38話 神の如き御料理でございます
余りに評価が低いので、2章を書くか、1章で終了して別の作品にするか、悩んでおります。1章はまだ続くのですが、2章以降の前振りを入れるところで筆が止まってしまうんです。すでに所々に入れちゃってるんですけどね。困りました。
女狩人になってからのわたくしは生まれ変わりました。靴を履き替えただけで、これほど劇的に楽になるとは思いませんでした。服の着心地も良く、さすが山歩きをする狩人がその機能を考えて作っただけのことはあります。
そして日もくれ始めた頃、ようやく本日の目的地である洞窟に到着致しました。
すぐに水浴びへ行くよう促されましたので、わたくしは川へ向かいます。丸一日歩き通しだった疲れた体に、冷たい水が心地よいです。今回も念入りにアソコの毛とワキの毛を洗いました。
川辺で体を拭いているところに、フォーリオ様が何かを手に持って現れます。
「キャッ」
思わず声が漏れてしまいました。もう何度も見られているはずですが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
本来なら恥じらうどころの話ではございません。実に由々しき事態になるはずだったのです。貴族平民に拘わらず、婚姻前の女性が裸体を見られることなどあってはならないことなのです。村娘の水浴びを悪戯で覗いた男の子が泣く泣く結婚させられたなんて話はよくあることです。結婚したくない相手に裸を見られて自刃したなどという物騒な話も聞きます。
――女性の裸を見たら、その責任を取る――
昨今の王都では多少なあなあになってしまっていることは否めません。無論、国法ではございませんが、古くからの慣行であり、教会によって定められた規律でございます。わたくしは遵守されるべきことだと思うのです。
一度は、貞操を投げ売って自身の命を救おうなどということをしてしまいましたが、わたくしの場合は、それが嫁ぎ先のお相手だったわけですから、……問題ありません。まあ、偶然たまたまだったわけですが、結果として問題なかったのです。
とにかくその辺の石でも見るように、平然と気軽に見て良いものではないのです。見てしまったなら、せめて頬を緩めるぐらいはして欲しいものです。なんでしたらイヤらしい目を……。そ、そうではなく、まずはきちんと教会でお式を上げてから、とわたくしは言いたいのでございます。
「何をしているんですか?」
狩人の服に着替え終えたわたくしは、フォーリオ様の手元を覗き込みました。
「コムエを洗っているんだ」
フォーリオ様はなにやら白いものを川の中で洗っておりました。コムエと聞こえましたが、言葉を噛んでしまったのでしょうか。
「その白いモノは小麦なのですか?」
「コムギじゃない。コムエという別の穀物だ。父はそう呼んでいたが、それが本当の名前かどうかは判らない」
コムエ? 王都では聞いたことがございません。とにかくフォーリオ様が洞窟の方へ戻るようですので、わたしも後に続きます。
フォーリオ様は、すでに夕餉の準備を始めているようでした。言って戴けましたら、わたくしも手伝いましたのに。役に立つ自信はございませんが……。
やぐらの上には大きな鍋と小さな鍋が置いてありました。大きい方の鍋からは、お肉を煮込んだような良い匂いがしております。小さい方の鍋は、先程のコムエでしょう。
「火が小さくなってきたら、薪を足しといてくれ」
「はい、かしこまりました」
な、なんと、わたくし、料理を任されてしまいました。こんな時、つい張り切ってしまい。余計なことをしてしまいがちですが、そういう失敗は幾度となく経験しております。兎に角ここは言われたことを言われた通りにする。これで失敗は回避できるはずです。
フォーリオ様が水浴びに行かれてから、わたくしは一心不乱に薪を足し続けました。ここで怠けてしまっては、せっかくの評価が下がってしまいます。
「おい、薪をくべすぎだ」
水浴びから戻ったフォーリオ様に、またまた怒鳴られてしまいました。焚火から薪を抜きながら、詠唱もなく巧みに風の魔法を操っておられます。風と一体化しているようにも見えます。どうやっているのでしょう。王都や貴族学校では見掛けたこともない技術でした。
