第63話:災難による無慈悲な結果
火柱が収まった後そこには黒い塊が微動だにせずにあった。
「えと、終わりじゃないよね?」
若干物足りなさを感じながら黒い塊に近づくと同時にパリパリといった何かが剥がれるような音が聞こえてくる。
「っ! シエル下がって、まだ終わってない!」
ポアラの叫びとシエルが後ろへ跳んだと同時にシエルの目の前を勢いよく何かが通り抜け横の塀を粉砕し大きな穴をあけた。塀を粉砕したのは黒い表面部分がパリパリと剥がれ落ちていく先程黒い塊となっていた元人間の腕である。
「あの魔法を喰らって無傷とか、もう怪物と言っていいかもね」
「耐火能力でもあるのか、それとも何かしらで防がれたのか・・。シエルも気をつけて」
「了解、それじゃこれならどうかしら」
いっきに間合いを詰めながら飛び上がり上半身に拳を振り下ろす。とたんに拳はズブズブと沈んだと思うとブヨンという音とともに後方へ弾かれた。
「なにこれ、気持ちわるっ!」
「見た目通りの肉の塊みたいね、打撃系の攻撃はほとんど効かないかも」
怪物はのそりと塀から腕を引き抜きこちらを振り向こうとしたためポアラは間髪入れずに次の魔法を発動させる。複数の炎で形作られた槍が飛んでいき半数は怪物の腕で叩き弾かれたが、半数は身体のいたるところに突き刺さった。叫べ声を上げている怪物にシエルは古代遺物を起動させ両手両足が光輝いたところで下半身に勢いよく蹴りつけ振動波を叩き込む。肉の塊で打撃攻撃をほぼ無効化するようでも体内で発生した波の衝撃は効果があったようで怪物は片膝を付いた。
「効果ありっ!」
「どうやらいけそうね」
怪物の攻撃を躱しながら上手く立ち回りシエルとポアラは次々と攻撃を叩き込み、怪物は痛みか怒りかは分からないがその都度叫びながら攻撃を仕掛けてくる。何かしら違和感を感じながらも攻撃を続け、シエルは古代遺物の効果が切れる直前に足の部分を鋭角にし怪物の伸びきった腕をジャンプ蹴りで切り飛ばした。その直後違和感の正体とも思えるものが現れる。叫び声を上げながらも切り飛ばされた腕の付け根から一瞬にして腕が生え、空中で身動きが取れないシエルを掴んだ。
「シエルっ!」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
力を込められた怪物の手がバキボキと嫌な音を響かせているところにポアラすぐさま詠唱した魔法を放つ。腕を破壊され手から離したシエルを怪物は蹴り飛ばした。
「シエル!!」
塀に叩きつけられたシエルに急いで駆け寄ると腕や足があらぬ方向に曲がり全身の骨がかなり砕かれほとんど虫の息である。
「このっ!!」
怒りに震えながら怪物を見ると、怪物は既に腕を再生させこちらに近づき攻撃態勢をとっていた。反射的に腕を前面に交差させ振り下ろしてきた怪物の拳を受け止めるが、あまりの衝撃に両腕の骨は砕かれポアラも塀に叩きつけられる。怪物はそのままポアラの右腕を握ると勢いよく引きちぎった。
「ぐぅああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
激痛が走るなか接近していた怪物に向かって残った魔力を全て使い強力な魔法を放って頭を吹き飛ばす。さすがに頭を吹き飛ばされれば終わりだろうとポアラは思ったが、その思いを嘲笑うかのように目の前の怪物は頭を再生させ何事も無かったかのように立っていた。
「やれやれ、あの人が言っていた通り既に服用されていましたか。まぁ、その時は始末してくれとの依頼ですから速やかに済ませましょう」
突然聞こえてきた声が誰かを確認する前に目の前にいた怪物の身体が一瞬にして十字に割れ地面に落ちた。その途端、割れた身体は先程まで攻撃をしても驚異的な再生力でダメージを蓄積させることができなかった時とは違って再生すること無く黒い煙を放ちながら徐々に崩れていく。
「い、いったいどうやって・・・・・・っ! あなた、あの時の」
ポアラは今にも意識がなくなりそうな痛みや出血を必死に耐えながら怪物の後方に居た人物を睨みつけた。そこに立っていたのは数週間前に入国の際に関所で相対した時と何一つ変わらない姿の青年である。
「おや、あなた達は以前お会いした人達ですね。これはお久しぶりです」
「ここで何をしているのかしら」
「後始末の依頼ですよ、これを処理してくれとの事でしたから」
「怪物を知っているということはあなたも戦闘用魔薬研究の関係者ね」
「戦闘用魔薬? あぁ、あれのことですか。どうやら勘違いをしているようですが、まぁ情報が洩れないように厳重に管理していましたしそれも当然かもしれません」
「勘違いですって?」
「えぇ。戦闘用魔薬、その薬の研究はとっくに終了しています」
「終了・・・・既に完成しているってこと?」
「いいえ、長期間の研究&実験を繰り返した結果彼等が求めるような戦闘用の薬を魔薬から作り出すのは不可能であると判断されたからです。まぁその過程で媚薬ができ、それをもの好きな貴族などに売って研究資金は潤ったようですが」
「それじゃあなた達は屋敷の地下で何を作っているのよ?」
「あなたは魔人をご存知でしょうか?」
「バカにしているの、そんなこと誰でも知っているわ。通常の人間を超越した力を持った人間を以前はそう呼んだりしていたようだけど、いろんな学者や研究者などが調べた結果魔人と呼ばれた存在は人間と何かのハーフだったってことでしょ」
「ですが、逆に言えば人間も何かを加え上手く作用すれば多大な力を持つことができるということです。そこで彼等は次に魔人を人造的に作り出そうと考えたようです。とはいえ、ここの研究者はとっかかりに悩んでいたようなのであの人の提案でまずは魔力からという事になったようですが」
「魔力からって、それこそ肉体を強化するより難しい事だわ」
「はい、周りも始めはそんな事を言っていましたがあの人はちゃんとその案を考えていました。被験者そのものが持っている魔力を強化するのではなく、魔力を付与してそのものが保有する魔力が増えれば総合的な魔力は同じであると。そして出された案が『魔水晶の体内移植』です」
「なんて事を、なんの訓練もしていない人間が過度な魔力に長時間晒されたら!?」
「えぇ、過度な魔力に適応できず身体に異常をきたし死んでいった人がほとんどです。まぁ、実験の結果で解ったこともありましたしなんの問題もありませんでしたが」
「なんの問題も無いですって? あなた達の勝手な都合で実験体にされて殺された人達に対してよくそんな事が言えるわね」
「人間の可能性の礎となったのですある意味誉でしょう。とはいえ、この国は何やらきな臭くなってきたので研究は中断しそれに関する事は後始末として私が破棄して回っているところです」
「だとするとベラベラあなたが喋って色々知った私は処分されるのかしら?」
「その必要はありません。いくら獣人が人間より頑丈で体力があってもあなた達のその傷はあきらかに致命傷で、私が手を下すまでもなく後1時間もしない内に死にますよ。私が話したのは死への旅時の良い餞にでもなるかと思ったからです、それでは失礼します」
青年は私達を一瞥した後は二度と振り返る事無くこの場を去っていった。誰もいなくなった通りに時折吹く風にもの悲しさを感じながら色々と昔のことが思い起こされる。
「・・・・・・ごめんね」
ポアラは一言呟いた後、暗い闇の底に意識が沈んでいくのを感じた。




