仮想編第1話Act1-1
Act1-1
~世界の創造~
2階席から見ればは赤茶白黒のモザイクしか見えないほど人が密集しているのだろう。大人数が1箇所に集まった時の特有のBGMが聞こえるだけだ。ほぼ全ての視線が出演者のいないステージを向いていた。もう始まる時間なんだが、メインイベンターは一向に現れない。現実ならともかく、偶然ではありえない事態だ。起こり得る原因は出演者が意図的に出場しないか死んだ時だけだ。
全世界に赤っ恥を曝したくなかったらとっとと来い!奴はこのイベントをすっぽかすつもりなのだろうか?
14:59:50を過ぎた・・・
あと10秒・・・
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0をカウントする直前にステージの方から轟音が鳴り響いた!隕石がマッハ30で落ちてきたようだった。同時にステージ上に灰色の煙とステージ全体に黄色と黒の”Keep out(立ち入り禁止)”のテープが貼られるくらいの量の瓦礫が降ってきた!1階が”フードプロセッサーの中身”にならなかったのが不思議なくらいだ。
「道路が混んでるからヘリから飛び降りてしまったよ!」
ステージ上から聞こえた。取り敢えず醜態はさらさなかったようだ。
「あるわけねーだろ!」
やらせっぽい、なおかつ笑い交じりの突っ込みが1階席の方から聞こえた。現実ならともかく、例えどれだけ急いでいても、この場に来るためにヘリからダイブする必要は一切存在しない。ボタン1つで解決できるんだから。
煙が消滅したが、落ちてきたはずの瓦礫が見当たらない。代わりに一人の人間が立っていた。年齢は20代後半、性別は男性、黒のタートルネックとジーンズという姿だ。服装には鉄片やコンクリート片はもちろん、灰もついていない。”天井を破って瓦礫と一緒に落ちてきた”にも関わらずだ。そして、こいつこそが聴衆が待ち望んでいた人物だ。
「さて、観客の皆さん、我等がWOFCoの新作発表に来ていただきありがとう」
会場が静かになる。
「新作はフルダイブ型のVRソフトだ」
もはや聞こえてくるのはこの男の声のみだ。
「説明の前にVRとビデオゲームのお勉強と行こう」
プレゼンが続けられる。
「今のVRなら知っての通り、見た目は現実と遜色ない」
何故かステージ上に人間型らしき物体が出現した。全身真っ赤で猫背。スキンヘッドの頭に濁って釣り上がった眼。手には木の棒らしきものを持っている。身に付けているものはどこかの古代人並にボロボロで、悪臭がしみ込んでそうな腰布だけだ。できの良いコスプレ・・・ではないことは確実だ。手が異様に長い、猫背だが、床まであと数cm程度で届くくらいだ。頭身もバランスが悪い。多分11頭身ぐらいだろう。おまけに細見だ。着ぐるみだろうがメイクだろうが、中に生身の人間は入れない。”クリーチャー”としか例え様がない。
「でも、こいつらの中身は100年前のコンシューマビデオゲームから変わってない」
「ウガガガガガガガガーーーー!!!!!!!!!」
“クリーチャー”が奇声とも叫びともとれる声で絶叫した!さらには木の棒を風切音を出しながらめちゃくちゃに振り回した!あまりの馬鹿馬鹿しい猛抗議に思わず観客席から笑いが漏れた。
「頭がちょこっと良くなってアウ!」
“クリーチャー”のでたらめスイングが司会の顔面に命中!同時にいかにもクラッシックな打撃音とヒットスパークが生じた!被害者は一瞬よろけたが、何とか踏みとどまった。観客席からは今度こそ本気っぽい失笑が漏れだした。
「こいつには後でお仕置きしておこう・・・」
被害者の目尻が100ミリセカンド単位だが釣り上がった。
「続きだ。どこまで話したかな・・・そうだ!このやんちゃボウズのことだった。頭がちょこっと良くなって、それでもこんなんだが・・・あとは、ポリゴンの数が増えたくらいだ」
「ブアァアアアアアアアーーーーー!!!!!!」
再び”クリーチャー”の地団駄踏みでの猛抗議!だが、プレゼンターが左手を観客席の方へ向けると、ふてくされたような顔で観客席へ降りた。通りかかった隙にそいつの腕を掴む。
硬い、冷たい、ツルツル・・・目隠しされたら”木の椅子かテーブルの脚”と答えそうだ。・・・だが、これこそが”今の”VRだ。
「さらにだ、見た目はリアリティが出たのに、触っても木なのか生物なのかもわからないときた」
それが常識だ。今更確認するまでもないだろう。
「VRは今でも騒がれてるけど、触れた途端にただの人形劇になってしまう」
やらせっぽい笑いが聞こえてきた。
