お守り作り
目を覚ますと、何故か横には見目麗しい騎士が座っていた。
夢かと思い、ルルリーは何度が瞬きを繰り返す。目もこすってみる。
しかし、確かにレイモンドはそこにいた。
「目が覚めたか」
イケメンは声までかっこいいな、とぼんやり思いながら、少しずつ思考がクリアになっていく。
(そうだ、力の使い過ぎで倒れて……)
周りを見渡すと、そこは慣れ親しんだ自分の寝室であった。
まさか、レイモンドがここまで運んできてくれたのだろうか。
「すみません、迷惑をかけたようで」
真っすぐ自分のことを見つめてくる視線に耐え切れず、ルルリーは下を向いた。
「いや……大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫です。おそらく力の使い過ぎなので」
ルルリーも一応年頃の少女である。
男性の前でいつまでもベッドにいるわけにはいかないと、足を下ろして起き上がろうとした。
しかしまた眩暈が起こり、体が前に倒れそうになる。木の床が目前に迫るが、とっさにレイモンドが体を押さえてくれたため、激突する事態は避けられた。
「あ、あ、ありがとうございます」
思わずレイモンドに接近してしまい、慌てて体を離そうとするが動くたびに眩暈が襲ってくる。
目の前の景色がぐるぐると回転するため、ルルリーは強く目を瞑った。
「まだ寝ていろ」
レイモンドはそっとルルリーをベッドに寝かす。
ルルリーも流石に起き上がるのは諦めた。
「すみません。呪いの話をしたかったのですが……」
「そんなことはどうでもいい。早く寝ろ」
レイモンドは掛布団をルルリーの頭まで覆うようにかける。
「すみません」
「謝るな」
布団の隙間からそっとレイモンドを見上げる。
いつも背中を覆っていた黒いもやは今は見えない。
また次会うときには呪われているのだろうか。
なんとか呪いをはねのけるアイテムを考えなくては。
呪術のことを考え出すとそばにいるレイモンドの存在をすっかり忘れ、ルルリーはそのまま思考の波に揺られながら眠りについた。
東の窓から太陽の光が差し込み、ルルリーの寝顔を照らす。
明るさを感じたと同時に、ルルリーはゆっくりと瞳を開けた。
そして慌てて起き上がり、部屋の中を見渡す。
もちろん誰もいない。
ルルリーはほっと一息をついて立ち上がる。
眩暈はもう起きない。完全回復したようだ。
祝福の力をあそこまで使ったのは初めてだった。次からは倒れないように気を付けなければ。
ぐっと決意を表すかのように握りこぶしを作ったと同時に、お腹の虫の音が鳴った。
昨日は一日何も食べていなかったことを思い出し、ルルリーは階下にゆっくり降りていく。
呪術店の構造は一階が店舗スペースとなっており、二階に居室、と言ってもただ寝るだけの部屋が二つある。一回は店舗のカウンターの奥に作業スペース、さらにその奥に水回りや台所のスペースがこじんまりとあった。
台所に何かおなかを満たすものがないだろうかと思っていたそのとき。
店のカウンターの上に紙袋が置かれているのが視界に入った。
何だろうと覗き込むと、一枚のメモ用紙も一緒に置かれている。
『またすぐに来る。何かあれば騎士団の詰め所まで来るように。 レイモンド』
紙袋の中にはパンが二つにすぐに食べられるようなベリー系のフルーツが入っていた。
「……」
ルルリーは思わずぽかんと口を開けてパンを見つめてしまった。
(まさか、これ、レイさんが買ってきてくれたの?!)
そういえば、店で最初会った時もルルリーを少年だと思い込み心配していた。
クールな見た目に反して世話焼きな一面があるのだろうか。
ルルリーは空腹に耐え切れず、立ったまま一口パンを齧る。
平民がよく食べる素朴な茶色いパンの味だ。おそらく近くの店で買ってきてくれたのだろう。
ルルリーはあっという間にパン二個とベリーを食べてしまっていた。
「お礼、言わなくちゃ」
騎士団の詰め所まで行きたいところだが、呪術師のルルリーは出歩くだけで目立つ存在である。
呪術師と騎士団の小隊長が懇意にしている、など噂がたてばレイモンドに悪い。
ルルリーはひとまず、眠りにつく前に考えていた祝福の使い方を試してみることにした。
呪いをはねのけるアイテムを作るのである。
いそいそと作業場に向かおうとするが、作業台の上には昨日解呪し損ねた箱が鎮座していた。
「わ、すっかり忘れてた」
呪いの箱の残骸を注意深く見てみるが、もう呪の力は感じない。すべてレイモンドに向かったようだ。
ただの箱となってしまったため、再利用も可能だが。
なんだか不吉な気がして、ルルリーは処分することにした。ひとまず燃やすものを突っ込んでいる大きな箱に入れておく。
「さ、気を取り直して」
昨日眠りに落ちながら考え付いた。
いわゆる、お守りを作ってみればいいのだ。
装身具に祝福をかけることで、どれだけ呪を跳ね返せるのか、試してみる価値はあるだろう。
ひとまず店にある水晶を使ってアミュレットを作ってみることにする。
穴をあけて紐を通せば首飾りにもなる。
ルルリーは水晶に祝福の力をこめていく。
祝福の力をめいっぱいかけると、不思議と水晶自体も輝き出す。
祝福のかかった水晶があっというまに出来上がった。
やはり人間に直接かけるより、物にかけるほうが簡単にできる。
ルルリーは店にある宝石類に手あたり次第祝福をかけ、こつこつとアクセサリーに作り替えていった。