第41話:噂話
国王の演説から一週間経ち、その間俺の周りでは特別な事は何も起こらず細々と依頼をこなして過ごしている。そんなある日の昼下がり食事処で昼食を取っていたところにシエルが駆け込んできた。
「出た出た、ついに依頼が出た!」
「シエル、他にもお客さんいるんだからもう少し静かにして」
「おっと、ごめんシャオ」
「それで、何が出たんだ?」
「ふっふっふっ、知りたいテツヤ?」
「そりゃ、それだけ嬉しそうにしてたら気になるさ」
「しょうがないなぁ、でも話すのはポアラが来てからね♪」
そう言って俺の目の前の席に座り注文して昼食を取り始める。しばらくして仕事を終えたポアラも来て食事を一緒に取り、食事を終え一息ついたところでシエルはどうだとばかりに仕入れた依頼を話し始めた。
「辻斬り~?」
「数日前から辻斬りの噂はあったんだけど、目撃者が少なかったのかあまり挙がってこなかったのよ」
「少なかったってことは見た奴はいるんだろ、なのになんで依頼が今頃なんだ?」
「見た人も遠くから夜に誰かが争っている最中に斬られ黒い影が去っていくってぐらいの情報の少なさで、それに斬られた相手が今まで死齎隊の人のみだったらしいの」
「なるほど、そりゃ死齎隊は隠すか。どこの誰かも分からない奴にどんどん隊の人間が殺られていたら隊全体の実力が疑われ周りに軽く見られるかもしれないからな」
「でも、今回は依頼が出てたんでしょ。それって手に負えないから死齎隊か国が出したってこと?」
「ううん、なんでも昨日被害にあったのが死齎隊や国とは何にも繋がりのなさそうな小さな商家の息子で仇討ちとばかりに両親が依頼をだしたって話だよ」
「ふ~ん、それでシエルがこの依頼を持ってきたってことは受けてきたんだよな?」
「もちろんよ、ちょっと不謹慎かもしれないけど3人で割っても報酬は良かったし辻斬りってのも1度は見てみたいし」
「たしかに理由は不謹慎だし、俺達も一緒にやるのかよ。・・・・ポアラはどうする?」
「私が何か言ってもこんな状態のシエルだったら1人でもやるんでしょ、だったら一緒にやって目に届く範囲に居てくれた方がまだ安心できるわ」
「それもそうだな」
「なんかその言い方だと私が手のかかる子供みたいじゃない!」
「はいはい、そう思われたくなかったらもう少し落ち着きを持ちなさい」
「ふんだ!」
「それじゃポアラ、辻斬りが出るのは夜だからもう休むか?」
「その方がいいかもね、私も買い物済ませて宿に戻るから夜に宿前で落ち合いましょ」
「わかった、シエルもちゃんと寝とけよ」
「言われなくても分かってるわよ!」
2人と別れ部屋に戻って横になるが、やはり時間も早いのですぐに眠りにつくことはなかった。
(辻斬りか、シエルの話だと死齎隊のみだった狙いが昨夜突然一般人にまで手に掛けたんだよな。某ら目的があったが人を斬ることに魅入られ誰でもよくなったか、それとも・・・・)
色々考えているうちに眠ってしまっていたのか、気付いたら窓から見える景色が真っ暗になっていた。
(もうこんな時間か、そろそろ起きとかないとまたポアラにビンタ喰らってしまうかもな)
そう思い手早く準備を済ませ宿の外に向かい、外に出るとポアラがビンタの素振りをしていて思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「あっ! 遅いよテツヤ」
「遅いって程の時間じゃないだろ、むしろまだ夜は始まったばかりじゃないか」
「あら、自分で起きてきたの? せっかく起こしに行ってあげようと思ってたのに」
「素振りしながらそのセリフは止めてくれ、またビンタで起こすつもりだったんだな・・」
「もう、そんな事どうでもいいから早く行こうよ~」
シエルは数m先から手をブンブン振りながら俺達を呼んでいる。
「なんか昼の時よりテンションが高くないか?」
「そうなのよ、おかげでずっと話聞かされてほとんど寝れなかったんだから」
「ご愁傷様で、それなら出来るだけ早く終わらせますか」
「そうしてもらえると助かるわ、もう眠くて眠くて」
