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第九章 其の4

      ○●○●○●○●○●



 そして、落ちた場所は、どこかのお城のテラスだった。


「……こ、ここは……?」


 春のようにポカポカした陽射しに爽やかな緑の香り。風は優しく空気がうまい。どこかでは小鳥が囀り、不可思議な草食動物がのんびり草を食んでいた。


 ……えーと。天国……?


「お兄~ちゃん」


 と、後ろから甘い声がして振り返った。


「……ま、真砂美、か……?」


 一卵性双生児な加奈美と真砂美。小学校にあがるまで両親すら間違えた2人だが、おれは1度たりとも間違えたことはない。だから、目の前にいる女の子は真砂美だ。そう断言できる。


 だが、目の前にいる女の子は、髪形や雰囲気は違うものの背丈は加奈美と同───いや、加奈美と同じ年齢だった。


 ……9歳で死んだのに15歳って、どうなってんだよ……?


「エヘヘ。驚いた? ここは魂の世界だから好きな姿になれるんだ」


「……魂の世界? って、ここ、ベルかっ!?」


「そうだよ。ベルの魂になった人が創った世界。あたしとお兄ちゃんの2人だけの世界なんだからっ!」


 と、首の骨が砕けそうな力で抱きついてきた。


 ───ぐっ、ぐるじぃいぃぃッ!」


「お兄ちゃんだっ! お兄ちゃんの温もりだぁ~!」


「……ば、ばざび、じぬぅ……!」


「あ、ゴメンっ!」


 死んだじーちゃんが見える前に真砂美が解放してくれた。


 テラスへと腰を下ろし、息を整える。


 ……ったく。魂が強いのか腕力が強いのかわからん世界だぜ……


「だ、大丈夫?」


「……ここから消えてなければな……」


「アハハ。本当にゴメンねっ」


 ……魂になっても明るいな、こいつは……


「お前、ここに1人でいたのか?」


「うん。でも寂しくはなかったよ。ティンカーさんやガイナーさん、エルランさんが現れてくれたからね。それな、いずれお兄ちゃんと暮らすところだもん、快適に創るのに忙しかったしね」


「……まったくもって謎な世界だな……」


 こんなことならファンタジー小説か漫画を読んでおくんだったよ。


「ここは魂の世界。望む思いが叶えられる場所。欲しいものはなんだって出せるんだよ。ほら、お兄ちゃんが欲しかったバイクだって出せるんだから!」


 と、バイクらしきものが出た。


「……随分とシンプルなバイクだな。ちゃんと"動く"のか……?」


 タイヤは2つある。ハンドルもある。シートだってある。だが、肝心な場所にエンジンがなかった。


 ……まあ、下り坂なら動くか……


「もちろんだよ。こがなくたって走れるんだから!」


 ……9歳の女の子にバイクのなんたるかを説くのは酷なコトか……?


「ま、まあ、便利で素晴らしいのはわかったよ。でも、まだだ。まだ早い。ここにくるのはやることをやってからだ」


「───いやっ! 行かないで! ここにいてよ! 加奈美ばっかりズルい! いつもお兄ちゃんの側にいて、いっぱい温もりを感じてる! あたしだって甘えたいよ! お兄ちゃんの側にいたいよぉ……」


 ……魂と魂が繋がってるからな、押し隠していても伝わるのか……


「おれはあの日、真砂美を、大事な妹を殺したんだ」


「しょうがないよ! そうしなかったらあたしがお兄ちゃんを殺してた。醜い魔獣となって沢山の人を殺してたよ!」


「そうだな。そうなってたな。けど、真砂美を殺したのは変わらない。生きるために、加奈美を守るために、おれがお前を殺したんだ……」


「お兄ちゃんが悪いんじゃない! あたしなら気にしてないよ。そりゃあ、一緒に成長できないのは悲しいけど、こうしてお兄ちゃんの力になれたんだもん、あたしは満足だよ!」


 力いっぱい抱きついてきた。


「……真砂美……」


 思わず抱き締めそうになる自分を一喝する。


 乱れた心を落ち着かせ、その小さい頭を優しく、大切な存在を確かめるように撫でてやった。


「……だからこそ、やらなくちゃならないんだ。真砂美がくれた命を、明日に繋ぐために。ここから真砂美がいなくならないために……」


 ああ。この笑顔は失ってはならない。それは明日へと残すもの。この命がある限り、守る"光《妹》"だ。


「……ずるいよ……ずるいよ、お兄ちゃんは……」


 真砂美の涙がおれの胸を濡らした。


「ああ。そうだな。おれはズルい。真砂美も加奈美も守りたくて、どっちも大切にしたい。妹たちと明日を迎えたいと思ってるんだからな」


 罵りたいのなら罵ってくれ。嫌いになるなら嫌いになって良い。憎んでくれたって構わない。だが、おれは、なにがあろうと"妹たち"を守る。絶対にな!


 2人を守れるなら神だろうが魔王だろうが戦ってやる。そして、必ず明日を勝ち取ってやるッ!!


「……真砂美……」


 胸に埋もれる真砂美の背中をポンポンと優しく叩くと、その小さな顔が現れた。


 涙でグチャグチャになった顔を拭いてやる。


 柔らかい頬。生意気な瞳。小さな唇。艶やかな髪。その感触も温もりも現実にはないものだ。だが、真砂美はここにいる。おれの中で生きているのだ。


「遠い未来か近い未来かはわからない。けど、おれはここにくる。必ずくる。それがしわくちゃで白髪になったじーさんになってもだ。それでも真砂美はおれを好きでいてくれるか?」


「───愚問ねっ!」


 涙が消え、いつもの勝ち気な真砂美に戻った。


「あたしの愛は不滅よっ!! どんな姿だろうとお兄ちゃんはお兄ちゃん。あたしの大好きなお兄ちゃんだわっ! そんな見たくれや時間であたしの愛は色褪せたりはしないわ! この魂は永遠にして不滅。宇宙最強の愛なんだからっ!!」


 加奈美が聞いたら血管切りながら激怒だな。


「……全てが終ったらおれはここにくる。約束だ。だから、おれに明日をくれ……」


「……うん。お兄ちゃんは明日を生きて。そして、全てが終ったらここにきてね……」


 ああ。おれはここにくる。真砂美の笑顔を見にな。


「……お兄ちゃん……」


 と、真砂美が離れ、とっても大人びた表情を見せた。


「忘れないでね。あたしを忘れないでね。ここにいることを。あたしの心を、忘れないでね」


「忘れたりしない。もう2度と、真砂美を忘れたりするものか!」


「約束だよ───」


 顔が近づいてくる。10㎝。5㎝。光より速く、永遠より緩やかに、その唇が迫ってくる。


 反射的に逃げようとするが逃げられない。それどころか体が動いてくれなかった。なぜだっ!?


「ウフフ。ここはあたしの世界。あたしの意思が1番なの。いくらお兄ちゃんの意志が強くてもベルの力を持つあたしには勝てないのよ。だから、さあ、お邪魔虫がくる前に済ませちゃいましょうね~~」


 どこからかミシミシという嫌な音が響き渡り、なにか冷たいものが近づいてくるのを感じた。


「……あたしたちは永遠に1つ。決して離れられない最強のカップルなんだから……」


 ちゅっ。


 なにか唇に柔らかいものが接触すると、温かくも激しい光がおれの中に流れ込んできた。


 永遠に等しいくらいの時間が流れると、世界が真っ白に覆われた。



(───真砂美のバカァアァァァァって!!!)



 そして、世界が弾け飛んだ。











読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございました。


残り一章と終章、もう少しお付き合いください。


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