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仲の良かった親友の計画によって嘘告された俺。その話を聞いた親友の妹がブチギレた  作者: 白金豪


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第1話 親友の計画

「青木君のことが、好きです」


 放課後の屋上。


 目の前に立つ宮下さんが黒いロングヘアを風になびかせながら、そんなことを言った。


「…………」


 聞き間違いだと思った。


 いや聞き間違いであってほしいとかじゃない。


 むしろ逆だ。


 間違いだったら困る。


 でも俺の耳には確かに聞こえた。


 好きです、と。


「えっと……」


 何か返さないといけない。


 分かっているのに口が動かなかった。


 心臓だけはさっきからうるさいくらい動いている。


 たぶん今、宮下さんにも聞こえている。


 それくらい大きな音で鳴っていた。


「驚いた?」


「そりゃ……まあ」


「だよね。いきなり屋上に呼び出して、こんなこと言ったら驚くよね」


 宮下さんは困ったように笑った。


 その笑顔を見た瞬間、ますます分からなくなる。


 宮下茜。


 同じクラスの女子。


 長い黒髪に、ぱっちりとした目。


 男子が勝手に作ったクラスの女子ランキングでは毎回当たり前のように1位になる。


 そんな宮下さんが、どうして俺に?


「返事、聞いてもいい?」


「返事?……」


「うん。付き合ってくれる?」


 風が吹き、宮下さんの髪が揺れる。


 宮下さんは耳にかかった髪を指で払うと、俺をまっすぐ見つめてきた。


 逃げたくなるくらい綺麗だった。


 こんなとき普通の男子なら何て答えるんだ?


 嬉しい。


 俺も好きだった。


 よろしくお願いします。


 そんな感じか?


 どれも今の俺が言ったら声が裏返りそうだった。


「どうして俺なんかを?」


「それは……青木君が優しいから」


「優しい?」


「うん。前に私がプリントを落としたとき、拾ってくれたでしょ?」


「あれは誰でも拾うと思うけど」


「そういうことを自然にできるところが、いいなって思ったの」


 覚えていたのか。


 俺はもう忘れかけていた。


 確か、移動教室へ向かう途中だった。


 宮下さんが抱えていたプリントを廊下にばらまいて、近くにいた俺が一緒に拾った。


 会話なんて、ほとんどしていない。


『ありがとう』


『うん』


 それだけだ。


 俺にとっては、それだけ。


 でも宮下さんにとっては違ったのかもしれない。


 そう思った途端、胸の奥が急に熱くなった。


「それで、返事は?」


「あ、その……」


 唾を飲み込む。


 もう逃げられない。


 いや逃げる必要なんてない。


 宮下さんは俺に告白してくれた。


 クラス1の美少女が、わざわざ放課後の屋上へ俺を呼び出してくれたんだ。


 だったら俺も、ちゃんと答えないといけない。


「俺は――」


「ぶはっ!」


 急に笑い声が聞こえた。


「え?」


 誰もいないと思っていた屋上。


 校舎へ戻る扉の陰から男子が次々と姿を現した。


「やっべえ、もう無理!」


「真顔で返事しようとしてたぞ!」


「顔、真っ赤じゃん!」


 見覚えのある顔ばかりだった。


 全員、同じクラスの男子。


 休み時間になると教室の後ろへ集まり、大声で騒いでいるグループだ。


 どうしてこいつらがここにいる?


 何で笑っている?


