第81話 帰郷
――ペシペシ
ファラの召喚獣に、小さな手で叩かれて目が覚める。
「おう、起こしてくれてありがとうな。もう近くに居るのか?」
――ポン、ポン
「そうか。んぅーっ。はぁ、起きるか」
召喚獣が落ちないように立ち上がり、背伸びをして皆を待つ。
それにしても、この召喚獣長持ちしたな。ファラが帰ってきたらMPの消費量なんかを確認しておかないとな。
そう思いながら、周りをキョロキョロしてみると、街の方からランを先頭にミリア達が歩いてくるのが見える。
あの子達は、着ている服もそこら辺の住人にように茶系の服じゃないし、容姿的にも遠くから見ても目立つな。
「おーい、タカシくーん。起きてたんだね!」
「あぁ、ファラに起こしてもらった」
ファラがこちらの状況を、皆に説明してくれていたのだろう。
「タカシさん、お金ありがとうございました」
「おう、ちゃんと欲しい物買えたか?」
「はい! あれだけあれば何でも買えますから」
「ちなみに何を買ったんだ?」
皆から順にお礼の言葉を貰えた。この程度で喜んでくれるなら、今後はもっと買い物イベントを提供しよう。
そんなことを考えていると、それぞれが買った物をインベントリから出して見せてくれる。
ミリアは髪留めか、何個か買っている。日替わりなのだろう。
ファラは予想通り果物などの甘い物。しかも大量に。
マリーは耳飾りとブレスレット。上下でお揃いか。似合うな。
ランは……なんだこれ。
「ラン、お前はバカなのか? あ、そうか。バカだった」
「ひどい!? なんで、なんで!? これカッコいいでしょ!」
木彫りの熊の置物。何に使うんだよ……。おままごとか?
「ガオーッ」
ランが顔の前に置き物を持ってきて熊になりきっている。熊なのに、“ガオー”なのか。まぁ、熊の威嚇方法なんて知らないけど、ランだし、多分違うだろう。
でも、かわいいじゃないか。用途があって良かったな。
「さ、行くぞ」
「ちょっと、ムシ? 無視なの!?」
ほっこりしたところで、ランを放置して船乗り場の小屋まで移動すると、元気の良さそうなエルフの女性が椅子に座っていた。
「こんにちは。船に乗りたいんですけど、どうすれば?」
「そこの船だよ。もう少しで出るよ。一人5銀ね」
昔テレビで見たことのある、屋形船みたいな感じだな。縦長の木造船で20人くらいは乗れそうだ。
お金を払い、乗船し、適当なところに集まって座る。
ファラが自分の為に買ってきたはずの甘い物――主にフルーツを、何個か皆に配っていたので、それを食べながら出航を待つ。
代わりの物はまた今度買ってあげよう。
「それでは出航しますよー。少し揺れますので、気を付けてー」
ウチのパーティー以外に十人ほど船に乗ったところで、船頭から出航の合図が出る。
皆近くの船縁を掴んでいる。ファラは膝の上でモシャモシャしているので、代わりに掴んであげる。
揺れを警戒していたが、何処かを掴むほどではなく、そのまま船は流れに乗って川を下り始める。
「マリー、何処で降りて、何処に行けば良いか教えてくれるか?」
「は、はい! ええと、この先に東側から流れてきている川と、この川が合流しているところがあるのですが、その辺りで降ります。そこから数分歩いたら到着です!」
近そうだし、向こうに着いたらゆっくりできそうだ。
着いたら、まずは泊まる場所を探さないといけないな。
「村には宿とかあるか?」
「宿はないです……でも、私の住んでいた家が残っていれば、そこをお使いください」
「分かった。じゃあ、そうさせてもらおう」
食料は先程調達してきてもらったし、寝床は確保できた。
着いたら奴隷狩りで村人が何処に連れていかれたか、情報収集だな。
村に着いた後の行動を決めつつ、船旅を楽しむ。
それにしてもこの川、森の間を流れているわりにキレイだよな。
森の中だしもっとこう、未開の地のように、船が進むのに難しいようなイメージだったが、流れもゆっくりで上りも簡単そうだ。
たまには、こういうのんびりした旅も良いな。
数時間ほどランをからかいながら、ファラのぷにぷにを堪能していたら、東側から川が合流している所に着いた。
「タカシ様、そろそろ到着しそうです」
「そうか。この船、降りる時は自己申告制なのか?」
「はい。船頭さんに伝えると下ろしてもらえます」
「じゃあ、言ってきてくれ」
正確な場所も分からないので、マリーに任せることにする。
しばらくしてマリーが戻ってくると、船もそのまま西の森の方へと寄っていく。
「あそこの一部分だけ木がないところで降ります」
「あそこか。よし、皆降りるぞー」
「はい!」
「わかった」
「はーい」
マリーが指定した場所は、ちゃんと船がつけるよう木の板などで加工が施されていたので、簡単に船から降りることができた。
「ありがとうございました」
「はいよー。じゃあな!」
船頭さんにお礼を言って別れた後、マリーを先頭に村を目指す。
マリーの言っていた通り、数分歩いただけで村が見えてきた。
しかし、生活音などが全く聞こえないな。
更に村に近付くと、外壁や建物は崩れているし、なにより人の姿が見当たらない。
「ここで間違いないのか?」
「はい……でも、まさか、そんな……」
一部の建物は、焼かれたような跡があるし、畑も荒れ放題。どこからどう見てもただの廃村じゃないか。
でも、普通に考えたら、奴隷狩りにあった村なわけだし、こうなっていることも予想できたよな。失敗した。
「誰か! 誰か居ませんか!?」
マリーが駆け出し、居るかどうかも分からない村人に向かって、呼び掛けながら村の中に入って行ったので、皆で後を追う。
「魔眼」
村には本当に誰も居ないのか、魔眼を使って、できるだけ広範囲をサーチし――いた!
