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第十章 其の1

   ~~第十章~~



 ───グゥゴォォォォオン!


 戦いの音が聞こえる。邪悪なる魔も感じる。ベルの力だって感じる。けど、視界が真っ暗。なにか柔らかいものが顔───ふぅおいっ!?


 なんであるかを理解するとともに飛び退くと、我が愛する妹どのが"白鬼"と化していた。


「……か、加奈美ちゃん……?」


 あの艶やかな黒髪が今や銀色に輝き、その細い体からは白銀の聖魔が噴き出し、濃密なまでね邪悪なる魔を滅していた。


「……なにしてきたの?」


 その声は心を凍てつかせる程の威力があった。


「断じておれの責任ではない! 不可抗力だっ!」


「じゃあ、あたしにもしてよっ! 真砂美より濃いのをッ!」


「な、なにいってんだバカ! んなこといってる場合かっ! それに兄妹でしたら変態だろうがッ!」


「それがなによっ! 兄妹だからなんだっていうのよっ! 真砂美は良くてどうしてあたしはダメなのよっ! そんなのズルいよ! あたしにもしてよっ!」


 ……そっ、そんなムチャクチャな……


 ───ドォドオォォン!


 ハッ! なにしてんだおれは! こんなことしている場合かよ!


「加奈美!」


 右手に光の刃───いや、『烈光の剣』を出現させた。


 以前とは比べものにならないくらいの輝き。これは光の女神シアラの思い。真砂美の思い。おれの思い。その思いが1つになった証であり、ばーちゃんと同じ『聖魔神』化した証でもあった。


「戦って勝つ。そしたら熱海のばあちゃんちに行って花火を見るぞ。あの場所でな」


 かあさんの実家で、最後に3人で見た思い出の場所だ。


「そこでしてくれるのねっ!」


 ……いや、しないって……


 加奈美が着ていた魔法衣が白い魔に包まれると、純白の『魔闘衣』へと変化した。


 4人の魔王との決戦に備え、1人が考案したベル専用の戦装束なのだが、真っ白なアンダーシャツの上に趣味的な部分鎧。グローブやブーツなどアニメ的デザイン。こんなの着て戦っている姿を親や友達に見られたら生きて行けない自信があるぞ。


「あたしの剣よ、出てこい!」


 その白魚のような手にクリスタルのような細身の剣が出現。加奈美が望んだ加奈美だけの刃。さしずめ『氷神の剣』といったところだ。


「レルバードシル! あたしとお兄ちゃんの幸せのために死になさいっ!」


 弾丸のようにレルバードシルへと突っ込んで行った。


 激闘を繰り広げる睦月と一樹の間に入ると、レルバードシルに渾身の1撃を振り下ろした。


 真砂美の思いの壁を突き破った加奈美ちゃん。その意志の力はバルタベルの力を自分のものにした証拠。初代の思いすら取り込む嫉妬力とはいえ、レルバードシルには及ばないだろう。が、時間を稼ぐには十分である。


 辺りへと視線を飛ばして状況を把握。直ぐに1番消耗が激しい綾子のもとへとむ向かい、聖魔で体を癒してやった。


 エルランの職業(?)は、武闘僧侶で、回復系魔術に長けているのだ。


「……し、忍、先輩……?」


 ベルを継いだとはいえ、この中では1番力が弱い。敵が魔将なら余裕だが、敵がシルでは分が悪い。あれは魔王にも匹敵する力がある。おれたち5人が力を合わせて戦わないと幸せな勝ち方はないだろうよ。


