第761話 炎の拳(2)ホムラとコンビ、伸びる攻撃
「ここらへんで良いか」
ハン・ドゥーケンさんと共にカプエストツ山岳院で修行しているというショーンさんがあたりを見回しながらそう言った。
ここはヒョイさんが経営する社交場から歩く事数分、僕たちは町の東側にやってきていた。時刻は昼過ぎといったところ、いくら営業開始が夕方からといっても社交場や酒場にも準備というものが必要だ。物も人も激しく出入りする、だから今は社交場前を離れ戦いの場所を移したのだ。
ここには小規模だが町の東に沿うように流れる小さな川を利用して作った船着き場がある。山がちなナタダ子爵領においてこれは貴重な輸送手段だ。
船着き場周辺は昼過ぎには人通りが少なくなる。小腹が空いた人は軽く食べに行ったり、あるいは休憩というかお昼寝タイムらしい。そりゃそうだよね、全てが人力のこの世界じゃ荷物の上げ下ろしは重労働だ。しっかり働きしっかり休む、これをしないと体がもたない。だから今は人通りの少ないタイミング、普段はめまぐるしく人が行き交う通りを舞台に戦う事になった。
「じゃあ、よろしくねホムラ」
声をかける僕の顔の横のあたりをふわふわと浮いているのは火精霊のホムラ、なにやら腕をブンブン回しやる気満々といった感じだ。なぜ彼女が僕の横にいるかというとハン・ドゥーケンさんとの戦いが終わってすぐにこのショーンさんから対戦を挑まれた。
「やらないか」
それはあくまで組み手の事だという事だ、それ以上でもそれ以下でもなかった。そうして移動した船着き場の前、僕とショーンさんは向かい合っている。
「改めて名乗らせてもらうぜ。オレはショーン、ショーン・リューケン。オレの戦法は炎を操る」
ボッ!!
挨拶代わりとばかりにグッと拳を握り締めたショーンさん、その拳に炎が宿った。その光景に周囲がおお…と声を上げる。そしてもうひとつ、違う反応を見せた人がいる。ウォズマさんだった。
「む…、リューケン…?まさかリューケン伯爵家の…」
「知ってるんですか、ウォズマさん?」
「ああ…、西にある大きな伯爵家だよ。たしかそちらのハン・リューケン氏とは…」
「よく知ってるな、その通りだ。ハンの家とは縁戚関係にある。もっともオレは継承権を放棄しているがね」
肩をすくめながらショーンさんは言った。家名を名乗っていたから貴族か有力者か何かだとは思っていたけど…、まさか伯爵家とは…。たしか伯爵家といえば日本で言えば一国一城の主、現代で考えたらひとつの都道府県を預かり城を持っているような感じだろうか。
「まあ、そんな事よりアンタの事を教えてくれ」
「あ、はい。僕はゲンタといいます。商人をしています、それと…偶然ですかね。僕も炎を…、火精霊のホムラの力を今借りています」
「なにっ!?アンタ、風の使い手ってだけじゃなく火まで使えるのか!こりゃ面白え!さっそくやろうぜ!」
ショーンさんはさらにやる気になったようだ。そんな訳でおよそ5メートルくらい離れた位置につく。ペタッと音がしたかと思うとホムラが僕の頭頂部あたりに張り付いたようだ。ここはホムラとサクヤのお気に入りの場所のようでふたりともよく飛び乗ってくる。
「オレの好みは互いの拳が交わるような熱い攻防だッ!!」
ボッと音がしたかと思ったらその右拳が再び炎に包まれる。そして小さな前方へのステップインでぐっと間合いを詰めてこようとする。拳に炎を宿らせたところから見ておそらく接近戦巧者なのだろう。こちらは素人だし戦闘技術もない、だから僕としては絶対に近寄らせたくない。
「えいっ!!」
まだ3メートルは離れているが僕はまっすぐに拳を突き出した、当然ながら届くはずもない。それを見てショーンさんが反応する。
「その距離で拳打だと?間合いもなにもない…、なにぃっ!?」
ばちっ!!