「お前ら……何してんの?」


「なにって、見学?」


「ちゃんと静かに隠れてただろ?」


「途中で何回も笑いそうになったけどな」


 笑い声が広がる。


 その中心に立っている男子と目が合った。


 茶色く染めた髪。


 制服のシャツはだらしなくズボンから出ていてネクタイも緩んでいる。


「……和哉」


「おう」


 今村和哉。


 クラスの中心にいる陽キャ。


 それと同時に俺の小学生からの親友でもある。


 昔から俺は人付き合いが得意じゃなかった。


 休み時間も1人でいることが多い。


 そんな俺に声をかけ、仲良くしてくれたのが和哉だった。


『信吉、購買行こうぜ』


『信吉、一緒に帰ろうぜ』


『こいつ、暗そうに見えるけど話したら面白いんだぞ』


 俺がクラスで完全に孤立しなかったのは和哉のおかげだった。


 だから今も和哉の顔を見て少し安心した。


「悪いな信吉。嘘告だわ」


 和哉はヘラヘラと笑いながら言った。


「え……」


 言葉の意味が分からなかった。


 嘘告。


 聞いたことはある。


 告白する気もない相手に告白して相手の反応を見て楽しむ。


 でも、どうして今その言葉が出てくる?


「嘘……?」


「だから、宮下の告白は嘘。マジで好きなわけじゃねえよ」


「…………」


「罰ゲーム罰ゲーム。なあ、茜」


 和哉が宮下さんの名前を呼ぶ。


 俺もつられるように宮下さんを見た。


 否定してほしかった。


 冗談だよ、と。


 この男子たちが勝手に押しかけてきただけだと、そう言ってほしかった。


「ごめんね、青木君」


 宮下さんは笑みを絶やさないまま謝った。


「え……?」


「みんなでゲームをして、私が負けちゃったの。それで、青木君に告白することになって」


「罰ゲームで?」


「うん。だから、本当にごめんね?」


 悪びれた様子はなかった。


 本当に小さな失敗を謝るような声だった。


 廊下でぶつかってしまったとか、消しゴムを間違えて持って帰ってしまったとか。


 その程度のことを謝っているようにしか見えない。


「でも、俺にプリントを拾ってもらったからって……」


「ああ、それ?」


 宮下さんが目を細める。


「それっぽい理由を考えただけだよ」


 その言葉を聞いた途端、さっきまで熱かった胸の中が一気に冷えた。


「あれ信じたのかよ!」


「プリント拾っただけで宮下が惚れるわけないだろ!」


「優しいから好きです、だってさ!」


 また笑い声が上がる。


「もしかして本当の告白だと思ったから?」


 和哉が俺の顔を覗き込んできた。


「…………」


「何だよ、黙るなって。俺は信吉の感想が聞きたいんだけど」


「和哉、お前……」


「お、やっと喋った」


「最初から知ってたのか?」


「当たり前だろ。俺が茜にお前を指名したんだから」


 耳の奥で何かが鳴った。


 和哉が俺を指名した。


 たまたま俺が選ばれたんじゃない。


 小学生から一緒にいた和哉が、わざわざ俺を選んだ。


「どうして……」


「だって、お前なら絶対信じると思ったから」


 和哉は俺の肩を軽く叩いた。


「彼女いたことないもんな。クラス1の美少女から告られたら、そりゃ舞い上がるよな?」


「うわ、言ってやるなよ!」


「これで女性不信になったらどうすんだよ!」


「元から女子と喋れねえから変わらねえって!」


 また笑い声が聞こえる。


 いつもなら和哉が誰かをからかっているとき、俺も隣で苦笑いしていた。


 やりすぎだと思っても止めなかった。


 止めたら空気が悪くなると思っていたから。


 まさか、こっち側に立つだけでこんなに笑い声がうるさく感じるなんて知らなかった。


「返事、なんて言おうとしたんだよ?」


 男子の一人が聞いてくる。


「やっぱり『俺も好きです』か?」


「違うかもしれねえぞ。『俺でよければ喜んで』とか?」


「真面目かよ!」


「陰キャの告白の返事なんて、そんなもんだろ!」


「再現してみてくれよ、青木!」


「もう一回、宮下に告白させようぜ!」


「いいね。今度は最後まで言わせよう!」


 誰かが手を叩いて喜ぶ。


 無理だった。


 もう何も考えたくなかった。


 笑い声も、目の前に並んでいる顔も、全部遠くに感じる。


「和哉」


「ん?」


「お前、俺の親友じゃなかったのか?」


 笑い声が一瞬だけ止まった。


 和哉は目を丸くしたあと、吹き出した。


「なんだよ、急に重いな」


「俺は……お前のこと、親友だと思ってた」


「だからなんだよ。親友なら冗談くらい許せよ」


「冗談……」


「別に金取ったわけでも、殴ったわけでもねえだろ? 告白が嘘だっただけじゃん」


「そうだけど……」


「ノリ悪いなあ」


 和哉は面倒そうに頭をかく。


 俺がおかしいのか?