「あっちに人が居る。ファラ、ラン、俺が行くから、警戒しておいてくれ。ミリアはマリーを連れ戻してきてくれ。盗賊が居るかもしれないから、くれぐれも注意しろよ」
「わかった」
「わかったよ!」
「はい!」
二手に分かれて、人の気配のする方へ移動してみる。
人の気配がする家は、特に壊れた箇所のない家で、中には計三人ほど居るようだ。
動きからして、まだこちらには気が付いていないだろう。
「いくぞ」
「ん」
「うん」
――バンッ
ドアを勢いよく開け、武器を突きつける。
「動くな!」
ハンス・ヴィト Lv.14 村長
「だ、誰だ!?」
「きゃあああ!」
「いやあああ!」
盗賊かと思ったら、村長かよ。また失敗した。
それより、奴隷狩りにあったのに無事だったのか。
「待て! 俺達は怪しい者じゃない!」
「怪しすぎるだろう!」
「怪しいが、盗賊じゃないから安心しろ!」
近くにあった斧をこちらに向けて構えられたので、こちらは武器を収め、攻撃の意志がないことを伝えるが、話が通じない。
そりゃあいきなり家に突入されて武器を突きつけられたら、怪しいし、警戒されるよな。しかも、第一声が“動くな”だしな……。
ジリジリと村長がこちらに近付いてきているところで、ミリアとマリーが来てくれた。
「村長!」
俺と村長の間に入り、両手を広げて場を収めてくれる。
「お、お前、マリー……か?」
「はい、マリー・カレーズです! 覚えてますか!?」
「おう、忘れるわけがなかろう。生きておったのか……良かった。それより、これはどういうことなのだ?」
「ええと、この方は、その、私の主人のタカシ様です」
マリーがこれまでの経緯を村長に説明し始めたので、何も言わず見守ることにする。
俺の事を勇者とか紹介するのではないかと心配したが、単に主人と説明しただけなので安心する。
その甲斐もあって、何とか警戒を解いてもらうことができた。
お茶を勧められたので、椅子に座り、現在の村の状況等を聞く。
「それで? 他に村人は居ないんですか?」
「あと数人居るが、今は狩りに出たり、街まで食料を調達に行ったりしている。畑をめちゃくちゃにされたからな。食料がないんだ」
「もう誰も居ないかと思ったけど、逃れた人も居たんですね」
「あぁ、ウチらのように偶然村を離れていた者や、狩りに出ていた者達は無事だった」
なるほど。抵抗出来るであろう、狩りが出来るような戦闘のできる村人が居ない時を狙われたのか。
「攫われて帰って来た人は居るんですか?」
「居ない。マリーが初めてだ」
「攫われた人たちが、何処に連れて行かれたか分かります?」
「食料調達のついでに、街で情報収集をさせたんだが、どうやら北に盗賊団のアジトがあるらしくてな。恐らく、そいつらではないかとは思う」
あぁ、だから緊急依頼が出ていたのか。
でも今更討伐したところで、マリーは既に売られていた後だし、他の面子も売られているか殺されているだろうな。
「マリー、お前が売られた時、他の人達はどうしていたんだ?」
「ええと、私を含めて数人がザクゼル、数人はエストルに売ると言っていました。弟を含めて残りの人達は分かりません」
「そうか。ファラ。お前がエストルに居る頃、エルフが売られてきたことあったか?」
「うん、女の子一人、お姉さん二人。でも、すぐ居なくなった」
エルフの奴隷は珍しいって聞いたしな。すぐに売れてしまったのだろう。
エルフの女の子……俺が奴隷商に行く前に買った奴が居るのか。全くけしからんな。
「マリー、お前が売られた時何人居たんだ?」
「私を含めて三人です」
「攫われたのは何人だ?」
「十四人です」
「じゃあ、残り八人は盗賊のところに居る可能性があるのか」
狩りが出来る村人が居ない時ということは、女子供をまとめて攫われたのか。
「残り八人って、やっぱり男が多いのか?」
「はい。女性二人に男性六人です」
「その男の中の一人が弟ってわけか」
「はい……」
