36話 弱点をみつけましたわ
大して読まれもししていないものに時間をかけることにバカバカしさを覚える己と戦って書いてましたが、土日休んで、リフレッシュしました。これからは毎日に縛られることなく、もっと気楽にいこうと思いました。
フォーリオ様のもとへ戻ると、シートの上に何やら広げて、考え込んでおられるようでした。
「お待たせしましたわ」
わたくしは、フォーリオ様が座っていた倒木のすぐ隣に無理矢理腰掛けました。フォーリオ様は、一瞬何か言おうとしましたが、結局、何も仰いませんでした。わたくし、こうやって少しずつ距離を詰めていこうと考えております。
「で、これは何ですの?」
シートの上にあったのは、フォーリオ様がお召しになっている衣服装備と似た、ややサイズの小さめの物でした。
「今のアンタの恰好じゃ、歩きにくいだろ? お貴族様は気に入らないかもしれないが、生憎、狩人の服しか持ってなくてな」
「えっ? これを私に貸してくださるのですか?」
わたくしは、嬉しくなり、ついはしゃいだ声を上げてしまいました。つまり、これはお揃いということです。王都でも、平民のあいだで、恋人たちが同じ柄のシャツを着るのが流行ったことがありました。ただ、すこし不思議な点がございます。
「ところで、この装備はどこから出しましたの?」
「そりゃ、リュックサックの中からに決まっているだろう」
フォーリオ様はそう仰いましたが、わたくしはすぐに気がつきました。なるほど、フォーリオ様は『魔法の袋』をお持ちのようです。貴重なものですが、勇者様の御子息であり、辺境伯なのですから、これぐらいお持ちであっても、何の不思議も御座いません。近頃はあまり見掛けませんでしたが、侯爵であるお父様も一つお持ちになっております。
「あなた様、もしかして魔法の袋をお持ちなのかしら?」
しかしフォーリオ様は、首を傾げて、お惚けになられました。
確かに以前は、国内に両手の指ほどの数しか存在しなかったモノでございますが、最近は、エルフの国アールヴフェイムとの流通が盛んになり、荷馬車ほどの容量のものであれば、そこそこ大きな商いをする商人であれば、持っているようなモノなのですが……。もしかするとお父上である勇者リオ様から、隠すよう厳命されているのかもしれません。理由は判りませんが……。
「ふ~ん、まあ、いいですわ。それで、わたくしが、これを着てもよろしいのですね」
「あぁ、かまわない」
と仰られたフォーリオ様は、腕を組んで、わたくしを凝視したままです。まさか着替えるところをずっとご覧になるおつもりなのでしょうか……。
「あ、あの、出来れば、あっちを向いて頂けませんか?」
「わかった」
言われて漸く合点がいったのか、――ああー、そう言うことか――と言わんばかりに、わたくしに背をお向けになりました。
わたくしは、フォーリオ様の背中を見ながら、衣服装備の確認をします
まずは鹿革らしい上着ですね。触り心地は見た目よりも柔らかです。そしてパンツは羊でしょうか。よく判りませんが、伸縮性があって着心地が良さそうです。ブーツは牛革だと思います。多少無骨ではありますが、品は良さそうです。そして防具であるベストは、さすがに竜種ではないでしょうから、リザード系ですかね。それでもかなりの高級品ではないかと思います。
わたくしはスルスルと布を解いて全裸になりました。まずは、置いてあった肌着の上下を身に付けます。見るからに男性用ですが、ないよりマシです。素材はお借りしていた布と同じ綿布というもののようです。サイズがかなり大きいので、おそらくはフォーリオ様がご使用されているものなのでしょう。つい鼻を近づけてみましたが、きちんと洗濯された物のようで、まったくニオイはしませんでした。少し残念です。
そして鹿革の上着を着たところで、わたくしは靴下がないのに気がつきました。
「えっと、靴下はないのですか?」
「なんだ?」
フォーリオ様は、「マテ」をされていた子犬が、「ヨシ」を言われた時のように、嬉しそうに振り返りました。何だか可愛らしいです。侯爵家で飼っていた犬のマーカスを思い出してしまいました。しかし、わたくしは下半身丸出しでございます。思わず「キャッ」と小さく悲鳴をあげてしまいました。
「ごめん。で、なに?」
フォーリオ様は、慌ててお尻だけでクルリと回って、再び背を向けられました。
「靴下です」
「あぁー、俺ので良かったら、少し大きいとは思うけど、新しいやつがリュックサックの中に入ってるよ」
わたくしは、小さく「失礼します」と言いながら、リュックサックを拝見しました。すぐに買ったばかりであろう真新しい靴下を発見しましたが、リュックサックの中には、小さな布などの小物以外、何も入っておりませんでした。おそらくは『魔法の袋』の中に収納されたのでしょうが、わたくし、訊ねてみたくなってしまいましたの。
「あ、あの……」
「なに? 靴下、無かったか?」
「いえ……、ありましたけど……、テントはどこへ行ったのですか?」
「えっ?」
「だからテントです。それから焚火にかけていたやぐらとか、わたくしが脱いだドレスもリュックサックに入れていましたわよね?」
「えっ?」
「……ですよね?」
「えっ?」
クックク、かなり焦っていらっしゃるようです。将来の伴侶に隠し事などするから、こういうことになるのです。わたくし、ここへ来て、初めてフォーリオ様の優位に立った気がします。
「着替えは終わったか?」
あっ、誤魔化されましたわ。
「いやいや、今はそんな話では……」
もう少し、意地悪を続けてみましょうか。
「もう振り返っても良いか?」
「まだですわ」
「早くしろよ」
「あ、はい」
フォーリオ様は、如何にもと言う風に、額の汗を拭っておりました。どうやら上手く誤魔化せたつもりでいるようです。可愛らしいですこと。オホホホ。
相手の弱点を握るというのは、少しワクワクするものなのですね。やはりわたくしには――悪役令嬢――の素質があったようですわ。
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