10話 風の一族の挨拶
このサイトの使い方が少しずつ判って来た。頭痛がする……。
「もう大丈夫です」
女に言われて、俺は振り返る。
「ど、どうでしょうか?」
狩人の格好をした女は後ろに手を組んで、上目づかいで、少し恥ずかしそうに俺を見る。
「まあ、俺が子供の頃着ていた装備だから、アンタには丁度良いんじゃねーか?」
いかん、やばい、女狩人、可愛すぎる。
「なっ! わ、わたくしは子供ではありませんわ。ところであなた様はお幾つなんですか? そう言えば、お名前もまだ伺っておりませんが」
女は少し不貞腐れたように言う。確かに自己紹介もしていなかったことに、俺は今更気がついた。ただ、さも礼儀知らずであるような言い方をされるのは少し口惜しい。女が髪喰い虫などに寄生されていなければ、おそらく焚火で逢った時に、俺はきちんと挨拶していたはずであったからだ。
俺は直立して、姿勢を正し、軽く脱力する。右手で帽子を取り、左の胸に置きながら、胸を張って少し顎を引く。相手からは決して視線を外さず、ほんの少しだけ首を右に傾けると、口の左端を上げて「フッ、フッ、フッ」と笑いながら、言うのである。
「ユレイブの狩人、フォーリオだ。18歳になる。父は狩人のリオトゥーロー、母は風の一族のエリス・ブリーズ・アールヴフェイムだ」
これが幼い頃に母から習った風の一族の挨拶であった。また自己紹介をする時は、父と母の名を言うのも礼儀であると、母から教わっていた。
「あ、あなたは……」
どうやら、俺がきちんとした挨拶をしたことに、女は驚いているようだった。
「勘違いするなよ。俺が立派な挨拶をしたからって貴族じゃないからな。実はな、この風の一族の正式な挨拶を他人にしたのは生まれて初めてなんだ。――狩人の仲間たちや街の人には絶対にしてはいけないよ――と父から言われていたからな」
俺は挨拶が実践できて誇らしい。ただ、この挨拶を母から習っている時、 なぜか判らないが、父は頭を抱えていた。
「い、いえ、そうではなくて、その耳……。しかも アールヴフェイムって……」
「あぁ、耳のことか? これは母さんに似たんだな。母さんほど長くないが、すこし尖ってる。髪と目は父に似て真っ黒だけどな。それからアールヴフェイムは母さんの姓で、俺は狩人だから、ただのフォーリオだ」
女の前で初めて帽子を脱いだので、露わになった俺の尖った耳が気になったようだった。
「それより、どうだった? 俺の挨拶はなかなか立派なものだっただろ?」
さあ、ここは思う存分、褒めるが良い。俺はすこし楽しみであった。
父は、俺が何をしても過剰な程に褒めてくれた。薪を割ると親孝行だと褒められ、字を読めるようになると天才だと言われた。弓を持っては、ヒョロヒョロと飛んだ矢が木の幹に刺さっただけで、弓聖だと騒いでいたりもしたものだ。
だが、父が死んでからは、一年の大半を山小屋で一人で暮らし、街に帰っても家族はいない。いつも一人であり、俺は、褒められることにすこし飢えていたのかもしれない。
「いえ、立派と言うより、バカにされているような気がしましたけど」
しかし女から帰って来た答えは、あにはからんや、称賛の言葉ではなかった。逆に顔をこわばらせている。
「な、なんだと! 母から教わった風の一族の友好を示す正式な挨拶だぞ 」
「まあ友好を示して下さっているのなら、それで良いのですが……」
なぜか女は遠い目をしていた。
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短編をアップしました。良かった読んで下さい。
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