これは覚悟しておいた方が良いかもな。
売れない者を残しておいても維持費が掛かるだけだし、奴隷狩りを行うような輩が、不良在庫を生かしておく可能性は低い。
「マリーがこうやって戻ってきたことは嬉しく思うが、これからどうするんだ?」
「うーん、どうするかな……」
村長に今後の事を聞かれるが、正直判断に迷う。盗賊狩りは金になる。そのついでに、マリーの弟が見つかれば一石二鳥だ。
「え、タカシくん。盗賊討伐に行かないの?」
「相手の戦力が分からないからな、迷っているんだよ」
行かない手はないんだが、相手がどの程度居るか分からないような所に突っ込むなんて、無謀だもんな。
「タカシ様。私達が連れて行かれたところは、確かに北でした。そこには二十人ほど居たと思います」
「情報収集で分かった事といえば、ヴェルムが絡んでいるということくらいだ」
「またヴェルムかよ!」
以前戦った奴等が二十人程度なら、俺一人で何とかなりそうだ。
でも、人質に危害を加えられたら面倒だしな。全員で一気に殲滅する戦い方が良いかもな。
「君達、ヴェルムと何かあるのか?」
「前、幹部の側近か何か知らないですけど襲われたんですよ」
「なにっ!?」
「まぁ、返り討ちにして知り合いの騎士に引き渡したんですが」
「なんと……」
それにしてもヴェルムは北部で活動しているって聞いていたが、エルフの森にまで手を出してきていたのか。
しかもアジトがあるって、そこそこ規模がデカいよな。
やっぱり金になりそうだ。
「タカシさんが今考えていることが分かりました」
「お、そうか! さすがは俺の嫁だな」
「まだ嫁じゃないです!」
「タカシの嫁はファラ」
ミリアから突然のツッコミ。どうやら顔に出ていたらしい。
指で報酬などを計算していたのを見られたのかもしれない。
「ミリアは違うらしいから、俺の嫁のファラちゃん。今、俺が考えていたことを発表してみて」
「とーぞくをみなごろし」
「さすがだなー、ファラ。偉いぞー」
「フ」
皆殺しまでは考えてなかったけど、概ね当たっている。
それにしても、このドヤ顔……とりあえず撫でてあげよう。
「タカシさん、本当にやるんですか?」
「さっすがタカシくーん!」
「そ、そんな簡単に……」
村長が驚いている。いや、心配してくれているのか? そりゃあ子どもの多いパーティだしな。仕方ないか。
「おい、マリー。この人はそんなに強いのか……?」
「えぇ、タカシ様はゆう、し、い、い、偉大な方ですから!」
「そう、なのか? そうは見えんが……」
よく我慢したな。
さて、そうと決まれば行動だな。
「よし、村長。奴らの居所を教えてください。それと捕まえた盗賊を輸送するから、少し人員をお願いできます? 戦闘はしなくて良い。運ぶだけでいいので。その対価として村をキレイにするから」
「村をキレイに? 良く分からんが、今狩りに行っている者達を連れて行くと良い。中には嫁や子どもが攫われた者も居るし」
「助かります。他に何か欲しいものあります? 食料や衣類など」
「買い出しに行っている者の分では足りんから、食料が欲しい。衣類には手を出されなかったから大丈夫だ」
盗賊を倒した後、全員神脚で運んでも良いが、MPが足りるか分からないし、運ぶのを手伝ってもらおう。
運んだ後はウチのパーティーで騎士団に突き出すから、報酬は俺達が貰う。
その代わりに、壊れた家などを修復してあげるという作戦だ。
「食料は適当に買ってきますよ。いくら分欲しいです?」
「ふむ。今食料に使える金は村全体で6金ほどある。これで買えるだけ欲しい。だが、そんなに大量に持っているのか?」
「買ってくるんです。後でお金と交換しましょう」
「ん、買う? わ、分かった」
村長から盗賊のアジトがある大体の位置を聞き、村長宅を出る。
「ミリア、ファラ。お前達にお願いがある」
「はい、何でしょう?」
「ん?」
ミリアとファラを呼び、近くにあった壁がボロボロになっている家に手を当て、魔法で修復してみせる。
