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現実を嫌悪する者へ  作者: Nexnem
仮想編第1話
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仮想編第1話Act1-8

Act1-8

~異変~

窓の外に映る太陽は・・・目測で20°位の角度に見えた。ベッドから降りると、床が軋んだ。


(戦略立てだ)


そのためには情報収集だ。メニューを開いてBBSを選択・・・しようとした。


(?!サーバートラブル?)


最も重要なボタンが消滅していた。あるのは不自然な空白だ。

即座にBBSを開く!スレッドがすでに立ち上がっていた!悲鳴、罵声、怒号・・・それが全てだった。


(私だけじゃないんだ)


急いで服を着て、食堂へ下りた。外まで怒鳴り声と悲鳴、それも少なくとも集団単位の男女が発しているものが聞こえてきた。中に入るとすでにテウルギアが4人掛けのテーブル席に座っていた。不安な顔を浮かべてパンを食べる女性2人組、互いのスープに唾が入っているのに気付かないくらいヒートアップした口喧嘩をしている男5人組、明らかに焦りすぎてオートミールを周りにこぼしながら早食いする女性、周りはそんな状態だった。真っ当に食事をしている人間は少数派だ。


「気付いたか?」


テウルギアの隣の席へ座る。


「全員同じ状況だろうな・・・」

「すぐ直るよな?」

「間違いなく」

「ログアウトボタンの話でしょ?」


エリー姉とアスラムが降りてきた。


「ああ。こんな大問題を運営がほっとくわけがない・・・エリー姉、サーバートラブルってどのくらいあれば直せる?」

「単純なら発見から解決まで1時間ってとこかしら」

「ってことはこっちで1日。それだけあれば私たちはリアルへ戻れる」

「待つしかねーか?!」


?テウルギアが口元を隠した。目をあさっての方向へ向けて何やらぶつぶつ言ってる。


「やっぱ俺、今日は狩りへは行けねえ」

「今のチャットは!」

「ああ」

「SOSが優先だな」

「そのとおりね」

「・・・みんな・・・ありがとな」


朝食を切り上げて出口へ歩き出した!


                   ⋮


恭介・・・早く来て!今の頼りは貴方だけなんだから。何時殺気立ったプレーヤーに襲われるかわからない。心細いよ・・・。

靴跡が響くたびに見つかったのかと思ってしまう。ドアの隙間から覗き見る。男1人、女3人のパーティーが立ち止まってた。金髪の女性・・・エリカじゃなかったエリーだ。茶髪の女性・・・エリーは真理紗=アスラムだって言ってた。黒髪の女性・・・1人だけβテスターのコートを着ていない。初めて見る、誰だろう?筋肉質の男性・・・恭介/テウルギアだ。


(呼ばなくちゃ)


弓を構えて・・・矢をつがえて・・・引き絞る!


(お願い、気付いて!)


発射!


(手元が狂った・・・)


ピンクの光を放ちながらテウルギアの頭に向かって飛んで行ってしまった・・・


                   ⋮


ピンクの細長い棒が飛んできたのが見えた瞬間、テウルギアの側頭部に閃光が発生した!某モヒカンの断末魔の叫びを放ちながら横転ダウンする被害者。敵襲?・・・ではなかった。


「ストライク!」

「ブルズアイ!」

「いつから俺が的になった!」


廃屋から手招きしてる人がいた。SFチックな赤っぽい軍服を着た茶髪ショートヘアの女性だ。上着はWOFCoのロゴマークで占拠されている。

テウルギアが廃屋に突撃していく。怒った顔でないことは確かだ。後に続いた。


                   ⋮


「来てくれたのね!」


テウルギアに抱き付いて泣き出してしまった。しばらくそっとしておこう。GMにも異変が起きたんだろうか?マイさんが泣き止んだら聞いてみよう。


「・・・っとそっちの御嬢さんは?」

「私の妹よ」

「エリカの妹は一人でしょ」

「増えたのよ・・・昨日からね」

「・・・わかった!学君でしょ!」


やっぱりマイさんならわかってくれた。当然、肯定の意を示した。


「ネームは“フルフル”だよ・・・えーと」

「アバターネームは“アルス”よ」

「姉ちゃん、無事でよかった・・・心配したぜ」

「アルス、逃げ隠れするほどのことだったの?」


マイさん改めアルスが口を開く。いつもの張りのある声ではなく震えたような声だ。


「ログアウトボタンが消えたのは知ってるわね・・・それと一緒に、私たちのGM権限まで使えなくなっちゃったのよ!そのことをプレーヤー達に詰め寄られて・・・答えられなかったわ」

