第59話 恩恵
目が覚めると、ミリアの顔が目の前にあった。
膝枕してくれていたようだ。
「……あぁ、倒れたのか……」
「タカシさん……やっぱり、勇者だったんですね……」
「は? どうしたんだ、突然?」
「大丈夫です。内緒にしておきますから」
「いやいや、ほんと違うって。それよりお腹はどう?」
名残惜しい膝枕から頭を上げ、ミリアの服を捲りお腹を確認する。
そこに奴隷紋は無かった。良かった、成功したのか……。
それにしてもMP使い過ぎだろう。ゼロにはなっていないが……八割くらい持っていかれている。それになぜかHPも減っているし。
消費量を調べる為、全快している時に使えば良かったな。
「いつまでお腹見てるんですか……」
「あぁ、ごめん。キレイだったから見惚れてた」
「もう……」
奴隷紋が消えているのが分かったので、所有奴隷の項目を確認する。
所有奴隷:ファラ・オスロ マリー・カレーズ
次に、ミリアのジョブを確認すると、奴隷と使徒が無くなっていたので、付与術士を入れておく。
色々と確認や設定をしていると、ミリアが喋り出した。
「タカシさん、ごめんなさい……」
「うん?」
「実は奴隷契約を破棄させられるかもしれない方法、一つ知っていたんです……」
「まじかよ……教えてくれれば良かったのに」
「ごめんなさい。だって……本を読んだだけなので、本当かどうかも分からなかったし、それに本当だったら――」
「本当だったら、マズイの?」
「本当だったら、タカシさんが勇者ということになってしまうので、迷惑掛けちゃうかと思って……」
過去に勇者が同じようなことでもしたのだろうか。それだったら、本当に俺が勇者であることが分かってしまう可能性はあるな……。
「そうか。でも、ミリアに対して迷惑なんて思わないよ。それで? その方法って何だ?」
「勇者が……旅を終えてパーティーを解散する時に、パーティーにいた奴隷に魔法を使って、奴隷契約を解除したそうです。物語になっている勇者の本に書いてあるので、知っている人は多いと思います。だから、私との関係を知っている人に知れたら、タカシさんが勇者だということが分かってしまうかもしれません……」
「そういうことか……まぁ、その時はその時だ。それにミリアが言い訳して、かばってくれるでしょ?」
「えっ!? も、もちろん、ですよ?」
疑問形なのが不安だ。混乱すると、余計な事を口走るし……。
でも、これでミリアの夢が叶うのなら、大した問題ではない。
「でも良かったよ、成功して」
「私はもう、諦めていたので、タカシさんが本当に勇者だったという事の方に驚いてます」
「俺は単に勇者と同じ事が出来ただけの、ただの魔術士だよ」
「……分かりました。そういうことにしておきます。でも、本当にありがとうございます」
「良いよ。お礼は体でね」
「もう……! そういうところが好きになれないんです!」
怒られた。でも、恐縮されているよりマシだ。
気休め程度にマナポーションを飲んで、立ち上がる。
まだ少しフワフワするが、問題ないだろう。
「さて、ミリアの泣き顔も堪能したところで、ザクなんとかには用が無くなったし、これからの予定を決めようか」
「泣いていませっ……んことないですね……ごめんなさい」
「鳴くのは俺とベッドに入っている時だけな」
「……か、考えて、おきます」
おぉ、少しはミリアとの関係が前進したかな?