「こうやって家を修復しておいてくれ」
「わかった」
「分かりました。それで、タカシさんはどうするんですか?」
「マリーとランを連れて街に戻り、この村の食料を調達してくる」
「なるほど。じゃあ、戻ってくるまでに直しておきますね!」
ミリアとファラには家の修復と外壁の修復を頼み、マリーとランを連れて街に飛ぶ。
「俺はエルフの好む食事が分からん。マリー、お前が食料を選べ。全部で8金分な」
「分かりまし……え、6金分ではないのですか?」
「あぁ、2金分はサービスだ。人手がなくて大変だろうしな」
「はい! ありがとうございます! です!」
少し感動してくれたみたいだが、実は違うんだよ。
盗賊討伐の報酬があるから、その分け前みたいなものなんだよ。まぁ、言わないけど。
「ラン、お前は盗賊を縛る為の縄や、目や口を塞ぐ為の布などを三十人分くらい探してきてくれ」
「はーい、分かったよー」
二人に買い物を頼み、店の外でそれぞれが見える位置に立って待つ。
盗賊は二十人程度と聞いていたが、縄や布が多いのは、もしもの時の為の予備だ。今後も使うだろうし。
ランの方を眺めていると、マリーから呼ばれたので、支払いを済ませ、インベントリに放り込んでいく。
それにしても大量だな。これだけあれば、数週間は食べていけるんじゃないだろうか。
実はマリーって買い物上手なのかもしれない。意外な一面だ。
そのままランの方へ移動して、ちゃんと商品を確認してから会計を済ませる。
ランには買い物を任せられないことが、今日改めて分かったのでただ探させるだけだ。
面倒だったし、顔見知りも居ないので、門から外には出ず、路地裏に移動して、そこからマリーの村に戻る。
そのまま村長宅に行き、食料とお金を交換して、ミリア達の下に行くと大体の家は修復が完了していた。
既に燃えてしまった家は、さすがに原型が分からないのだろう。何件かそのままだ。
外壁もちゃんと修復できているし、これだけキレイにしたら問題ないだろう。対価としては十分だ。
「マリー、お前の家を教えてくれ」
「ええと、その、あそこの、燃えてしまっている家です……」
「おおう……」
「仕方ない。屋敷に戻るか」
屋敷に戻る話をしていたところで、村長がやってきた。
「君達はすごいな! どうやったらあんな事ができるんだ!?」
修復した家を指差しながら質問されたので、適当に答えておく。
「あぁ、ただの魔法ですよ」
「そうなのか! 君達なら盗賊を何とかしてくれそうな気がしてきたよ! そろそろ狩りに行っている者も戻る頃だ、お礼に夕飯を一緒にどうだろうか」
帰るタイミングを間違えたな。夕飯に誘われてしまった。
「それと、今は使っていない家がある、是非そこを使ってくれ!」
「ありがとうございます。じゃあお世話になりますね」
とても断れそうな雰囲気ではないし、明日の作戦も運搬係に話す必要がある。折角の好意なので招待を受けることにしよう。
招待を受けた後、夕方頃には狩りから帰ってきた男達と、村長の嫁と娘が一緒になって食事の準備をし始めた。
どうやら宴会風に、皆一緒に食事をするらしい。
夜になり、皆で食事をしながら、明日の作戦などを伝える。
伝えると言っても、絶対に前に出てくるな、危なくなったら必ず逃げろ、という感じなので作戦とは言えないが。
食事が終わり、提供された家に入ったが、風呂がなかった。
諦めようと思ったが、家の裏手にスペースがあったので、小屋を作り、風呂を用意して皆で一緒に入る。
風呂から出て、魔法の練習を行おうとしたが、家の修復等で使ったのだろう、MPが残り少なくなっていたので大人しく布団に入る。
「明日は忙しいぞ。皆、頼むな!」
「はい!」
「わかった」
「何でも申し付けください!」
「はーい」
まったりした一日だったけど、時間の流れは早いな。
明日に備えて寝よう。
「おやすみ」
「「「「おやすみなさい」」」」