2人で愚痴を零しながらシエルの後について行った。街中を歩き始めて2時間程経ったがだんだんと静かになっていくだけで特に何も起きそうにない感じが続く。
「今日はもう出ないんじゃないのか?」
「何言ってるの! まだ探し始めたばかりじゃない」
「でも・・なぁ~?」
「そうよ、辻斬りだって馬鹿じゃないだろうし捕獲依頼が出たばかりの今日に人を殺ったりするかしら」
「毎日のように死齎隊ばかり狙うような度胸ある奴が、依頼が出たからって逃げ腰になると思うの!?」
「そりゃそうかもしれないけど・・・・(チラッ)」
「(コクッ) 分かったわ、後2時間だけよ。それ過ぎたら宿に戻るからね」
「ありがとうポアラ♪ さすが私の理解者!」
ギュッとポアラに抱きつくシエルを見ながら俺とポアラは目を合わせて苦笑いを浮かべた。その後機嫌が良いシエルに引っ張られるように散策するが、シエル達が酔っ払いなどにしつこくナンパされたりしてケンカになった以外何も起きず2時間があっという間に過ぎていった。
「時間ね、約束通り今日は帰りましょ」
「・・・・はぁ~~い」
「いやぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
見るからに落ち込んだシエルが気のない返事をした途端、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえる。シエルはすぐに駆け出し俺達も慌ててそれに続く。何回か通りを曲がりながら走った先に3つの人影が見え、そのうちの人影の1つが刀を振りかざしているのが見えた。
「止めなさいっ!」
「っ!」
シエルが大声を出すと刀を振りかざしていた人影がビクッと一瞬震えた感じがしたと思った矢先、その人影は俺達とは逆の方に走り出す。
「待ちなさいっ! あとはお願いっ」
シエルは倒れている人とへたり込んでいる人を一瞥してそのまま逃げていった人影を追った。
「ちょ、ちょっとシエル!」
「大丈夫ですかっ!?」
「あ、あ、あ」
へたり込んでいる女性はショックでうまく喋れそうになかったのでポアラに任せ、倒れている男性に診始める。男性は背中を肩から腰の辺りまでバッサリと斬られ周辺に血溜まりを作り虫の息状態だったので、すぐさま回復魔法をかける。
「どう?」
「傷はかなり深いが息がまだあって助かった、これならなんとかなる」
「良かったぁ~」
「こっちは何とかなりそうだからポアラはシエルを頼む、1人は危険だからな」
「ここに居ても手伝えることはなさそうだし、分かった行ってくる」
「治療が終わったら俺も向かう」
ポアラがシエルの後を追って行くのを見ながら治療を続ける。予想以上に傷が深く重傷だったようで倒れている男性の容態が安定するのに数分かかるが、良かったことに男性が助かると分かったからか女性の気持ちが思っていたより早く落ち着いていった。治療が完了し一応野次馬に来ていた夫婦と思われる男女に倒れている男性と寄り添っている女性を任せ、俺もすぐさまポアラ達を追いかけ始める。
しばらく走った先で誰かが争う音が聞こえてきてその場所まで近づくと、シエル&ポアラが見た目くノ一の格好をした2人組と戦っていた。シエル達の実力がそれなりに高いのは解っていたので、彼女達と互角に戦えているくノ一2人組には少なからず驚かされる。
「シエル! ポアラ!」
俺が2人に声をかけると、人数的に不利になると考えたかくノ一2人組はすぐに目眩ましを使って退却していった。
「2人とも大丈夫か?」
「大丈夫、怪我とかないから」
「それで、辻斬りは?」
「逃げられたわ、いきなりあの2人組が攻撃してきてその隙に」
「という事はあの2人組は辻斬りの仲間ってわけか」
「たぶんね。くぅ~、あと少しだったのにっ!」
「斬られた人は大丈夫だったの?」
「あぁ、治療は終わったし女性もだいぶ落ち着いていたから近くにいた夫婦に任せてきた」
「そう、だったら2人のとこまで戻りましょ。もしかしたら辻斬りの顔とか見てるかもしれない」
「そっか! そういう事なら早く向かいましょ」
新たな手掛かりを求めて俺達が被害者のとこに戻って見たものは、無残にも斬り殺された男女2組の遺体だった。