期待しておこう。
それより、今は協会だ。
さすがにザクなんとかに戻って、奴隷ではなくなったので登録をお願いします、などとは言えないので、違う街を聞く。
「ここから一番近い、協会のある街は何処だ?」
「少し西に行ったところに、魔術士の多い街オスルムがあります」
魔術士が多いのなら、ミリアの凄さがより分かるだろう。
「それじゃあ、ミリアの登録の為、早速そこに向かおうか」
「はい。じゃあ、ファラとマリーを呼んできますね」
「いいよ。俺が呼ぶよ。それより、奴隷じゃなくなったこと、まだ二人には内緒にしておいてくれよ?」
「あ、はい……って、どうやって呼ぶんですか……?」
二人を呼ぶ程度のMPは残っているので、また神口を使う為、魔力を込める。
もうミリアは俺の事を勇者だと確信しているようだし、違う魔法を見せても問題ないだろう。
「マリーがここに来る、ファラがここに来る」
「何を言って……」
シュンッ
「きゃっ」
「んわっ」
現れた二人は当然驚いているようで、周りを見回している。
ミリアも口をパクパクさせて、二人とこちらを交互に見ているので、人差指を口に当て、黙っておくよう指示しておく。
「ファラ、マリー。今からオスルムに向かうぞ」
「え、わぁ!? あれ!? さっきまで森に居たのに!?」
「タカシはすごい」
「タカシさんは、ほんとすごいです……」
マリーの驚き様が新鮮で楽しいが、ミリアまでファラと同じ事を言うようになってしまった。
「よし、早速向かうぞー」
「わかりました」
「ん」
「えっ、えっ!?」
戸惑っているマリーの手をファラが引いて、ミリアの案内に従い西へと出発する。
ミリアは色々知っていて、本当に助かるな。
そう思い、ミリアの頭を撫でようとすると、珍しくファラから話し掛けてきた。
「タカシ、オスルムに何しに行くの?」
「そこなら協会に登録出来そうだから、かな。どうかしたか?」
「オスルム、ファラの住んでたとこ」
「え……?」
ファラの故郷なのか。ということは、話に聞いていた例の親が居るということだよな。
可能なら会わせたくない……いや、ファラも今となっては召喚術士だ。逆に自慢してやるか。
「ファラ、俺が親に会っても問題ない?」
「召喚にしか興味ないから問題ない」
「そっか。それなら、ぶん殴っても問題ないな」
「ない」
ファラの許可が出たので、機会があればそうしよう。
そういえばマリーの故郷を知らないな。弟も探さないといけないし、マリーにも聞いておこう。
「マリーの故郷は何処にあるんだ?」
「私の故郷は東の方です。ここからだと、南東の方ですね」
今は西に向かっているから、正反対だな……。
「弟も探さないといけないし、近い内に調べに行こうか」
「はい。ありがとうございます、です!」
道なりに進んでいただけなので、ファラの召喚で偵察していることもあり、モンスターとは遭遇することもなく順調に進む。
それにしても魔力を大量に消費した後、すぐ街に向かい始めたので、少し疲れたな。
「そろそろ休憩にしようか」
「タカシ、おやつある」
そういえば、こっちに来る前に作ったおやつがまだ残ってたな。
「おお、そうか。じゃあ、それを皆で食べようか」
「ん」
MPを温存しておきたいので、ミリアにテーブルなどを作ってもらい、お茶の用意もしてもらう。
ミリアも物を作るのがうまくなってきたな……さすが魔導士だ。
「そんなこともできるんですね……すごいです」
「そういえば、マリーの精霊は何が出来るか相談した?」
「はい。風を操ることであれば、大抵の事は出来るそうです。ただ、自分は下位精霊なので、上位精霊を呼び出せるよう、もっと修行しなさいと叱られてしまいました」
「そんな会話も出来るのか。召喚術士の召喚とは、全然違うな」
「はい。魔力を使って一から対象を作る魔法ではなくて、魔力を使って存在する対象を呼び出す魔法ですので」
確かにファラが召喚したモノは、結局は自分の魔力の塊なのだから、自律しても意志はない。当然か。
「それにしても、皆さん魔術士なのは聞いていましたが、魔力もすごいんですね」
「うん? 何で魔力が高いって分かるんだ?」
「精霊さんが、皆さんを見て魔力が高いって言っていたので」
「すごいな精霊。そんなことも分かるのか。精霊術士いいなぁ。俺も習得しようかなぁ」
「えぇ!? そ、そんな簡単なものじゃないですよ! 修行を重ねて一生かけても習得できない人も居るんですから……。それにエルフ以外で精霊術士なんて聞いたことないです……」
獣人達のように獣戦士とか、そういう感じのエルフ固有のジョブなんだろうか。
今度どういう修行なのか聞いておこう。習得できないならできないで、諦められるし。
「ファラ、今日の夜は明日の分のおやつでも作ろう」
「ん!?」
突然話を振られたので、驚いたのかと思ったら、口の中に沢山モノを詰め込んでいただけだった。お前はリスか!
