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28話 聞いたこともない虫でございます

高評価してくださった方、ありがとうございます。

消えてしまいそうなヤル気が蘇りました♪



 どうやらお助け頂けるようで、わたくしはホッとして焚火の方へ近づきました。無論、街に到着したら、しっかり対価をお支払いするつもりです。貴族に二言があってはなりません。


 焚火のすぐ近くに、お誂え向きの倒木がありましたので、わたくしはそれを椅子代わりにすることに致しました。そして、わたくしが腰掛けようとした時でした。


 急に男が動いたのです。


 わたくしは咄嗟に防御態勢を取りました。


 が、男は襲って来るのではなく、逆に遠ざかって、怯えたような目でわたくしを見ていました。


 何か男を怖がらせるようなことを、わたくしはしてしまったのでしょうか……。

 それとも今になって、貴族であるわたくしとの身分差に畏れ多くなったとか……。


 いえ、どうやら、そう言うわけではないようです。


 男は、訝しげにこちらを睨みつけたまま、捲り上がった帽子のツバを倒して深くかぶり直し、さらには首元にあった赤いスカーフで口元まで覆ってしまいました。とても異様な光景です。


 「い、いかがなさいましたか?」


 一体、何が起こったというのでしょう。


 「アンタが、今、虫除けのオイルの上を通った時、頭から何かが落ちた」


 「えっ!?」

 わたくし、思わず声を漏らしてしまいました。それには多少思い当たる節もございます。


 「恥ずかしながら、ここ数日、禄に湯浴みも出来ない有り様でございました。おそらく埃が落ちたのではないかと……」


 埃とは申しましたが、おそらくはフケです。制服の大敵。油断すると肩に降り積もるアレです。貴族学校の制服が紺色でございましたので、わたくしはかなり気を使っておりました。


 「違うな……、たぶん。ちょっと調べさせて貰えるか?」


 「な、なにをですか?」


 「アンタが虫に寄生されていないか、どうかをだよ」


 ムシニキセイ……?? 虫! 寄生! なんと恐ろしいことをおっしゃるのでしょう。


 男は何やら――調べる――為の準備を念入りに始めました。わたくしは何を調べられてしまうのでしょうか。もしかすると、いかがわしいことをされてしまうのかもしれません。しかし、それはダメです。断固拒否しなければなりません。わたくしは嫁入り前であり、もう心に誓った婚約者がいるのですから。


 「わたくしは大丈夫です。寄生などされておりませんわ」


 「動くな!」


 男に怒鳴られ、わたくしは体をビクリと硬直させてしまいました。


 男は何やら金属のような物を目に挟んで、わたくしに手を伸ばして来ました。恐怖からつい目を瞑ってしまいましたが、男の手が震えているのが判りました。


 「間違えない、髪喰い虫だ。寄生されてる」


 目を開けると、男はわたくしから離れていました。顔を引き攣らせて、可哀想なものを見るような目を向けています。


 「な、なんですの? それは?」


 ――カミクイ虫――? 聞いたこともない虫の名前でした。


 「アンタ、この三日間、どこで寝ていたんだ? 水浴びはしたか?」


 しかし、それと『虫』にどんな関係があるのでしょう。それ程わたくしは汚いのでしょうか。不潔だから、虫に集(たか)られているとでも仰りたいのでしょうか。


 「そ、それは仕方なく地面で寝るしかないではありませんか。水浴びは……、ドレスを一度脱いでしまうと、自分一人では着ることが出来ませんので、……しておりません」


 そもそも盗賊がいるかもしれない川へ近づけなかったわたくしにとって、貴重な朝露を、体を洗うことに使ったりはしませんが……。臭っているとしたら、女としては少々恥ずかしゅうございます。


 「そうか。だったら、すぐそこに川があるから、今すぐスッポンポンになって飛び込め。それから頭まで浸かって、しばらくは潜っていろ」


 スッポンポン。裸になれってことでしょうか。――なぜ?――。わたくしは理解不能です。単純に考えれば、――わたくしに体を清めさせてから手籠めにしようとしている――。


 ですが、目の前にいる男が、そんなことを考えているようには見えませんでした。


 「どうして裸になる必要があるのですか? それに、その髪ナントカって、一体なんですの?」


 「髪喰い虫だ。アンタの髪に寄生している。それに虫除けのオイルを撒きもせず、テントも使わずに地べたに寝っ転がってたんだろ? だったら髪の毛だけじゃなくて、体の他の場所の毛にも寄生している可能性がある」


 男は即座に答えました。何やら深刻な顔をしています。それにしても――カミクイ虫――とは一体なんでしょう。それに……「体の毛……」


 「ワキ毛やアソコの毛なんかのことだ」


 今のは思わず漏らしてしまった独り言です。答える必要はございません。

 

 「ワ、ワキ毛などありませんわ!」


 わたくしは男を睨みつけて、つい言ってしまいました。嘘を吐いたわけではございませんよ。盗賊に襲撃される前の街で、湯浴みの時にメイドに剃ってもらっていましたので、その時は無かったのです。ですが今は……ジョリジョリさんがいるのではないかと……、確認してはおりませんが。


 「そうか、貴族の女にはワキ毛はないのか。知らなかった。でもアソコの毛はあるんだろ? だったら、早く川に飛び込め」


 男に変な誤解を与えてしまったようです。貴族の女にもワキ毛はあります。ただ皆さん、きちんと処理しておられます。少しだけ罪悪感を覚えますが、今更、「やはりワキ毛がある」などとは申せません。


 それにしても、この狩人は一筋縄ではいかないようです。ここは一つ、侯爵令嬢の威厳を見せつける時かもしれません。







評価、ブックマーク、よろしくお願いします。



短編『特別な存在』良かった読んで下さい。

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