第46話 ラン
丁度料理を全てテーブルに並べたところで、アバン達がやってきた。
「すっごーい。いつの間にかご飯できてるじゃん!」
「準備など全てお任せしてしまい、誠に申し訳ありません」
「いえいえ、折角ですからね。それじゃあ食べましょうか」
アバンと狸に続き、他の四人も各自席に着いたので、食べることにする。
「そういえばタカシ様。我々は獣人の国である、クドラング王国から来たのですが、タカシ様は何処から来られたのですか?」
「あー、東の方から来ました」
「……そうですか。ダンジョンから出ましたら、是非一度お越しください。おもてなし致しますので」
「はい、ありがとうございます」
国名なんて答えられねーよ。ジャパンって答えれば良いのか?
でもアバンは空気を読んだようで、それ以上は尋ねてこなかったので助かった。
それにしても獣人の国はクドラングというのか……ランの名前が“ラン・フォン・クドラング”だから、やはり姫で間違いないのだろう。
「魔術は故郷で修練されたのですか?」
「いえ、こっちの国に来てからですね。故郷では普通に働いていましたよ」
「おお、それでこの魔力量……才能というのは恐ろしいものですね」
「タカシはすごい」
何故かファラが得意気になってる。ミリアは余計な事を言わないように黙っているようだ。それが賢明だな。
「そちらのお二人とは、師弟のようなご関係なのですか? 魔術士のようですが」
「あぁ、この二人は俺の奴隷であり家族です。魔法を教えている最中でして」
「まだ若いのに、奴隷で魔法が使えるとは……やはり教える方がすごいのでしょう……」
「いえいえ、この子達は元から素質のある子達だったので」
今思えば二人共、魔術士家系だから素質はあったんだよな。
「そちらのパーティーはどのような繋がりなんですか? 獣人だけのパーティーは珍しいと聞いたんですけど」
「タカシくん、すごいよね! アバンがタカシくんを欲しいっていうの分かるよ」
「ちょ、ラン様! な、何を言っているんですか!」
「アバンさんが、俺を?」
「うん、ランの専属魔導士になってくれないかな?」
何言ってんだコイツ。
あ、良い事思い付いた。この狸バカっぽいし、ちょっと情報引き出してみようかな。
「ランは、専属魔導士が欲しいの?」
「うーん、別に欲しいってわけじゃないけど、ラン達は魔法が使えないから、居てくれると助かるかなー?」
「やっぱり獣人の姫と言えど、魔法は使えないんだ?」
「うん、そうなんだよー」
やっぱりバカだこの狸。
ほら見ろ、アバンが頭抱えてるし、他の面子も食事を中断して、ポカンとこっち見てるじゃないか。
「ランはやっぱり姫なのか」
「うん、そうだ……はっ!?」
「姫様……」
「皆さんの気苦労、お察しします」
さて、どうイジってあげようかな。
「それで、何で姫がダンジョンなんかに入ってきたんだ?」
「あれ? タカシくんはランが姫だって分かっても言葉遣い変えないんだね!」
「地位とか名声とか興味ないし、狸だし」
「狸は関係ない! ほら、アバンも何とか言ってあげてよ!」
「はぁ……」
アバンはもうどうにでもなれスタンスのようだ。
「タカシ様、一応これでもラン様は姫です。できればその……」
「アバンさんは礼儀正しいし、年上っぽいからちゃんと話しますけど、こいつはその、何ていうか、アレなので」
「アレってなに! ランだって怒る時は怒るんだからね!」
「まぁまぁ、ラン様落ち着いて。それより今は食事中です。席を立つなんて行儀が悪いですよ」
立ち上がってこちらに来ようとしていた狸娘をアバンが宥め、席に着かせる。
「それで、何故ラン様が姫だとお分かりに?」
「え、何かそんな感じがしたので」
アバンがたまに姫って言ってたし、国の名前がランの名前に入ってたから分からないはずがない。
でも、言うとアバンが責められるだろうから黙っておこう。
「タカシくんすごい! 今まで誰もランの事姫だって分からなかったのに!」
「タカシ様、すごい洞察力です」
こいつら、実は揃いも揃ってバカなんじゃないか?