かわいいなぁ、もう……。
「何が良い? 硬いの? 柔らかいの?」
「ぷりん」
「そうか。プリンか。作り方教えるから、覚えような?」
「タカシさん、私にも教えて欲しいです」
「じゃあ、皆で作ろう」
今持っている材料だけでは、焼き菓子くらいしか作れないし、そろそろレパートリーを増やす頃だろう。
その為には、まずお菓子の材料も探さないといけないな……。
「街に着いたら、お菓子の為の材料なんかも探しに行こうな」
「うん」
こういう時は返事が良いんだよな。
「そうだ。その為にマリーには、魔法を使えるようになってもらわないとな」
「……? 私は精霊術士ですよ? 多分、修行しても属性魔法は使えないです」
「ファラ、ごめんな。ちょっと、こっちに座っててくれるか?」
「ん」
ミリアが四人分の椅子を用意してくれていたが、ファラの指定席は俺の膝の上なので、少しだけ横の椅子へ移動してもらう。
「マリー、こっちきて」
「え!? その……ひ、膝の上……です……か?」
「そうだよ。ほら、おいで」
「し、失礼します。あう……恥ずかしいです……」
膝の上に座るのが恥ずかしいって……じゃあファラはどうなる。って、そういうお年頃だろうし、仕方ないよな。
「いいか? まずは、これをよーく見てくれ」
「はい」
目の前で掌から炎を出し、じっくり見せつける。
「よし。じゃあ、目を瞑ってくれ」
「はい」
マリーの手の甲を持って、掌が上になるように、体の前に腕を伸ばす。
手すべすべだな!
「こっちの掌に魔力を集めてくれ」
「はい」
「その魔力がほら、次第に掌から浮いていく」
「はい」
胸も良い柔らかさだ。
「その魔力が次第に熱を持って熱くなる」
「熱く……」
「イメージ出来るでしょ。さっき見た炎みたいになっているから熱いんだ。ほら、目を開けて掌の炎を見てみよう」
「熱い!」
何かミリアにした時みたいにやったつもりだったが、既に魔法を使えるだけあってすぐ出来たな。
でも模倣に初級火魔術が入ったから良いか……。
……あれ? 初級火魔術!? 初級魔術じゃないのか!?
……普通に考えたらそうだよな。火の練習をしたのに水が使えるようになりました。っておかしいよな……。
しかし、これで一枠っていうのは勿体ないな……。でもまぁ、既に覚えてしまったものは仕方ないか。
「熱い! 熱いですよ! タカシ様! どうしたら!?」
「あぁ、そうだった。ごめん。そこら辺に、ポイしちゃいなさい」
「えいっ!」
ボッ
地面に投げつけて消火する。
「火ですよ! 何でですか!? タカシ様何したんですか!?」
「え、胸揉んだだけだよ」
「えぇ!? いつの間に……じゃなくて! 勇者の力ですか!?」
マリーにどう応えようか迷って、ミリアの方を見ると、ジトっとした目でこちらを見ていた。
「タカシさん、相変わらずですね……」
「タカシはすごい」
「え!? ねぇ、タカシ様! 何をされたんですか!?」
あぁ、もう……。ごめんなさい。俺が悪かったです。
でも何もせずに力を与えてあげたら、それはそれで何か言いたそうな目で見てくるし、これくらい良いじゃないか。そういう設定にしてるんだからさ。
そういう雰囲気を感じ取ってくれたのか、ミリアが代わりにマリーに答えてくれる。何だかんだ言って優しいなぁ。
「え、マリー気が付かなかったんですか? タカシさんは、その、え、エッチな事をして、興奮させてくれた人に対して恩恵を与えることができる、そうです……」
「え、エッチな事……ですか」
「って、何ですかこの設定! 改めて考えるとおかしいですよ! どうなってるんですか、タカシさん!」
「そう、俺はエッチなことをしてもらうと、その人の潜在能力を引き出しあげることができるのだ!」
「のだ! じゃないです! そんな話聞いたことないです! 本当は嘘なんでしょ」
ミリアは、もう気が付いているみたいだけど、無視しておこう。折角の楽しみだ。失うには惜しい。
「エッチ……体を触られただけで、精霊に火魔法……。じゃあもっとすごいことをすれば……」
「ちょっとマリー!? 嘘ですから! 信じちゃダメですよ!?」
「え……でも、タカシ様はああ仰ってますし……それに、お二人は魔導士に召喚術士ではないですか。その恩恵があればこそなのでは?」
「うっ……、そ、それは……」
「そうだぞ!」
「ちょっと! タカシさん! 少し黙っててください!」
何だよミリア。奴隷じゃなくなった途端、強く言うようになったじゃないか。
これはお仕置き、調教が必要なレベルじゃないか?
