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34話 勇者の目でございます

ジャンルを恋愛(異世界)からハイファンタジーに変更しました。書き進めているうちに、純粋に恋愛モノとは言い難くなってきたところがございまして……。もちろんわたしはラブストーリーを書いてるつもりなのですよ。



 「おはようございます」


 朝のご挨拶をしましたが、フォーリオ(仮)様は頷いただけでした。ダメですよ、挨拶はきちんとしなければ。挨拶は夫婦円満の最も大切な極意だそうです。フォーリオ(仮)様ではありませんが、お父様が言っておりました。


 「少し寒いかもしれないが、出発前にザブンってやってこい」


 フォーリオ(仮)様は、リュックサックからまた別の布を取り出して、わたくしの顔の前でヒラヒラと布を振ります。そして親指で川の方を指します。


 はいはい。ザブンって水浴びのことですね。いろいろ考えることがあり過ぎて、肝腎肝要な髪喰い虫のことを、つい忘れそうになってしまいます。かなり深刻なんですよね、わたくし。すこし危機感が足りませんね。王都育ちのお嬢様と言われても文句は言えません。


 わたくしは布を受け取ると川へと向かいました。


 朝と言うのもあるかも知れませんが、昨晩よりも水がすこし冷たくなったような気がします。それでもわたくしは、自分を守る為、きちんと頭と、アソコの毛と、それから……ワキの毛も洗わなければなりません。


 「よう、ちゃんとやってるか?」

 ワキへ手を伸ばそうとした瞬間、フォーリオ(仮)様が現れて、わたくしはヒヤリとしてしまいました。


 「きちんと洗ってますわよ。それとも私の裸を覗きにきたのかしら?」


 わたくしは、その動揺を隠す為、また同じクラスだったちょっと高飛車な令嬢に成りきって言ってみました。何度も使わせて頂いて申し訳ない限りです。別にその令嬢をバカにしているわけではないのですよ。尊敬もしておりませんが。


 女性の裸を見ておいて、少しは照れたような顔ぐらいすれば可愛らしいのですが、フォーリオ(仮)様は、鼻で笑って、そのまま上流の方へと歩いて行ってしまいました。


 そして川辺にある大きな石の上に立ったフォーリオ(仮)様は、いつの間に手にしたのか、水面に向かって弓を引き絞っていました。


 「あっ!」

 思わず、わたくしは声を漏らしてしまいました。


 その光景、その立ち姿を目にして、わたくしは雷に撃たれました。もちろん比喩ですよ。それは、子供の頃に読んだ絵本に出て来る勇者の絵姿、そのものだったからです。そして彼から次々に放たれた矢は、瞬く間に4匹の魚を仕留めていました。物語の中での勇者リオ様が射殺したのは吸血バットでしたが、――弓を手にした瞬間、魔物はすでに倒れていた――と言うところも、そっくりです。今回は魚でございますが。


 「魚と矢を回収してきてくれ」


 私が茫然としていると、彼はすぐに川を立ち去っていきました。


 が、わたくしは見てしまいました。昨晩まで深くかぶっていた帽子をあげたそのお顔を。そして朝の陽の光に照らされ、きらきら輝いている黒く大きな目を。


 わたくしは、流れてくる矢が刺さった魚を回収しつつも、うわの空でした。――黒目――、それは勇者リオ様の特徴の一つだったからです。この大陸にも黒に近い色の目を持った者はいます。しかし光りが当たれば、それは茶色であり、紺色なのです。……というか平民の殆どがそれです。しかし漆黒。赤みも青みも混じらない真っ黒となれば、それは勇者リオ様だけなのです。


 ちなみにですが、わたくしの目は空色です。


 やはり、男は、彼は、フォーリオ(仮)様は 、フォーリオ様で間違えありません。勇者様であるお父上から唯一であるその色を受け継いだ御子息なのです。そしてわたくしの婚約者でございます。


 しかし、それにしても、何と言いましょうか。奇跡としか申し上げようがございません。これぞ正に、どこぞで聞いた――真実の愛で結ばれた――というものではないでしょうか。まるで物語のようです。


 焚火の傍に戻ったわたくしは、恥ずかしくて フォーリオ様と目を合わすことが出来ません。


 「魚は?」

 「あっ、こちらになりますわ」

 フォーリオ様に怪訝な顔をされて、つい俯いてしまいました。


 フォーリオ様は、手際よく魚を捌いていきます。わたくし、料理はあまり得意な方ではありません。と言いいますか、やったことがないのですけれど……、メイドも料理人もいない山小屋で、二人っきりで暮らしていくなら、これから少しずつでも学んでいかなければなりませんね。


 「上手いもんですわね」

 それにしても、フォーリオ様はまるで料理人のようです。わたくしにも出来るのでしょうか。少々不安です。


 「長年、やってるからな」


 焼きあがった魚を2本手渡されました。いつまでも貴族然としているわけには参りません。フォーリオ様を真似て、わたくしも齧りついてみました。アツアツでとても美味しゅうございました。






評価、ブックマーク、よろしくお願いします。



短編『特別な存在』良かった読んで下さい。

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