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第36話:前途多難

 2台の馬車が街道を走っている。

 一際大きな荷台の前に座った小太りの男が重馬種と思われる2頭の大きな馬を操り荷台を牽引させて前を先行し、前方より小さめの荷台を1頭の馬が牽引してそれに追従していた。前方の馬車の荷台には溢れそうになる程荷物が積まれており、後方の馬車の荷台には5人の男女が座っていた。


「とりあえず、今日が初だから自己紹介しましょ。これから1ヶ月近く一緒に居るチームなんだから」


 街を出て少ししてから女性2組のうちの1人がみんなに提案してくる。


「それもそうだな、俺はグラトス=ワーカー。んでこいつが相方で」

「リッツ=コートス」

「シエル=ハミルトン、こっちが妹で」

「ポアラ=ハミルトンよ、それでキミは?」

「テツヤ=カミナシ」

「堅苦しいのは嫌だから、みんな呼び捨てでいい?」

「特に不都合があるわけでもないし、良いんじゃないか」

「ありがとう、助かるわ」

「シエル達は双子でいいのか?」

「えぇそうよ、まぁ顔はソックリだからすぐ分かると思うけど」

「一応見分けがつくように髪が短いのがシエル、長いの私だから」


 男女4人がコンパの雰囲気で会話を弾ませているなか、俺は話に入りずらいという事と遅くまで頑張っていたという事も相まって荷台の隅っこにもたれかけてウトウトと眠りかけていた。

 いつの間にか眠っていたが突然の衝撃で身体が前に飛ばされ、一気に現実へと意識を引き戻される。


カーン!カーン!カーン!


 何事かと思ったがすぐに事前に決められていた鐘の音が響いてきたので敵襲だと分かり、それぞれの武器をすぐ手に取って荷台を飛び出し前方の馬車へ向かった。辺りの風景がすっかり森になっていたので結構寝てたんだなぁと思いつつ前方を見ると、体長1m程の見た目は毛色が紫という以外は大きめの猿と言っていい魔物が3体こちらを睨んでいる。見たこと無い魔物だったが他の人の会話からあれは『ジャイアントシーミア』という魔物で、この森に生息する比較的一般的な魔物といことが分かった。さっそく倒すかと考えたがグラトスとリッツが良い格好をしたいのかシエル達の方を見て「ここは俺達が!」と言わんばかりに手で制して魔物へ向かっていき、シエル達は若干呆気にとられていた。


(楽が出来るならそれに越したことはないし、他人が戦うのを見るのも勉強か)


 俺は少し困惑しているシエル達を脇目に武器を収めて2人の戦いを観察し始めた。魔物は見た目通りのパワーと思っていた以上の俊敏さで2人を襲い、複数で戦う術も解っているのか要所要所で連携攻撃を仕掛けてくる。それらをふまえ数でも魔物が方が多かったので大丈夫かなと少し考えたが、2人はこの猿の魔物の事を良く知っていたのか上手く連携してそれらを対処していき1匹ずつ確実に殺していった。全匹倒してこちらに戻ってきた2人は少し息が荒かったが、それ程疲れた様子もなくこれといって目立った怪我をなかった。


(とはいえそこまで目を見張る程の強さじゃないか、これならミゲル達の方が上だな)


 魔物が倒されたのを確認してから小太りの男は俺達に声をかけ馬車を出発させたので、俺達もすぐに馬車に乗り込みその後を追った。その後3回程遭遇した魔物を全てグラトスとリッツが対処し良い格好をしようとしたが、薄々2人の魂胆に気付いたシエル達は苦笑しながら呆れていた。日も暮れかかってきた頃に森の中に出来た宿場町に到着し今日はここに泊まることになり、依頼主が宿代は出してくれたが食事代は各自の払いとなった。


(今日は全く身体を動かしてないし、とりあえず夕食前に剣・魔法の練習でもしてくるかな)


 俺は1人で宿場町を出て森を散策する。周囲の魔物はそれ程強く無く色々やってみたかった事を試すことができてグラトス達の戦いを見より勉強になり、2時間程散策してほどよい汗をかけたので宿場町へ戻った。


(そろそろ夕食でも取るか)


 近くの酒場に入ると店内は混雑し賑わっていて、空いた席がないか周囲を見渡す。


「テツヤじゃない、こっちこっち!」


 声がした方を向くとシエルとポアラの2人が手を振って呼んでおり、2人の席に近づいた。


「2人だけか? グラトス達は?」


 問いかけると2人は少し困ったような表情を見せる。


「ちょうど良いわ、テツヤに聞きたいことがあったから座ってちょうだい」


 座るように促されたので席に着き、とりあえず夕食の注文をして2人の話に耳を傾ける。


「テツヤは今日のあの2人の行動をどう思う?」

「どう思うもなにも、シエル達に良いとこを見せたくて格好つけてたんだろ。恋人もしくはちょっとした関係でも持ちたいんじゃないのか?」

「はぁ~、やっぱりそうなのか」

「チームとしては仲良くなりたいけど、恋人とかには全く意識してないのにね」

「直接言うしかないんじゃないか、あの様子じゃ明日も2人だけで頑張りそうだし」

「あなた達には興味ないって言えって? それだと気まずくなってチームで仲良くなれないじゃない」

「そこまでストレートじゃなくても、とりあえず2人だけで戦うのを止めさせたら」

「どうやって?」

「『2人が頑張ってくれるのは嬉しいけど、私達はチームなんだから皆で頑張りましょう』とか言えばいいんじゃないか」

「そんなんで大丈夫かなぁ」

「さぁね、それに俺は今のままでも困んないし4人の問題だからどうでも良いってのが本音だ」

「他人事だね。そういえば、テツヤは私達の事どう思ってるの? 関係を持ちたいとか?」

「・・・・ネコミミの綺麗な女性?」

「いや、ネコミミとか見た目じゃないそれ!」

「今のとこそれくらいしか思ってないってことだよ」

「それはそれでちょっと悔しいなぁ」

「はいはい、それじゃ夕食も終わったし俺は部屋に戻るけど2人はどうする?」

「もう少し飲んでから戻るわ」

「おやすみ、テツヤ」

「あんまり飲み過ぎるなよ」


 俺は酒場を出て宿屋へ向かい、ベットの上で護衛よりも人間関係の方が面倒いなぁと今日の事を考えながら次第に眠りについた。


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