僕の拳の先から鞭のように炎の筋が伸びショーンさんの頬を打った。どうやら意表をつけたようでショーンさんは瞬時に後ろに飛び間合いを取った。
「や、やった!出来たね、ホムラ!」
僕がそう言うと頭の上からピョンと顔の前に飛び出しニシシッと笑って見せるホムラ、そしてまたすぐに僕の頭の上に戻った。
「驚いたぜ…。まさか手が伸びてくる…いや、手の先から鞭みたいに炎が伸びてくるなんてな…。だが、きちんとガードを固めて突っ込めば…」
ダッ!!
ショーンさんは再びのステップイン、しかし先程のものとは違い顎のあたりをキッチリと守りながらの前進だ。僕は再び迎え撃つ、今度は両手でパンチを繰り出す。片方の腕だけのパンチではなく、両手一気にふたつの攻撃が伸びてきたらきっと意表をつけるはずだ。
「おおっと!」
パンパンッ!!
僕の両手から伸びたふたつの炎の拳、それをショーンさんは炎を宿らせた手のひらでさばくように払いのけた。そしてそのままラッシュにもちこむボクサーのように前傾の姿勢になる。
「ああっ!?」
「読んでたぜ!炎が宿るのが片手とは限らねえって!そしてっ、突っ込むなら今だってなあ!」
前傾姿勢のショーンさんがそのまま一直線に踏み込んでくる。そこに僕は…。
「えいっ!」
「ぐうっ!!」
下から僕は下から突き上げるような蹴りを放った、拳の時のように足先から炎が伸びる。それは槍のようにまっすぐに伸びショーンさんの腹のあたりにめり込んだ。たまらずといった感じでショーンさんの動きが止まった、追い討ちとばかりに僕は蹴り足を地面につき再びパンチを放った。しかしそれはショーンさんのガードがかろうじて間に合い防がれた。
「まさか足からも炎が伸びてくるとは…だがッ!」
ガードにより体勢を崩しながらもショーンさんの目が鋭く輝いた。
「どうやらアンタの手足から伸びる炎の力も無限ってワケじゃねえみたいだな。間合いは掴んだ、ギリギリ届かない所でスキを見出してやるぜ」
まずい、間合いを見切られているみたいだ。それにこちらは素人だ、ボロを出す前に一気に決めなきゃ!僕はまだ体勢を整えきれてないショーンさんに再びの追撃を放つ。一方踏み込んでパンチを…、しかしこれはショーンさんがわずかに後ろに下がった事でほんの数ミリの差で届かない。
「オレの言葉のな焦ったかい、それと知ってるか?攻撃ってのはかわされると一番スキだらけになるってのを…」
ショーンさんの崩れていた体勢はすでに整っていた、さらにその目が獲物を狙う鷹のように細められている。間違いない、反撃にくる気だ。僕の攻撃が届かない距離に身を置いて空振りさせる事を狙っていたんだ…。その証拠にショーンさんの体が一瞬低く沈んだ、何をする気か分からないが狙っているのは間違いない。
「だったらここで出す、ホムラと僕の奥義…」
僕は素早く息を吸い…、そして…。
「口から火ッ!!」
僕の口から炎の弾が吐き出された、高速でショーンさんに向かって飛んでいく。グッと体勢を低くしていたショーンさんの反応が遅れた。いける…これなら直撃だ…、僕がそう思った時にそれは起きた。
ショーンさんの拳を包んでいた炎がより激しく燃え上がる、そして低くした姿勢からグッと強く大地を蹴って飛び上がりながら拳を突き上げた。
「ショーン…・リューケンッ!!」
なんと炎が宿ったショーンさんの拳が僕の吐いた炎の弾を弾きながら突き抜けたのだった。
次回、ショーン戦決着。
『炎の三段活用』
お楽しみに。