フォーリオ様は大鍋をやぐらから降ろすと、味付けを始めました。嗅いだことのない臭いが周囲に立ち込めます。
「変わった臭いがしますね」
これは異臭と言って良いのではないでしょうか。良い匂いだったお料理が残念なことに台無しでございます。けれどせっかく作って下さっているのに、クサいなどとは申せません。
「慣れない臭いだろうが、食べると美味い。父の好物だったものだ」
どうやらこれは勇者リオ様の好物だそうです。つまりこれはリオ様の故郷である。遠い遠い国の料理ということなのでしょう。
フォーリオ様は手際良く淡々と料理を進めていきます。わたくし、メモ帳が欲しゅうございます。そう言えば、王都からの馬車の中で、ユレイブの街の法や問題点などを書いたメモ帳はどこへ行ってしまったのでしょうか。せっかく半月もかけて纏め上げたのに……。やはり盗賊は許せません。いつかきっと報いを受けさせてやろうと思います。
それにしてもフォーリオ様のリュックサックの中からはアレやコレや出てきます。まあ実際は『魔法の袋』の中からお出しになっているわけですが、然もリュックサックから出したように演じておられます。
「しかし、色々と出てきますね。一体、どこから出しているのやら……」
「リュックサックの中だ!」
すぐ怒鳴るのは良くないですよ。しかしわたくしも余計なことを言ってしまっているようです。フォーリオ様が『魔法の袋』のことを隠したいのなら、しばらくそれに付き合う方が良いかもしれません。でも、わたくし、これがちょっとだけ楽しいんですの。おほほほほ。
「出来たが、アンタは食べないのか?」
あら、意地悪返しですか。
「いえいえ、いただきますよ」
フォーリオ様は、お皿の半分に湯気立つコムエを乗せ、それに大鍋で作ったドロリとした茶色いモノをかけて、わたくしに手渡して下さいました。
正直に申し上げます。不味そうです。見栄えも良くありません。口へ運ぶ前にニオイを嗅ぎたい衝動に駆られますが、せっかく作って下さったフォーリオ様に失礼があってはなりません。わたくしは、勇気をふり絞って、スプーンで掬ったそれを口の中へ押し込みました。
そして、今、わたくしは驚愕しております。
「こ、これは! お、おいしいですわ。これまで食べたことがありません。何て言って良いか、甘みと辛みと、少々の苦味もあって、もう、わけがわかりませんわ。でも、すんごく美味しいです。不思議と美味しいです。幾らでも食べられそうです。スプーンが止まりませんわ」
「もういい、わかった。黙って食べろ!」
この感動をもっと伝えたいのですが、止められてしまいました。フィオナ様から手土産に頂戴したピュレン以来の衝撃です。いや、まったく期待していなかったと言うのもあるでしょうが、それを凌ぐセンセーショナルでございます。
けれど何にでも、終わりは来るものです。食べ終わって空になったお皿は、文字通り空しいです。
「まだあるぞ、食べるか?」
お、おかわりがあるのですか!
「はい、是非お願いします。これを食べられるだけで、あなた様の嫁になった甲斐があったというものですわ」
「……嫁になんてしてないぞ」
「えっ? そうなのですか?」
「そうだぞ」
フォーリオ様にはまだ結婚したという自覚はないようです。結婚承諾書にサインがありましたので、結婚そのものについては了知されていると思うのですが、わたくし、ロザンナ・サグランティーノが相手であることはご存じではないのでしょうか。
思い返せば、わたくしが自己紹介した時も、これといった反応はなかったように記憶しております。このことは追々確かめていかねばなりませんね。それよりも今は、この美味なるものを食せねばなりません。
「ところで、この美味なる神の如き御料理は何という名なのですか?」
「カレライセウ……と父は言っていた。が、父の発音はたまに聞き取りにくい時があってな、もしかしたら違うかもしれないが、俺にはそう聞こえた」
なんとなく、同じような話を以前にも聞いたことがありました。フィオナ様です。『ゴヘンカン??』たしか、そう仰っておりました。
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