「動くな。もうちょっとで治るから」


 あちらこちら超魔の鎧が欠け落ちてはいるが、怪我という怪我は見て取れない。魔の使いすぎて精神疲労を起こしたのだろう。


 額に手を当てて1分。綾子の顔に生気が戻った。


「体はどうだ?」


「……はい。体が軽くなりました……」


 さすがエルランの魔術。まあ、未だに魔術がなんたるかは理解してないがな。


「綾子は外から樹を燃やせ」


「わかりました!」


 自分の力と役目を理解している綾子に説明は不要。それが綾子の最大の武器である。


 外へと飛んで行く綾子を横目で送りながら一樹のもとへと移動する。


 こいつも綾子と同じで精神疲労だ。


 魔を練り魔を纏う魔闘士タイプの一樹だから魔の消費やコントロールは並ではない。しかも相手は破魔使いでは魔力の垂れ流しである。


「……か、風間か……」


「今治す」


 こいつは精神もバケモノ。20秒もしないで完全復活を遂げた。


「一樹、加奈美を頼む」


 いって睦月のもとへと飛んだ。


 戦いから抜けた睦月は、リルターの剣を杖に息を切らしていた。


「大丈夫か?」


「……情けないが、しんどい……」


 指点穴もさることながら魔の使い方はおれをも凌ぐ。こいつが時間稼ぎしててくれなければおれも加奈美もベルに取り込まれていることだろうよ。


「待ってろ。今回復するから」


「すまん」


 超魔の鎧の上から聖魔を与える。


「……まったく、なにも人間止めることないだろうに……」


 銀色に輝く髪を見ながら呆れる睦月。


「そういうお前はいつまで人間やってる?」


 そう問うと、おれから視線を外した。


「……できるかな、ぼくに……」


「できるできないじゃない。必要ならやれ。あるなら使え。お前のために。夏美ちゃんのために。違うか?」


「……いや、その通りだ!」


「戦って勝つ。そしたら熱海に花火を見に行こうぜ」


「今年の花火は格別なものになりそうだな」


 そうとも。格別なものにするためにレルバードシルには早々にご退場していただきましょうかね。


「ぼくは左だ」


「なら、おれは右な」


 烈光の剣とリルターの剣を同時に構え、同時に飛び上がった。


 押され気味の加奈美の後ろから左右に分かれて攻撃を仕掛けた。


 が、レルバードシルの防御は強固。おれたちの剣を腕で受け止めた───その瞬間、レルバードシルの背後に一樹が現れた。


 どこに持っていたのか、一樹の両拳にはオリハルコン製のナックルガードが装備してあった。


 純粋なる1撃が決まる。


「グッアァアァァァッ!」


 苦痛は与えたものの殺すには到らない。


 ならばと光魔の槍を食らわし、それに睦月や一樹、加奈美が続いた。


 先程と違って意気満々の攻撃だ、いくら破魔の使い手(ベルの天敵)でもダメージは受けるだろうて───と思い気や、攻撃が弾かれてしまった。


 爆煙が静まり、レルバードシルが現れる。


 傷つき、左腕を失いながらもレルバードシルの顔に苦痛はない。あるのは狂気と憎悪。その2つで染められていた。


「……まさか、ここまで苦しめられるとは思いませんでしたよ……」


 我が身を包む破魔のバリアが徐々に消え、存在が闇へと同化して行く。


「……申し訳ありません、ゼイアスさま。少々復活を……」


 言葉途中でレルバードシルが闇と完全に同化した。


「───!───」


 第6感の命じるままに一樹を突き飛ばし、烈光の剣で飛んできたなにかを一刀両断したと思ったら、モノスゴク硬いものに吹き飛ばされてしまった。


「お兄ちゃんっ!?」


 痛みを堪えて空中で姿勢を立て直し、襲いくる"蔓"をオリハルコンのナイフで斬り裂いてやる。


「全員逃げろッ!」


 魔王のテリトリーで戦っていてはこちらが不利。一旦退却して外で戦うぞ。



(ガイナー!)



 チッ。肝心なことを忘れてたぜ!


 ここでフィンカーを置いて行ったらこれまでの苦労が報われない。結果はしっかりもらって行くぞ!


「ダイナード!」


 光爆が起こり、襲いくる蔓が消滅するが、破壊の樹は底なし。直ぐに新しい蔓が襲いかかってきた。


「ルゴ・ゴーズ!」


 背中に生まれた『光王の翼』で蔓を薙ぎ払う。



(……ガイナー……)



 何度も呼ばなくてもわかってる。絶対に行くから黙って待っててくれっ!


 とはいうものの蔓多すぎッ! 切りがないぞぉっ!


「ベルン・ジーナ!」


「レ・バルタス!」


「バルナザース!」


 3方から3種の魔がフィンカーまでの道を作ってくれた。


 ったく。逃げろっていったのに人の言葉を聞かないヤツらだぜ。でも、感謝だ。


 道の先にフィンカーが見えた。


 その透き通る体の中、ちょうど心臓がある場所に黄金色の指輪があった。



 ───《神鳥の指輪》───



 それは第7のベルにして愛する人の剣となれなかった哀しい光。だが、愛する人の鎧となった最強の光。ガイナーを思うフィンカーの全てだった。



(わたしのガイナー)



 透き通る体に右手が吸い込まれると、神鳥の指輪が輝き出し、おれの中指に収まった。


 きつくなくゆるくなく。指と同化した指輪からフィンカーの鼓動が流れてくる。


 小さな鼓動の中に詰められた純粋な愛と溢れ出しそうな記憶。それはティンカーにも負けない力であった。



(────わたしはエルクラーゼ。あなたを守るあなただけの鎧───)



 強く、優しく、温かく。フィンカーの魂がおれを包み込んだ。


 哀しいまでの思い。激しいまでの愛。全ての魂、おれが引き継いだっ!


「お兄ちゃんっ!」


「忍っ!」


「風間っ!」


 目の前から巨大な手が迫ってくる。


 それは、レルバードシルの鎧にして最後の邪竜。『竜機兵ライトバル』だ。


「……エルクラーゼ。今度は勝つぞ……」




      ○●○●○●○●○●






読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


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