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第757話 風の男(1) 〜風の奥義〜


 カグヤと買い物をした翌日…、約束の正午を迎えた。ハン・リューケンさんと戦う約束の時間だ。場所は昨日と同じくヒョイオ・ヒョイさんが経営する社交場サロンの前の通りだ。


「待っていたよ、いざ!!」


 昨日と同じようにハンさんが僕を出迎えた。見れば心身共に充実した顔つきをしている。どうやら気合いの乗りや調子も好調を維持しているらしい、彼のこの対戦にかける前向きさが感じられる。


「行くわよっ、アタシが力を貸してあげるんだからね!」


 こちらはこの場にいる誰よりもやる気を見せている風精霊ゼピュロスのキリである。


「そうだね、頼むよキリ」


「ふふんっ!任せなさい」


 ふんすと鼻を鳴らすキリに微笑ましいものを感じながら僕も対戦の準備をする。着ているのはカグヤが見立てた服装、いつものエルフの服ではなく黒いモッズコートを着ている。僕はそれを脱いで同行してくれているミアに預けた。


「ゲンタ、いつもの格好と違う」


 こちらは社交場の前で見物する人々のひとり、兎獣人族パニガーレのダンサーであるミミさん。他の兎獣人族の子たちもいるし、人魚族マーメイドの歌姫メルジーナさんの姿もある。


 ちなみにモッズコートの下に着ていたのは迷彩柄のパンツにモスグリーンのタンクトップ、そして黒い軍靴ぐんかのブーツである。


「ゲンタ、怪我するんじゃないよ」


 こちらはマオンさん、心配そうにこちらを見ている。


「はい、気をつけます」


 そう言って僕はハンさんの前に立った、その距離5メートルほど。僕の隣り…、というか顔の横のあたりにキリがフワフワと浮いている。今日の対戦は彼女の頑張りにかかっている、なぜならその身に風の力を宿して戦うというカプエストツ山岳院の闘法で戦うからだ。


「では…」


「はい」


「いくぞ!」


 ハンさんが構えを取る、空手のような…だけとちょっと違うのはボクシングのように細かく足を動かしてリズムを取る。一方の僕はというと…。


「おおっ!?なんだ、あの構えはッ!?」


 見物人が沸く、それは歓声のようでもあり驚きのようなものでもあり困惑の声のようでもあった。その僕の構えというのが…、見物人のひとりが呟く。


「しゃ、しゃがんでいる…」


 そう、まさに言葉通り。僕はその場で腰を落としてしゃがみ、ハン・ドゥーケンさんをやや見上げるような感じで静かに待ち受ける。


「こ、これは…?いや、迷う事はない。おれはおれの全力を見せるのみ」


 周囲と同じくハンさんも戸惑いを見せた、しかしすぐに迷いを立ち切り一度前に両のてのひらを突き出しそれをゆっくりと引いていき腰のあたりでぴたりと止めた。


「おれたちが修行を積むカプエストツ山岳院では極限の環境下で心身を鍛える…。そしてひとつひとつの自然現象に感謝を示しそ身に宿すのを目標とする。そしてその力を開眼し新たな技を編み出した時、おのが名を付けて技とする…」


 戦いの素人である僕だけどなんとなく直感で分かった。いわゆる奥義が…、それが最初から来ると…。


「出し惜しみはしない、これがおれが編み出した風の力を借りて繰り出す技…はあああっ…」


 グゥンッ!!ハンさんが腰のあたりで溜めたてのひらに風の力が集まっていく…。


「キ、キリッ…?」


「わ、分かってるわよ」


 ひゅーん、ぴとっ。


 キリが僕のタンクトップの胸のあたりにくっついてきた。僕の体にキリの力が流れ込んでくる。


「こ、これでいつでもいけるわよ!」


「分かった」


 キリに返事をする、同時にハンさんが動いた。


「これがおれが編み出しこの名を冠した風の闘法奥義…」


 音がするほど足を強く前に踏み込み両の掌を前に突き出す、そこから圧縮された風の塊が飛び出してくる。


「ハン・ドゥーケン!!!」


 ぶわあっ!!


 音を立て迫る圧縮された風の弾、だけどこちらも受けて立つ。アメリカ空軍某少佐が編み出したというこの技で…、僕はやや後ろに体重をかけながらしゃがんで静かに待ち受ける状態から動いた。両の腕を前に交差するように振る。


「そにぶー!!」


 しゅるるっ!!


 僕の両腕から風が生まれていた。




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まさか、待ちガイル…!?
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