第1372話 シャボン船
ひび割れた大地の真ん中に建造された、プラネタリウムみたいなまん丸い施設。
大きさとしては、三階建てのお家ぐらいだ。
その内壁にはまんべんなく、ぬるぬるとした虹色の液が塗られて、めいっぱいに充満するのは石鹸みたいないい香り。
外から見れば、ぐるりと縦に切れ目が走り、逆向きにしたくす玉みたいに、上部がパカリと割れるようになっている。それと同時に、土台の底から空気が噴出する仕組み。
これは、シャボン船の発射台。
超巨大なシャボン玉の製造機。
誰もが子供の頃に、一度は想像するだろう。
ふわふわ浮かぶ虹色の玉に入って空を飛べたらば、どんなに楽しいだろうかと。
そんな夢を叶えるかのような施設がこれなのだ。
特別な配合のシャボン液は、非常に強靭な膜を張って、たとえ針で刺されても、鳥につつかれても、雷で打たれても、隕石がぶつかったって全然平気だ。
なかにいる人間が膜に足をついて歩くことだって、できてしまう。
それだけ強靭ということは、密度があり、質量が高いということ。空に浮かべるのは大変かと思われるが、シャボン液だけでなく、それが包む空気も特別性なので大丈夫。さらには、シャボン船は二重のシャボン玉で構成されていて、内側と外側のあいだに、また別のガスが注入されるから、そこで得られる浮力もあって、飛ぶことが可能なのだ。
いよいよ発射時刻が近づくと、たったひとりの乗組員が、見送りの家族と別れ、颯爽と施設に入っていった。
船には食料だったり、長期に渡る生活に必要なあらゆるものが積まれている。
その入念さは、これからはじまる旅の壮大さを物語っているようだった。
物々しい音を響かせて、施設が開くと、シャボン船が静かに浮かび上がる。
まるでカプセルトイみたいな、人と家具とその他もろもろを乗せたシャボンは、天高くを目指していく。
そうして、大気圏の熱すら受けつけず、元気いっぱい宇宙へ向かって飛び出していった。
星々がきらめく真っ暗な空間。
無重力になった船内では、万華鏡みたいにいろんなものがくるくる楽し気に回りはじめた
さえぎるものがない強烈な太陽光も、シャボン船ならへっちゃらだ。
燃料いらずのシャボン船はどこまでだって、いけるだろうし、どこまでだって、いかねばならない。
目的地は果て。宇宙の深淵。
夢を乗せて、果てるまで、宇宙を旅し続けるのだ。