まぁ、名前は俺にしか見えていないみたいだから置いといて、アバンは自分で言ってただろうに……。気付かない方がおかしい。
「それで? 俺を専属にするってことは、護衛にでもしたいってこと?」
「うん! すごく強いし、頼もしいかなって」
「やだよ。俺のモノになるならまだしも、俺がそっちのモノになるなんて」
「そうですか、残念です。しかし、気が向きましたら是非、我々の下へお越しください」
姫の護衛……側近ならば色々とおいしい話ではあるが、定職に就く気はない。一応返事はしておいたが、行く事はないだろう。
そんなスカウトを受けながら食事は終わる。
結局、他の四人とは全く話ができなかったな。料理を作ってくれた猫娘には興味があったのだが残念だ。
「さて、それではお開きとしましょうか」
食後に水を飲みつつまったりしていると、アバンがお開き宣言をしたので、片付けを始める。
ランパーティーも片付けをしつつ、家の方に戻るようだ。
今日は珍しくファラが率先して皿を運んでいるので、運んできてもらった皿を洗うことにする。
「あ、そうだミリア。ここは俺がやっておくから、先にお風呂沸かしておいて」
「はい……」
「ファラは運び終わったら俺の方手伝ってくれるか?」
「ん」
ミリアには風呂を沸かしてもらい、ファラと一緒に洗い物をする。
「ファラ、そういえばクッキーって知ってる?」
「くっきー? 知らない」
「甘くてサクサクしたお菓子だよ」
「おかし! タカシ、持ってるの?」
「今日は料理や後片付けがんばってくれたし、作り方教えてあげるから、明日一緒に作ろうか」
「うん」
今一瞬ニコっと笑ったぞ。かわいいなぁ。ファラが喜んでくれるなら、いくらでもお菓子を作ってあげよう。
そんなファラを撫でたいけど、洗い物の途中なので、我慢する。
「タカシさん、準備できました」
「おお、ミリアもありがとうな。こっちもちょうど終わったよ」
「おわった」
さて、俺の楽しみである一つ、お風呂にでも入りましょうかね。
「それじゃ風呂に入って寝る準備でもしようか」
「はい……」
「ん」
ファラは早々全裸になった。ミリアも今日は素直に服を脱いでいる。よしよし。
女の子が服を脱ぐのって何でこんなにエロいんだろうね。全裸より、その脱ぐ工程の方が興奮する。
そんな事を考えながら興奮しつつ、風呂に入る。
「ミリア、今日は元気ないけど、どうしたんだ?」
「だってその、お仕置きが……あるので……」
「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。ミリアを痛めつけたりなんて絶対にしないし、お仕置きというか、俺へのご褒美っていうか、そんな感じだからさ」
「……エッチなことだって……言ってたじゃないですか……」
エッチな事がそんなに嫌なのかよ。別に犯すって言ってるわけじゃないんだから、そこまで深く考えなくて良いのに。
「大丈夫。ミリアの妄想しているようなことじゃないから」
「なっ! べ、別に何も妄想なんてしてません!」
「そんなことより、ほら、今日は色々あったし、体を洗って布団に入ろう。な?」
「もう!」
モーモーミリアが現れたので、ファラの体を洗ってあげる。
ミリアもブツブツ言いながら自分の体を洗っている。
ある程度洗い終わったところで、入口の方で音がした。
「誰か来たか……?」
「アバンさんでしょうか」
「一応、警戒しておいてくれ」
「ん」
三人で警戒しつつ、リビングの方へ注視すると、バカっぽい声が聞こえた。
「タカシくん! 何か家から煙出てるんだけど! 大丈夫!?」
バカ狸だ。
そうか、煙突作ってるからな。風呂の湯気が外に出ていたので、心配してわざわざ来てくれたのか。
というのは建前で、興味があったから来たのだろう。
そのまま風呂の方へ来て、俺と目が合い、ハッとする狸。
「あ、お、お、お風呂!? すごい! もう何日も入ってないよ! ランも入りたい!」
あぁ、面倒だ。後で、コーティングした風呂でも作ってやるか。
「後から作ってやるから、家に戻ってろ」
「えー、いいじゃーん。ランも居れてよー」
「じゃあ、まずは服を脱げ。そしたら入れてやるよ」
「え……それはちょっと……恥ずかしい……かな? うーん……」
恥ずかしいだろ? だから早くあっち行けよ。俺は今、一日の疲れを美少女二人に癒してもらってるんだよ!
