることになる。だから偶には戦わなければならないし、全力で逃げなければならない時もある。明日の朝からは、極力、俺から離れるな」
「はい!」
――俺から離れるな――。
何だか良い響きです。演劇の舞台でヒロインが言われそうなセリフです。
「それから、アンタはどれぐらい戦えるんだ?」
「わたくし、これでも王都の貴族学校では優秀な生徒であったと自負しております。魔法の成績は結構良かった方ですわ」
貴族学校の最終成績は、200人中、座学が5位、実技が8位でした。わたくし、結構デキる女でしてよ。
「そうか、実戦経験は?」
「一応、学校の実習で、チームを組んで王都の西にある小さな森に入ったことがございます。それと軍の演習にも参加しましたわ」
貴族学校では、3年間で、必ず一度は森での実習に参加することが義務付けられておりました。わたくしは、最も一般的な2年生の時に参加いたしました。軍の演習の方は義務ではなく、文官系の貴族の子弟は殆ど参加することはないのですが、我が家は大蔵卿という国の財政を預かる家でございましたので、予算がどのように使われているのかを知っておく必要があったのです。侯爵家の後継である兄も参加しておりました。軍幹部の方たちから胡乱な目を向けられてしまいますので、あまり居心地の良いものではありませんが。
「おう、そうか⁉ で、森では何を仕留めた?」
フォーリオ様の食つきが殊の外良いようでございます。やはり実戦経験の有無は重要なようです。
「えっと、ゴブリンとか。それとチームで、ではありますが、ディアも倒したことがありますわよ」
とは言え、そう大した獲物を仕留めたわけでは御座いません。貴族学校の教育意図は、――万が一に備えて森を経験させる――というもので御座いましたので、実際に魔物に遭遇しても、護衛の騎士が倒してしまいます。稀に任されることもございましたが、単体のゴブリンや普通の動物など、十分な安全が確保できている場合に限ります。
「ほぉー、なかなかじゃないか。で、そのフォレストディアはどうやって倒したんだ?」
まさか、そんなわけがないではありませんか。フォレストディアなどに遭遇したら、実習は中止になり、討伐隊が組まれてしまいます。王都西の森にそんな大物はいません。
「あっ、いえ、フォレストディアではなく、ただのディアです……」
「ん~、あー、魔物じゃなくて、動物の鹿のことか? 逆に凄いじゃないか、アイツらはすぐに逃げるだろ? フォレストディアは向かってくるので、逆に簡単だぞ」
「……」
鹿って……。
フォレストディアと言えば、年に一回か二回程、北の森から我がサグランティーノ領へ侵入してくる厄介な魔物です。サグランティーノ領は北の森に近いこともあって、農作物が荒らされたり、かなり被害を受けているのですが、その度に冒険者による20名程の討伐隊が編成されます。草食なのに牙があり、かなり狂暴とのことで、わたくしも子供の頃に一度だけ見たことがあります。もちろん死体ですが、体長は4ブキン(1ブキン=1歩巾=70cm)以上もありました。
「で、どうやって倒したんだ?」
「えっと、土魔法が得意な人が落とし穴を作って、その罠にかかったディア、いえ、鹿がいる穴の中に、みんなで魔法を滅多打ちにしたと言いますか……」
あの時は、まさか罠にかかるとは誰も思っておらず、全員で半ばパニック気味に魔法を打ち込みました。騎士に羽交い絞めにされて、ようやく止まりましたが、皆、目が血走っておりましたわ。後で、ただのディアだと判った時は、恥ずかしいやら、申し訳ないやら、笑うしかありませんでした。
「それ、売り物になんねーだろ?」
「はい。ツノは砕けて粉々でしたし、皮は完全に焼け焦げてしまっていました。肉も食べられる箇所は残っていませんでしたわ」
それは悍ましい光景でした。騎士の方たちは、わたくしたちの臆病さに、腹を抱えて笑っておりましたが、同じ班だったちょっと高飛車な令嬢が笑われたことに激昂していたことを思い出します。
「王都って残酷だな。一体、何の為に仕留めたんだか……」
「なんだか、申し訳ありませんわ」
「まあ俺に謝られても仕方ないんだけど。で、アンタは魔法使いなんだな。どんな魔法が使えるんだ?」
「一応、初級程度なら魔術全般使えますが、魔物相手に攻撃をするとなると、属性は火だけです」
