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銀行強盗

男が3人、私が偶然居合わせた銀行で、突然猟銃のようなものを構え、行員にお金を引き出させた後、その場にいる人達を1ヶ所に集めた。1人は他の部屋を確認に行き、1人はこちらに銃を向けて突っ立って、もう1人は電話で警察と口論している。建物自体は1階しかなく、その半分以上が今居るスペースで構成されているくらいの大きさしかないので、別室を確認している男も程なく戻ってくるだろう。

人質は全員身体の後ろで手が結ばれている状態で、電話のやり取りを恐々見守っていた。

ガチャリと叩きつけるように受話器を置いた男は興奮冷めやらぬ様子で人質となった我々に目を向ける。どうやらお気に召した子がいたようで、大学生くらいの女性に近寄って手の紐を解き、服を脱ぐように強要した。

私はそんな様子を見ながら、考える。

今、このまま目を閉じて、何もせず、何も見ないで全て終わるまでじっと待つという選択肢もあるが、同時にこの場の全員を救える可能性も持ち合わせている…と。


私は暴力の誘惑に負け、正義感という言い訳の下に、誰から順に対処するかを急いで考えた。先ずは銃を奪って私が撃たれない状態にすることが重要だと思った。

見廻りの男がいつ戻るとも知れず、考えも纏まりきらないままにとりあえず手は結ばれた状態を維持して立ち上がってみる。当然のように全員が私に視線を向けた。

「なに?」

そう言ってずっと突っ立っていた方の男がこちらに銃を向ける。立ち上がったのが学生服を着ていて、どう見ても中~高の女学生だったからか、女子大生側の男は銃口をこちらへは向けずににやけ顔で見ているのみだった。

ラッキーだ、良かったと、そう心の中で呟く。緊張で心臓が早鐘を打っている。

「あ…えと、私は…足の速さに自信があるので、そんな銃は…意味ない…です。たぶん」

男は銃を向けたまま、「冗談だろ」と馬鹿にするように笑った。

「正義感か何か知らんけど、大人しくしてた方が身の為だぞ。ほら、勇気と無謀は違うっつうだろ。」

他人なんか助けようとせず黙ってれば目を付けられずに済んだかもしれないのに、という心の声が聞こえてくる。確かに足の速さに自信なんてなく、ただ後々の辻褄合わせの為の方便程度の理由で吐いた嘘だった。

私は何も言わずに、男に向かってゆっくりと走り出す。男は一瞬怯んで、直ぐに銃を私に向け構え直し、「おいバカ、来るな!」と叫び後退りながら引き金を引いた。銃口は私の額の数十センチ手前くらいだったが、発砲の直前、手首の紐を解きしゃがみ込むように前転する。そして銃は発砲の際、反動で大きく上に逸れた。彼が予想していたよりずっと大きかったその反動に気を取られたようで、男は両手を上に挙げた無防備な格好になる。上手くいったと私が飛び付くと、男はそのままバランスを崩し押し倒される形になった。

その手から銃が離れたのを見てとると、急いで奪って身体を起こし躊躇わずに男の足に銃を向けて引き金を引く。耳を劈く様な音と、複数の悲鳴が響いた。

「動かないで。でないと次はこの人の頭撃つから」

そう言って、途中まで呆気に取られていたもう1人の男がこちらに銃を向けようとするのを制した。男は既に先程までの性欲は失せ、恐怖の眼差しをこちらに向けている。

「お…お前、なんなんだよ!」

男は叫んだが、声は震えている。私が仲間を撃ったことを引き金にした、恐怖の植え付けは成功したようだ。また、真っ赤に染まった膝を抱えて蹲る仲間の様子も気にしているようだった。

私は女子大生に「その人の手を縛ってもらえますか」と依頼し、残りの1人が部屋に戻るのを待つ。銃声があったから程なく戻ってくる筈である。

女子大生が男の手を縛り終えた頃、部屋の扉が開く。

「おい、何かトラブルか…!?」

見回りの男は形勢逆転しているとはつゆとも疑わず完全に無警戒だったので、室内の状況を見た途端動きが固まり、そのまま銃を取り上げて縛るのは簡単に終わった。

人質達と銀行強盗達の状況が完全に入れ替わり、私はフッと肩の力を抜く様に息を吐いて、銃を強盗達の手が届かない位置へ置く。大抵後になってから思い至る事が多いが、最初の時に片方をトイレに移動させるとかして1人にしてから動いた方が運の要素は少なく済んだかもな…と考えた。

人質達の内、数人が窓を開けて手を振り警察の機動隊を呼んだ。女子大生は私へ涙ながらに礼を言ってきた。

そして、私や強盗達も含め、全員がそのまま行き先は別々に病院へ移送された。発砲があった為、我が国ではその様なフローを辿る仕組みになっている。

病院で簡単に聴取を受け、私はそれまでに考えておいた説明を行なった。目の前で起こる悪行の数々に我慢できず、一か八かの抵抗を試みたと、そんな内容である。

その後、1週間もしない内に退院となったが、念の為にと精神科にはしばらく通院するように指示された。


翌週の始め、学校に行く際、保健室と職員室を経由してから担任と教室に入ることになった。

「事件の事をみんな聞きたがる筈だろうし、デリカシーの無い質問もされるかもしれないでしょ。最初にきちんと先生から説明するからね」

とのことである。私は警察から聞いていますと表情で語りながら物知り顔で接してくる。いろいろ面倒ではあるが、恐らくありがたい話なのだとは思う。

教室にて担任から心の負担などの説明をされ、最初の1週間くらいは腫れ物に触るかのような扱いを受けたが、それでも気を遣いつつ事件の事を質問されたり、運動部への勧誘があった。皆、自分達をメインキャストに含めたスポ根やアクション漫画の世界でも期待しているみたいだった。

元々人付き合いが得意ではないということもあるが、馬鹿馬鹿しくも感じてあまり相手にしないようにすると、皆あからさまに態度を変える。中には聞こえよがしに悪態を吐く者もいた。

週末には「お手柄女子高校生」として警察から賞状を貰い、両親と警察が私の代わりに取材を受けて当たり障りなく対応する。

取材が終わって帰宅した後「あなた運動得意だったなんて、ビックリしちゃった」と母にも言われた。私は苦笑混じりに「別に得意じゃないよ」とボソッと呟いた。


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