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第1348話 桜前線最前線
春が来る。
この季節がやってくると、おれは長い有休をとって、日本列島横断の準備。
自転車に乗って南から北へ、桜の開花を追ってどこまでも、美しく染まる世界に浸るのだ。
長年こんなことを続けていると、勘が異様に鋭くなって、おれはもはや気象庁が発表するよりも早く、かつ正確に、桜前線に寄り添って旅ができるようになった。
もはや前線どころか最前線だ。おれがいる地点こそが桜前線の最前線。
春めく山の麓の道。いつものルート。そのずっと先で、小さな影が手を振った。
「おーい」
子供に呼ばれて、自転車をとめる。
いったいなにかと尋ねると、一枚の画用紙が差し出された。
「ありがとう!」
礼を言われるような覚えはない。知らない子供だ。
画用紙には、クレヨンで絵が描かれていた。
満開の桜を引き連れて走るおれの姿。
「今年も春を運んでください」
見上げた枝の桜の蕾が張りつめて、ふわりとほころび花開かせた。




