第62話:もう一つの災難
暗闇のなか歯を食いしばり苦しそうな表情をしながら走り続ける集団がいる。
「みんな、次を曲がった突き当りに下りる階段があるからそこまで急いで!」
集団のほとんどの者は弱って体力が落ちているにも関わらず全力疾走であるため、今すぐにでもその場に倒れこみ横になって休みたい衝動に駆られた。しかし、その行為は周りに迷惑をかけ尚且つ他の仲間のように自分の死に繋がるという事を皆理解していたので誰一人この状況に文句を言う者はおらず苦しくても走り続けているのである。
「いったいさっきのは何だったんでしょうねぇ、魔物でも飼ってたんでしょうか?」
「・・・・・・」
「ポアラ姉?」
「・・・・えっ? ごめん、何の話だっけ?」
「えっと、魔物でも飼っていたのかなって話ですけど」
「いいえ、信じられないかもしれないけどさっきのは魔物じゃないわ・・人間よ」
「あれがですか? ポアラ姉の言葉ですがちょっと信じられません、まだトロルと言われた方が納得できますよ」
「まぁそうよね、私だって自分の鼻を疑ったもの。でも、あれからは人間の匂いしかしなかったわ」
「う~ん、人間が変化したものでしたらパルフェが話してくれた薬の副作用もしくは失敗作ってことでしょうか?」
「もしくは成功例かもしれないわよ」
「うぇ、いくら強くなれてもあんな姿になるのはゴメンです」
「同感だわ」
「もう、さっきはいきなり大声なんか出してどうしたのよ? みんなもなんか慌てたように飛び出してきたし、何かあったの?」
「1人殺られたわ」
「えっ、うそっ!? 2人が付いていたんでしょ、なのに何で?」
「油断したわけじゃなかったんだけど」
「ポアラ姉のせいじゃないですよ! アレはいきなり現れて、しかも離れていた人が狙われたんですから」
「この際終わったことはしょうがないわ、それでアレってのはどうなったの?」
「1人殺った後その場に蹲ったから急いでみんなを逃したってわけ、後は今に至る・・・・どうやら逃してはくれないみたいね」
ポアラが何かに気付いたように逃げてきた方に目を向け皆がそれに釣られるようにそちらを向くと、体長3mはあろうかと思われる全身灰色で身体中一回りも二回りも膨れ上がった人間がこちらに向かってきている。
「アレが私達を襲ってきた奴よ、もしかしたらとは思ったけど当然のように追ってきたわね」
「な、何なのアレは!?」
「匂いで解ったことは人間の匂いしかしなかったから、一応人間かしら」
魔物と言ってもいいようなものが人間であるという事を聞かされさらに驚くシエルだが、パルフェの方はそれとはまた違った驚き方であった。
「あ、あれ、私知っています。でも、なんでここに・・・・」
「知ってるってアレが何なのか分かるってこと?」
「はい、戦闘用の魔薬の事はお話したと思いますが。以前それを飲まされてアレと同じような姿になった人を見たことがあります、だからたぶんアレも同じではないかと」
「アレが成功例ってこと?」
「い、いいえ、その時研究者の方達は失敗とか言っていましたし、薬が完成したという話も聞いたことがありませんからアレもたぶん失敗の方かと」
失敗例という話を聞きそれなら何故その薬を使った奴がいるのかという疑問が湧かないわけではなかったが、アレはそんな事は関係ないとばかりにただただこちらに向かって大きな足音をたてながら向かってきている。
「それで、どうする?」
「どうするもなにも、無理して戦う必要は無いのだから逃げの一択ね。あの巨体では隠し階段を下りてこれないでしょうし」
3人はすぐにその場を振り返り隠し階段に向かって走り出した。それを見たアレは奇声をあげながら追いかけてくる。アレのスピードは巨体とは思えない程軽快で速く、ぐんぐんと3人との差を縮めてきた。
「ちょ、ちょっとなんなのよあのスピードは!」
「このままじゃ地下に下りる前に追いつかれるわね」
予想外にも程がある事態に4人は驚きつつも走り続けるが、誰の目からもその差が縮まってきていることは明らかである。そんななか突然シエルとポアラが立ち止まり、慌ててパルティも足を止めた。
「はぁ~、仕方ないか。パルティ、パルフェのことお願い」
「まぁ妥当な案ね、パルティあとはよろしくね」
「えっ! えっ?」
シエルはいつの間背中から降ろしたパルフェをパルティに託すと、ポアラと一緒にアレに向かって駆け出す。
「シエル姉!! ポアラ姉!!」
「私達が足止めするからその間に地下からみんなを逃がしなさい!」
「だったら私も一緒に戦います!」
「バカっ! 3人で戦ったら誰がみんなを守るの。村で待っている子達の為にも彼らだけでも無事に送り届けないとダメよ」
色々な感情が胸の内に渦巻き今にも飛び出したい気持ちをぐっと悔しそうな顔をしたまま抑え、パルフェを背負いパルティは地下への階段に向かって駆け出した。
「行ったわ」
「そうね、次は私達が妹分を悲しませない為に無事に帰らないとね」
「それじゃ飛ばしていきましょうか!」
「えぇ! 『火炎陣』」
ポアラの力ある言葉が発せられると同時にアレの足元に魔法陣が出現し、そこから十数mもの火柱が立ち上がりアレを飲み込む。轟々と噴き上がる火柱はもう一つの戦いの合図となった。




