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第21章

「……トンネル?」

 ――そうとしか表現できないものが康大達の視界に広がっていた。

 現代日本のトンネルの様にしっかり舗装された建造物ではないが、入り口を岩と草で巧妙に隠されていたそこは、四つん這いになれば十分通れるような大きさのそれだった。

 ジャンダルム山頂付近にあった平べったい岩を思い出し、てっきり無茶な山越えをさせられると思っていたが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。


 もちろん楽な道程と決まったわけではないが。


「トンネルですね。恐らく極秘のうちに掘り、我が国のグラウネシア派の貴族の領土に繋がっているのでしょう。国境付近ならフジノミヤとグラウネシアの両天秤の領主も、それほど珍しいわけではありません」

「それって裏切りじゃ……」

「ありていに言ってしまえばそうですが、厳密に対処していれば誰もついてこないでしょう。我がアビ家も、歴史上常にフジノミヤに従ってきたわけではありませんから……」

「・・・・・・」

 現代日本の中央集権が当然と思っている康大には、弱小領主の悲哀などは理解できない。

 ただ自分が口出しすべき話でないことは何となく理解した。

 康太はフジノミヤ王国に正式に仕えているわけではないのだから。


「まあこうしてさすがに知ってしまった以上、不問というわけにもいかないでしょうが。しかし、自分の立場が不利になると知っていてなおここを紹介するあたり、よほどサムダイ卿も焦っていたのでしょう。私たちがフジノミヤに間に合わなければ意味がないと」

「……急ぐか」

「御意」

 まず先頭をコルセリアが、次いでザルマ、康太、ハイアサースと続く。

 康太が最後尾だと、遅れても誰も気づけないための配慮だ。少なくとも体力に関しては康大よりハイアサースの方が上である。



「(しかし……)」

 一時間ほど四つん這いで歩きながら康太は思った。

 このトンネル結局どれぐらいこの態勢のまま、歩き続けないとならないんだろう、と。

 せめてハイアサースの尻でも眺めながら歩いていたら気も晴れただろうが、残念ながら前を進むのはザルマだ。そのザルマにしても、周囲が真っ暗なためほとんど見えない。ときおり「ついてきているか?」の問いかけに反応するぐらいだ。