「見た目だけなら観光旅行なのにね」
プレゼンターが自身たっぷりに両手の親指を上に向けた。
「だが、そんな人形劇と観光旅行とはもうおさらばだ!」
尖頭のポーズをとると”クリーチャー”がいなくなった。
「WOFCoは新しい世界を創造する!」
照明が暗くなった。
「新世界の名、それはT-W-H-a-R・・・TWHaR!」
派手派手しいBGMが鳴ってタイトルが出現した。
「今宵、その一端をお見せしよう!」
プレゼンターが消えた。・・・いや、参加者に見えなくしただけだ。隣の観客も同じだ。今はただの荒地しか見えない。茶色の斑が入った緑の絨毯・・・ではない。草だ。
視界の奥に人影が映った。そいつが急速に大きくなる。赤い皮膚にスキンヘッド、異様に長い手、さっきの”クリーチャー”だ。そいつ等がなぜか口喧嘩してる。だが、何を言っているのかは聞こえない。
クリーチャー共が退場した後、建物が出現した。時代は判別できない。中世と現代と古き良きSFのモザイクのような建物ばかりだ。
時代が判別不能な街中で人間が2人向き合っていた。服装は中世が最も近いだろう。手にはそれぞれ得物を持っている。男の方が多分中世で使われた槍だが、女の方は現代の特殊警棒だ。双方武器を構えているが、大きな動きはない。睨み合っているだけだ。
そうこう思っている内に周囲が真っ暗になった。TWHaRの文字以外は何も見えない。
「いかがだっただろうか?」
プレゼンターのセリフと共に会場が元に戻った。
「このTWHaRは今までの人形劇擬きとは違う3つの特徴を持っている!」
タイトルが消滅した。
「1つ!触覚と味覚の再現する!」
“1”の文字が炎を吹き出しながら迫ってきた!
「2つ!じっくり遊べる!」
“1”が消滅し、”2”の文字が炎を吹き出しながら迫ってきた!
「3つ!異世界旅行ができる!」
“2”が消滅し、”3”の文字が炎を吹き出しながら迫ってきた!
「順番に説明しよう!」
“3”が消滅した。
「まず、触覚と味覚の再現についてだ!」
これは異常なまでに高額のライセンスと設備が必要なシステムだ。廉価版が開発されたなんて情報はない。とても一般庶民が使うようなVRソフトに搭載できるようなものではない・・・はずだ。
「手元のジュースを飲みながら・・・」
カクテルグラスがいつの間にか手に握られてた。中身はオレンジ色の不透明な液体だ。
そいつを飲む!甘酸っぱい味に柑橘系の香り・・・紛うことなきオレンジジュースだ。どうせならシャンパン出してくれよ!ここじゃ酔わないんだから!
「そしてこいつにセクハラしながら聞いてほしい」
さっきの”クリーチャー”が再登場した。ふてくされた顔でまた我々の方に突入してくる。
「VRでの食事はユーザーの長年の夢だった。我々はそいつをこの新作に詰め込んだ!触覚も同じだ!一度体験すれば、もう、砂と水道水と木工細工だけの世界には戻れなくなる!」
“クリーチャー”が通過するときにそいつの腕を掴んだ。生暖かい、柔かい、ザラザラ・・・産毛が生えた人間男の腕に近い感触だ。間違いなく生物の感触。この事前情報なしではこのクリーチャーが実在すると勘違いすることは間違いない。
「・・・少し長くなってしまったな」
クリーチャーが退場した。
「2つ目の話に移ろう。諸君の中にはVRをやって現実の予定をダメにした経験がある人は多いだろう。でも、そんな醜態とはおさらばだ!」
それは失態を犯したプレーヤーがルーズなだけだろう。
「そのためには、時間を長くとる!例えば、24倍の時間があれば現実の予定をVRのせいでダメにすることはないだろう!」
研究成果が発表されたばかりのシステムも実装するのか・・・
「最後だ!TWHaRの世界は現実以上に行動できる!旅行したっていい!生活もできる!モンスター相手にスーパーヒーローにもなれる!・・・ただし、犯罪はダメだぞ!」
ユーザーとしては心ときめく内容だ。本当に実現するのであれば、今、この場はゲーム史に、いや、科学史に残るシーンになる。
「さて・・・どこの国にもあることだが、この世界に入るには手続きが必要だ」
ついに価格設定まで来た。
「具体的には\59,000で新世界へのパスポートを発行しよう!さらに生活保障として月に\10,000必要だ!」
どこまでもやらせっぽいどよめき声があがった。
「移住開始日は2100年2月29日午前0時から!希望者はWOFCoに名乗り出てほしい!」
プレゼンテーションは終わった・・・会場は万雷の拍手しか聞こえない。だが、感動と歓喜からしている者はどの程度いたのかまでは判断できなかった。




