13話 ルート選択
評価して下さった方、ありがとうごさいます。嬉しくて、ついニマニマしてしまいました。
それから気が付いたらもう朝だった。眠っていても、敵意を感じれば、すぐに起きるように訓練していた。だから昨晩は何もなかったということなのだろう。
隣のテントは使った形跡はあったが、女はもう洞窟の外にいた。
女は川辺に立ち、昨日渡した剣帯を腰に巻いて、ダガーの抜き差しを繰り返している。どうやらダガーを収める使い勝手の良い位置を確認しているようだった。
「おはようございます」
俺は頷いてそれに答える。すぐに燻る焚火に薪を入れ、風の魔法で火を大きくしていくと、昨晩、火から降ろしておいた大鍋をやぐらへ戻した。
「朝飯は、昨日の残り物だ」
「望むところです。カレライセウなら毎日でも大丈夫ですわ」
女は寄って来て、大鍋の中を、涎を垂らさんばかりに覗き込む。
ただ今回は、コムエではなくパンだ。非常用に街でたくさん買って、『魔法の袋』に放り込んでおいたものだった。どれだけ昔であっても『魔法の袋』に入れておきさえすれば、腐ったり、カビがついたりすることはなく、買った時そのままなのだから、本当に便利なものだといつも感心する。
『魔法の袋』からサッと出して、パンを女に手渡したが、何も言ってこなかった。『魔法の袋』の追及は諦めたようで、俺も朝から心穏やかである。
「パンも良いですわね。でもやはりカレライセウはコムエの方が合いますわ。カレライセウの辛みと少し甘みのあるコムエが口の中でホロホロ溶けるように絡み合って、それが喉を通る時には、絶頂に到達した登山家が初めて見た赤い夕陽に心震わせて、気づけば涙が頬を伝っていた時のような……」
「うるさい!」
昨晩もそうだったが、女は聞いてもいないのに感想を口にする。「美味い」か「不味い」で良い気がするが、貴族というのは、食べた物を言葉として表現するよう教育されているのかもしれない。
そして、その女が好きなコムエであるが、実は昨晩のものが残っていた。温かいうちに、鍋ごと『魔法の袋』に入れたので、まだ湯気が立っている。
俺は川で丁寧に手を洗ってから、そのコムエを掌で 三角形にすると、やぐらの上に置いた網に乗せた。そして父特製の豆のソースである エスウユーを掛けると、辺りに エスウユーの独特の香ばしい匂いが漂う。
「な、な、なんですの! この香りは?」
女は、涎を垂らさんばかりの呆けた顔で、鼻をスンスンしていた。
「焼きオヌギリだ。これは昼食用だな」
女は少し消沈しているようだったが、俺は、無視して、少し焦げ目のついた焼きオヌギリを一つ一つを葉で包み、『魔法の袋』へ放り込んでいった。
「準備は出来たか?」
朝の水浴びを済ませた貴族の女は、狩人の服を着て剣帯を締め、腰にダガーをぶらさげていた。左手に小型投石器を持ち、ベストの右側のポケットが膨らんでいるのは、適当な石を幾つか貯め込んでいるのだろう。
「出発する。まず、このまま進めば、ゴブリンのテリトリーに入る。油断するなよ」
「はい。ゴブリンくらいなら、わたくしにお任せくださいませ」
ここで、――ゴブリンは倒す必要がない――と言ったら、女の気が抜けそうだったので、俺は敢えて何も言わなかった。
とにかくここから先は、俺もあまり慣れた道とは言えない。
普段の旅路では、今いる洞窟も、またゴブリンのテリトリーも通ることはなかった。まだ父がいた頃はクスノキから山小屋までの最短ルートを通っていた。つまりオークのテリトリーのど真ん中を突っ切るルートだ。おおよそ三日で山小屋へ到着可能なルートだった。しかしそれだとオークとの戦闘は避けられず、女の安全は保障できない。
ならば西へ迂回して三日半の魔獣エリア(狩場)を通るルート。今回、俺が、狩りをしながら山小屋から降りて来たルートだったが、オークのテリトリーなどより、さらに危険で狂暴な魔獣がうじゃうじゃいるところである。また場合によっては、水場を離れなければならない事態にもなり兼ねず、確実に毎日水浴びをさせることは難しいだろう。
なので、今回は、日数は掛かってしまっても、東へ迂回してゴブリンのテリトリーを通り、オークテリトリーの端を掠めるように進むルートしかなかったのだ。またこの付近からは、川がオークテリトリーとゴブリンテリトリーの境界になっていた為、そのまま川沿いを通るとオークに見つかる可能性があった。
「ここで一旦、川から離れる」
評価をよろしくお願いします。
短編をアップしました。良かった読んで下さい。
『特別な存在」 https://ncode.syosetu.com/n1688hw/