「(さすがに富士山の真下を進んでるってことはないだろうけど……)」

 もしそうだったとしたら一日二日では到底たどり着けない。

 ただ、グラウネシアの標高の高さを考慮すれば、そこまでの距離ではないはずだ。

 おそらく中腹あたりに築かれているのだろう。現にトンネルはずっと下りである。


 そのため、()()()()()()()()()()にも気づくことができた。


「あれ、これはなんか……なあハイアサース」

「なんだ?」

 康太の背後を遅れることなくしっかりついてきているハイアサースから、すぐに返事が来る。


「昨日せいかもしれないが水が流れてないか?」

「気のせいではないと思うぞ。ここに入る前、小雨が降っていたしな」

「あー、山の天気は変わりやすいってそういう……」

 康太はため息を吐いた。

 暦の上ではせいぜい初夏であるため、凍えるほどではない。ただ現実セカイの山梨よりははるかに気温は低いので、体温は奪われ、疲労が加速度的に増していく。

 その一方で、水没する恐怖は感じない。

 これが登りなら命の危険を覚えただろうが、下りならそのまま出口に流れるだけだ。

 疲労困憊の頭でそう短絡的に思っていたが――。


「ああ、何というか悪い報告がある」

 先を進むザルマがなんとも言いづらそうに康太に声をかけた。


「悪い報告なら聞きたくない。俺の耳は良い報告しか聞けないようにできてるんだ」

「じゃあ今すぐ改造しろ。道が下りから少し進んだところで登りになってる」

「あーあー聞きたくない」

「さらにすでにある程度浸水して、このままのペースで進めば通れなくなる可能性が高いとコルセリアは分析しているぞ」

「ああもうホントに糞だ!」

 康太は洞窟内で絶叫し、「洞窟内で大声を出すな!」とハイアサースにしごくまっとうな理由で尻を叩かれた。


 踏んだり蹴ったりだ。


 それから康太は自分自身をゴキブリの子孫だと思い込ませ、両腕両足をばたつかせながらトンネル内を進んでいく。

 ザルマの言ったとおり、ある程度進むと肘あたりの高さまで浸水した場所に到着する。

 ここから先、どれほどの区間が水に浸かっているかさっぱり分からない。

 先行しているザルマの姿は全く見えないので、すでに水の中に潜ったのだろう。


 康太は反射的に後ずさりをした。

 先が分からない水のトンネルなど、海賊船の時以上の恐怖だ。

 だが。


(ここで俺がまごついてたら、後ろに続くハイアサースがもっと危険になるんだよな)


 引き返すこともできた。

 けれども、戦闘力の乏しい自分とハイアサースだけで、戦争中の敵国で生き残れるとは到底思えない。

 ここまで来た時点で、もう引き返す道はないのだ。


 ――そう分かってはいるのだが、感情と行動はまた別である。


「コウタ様!」

 そんな康太の耳に、遠くコルセリアの声が聞こえる。

 どうやら彼女は先を抜けることができたらしい。


「ケイアとの約束ではありませんが、絶対にコウタ様とハイアサース様はこのコルセリアが守ります! ですからさあ早く!」

「・・・・・」

 コルセリアの悲痛とも取れる叫びに康太の覚悟も決まった。

 まだ会って間もない女性であるが、彼女の有能さと何よりザルマに対する一途な態度は信じていいように思えた。たとえ自分が赤の他人でも、決してザルマの悲しむようなことはしないだろうと。


 康太は勢いをつけて先に進む。

 10歩ほど進んだところで、体が完全に水没した。

 こうなったら一秒でも早く先に進むしかない。

 クロールで泳ぐスペースすらないので、トンネルの壁に腕をかけながら体を押し出すように進ませる。


 幸いにも水流も加わって進行スピードは四つん這いより上だった。

 だが浸水の速度が予想以上に速かったのか、なかなか終わりが見えない。

 コルセリアの声からそこまで遠くないと思った康太の考えは甘かったのだ。


(息が……!)


 康太がいよいよ死を覚悟したとき、突然体が強制的に前に進む。

 それはまるで、トイレの排水口に飲み込まれたときのような状態であった。

 そして強制的に水のトンネルは終わりを迎えた。


「うわっ!?」

「――と」

 勢いあまって、前にいたザルマ……ではなくなぜかコルセリアにぶつかった。

 どうやら先で順番を交代し、康太を魔法で引っ張ったらしい。

 ただ今まで必死だった康太はそんなことを推察する余裕などなく、本能に従った行動をした。


「・・・・・・」

「あの……ん、コウタ様、その、よろしいで……はあ……しょうか……んん……」

「え、あ、え?」

「その、胸が……」

「あ……ああ!?」

 妙にコルセリアが艶めかしい声を上げていると思ったら、どうやら自分は思い切りコルセリアの胸を揉んでいたようだ。

 ハイアサースの様に金属の鎧ではなく革鎧ではあるが鎧は鎧、普通なら固い感触がするだけである。

 しかし、康太のゾンビ的な怪力はその革鎧を貫き、生存本能に刺激された性欲に従い、思うままにコルセリアの胸を揉みしだいていたのである。


「ご、ごめんなさい!」

 そう言って康太が手を離したのは、十分コルセリアの胸を堪能した後だった。

 ハイアサースほどではないにしろ、コルセリアの巨乳も素晴らしい触り心地で、思わず四つん這いのまま腰をかがめる。


 先にいたザルマに2人のやり取りは見えなかったが、あとから自力で来たハイアサースにはすっかりバレ、その後洞窟を抜けるまで、持っていた剣で尻を何度も突かれるのだった……。

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