「マリー。タカシさんは、ああ言ってますけど、冗談ですよ。本当は何もしなくても、恩恵を与えることができるんだと思います」
「そう……なんですか、タカシ様?」
「あ、与えられないぞ!」
「ほら、動揺してるじゃないですか!」
いきなりバラされるとは思わなくて少し動揺してしまった……。
「お仕置き……」
「うぇ!? その、ちが、これは、だって……本当……」
「やっぱり、本当なんですか……?」
「あぅ、いえ、えっと、そ、そういう設定です!」
ボソッとお仕置きをチラ付かせたら、意図に気付いたらしく、嘘ではない言い訳をする。
それにしても、設定って何だよ。まぁ、設定だけど……。
「では、私も沢山ご奉仕して、早くお二人に追い付いて、タカシ様の助けになれるよう、がんばります!」
「え、でも……恥ずかしいし、嫌じゃないですか?」
「恥ずかしい、ですけど、大丈夫です。タカシ様の為ですから! それに、そういう夜のご奉仕は勉強させられましたし!」
「そういう問題では……」
「ミリア?」
「ひぅっ!?」
オチがついたところで、ミリアにストップを掛けておく。
かなり話し込んでしまったな。ファラも退屈そうにボーっとしているし、そろそろ出発するか。
「よし、それじゃ先に進むよ。ミリア。テーブルとか崩しておいて」
「え、あ、はい……」
「マリー、俺が良いと言うまで、火魔法の練習な。小さくしたり大きくしたり、投げたり、浮かせたりしておいてくれ」
「はい!」
後処理をした後、魔法の練習をしつつ、またオスルムに向けて進むが、ティータイムに話し込んだせいもあり、二時間程度で日が落ち始めた。
「仕方ない。今日はここらで野宿にしようか。ミリア、あとどのくらいで着きそう?」
「明日の昼には到着すると思います」
「そっか。結構近いんだな」
そんな会話をしつつ、MPもそこそこ回復していたので、家を建て、飯の準備をする。
飯を食べた後は、四人一緒に並んで別々にプリン作成を行う。
「覚えた」
「お? 流石ファラだ。次から時間のある時に作ってくれな」
「わかった」
プリンが完成した後、それぞれが作った物を食べ比べ、残りはインベントリに入れておくことにした。
プリンの後は、風呂に入り、恒例の魔法の練習を行う。
今日はお仕置きのために、ミリアのMPも監視していたから、気を失う前に止めることができた。
「さぁ、今日は歩き疲れたし、そろそろ寝ようか」
「ですね」
「ん」
「はい」
ベッドに横になり、ミリアにはどんなお仕置きをしようかなと考えていたら、ミリアの方から来てくれたので、トイレに行かずに済む。
マリーも真剣に見てたし、明日からが楽しみだな。
そんな幸せに浸りながら、眠りに落ちる。




