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第779話 その拳、弱き者を守る為に!


 ガンッ!!


 孤児院の敷地の端…、通りに面した場所に積まれていた木箱を男が蹴り飛ばした。そのせいて積まれていた木箱が崩れて落下する。木箱の大きさは一辺が50センチほど、丈夫さが重視されるそれは肉厚な板や柱となる部分は当然重く硬い。少なくともそんな物が小さな子供の上に落ちれば大怪我…いや、最悪の場合だってありえる。そのポンハムは地面に転んですぐには身動きが取れそうにない、とても身をかわせそうにない。


「ポンハ…」


「あぶねえっ!!」


 あまりの事に僕はポンハムの名前を呼ぶのがやっとだった、しかしその間に落下する木箱と地面に転んでいるポンハムとの間に飛び込む人影があった。


「ぐあっ!!」


「ガ、ガンさんッ!!」


 落下する木箱とポンハムの間に割り込むように飛び込んだのはガンさんだった。自らの体を四つん這いにしてポンハムを木箱から守る、頭部あたまか背中か…あるいはその両方か、激しくぶつかった木箱は二人から少し離れた地面に低く重い音を立てて落ちた。


「お、おじちゃー!!ガンのおじちゃー!」


 泣き出しそうなポンハムの悲鳴が上げている。悲痛な声、だけど不幸中の幸いかポンハム自身に怪我を負ったような様子はない。


「へっ…、無事かァ…?チビすけ…」


 ポンハムに覆い被さるようにして落下する木箱から守ったガンさんが優しい声で話しかける。


「お…おじちゃ…」


「いいかァ…チビすけ…。こ…、こーいう時にゃあよォ…おじちゃんじゃねえ…。おにいちゃんって呼べや…なあ…?へへっ…」


 少しばかり苦しそうだけどガンさんも大怪我をした様子はない。一方、こんな危険な事をしでかしたならず者の四人組は自分たちのした事になんの罪悪感も感じてはいないようだ。


「クソがよォ。そこのガキがぶつかってきたせいで俺の服が汚れちまったじゃねえかァ!詫び料に金貨くれえ出せやコラァ!」


「な、なにを!?お前が木箱を蹴飛ばしたからポンハムが危ない目に遭ったというのにその言い草はなんだ!」


 僕は思わず叫んでいた。


「ああん?なんだテメー!?」


 木箱を蹴飛ばした男が僕に視線を移すと睨みつけながら脅すように言った。するとその後ろから声がかかった。


「おう、ちょっと待てよゲブ。よく見りゃそいつ、身なりが良いぜ。わりとカネ持ってんじゃねえか?」


 ポンハムとぶつかったのはゲブという名前らしい。そしてその後ろに続いていたならず者たちのうちの一人が僕を見てそんな事を言い出した。すると残りの二人もそれに同調するように口を開いた。


「そうだな、そんな気がするぜ!俺はよ、カネのニオイにゃあ鼻が利くんだ」


「オイ、そこのテメー!テメーだよ、持ってるカネをさっさと出せや!そうじゃねえと…俺たち暴れちまうぞ?テメーもそこのガキどもも…、後ろのシケた孤児院もボコボコにしてやんぞ?」


 ならず者たちがニヤニヤと笑いながら脅しをかけてくる、それと同時に少しばかり半円状に広がりながらジリジリと近づいてくる。どうやらこういう風に人を脅したり、金品を奪う事に対してかなり手慣れているようだ。


 ひゅうんっ!!


 僕の視界の端に見慣れた人物が見え隠れする。ホムラにセラ…、よく見れば奴らの背後の地面からは土精霊のグラが現れ、奴らの足元の影からは鼻から上だけを出してカグヤがすでにならず者の一人の足首を掴もうとその手を伸ばしている。さらには風精霊のキリは腕組みしながらフンと鼻をならしつつ、そして氷精霊のクリスタも静かに奴らの背後でフワフワと浮遊しながら攻撃の機会を窺っているし光精霊のサクヤに関してはどれにしようかなとばかりに四人の男たちを順に指差しながら狙いをつけている。


「あんたたち、やめた方が良いと思うよ。大人しく番所で捕まりなよ。正直言ってあんたたちに勝ち目無いだろうし、泣きベソかくだけだよ」


「なんだとテメー!!」


 いきり立つならず者たち四人、対してこちらは精霊たちが取り囲むようにして七人。おまけに向こうはホムラたち精霊の存在が見えていないようだ、きっと自分たちが何をされたかも分からないままにやられるだけだろうにと思って声をかけたのに…。


「おうっ、コイツからやっちまおうぜ!」


 ならず者の一人が僕を指差し向かってこようとした時、僕の前に三つの人影が文字通り飛び込んできて向かってくるならず者たちに相対あいたいする。


みな、分かってるな!我らの掟をッ!!」


 ハンさんが声を上げながら前に進み出た。その声に応じてショーンさんもケイさんも前に出る。


「おう!もちろんだぜ!オレたち、カプエストツ山岳院の拳士の力は…」


「弱き者を守る為にあるってんだろ」


 進み出た三人の拳士、対してならず者たちの動きは後ろの三人が前に飛び出してきていた。その様子は今度は俺たちが暴れてやるとばかりに…。さっそくハンさんたちに殴りかかるが所詮はただの町のケンカレベル、対してカプエストツ山岳院の三人は鍛錬し修行を積んだ言わばプロの格闘者である。結果は火を見るよりも明らか…、五秒ともたずに無力化される。


「ヒッ…!!テ、テメーら、やる気かッ!!」


 残るひとり…、木箱を蹴り倒した男が動揺しながらもハンさんたちから距離を取る。後ろ手に背部…、おそらくズボンのベルトあたりに隠し持っていたであろうナイフを抜いて振り回しながら近づいてくるんじゃねえと威嚇する。


「こ、こうなったらよう、やってやる…やってやンぜ!誰が来ようとテメーらブチ殺して…」


「へっ、お前をやんのは俺らじゃねーよ」


 ケイさんがナイフを手に凄む男をいなすように軽く言った。そんなケイさんの様子に追い詰められていた男は拍子抜けしたような顔をしたがすぐに気を取り直したのかすぐに調子を取り戻して口を開いた。


「ああーん?テメーら、このナイフにビビって…」


「ハッ!!誰かビビるかよ、お前みてえな三下さんしたに。お前をやるのがオレらじゃねえってだけだ」


 男の言葉が終わる前にショーンさんが遮るように言った、そんなショーンさんに男は理解が及んでいないようで大声を上げて再び威嚇する。


「テ、テメーら以外に誰が俺とやりってンだ!このナイフにビビって逃げ出してえだけろうが!いるンなら言ってみろ!テメーら以外…、そこのヒョロっこい男か?それとも孤児院ココのガキどもか??誰が俺とやるってンだッ!言ってみろ、コラァ…うっ!!」


 ガシッ!!


 威嚇する男が急に叫ぶ事をやめた。


「あ、ああっ!あなたはっ!!」


 僕はこの時叫んでいた。それもそのはず、そこにはナイフをチラつかせている男の腕…、その手首のあたりを背後から掴むガンさんの姿があった。

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