 こんなことで傷ついている俺が悪いのか?


 親友同士なら、このくらい笑って許すものなのか?


「もういいって、和哉」


 宮下さんが和哉の腕を引く。


「青木君、本気で落ち込んでるみたいだし」


「茜がそれ言う?」


「だって、泣かれたら私が悪いみたいじゃん」


「大丈夫だって。信吉は泣かねえよ。な?」


 和哉が俺に笑いかける。


 いつもと同じ笑顔だった。


 教室で俺を昼飯に誘うときも、ゲームで俺に勝ったときも、こんな顔で笑っていた。


 それなのに今は、その笑顔を見るだけで吐きそうだった。


「ほら、もう戻ろうぜ。先生に見つかったら面倒だし」


 和哉は俺の返事を待たず、屋上の扉へ向かって歩き出した。


「信吉も早く帰れよ」


 最後にそれだけ言う。


 まるで明日も普通に話せると思っているような口調だった。


 ほかの男子たちも和哉に続いていく。


「じゃあな、青木」


「告白されてよかったな!」


「夢に出てくるんじゃね?」


 すれ違いざまに肩を叩かれた。


 宮下さんも、みんなのあとをついていく。


 扉の前で1度だけ振り返った。


「本当にごめんね?」


 笑みを絶やさないまま、宮下さんは屋上を後にした。


 扉が閉まる。


 楽しそうな声が、少しずつ遠ざかっていく。


「…………」


 俺はその場に立ち尽くしていた。


 風だけが制服を揺らしている。


 さっきまで宮下さんが立っていた場所には、もう誰もいない。


『青木君のことが、好きです』


 その声が頭の中で繰り返される。


『優しいから』


『付き合ってくれる?』


 全部、嘘だった。


 俺が喜ぶように考えた台詞だった。


「はは……」


 笑おうとした。


 冗談なんだから、笑えばいい。


 明日になったら和哉に「昨日はびっくりした」とでも言えばいい。


 そうすれば、またいつもどおりに戻れる。


 でも、声は震えただけだった。


「何だよ、それ……」


 膝に力が入らなくなる。


 俺はその場に崩れ落ちた。


 硬い床に膝をぶつけたのに痛みはほとんど感じなかった。


 和哉とは、小学生の頃からずっと一緒だった。


 俺の家にも何度も遊びに来た。


 和哉の家で晩飯を食べたこともある。


 高校に入ってクラスが同じだと分かったときは、本気で安心した。


 知っている奴がいる。


 和哉がいるなら大丈夫だって。


 向こうは違ったのか。


 俺のことなんて、いつでも笑いものにできる相手だったのか。


「…………」


 目の前の床がぼやける。


 泣きたくない。


 ここで泣いたら、本当にあいつらの思いどおりだ。


 そう思って袖で目元を擦った。


 けれど、次から次へと勝手に出てくる。


 どのくらい時間が経っただろうか。


 分からない。


 数えてもいない。


 空は少しずつオレンジに染まっている。


 帰らないと。


 そう思うのに、身体が動かない。


 カバンを持ち上げる気力さえなかった。


「ど、どうしたんですか! 信吉さん!!」


 勢いよく屋上の扉が開いた。


 誰かが俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる。


 俺は抜け殻のような状態のまま、ゆっくりと視線を上げた。


 肩にかかる長さのボブヘア。


 その髪は少し目立つピンク色に染められている。


 俺を見つめていたのは――。


「和美……ちゃん……?」


 和哉の妹。


 和美ちゃんだった。


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