「なんで隠れたり・・・武器出したりしたの?」

「詰め寄られた時、誰かが”運営は我々を殺す気だ”なんて叫んでたわ」

「まさか、"GMを血祭りにしろ”なんてことでも言った奴がいるの?」

「いたわ・・・それで怖くなって・・・逃げたのよ・・・」

「!」


怒りの矛先がGMに向いてるのか・・・。でも、なぜGMが犯人と決め付けられたんだ?そいつ・・・怪しいな。無理やり”GM犯人説”をでっちあげて殺す必要がある奴・・・。この騒動の犯人を知っているのかもしれない。そしてそいつは間違いなく共犯だろう。


「誰が叫んだか・・・見えた?」

「見えなかったわ。でも、声は近くから聞こえた。“GMを殺せ”って一言。低い男の声だとしかわからなかったわ」


きな臭い話になってきてしまった。


「ねえ、恭介・・・服買って!」


奴を探す方法がわからない。手掛かりが見つかるまで放っておくしかないな。


                   ⋮


明るくて白い着流しに黒に近い紺袴、朱の胸当て、足袋・・・アルスが着替え終わるのに1秒とかからなかった。


「攻略・・・休むつもりはないんだね」

「もちろんよ!」

「あたしの拳が血を求めてる!」

「まあ、1日楽しみましょう」


例え復旧できなくとも1日でログイン時間制限に引っかかって強制ログアウトされるはずだ。心配することはない。


「救出作戦成功ね。じゃあ、攻略に戻りましょう」

「しばらくは森で狩り?」

「不正解よ・・・ボス、通称赤イノシシを倒すわ!」


いきなりボス戦!


「そんな雑魚ボスなの?」

「βテストでは、Lv10が1ダース掛かりで被害8人出しながらの辛勝だった」


Lv2が4人とLv1が1人じゃ無謀すぎる・・・まあ、考えなしではないだろう。

エリー姉が見せたメモを見てみる。


“名前:クロ・ザ・パイロボア

Lv10

HP:不明

耐性:炎100%、打50%

弱点:水200%

性格:猪武者

攻撃:踏みつけ、突進、打ち上げ、突き刺し、火炎弾

パターン:火炎弾で牽制→突進からのコンボを繰り返す”


ここまで余裕たっぷりってことは”我に必勝の計あり”なんだろう。


「でも、研究者はLv1ソロでも撃破できるって結論よ」

「対策は?」

「木にぶつけるの!」


自爆させるつもりか!なら、Lvも攻撃相性も無関係だ。勝算ありだな。


「乗った!・・・準備してからね」


                   ⋮


(デカ!)


巨大イノシシがいた。目測全長10m以上はあるだろうか、全身が燃えてる。だが、苦しそうには見えない。こっちをにらみつけてる。もし、ここが仮想空間って知らなければ本物の赤イノシシだって言うだろう。

そいつが口を開いた!


「今日はバーベキューパーティだ!具を集める手間が省けたぜ!」


これじゃあイノシシじゃなくて怪獣だよ・・・

赤イノシシが地団駄を踏んだ!なぜか焦げ茶の煙が上がる。


「パターンが違う!」


土煙の中から火の玉が飛んできた!数を数える暇なんてない!

回避しながら発射位置を特定する。


(射角がずれてる!移動しながら撃ってる?)


乗用車が礫死体を生産した時のような音が聞こえた。見るとアスラムが宙を跳んでた。回避したような体制ではない。HPが6割ほど減ってた。ひき逃げ犯は前足一本立ちして・・・全身を半回転させた!その延長線上には・・・ひき逃げ被害者が!


(このままじゃ危ない!)


とっさにアスラムに跳び付いた。着地する前に投げ飛ばす。背中に衝撃を受けた!

気付いた時にはうつ伏せに寝そべってた。HPは半分を切ってる。しかも赤イノシシがUターンして戻ってくる!

テウルギアが私に駆け寄ろうとする。こいつ!私を餌に仲間を釣るつもりだ!


「止まれ!」


釣るのは私だ!

転がって突撃を回避する。瞬間を見なかったが、トラックが電柱にぶつかったような音が聞こえた。立ち上がって振り返ると、奴が木を枕にして寝そべってた。頭にギャグ漫画っぽい星が浮いて自転していた。HPゲージが10%ほど減っている。木にもなぜかHPゲージが表示されている。こっちは40%ほど減っていた。


(チャンスだ)


頭の中にアルスの声が響く。パーティーチャットだ。


「真ん中にたどり着いたわ!」


これで私たちの布陣は完成だ。赤イノシシも起き上がって再び土煙で隠れた。


「上から赤イノシシが見える!私がカメラマンをやるわ!」


                   ⋮


赤イノシシが叫びながら地響きを上げた!なぜか土煙が上がらない。真正面から火炎弾が飛んできた。


(見え透いた攻撃だ)


走って回避しようとした・・・が、右足首が引っ張られた。思わず転倒する。なぜか骨が足首に絡んでた。人骨?っぽい。引き剥がそうとしたが、骨の中に筋肉が入っているみたいに頑強で離れない!光線剣でも焼けない!やむなく引き抜く!手首の骨があって・・・すぐ下には腕の骨がくっついている!走れない!


