激戦を終えて
エフタの街に戻ったサウルたちは表情が暗かった。
ベッドの上に横たわったユクトを心配そうに見ながら、ヒルキアが口を開いた。
「こうしてても始まらない。もう一度、シャムガルへ向かおう」
「いや。王都ザカリアに行こう」
扉のほうから声がした。
買い出しに出ていたオリンが戻ってきたところだった。
シャムガルでは結局、ハコブネの存在を確かめることはできなかった。
アレクシスのいた場所が最深部だと思い込んでいたが、ひょっとしたら、もっと奥が、あったのかもしれない。
ユクトも負傷し、オリンをはじめ皆が疲労の色を濃くしていた。今回の旅は引き際だった。
サウルの転移魔法で一同はエフタに退散してきたのであった。
ルーンスレイザーを放った後、ユクトは意識を失い、目を覚ます気配がない。
寝ずの看病を続けていたオリンだったが、思いつめるのもよくないと気分転換にサウルに買い出しを勧められたのだ。
オリンは買ってきたリンゴをテーブルに並べ始めた。
今回の戦いで、オリン達が保有する魔剣は、ユクトのルーグシュトルムだけになってしまった。
その持ち主は意識不明で生死の境をさまよっている。
ダルティーマへの献上品である、ダークロアの鍵は手に入れたが、肝心のシャランダールがない。
魔剣の一本も携えないで、レーシャへの目通りが叶うとは思えない。
ダルティーマの魔女がどれだけ気が長いが、わからないが、今はまだ、ダルティーマに行く時ではない。
「大丈夫か? おまえも魔剣を失って、辛いだろう」
サウルにいわれ、オリンは小さく肩をすくめた。
「不思議だけど、シャランダールとはまた会えるような気がする」
「わたしもだ」
サウルは握っていた手を開いた。
オリンもポケットから取り出したものを掌にのせた。
豆粒程度の結晶となってしまったシャランダールとアルヴィースを愛しそうにみて、オリンは笑った。
「もう一度、ファネドへ行こう。アスタロトならなんとかしてくれるかもしれない」
「……サイザール城か」
サウルがうなずく。
「ふたたび、魔剣を蘇らせるのだ」
「シャランダールは失ったけれど、これで自由に魔法が使えるようになった」
オリンがベッドの上に無造作に置かれたメイススクリプタをみた。
「いよいよ、これの真価が試されるときだな」
オリンは肩で笑った。
「いまなら、ダークロアもエンデベッドノアも使える。真正オリン様の活躍をとくと見やがれ」
「その前にゴルディオの呪をなんとかしなければ」
サウルは辛辣な表情を動かさない。
「そうだな」
オリンは腕を組んで思案する。
呪いを解くだけならファネドへ行くという手もある。だが、距離の問題がある。転移魔法でエルタド辺りまでは飛べると思うが。
「やはり、ウィジャをとっつかまえたほうが早そうだな」
ヒルキアが云う。オリンはうなずいた。
「ガラテアとハウメアが邪魔してくるだろうが、なんとか隙をみて、ダークエルダの書だけ奪おう」
オリンは拳を掲げた。サウルもそれに倣う。ヒルキアもしぶしぶまねた。
「行こう。王都ザカリアへ」