第760話 炎の拳(1)赤い服の男
「すまない、もう大丈夫だ。感謝する」
万が一、怪我をした時の為に同行してくれていたミアに右手の治療を受けたハン・ドゥーケンさんが礼を言った。彼女は回復魔法の使い手である、ハン・ドゥーケンさんの骨折していた右手の小指や薬指がまっすぐになっている。
「それにしてもおれはまだまだだ。今回の手合わせで自分に足りないものがよく分かった、また修行のやり直しだ」
「そんな事ないですよ。最後の力を振り絞って放った風の弾、あれがもし両手で撃てていたらきっと結果は違っていたはずです。片手で打ち出して風の渦のふたつ分でした、単純に考えてもよっつ分にはなるんじゃないでしょうか。そしたら結果は真逆のものになったはずです」
「いや、それ以前に奥義の質が違っていた。同じような技なのにおれのよりはるかにスキが小さい。あれはいったいどこで会得したんだ?教えてくれ」
「え…、えーと…。そ、そうですね…せ、精霊との対話というか…」
そにぶー、さまそー、このふたつの必殺技は某有名格闘ゲームに登場するものだ。昨日、カグヤと古着屋さんで買い物をした後に自宅アパートで格闘ゲームの動画をずっと見ていた。それをここ異世界に戻ってきてキリに伝えたのだ。そしてキリと共に必殺技の練習をして本番に臨んだという訳だ。うん、間違いない!精霊との対話によって出来るようになった必殺技だ、嘘はついていない。
「なるほど…、精霊か。確かにそうだ、精霊は自然の現象そのものだ。その自然の力を借りて技とするなら精霊と相談するのが一番だろうな」
深く頷きながらハン・ドゥーケンさんは納得したようだ。僕たちがそんな会話をしていると横合いから声がかかった。
「ちょっといいかい?」
「えっ…?」
振り向くとそこには金髪の男性がいた、そしてその金色の長い髪を後ろでひとつにまとめているようだ。だけど眉毛は黒色だ、しかもかなり濃く太い眉毛…、髪は金色で眉毛は真っ黒…その対比がなんだか妙に違和感がある。髪とか眉毛って基本的に同じ色なのではないのかと…、そう思っていたらハン・ドゥーケンさんが声を上げた。
「ショーン!」
「おう、今着いたぜ」
どうやらこの人物の事をハン・ドゥーケンさんは知っているらしい。そして今着いたと言ったって事はここで落ち合う予定だったのだろうか。
さらによく見てみればハン・ドゥーケンさんと似たような服装をしている。ただ、ハン・ドゥーケンさんが白色のものを着用しているのに対しこちらは赤いものである。うーん…なんだろう、似たような格闘ゲームを知っているのは気のせいだろうか。白い道着と赤い道着のライバル関係にある主人公格の…。
「も、もしかしてあなたもカプエストツ山岳院の…?」
「ああ、そうだ。同じ師範の下で修行してる…、まあ兄弟弟子ってとこだな」
と、いう事はこの人もなんらかの属性の力をその身に宿して戦う人なんだろうな。僕がそう思っていると不意に声がかかる。
「ところでアンタ、オレと同じニオイがするな」
「え…?」
同じニオイ…?なんだろう、香水とかつけてないんだけどな。戸惑う僕をよそにショーンさんは続けた。
「そんなアンタに頼みがある。オレと…やらないか?」
「アーッ!!」
僕はまたもや声を上げていた。