「これもβにあった?!」

「無いわ!こいつ、最後まで一匹だった!」

「フルフル!正面から突進してくる!よけて!」


こんな同時攻撃を回避する方法は存在しなかった。当然のごとく人間松明になり損ねた上に踏み付けられた!


「Uターンして戻ってくるわ!」


何とか起き上がってその場を離れようとする。骨の手が未だ足首に絡みついている。地面から何かが突き上がってきた。私を掴んでいたものの正体が地面から這い出してきた。真っ白な骸骨!服の類を身に付けている様子はない。右手に私の足首、左手に拳銃を持っている・・・持ち物はそれだけだ。


(まずい!退路が!)

「道を作るわ!」


なんだかわけがわからないうちに吹き飛ばされる。同時に乾いたものが踏まれた音が聞こえた。赤くなったHPのバーが全く見ない。


(どこかに退避して回復しなければ・・・)


かろうじて起き上がるが、骸骨どもに囲まれていた。赤イノシシが気絶してる間にこいつらを倒し、HPポーションを飲まなければならない。


(倒す必要はないな)


何やら人影が飛び込んできた。そいつがストレートを骸骨に放つ!


「こいつらはあたしがぶっ飛ばすわ!」

「助かる!」


とりあえず、退避し”HPポーション”を飲み干す・・・。3本連続でこいつを飲むのは拷問に近い。ボスに向き直ると土煙が上がっていた。


「赤イノシシが地面に潜ったわ!」


叫びの直後に衝突音が聞こえた。見ると、テウルギアが上空を飛んでた。断じて元祖アメコミヒーローの物真似には見えない体勢だ。

打ち所が悪かったのか?HPが1/3ほどしか残ってない。あいつを拾うべく突撃を始める赤イノシシ。


(今デカブツに突撃されると危ない!)


助けに行きたいところだが、やみくもに飛び出しても被害者がテウルギアから私に変わるだけだ。突破口は・・・SPが最大になってることぐらか。

チュートリアルで言われたことを思い出しながらイメージする。浮かび上がった選択肢は“乱撃”と“要撃”。“要撃”を選択し、友人を助けるべく行動する。

茶イノシシの突撃やら骸骨の突きなんかの攻撃を受けるが、衝撃は感じない。掴む時間は無いので落下地点の近くの小鬼に体当たりする。うまい具合にそいつがテウルギアの代わりに赤イノシシに轢かれてくれた!


                   ⋮


奴のHPが残り僅かになった。怒りか、焦りか、あるいは両方かもしれない。

赤イノシシが地響きを起こした!なぜか茶イノシシとか、骸骨とか、小鬼とかが大量に落ちてきた。桜に住み着いてる毛虫共みたいだ。空地面積が急激に減少した。逃げ場がなくなる・・・

すでに空地よりもクリーチャーが転がってるエリアの割合の方が多い。身動き取れなくなりそう!


(・・・お供に際限がなさすぎる!)


今日このシーンを何回見たことやら、土煙がまき散らされる。


「フルフルに向かってるわ!」


アルスの声が響く。イノシシに好かれても困る・・・。いつもと違うとこは・・・落ちてきた“毛虫共のロードキル”を両側からはじき出してることだ。


(・・・もしかしてこれがやりたかったのかな?)


観測手がなくともどこから来るのかわかるくらいの派手さだ。躱せないわけがない。

例のごとく木に激突する赤イノシシ。無事な取り巻きとロードキルもろともソニックブームらしき透明な壁と轟音に張り倒された。SP溜めとくんだった・・・。

取り敢えず最後っ屁を耐えた。止めを刺すべく走り寄る・・・よりも早くオレンジに光る足が奴を掘るのが見えた!赤イノシシがポリゴンを体からまき散らしていく・・・。


「・・・急に来たから」


殺害犯がつぶやく。彼女は間違いなく狙ってた。


「クロ・ザ・パイロボアを撃破しました」


中空にメッセージボックスが出現した。


“チームリーダー:エリー

メンバー:5人

戦闘時間:30min

MVP:テウルギア

最大被ダメージ:フルフル

ラストアタック:アスラム

マックスキル:アルス”


予想よりも時間がかかった。パーティ人数が少なかったからかな?


「行きましょう!帰って宴会するまでかボス戦なんだから!」


エリー姉に急かされた。


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