実は、あの罠に掛かったディアですが、ダメージの殆どが火の魔法によるものでした。丸焦げになっておりました。フランチェスカ王国内にいる人の六割方は火属性なのです。それなのに、この時は班に火属性が偶々わたくしだけでした。
だから、わたくしだけが、ただのディアに向かって本気で魔法を放っていたというような格好になってしまいました。本当はそんなことないのですよ。皆さんも頻りに魔法を撃っていらっしゃいました。威力が足りなかっただけです。それなのに……騎士の方にも、もの凄く気持ち悪い作り笑いで――森の中で火魔法は御法度ですよ――と諭すように、優しく、柔らかく、わたくしだけが注意を受けてしまいました。これで単独犯が確定です。
そう考えると、わたくしは冤罪にかけられる宿命でも背負っているのでしょうか。まあ、これは冤罪ではないのですけれど……。思い出すだけで、身悶えしてしまいそうですわ。今でも悔しいです。
「森では使えないな」
「ですよね……」
「なら、武器だな。何か使えるか?」
「そうですね。学校では槍を専攻していましたので、多少は使えます」
王都の貴族学校では、大抵、男子は剣、女子は槍を選択します。槍に関しては、もしかしたら火の魔法より得意かもしれません。サグランティーノ家は、今こそ財務系文官の家ですが、何代か前の当主に、槍の名手がいたという話です。今は亡きお爺様の膝の上でよく聞かされました。
「森で槍は使いにくいんだよ。出来れば短剣とか弓が使えれば良いんだけどな」
「ツカエナイ オンナデ スイマセンデスワ」
わたくしは俯いてしまいました。得意属性の火魔法もダメ。足掛け三年鍛えて来た槍も使えない。フォーリオ様も困ったような顔をされていることでしょう。もしかしてわたくしは森に向かない嫁なのでしょうか。わたくしの脳裏に――離縁――という言葉がよぎります。
「まあ、気にするな。一応、これを渡しておこう」
……と思っておりましたが、フォーリオ様は平然とした顔をされておられました。と言うより、わたくしの戦闘力など、どうでも良いっと言った雰囲気です。ここまで詳しく訊いておいて、何だかバカにされたような気分です。
フォーリオ様は、わたくしに背を向けると、さもリュックサックから出しているような振りをして、『魔法の袋』を探っておられます。
「そこは、徹底しますのね?」
もう追及するつもりはございませんでしたが、ついムッとして言ってしまいました。
「なんのことだ?」
「いえ、別に……」
そして、『魔法の袋』から取り出された大き目のナイフ。ダガーですね。それと、そのダガーを収める剣帯を手渡されました。
「それから、これだ」
フォーリオ様は、玩具らしきものを誇らしげに掲げられました。
全体が半ブキン(1ブキン=1歩巾=70cm)の大きさで、途中で二股に判れております。その両先端が紐状のモノで繋がれており、始めて見る形状のものでした。
「それは何ですの?」
「まあ見てろ!」
フォーリオ様は、得意げに小石を拾うと、紐状のモノに小石を挟んで、川へ向かって、小石を飛ばしました。なかなか楽しげな玩具のようです。もしかすると王都の子供たちの間で、流行るかもしれません。
「まあ~、よく飛びましたわね~」
わたくしは、手を叩いて褒めて差し上げましたが、フォーリオ様はムスッとされました。そして、今度は、近くにあった木に狙いを定め、先程と同じように小石を放ちました。
すると、わたくしの手首ほどもありそうな枝が、バキッという音を立てて落ちて来たのです。
わたくしが驚いていますと、フォーリオ様は満足されたのか、わたくしにソレを手渡して、そのまま洞窟の中へと入って行かれました。
確かに、これは凄いです。見た目はカマキリが威嚇しているような形ですが、そこらの小石が武器になるのですから、ほぼ弾切れすることはありません。さらに持ってみて判ったのですが、この両端の紐はビヨ~ンと伸びるのです。このビヨ~ンがあの威力を生んでいるのでしょう。
わたくしは、この武器に慣れる為、しばらく練習をすることに致しました。それにしても、コレは何という名なのでしょうか。フォーリオ様に今更訊ねたところで、嫌そうな顔をされるのは目に見えております。ですので、わたくしはコレに名前をつけて差し上げました。
「よろしくお願いしますね、『カマキリ様』」
評価、ブクマ、よろしくお願いします。