「でも……女の子も居るし、いっか!」
「ちょ、おい」
本当に服を脱ぎ始めやがった。こいつ、本当に姫かよ。恥じらいねーのかよ。
「え、え、ちょっとタカシさん。いいんですか。お姫様ですよ!」
「まぁ、いいんじゃないか。姫の全裸なんてそうそう拝めないだろうし」
「えへへ、やっぱり恥ずかしいなー。でも、ま、いっかー!」
服を脱いで風呂に入ってくる。当然色々なところが見えるわけだが……出るとこ出てるし、肌が透き通っていてキレイだな……。
尻尾も丸々してて、もふもふしたら気持ちよさそうだ。
「あぁ……きもちいいー。魔法が使えると、こんなこともできるんだね! いいなぁー」
「ファラも洗い終わったし、こっちこい。ついでに洗ってやるから」
「おー。ありがとー。タカシくんは優しいねー」
「ん。タカシはやさしい」
そうかそうか、ファラはかわいいなぁ。
ランがこっちに来たので、頭をごしごし洗ってあげる。
そういえば漫画などで獣耳を持ってる奴は、必ずと言って良い程耳が髪で隠れているんだよな。実際はどうなっているんだ?
そう思って、頭を洗っている振りをして、本来人間の耳がある場所を触ってみる……。
耳がない!?
いや、頭の上にあるか。いやそうじゃない、人間の耳がない。代わりに髪の毛がもっさり生えている。
そうか……獣耳ってこういうカラクリだったのか……。長年の疑問が解けた……。
「ふあぁー。気持ちいい! タカシくん頭洗うの上手だね」
「おう、ほら、次は体だ」
首筋から肩、胸、腹、腰、尻、足と全身洗ってあげる。
その間、「んっ」とか「あぅっ」とか反応してたが、わざとそういう風になるように洗ったから、気にしないことにする。
「タカシくん、手つきがエロい……。そういえば、全身洗ってもらったの、生まれて初めてかも! 気持ち良い! 癖になりそう!」
「そうか、それは良かった」
ランを洗い終わったのを見て、ファラが俺の膝の上に乗ってきたので、抱っこしてあげる。
ふぅ、やっぱりこの状態が一番癒されるなぁ。
「ふぃー、今日は疲れたからなぁ。やっぱりお風呂は最高だー」
そろそろファラがのぼせそうなので、上がることにしよう。
「さて、出るか」
「はい」
「ん」
「ほーい」
先にファラの体を拭いてあげる。次にミリアの体を拭いてあげようとしたが、断られた。ショックだ。
何かランも拭いてもらえると勘違いしたのだろうか、その場で立っている。
「はぁ……ほら。こっちこい」
「わーい、ありがとうー」
こいつ、もう恥ずかしがったことすら忘れてやがる……。
拭き終わった後、ランが着替えている間に寝室へ移動するが、忘れてた。そうだ、風呂を作ってあげるつもりだったんだ。
「ミリア、邪魔が入ったし、お仕置きは明日な」
「えぇ!? そんな……」
「恨むならあいつを恨んでくれ」
「えぇー……」
「俺はちょっと外に出る。その間に、今日は銅貨を同時に数枚浮かせる練習をしておいてくれ」
俺が居ない間に、MPが切れてぶっ倒れることはないだろう。さっさと風呂を作って帰ってくることにしよう。
「ほら、ラン。行くぞ」
「はーい」
ミリアとファラには魔法の練習をさせ、ランを引き連れ、外に出る。
どこら辺に作るかな……。部屋の中だと、中に居る奴等から丸見えだ。それはマズイだろう。
あの小屋に隣接して、風呂用の部屋を増やすか。よし。
「おや、タカシ様にラン様どうされたんですか?」
「ちょっとお邪魔しますよ。えっと……ここら辺で良いか」
壁に手を当て、人の通れる穴を開け、更にその奥に脱衣所を設ける。更に左奥から風呂用の部屋を作る。脱衣所を挟んで対角だから中は見えないだろう。
「おお、間近で見るとすごいですね……ところで、何をされているんですか?」
「風呂に入れないのは、女性陣には辛いでしょうから、風呂を、と思いまして」
「えへへー。ランは、もうお風呂に入ってきたんだよー」
「なんと! 本当にありがとうございます! ミラ、キャミィ喜べ! タカシ様がお前達の為に風呂を作ってくれるそうだぞ!」
「おお!」
後は浴槽を作って、水を入れ、熱を送れば、完成だ。
「すごい! こんな簡単に出来ちゃうんだねー!」
「素晴らしいです!」
「タカシ様、ありがとうございます!」
「いえいえ、それじゃ俺は戻りますので、熱い内に入っちゃってください。それでは!」
ミラやキャミィとも一緒に入りたかったけど、仕方ない。俺には帰りを待っている少女達が居るのだ。
「「「ありがとうございました」」」
お礼を受け、そのまま家に戻ると、ミリアとファラは銅貨数枚に意識を集中していた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえり」
「どうだ? 数枚浮かせられたか?」
ミリアは首を振っているが、ファラは二枚程浮かせて、どうだと言わんばかりにこちらを見ていた。あれはドヤ顔なのだろうか。普段とあまり変わらんが。二枚でそれはどうかと思うぞ。
「よし、ミリア。教えてあげるから、こっちきて」
ベッドに座り、ミリアを膝の上に乗せる。今日は素直だな。
「こないだ教えたように、銅貨の下に魔力を込めて飛ばすのは、物が一つの時な」
「そうなんですね……ずっと銅貨全部に魔力を込めてました……」
「いや、それはそれで良い。でも、それだと集中力がもたない」
「そうなんです。それで沢山は持ち上げることができなくて……」
そうだろうな。あっちに魔力を送って、こっちにも魔力を送ってとしていたら効率が悪いし、対象が増えれば増えるだけ作業が増えて他に何もできない。
「まずは、大きな魔力の塊をイメージするんだ。そして、その塊から数本の魔力の紐のような物が出るようにイメージをする」
「はい」
「その紐を銅貨に結びつけて、銅貨を持ち上げるんだ」
「はい」
「その時、魔力の紐と対象に番号を振ると操作し易くなるぞ」
「番号? どうやるんですか?」
「例えば、そこに並んでいる銅貨の左から順に1番2番3番とするだろ? 操作する時に1番を右に、2番を左に、とした方がイメージし易い」
「なるほどですね! 分かりましたやってみます!」
「ファラもやる」
MPや魔力が増えたので、時間が掛かるだろうと思っていたが、慣れていない練習のせいか、魔力を多く使うようで、一時間程度で二人とも轟沈した。
よし、俺は緊急時の為にMPを残したまま寝るか……。
意識の無い二人を抱き寄せて、川の字で寝る。あぁ、癒される。
おやすみなさい。




