第38話 お金
三人で俺の作った家の中に入り、色々と使い勝手を確かめてみる。悪いところは適宜調整だ。
玄関や窓にはスライド式の板を設置して、囲炉裏には薪を置く。
寝室には、森で切ってきた木を風の刃で板状にして、設置。その上に布団を敷いて簡易ベッドの出来上がりだ。もちろんベッドは一つ。
最後に風呂釜をセットして完成。
「こんなもんかな。それじゃ、飯の用意でもしようか」
「お肉しか……でも、食べられるだけ十分ですね。あ、そういえば野宿するって言ってたので、森の中で調味料になりそうな物を採ってきました」
「ん、ファラも木の実取ってきた」
「おぉ、二人ともすごいな。ありがとう!」
二人の頭を撫で、料理に取り掛かることにする。
と言っても、謎調味料を掛けて焼いただけの猪肉と、木の実。それに、兎肉を煮込んだスープ、果物を並べただけの野性味溢れる料理だが。
「こうやって見ると、ちゃんとした料理だな」
「自分達で作ったのもあって、美味しそうですね」
「それじゃあ、二人ともいいかな? いただきまーす」
「「いただきます」」
いただきますの一声で、皆一緒に囲炉裏を囲んで食べる。
「おぉ、この調味料もどき何気に美味しいな」
「もどきじゃないです。ちゃんとした調味料なんですよ?」
「そうなのか。さすがミリアだ。ファラ、この木の実も美味しいな!」
「ん。おいしい」
会話も弾み、食は進む。
簡単ではあったけど、ちゃんとした食事になっていた。
「ふぅ……食べた食べた」
「やっぱりお肉だけというのは、すぐにお腹いっぱいになりますね」
「なる」
食後の為に、道具屋でお茶の葉とかデザートとか、何か一息つけるものを買ってくれば良かったな。
魔法で出した水しかない。しかもぬるい。
あ、水魔魔法で氷を出せるかもな。やってみるか。
竹のような中央が筒状になっているコップもどきに向けて、冷え冷えの氷をイメージして指先に魔力を集中してみる。
――ポチャッ
コップの中に氷が落ちた。うん。やっぱり出来るな。
「タカシさん、水の上位である氷魔術も使えるんですね……」
「え? これ上位なの? 俺魔導士じゃないけど?」
「初級魔術の範囲内ではありますが、水を更に変化させるということで、水の上位に位置します」
「そうなのか。今初めてやってみたんだけど、出来るもんだね」
ミリアは大きな溜息を吐いている。上位というくらいだから、そんな簡単な魔術ではないのだろうか。
でも、単に氷をイメージするだけだしな。簡単だと思うが。
「ミリア。俺ね、数日前に魔法を覚えたばかりで、見当違いの事言うかもしれないんだけどさ……」
「何ですか? もう驚かないですよ……」
「使ってみて思ったのは、魔法って便利だなって事でさ。要は、イメージや知識なんだよ。イメージや知識をどれだけ魔力で再現できるか、が重要だと感じた。想像力さえあれば初級も上級も関係ないと思う」
「イメージですか……」
俺は義務教育で簡単な化学や物理を習っている。だからこそ、イメージし易いっていうのはあるんだけど。
ミリアに科学というものを教えたところで、魔法のある世界だからなぁ。イメージに直結するかと言えば、分からない。
でも教えてみる価値はあるかもな……。少しずつ教えてみよう。
「例えばさ、昨日考えたオリジナルの魔法なんだけどさ」
「え? オリジナル!?」
「見てて」
立ち上がり、土魔法で床から七つの石を作り出し、それを空間魔法で浮かせて、最後に火魔法で石の中から全体が燃えるようにイメージする。
――シュゴゴゴゴ!
魔力が格段に上がっているので威力がすごくなってる。でも、ちゃんと七色に燃えている。
「わわっ! な、な何ですか! 何で火の色が!?」
「きれい」
家の中で石を射出するわけにはいかないので、とりあえず囲炉裏の中に落としておく。
「それでもちゃんとした火だから、触っちゃダメだよ? 火傷しちゃうから」
「ん。タカシすごい。きれい」
「何ですかこれ!? どうやってるんですか!?」
ファラはきれいしか言ってないが、ミリアはすごく興味を惹かれたようだ。俺も良く知らないけど、俺の知っている限りの事を教えておこう。
「えっと、土って何でできているか考えたことある?」
「土は土では……? いや、えっと、石と砂……?」
「見た目そうだよね。じゃあさ、石や砂は何でできているか考えたことある?」
「小さな石……? いえ、分かりません」
「だよね。そこだよ。何もない空間からいきなり石が生まれるわけではない。じゃあどうやってできているんだろう? って考えて調べることで、その物自体をイメージするのも簡単になるし、知識も増える」
「ちょっと難しいです……」
「土ってね、色々な成分で出来ているんだよ。例えば、この中には皆が大好きな金とかも含まれているよ?」
「それは……確かに掘り進めば、いつかは金も見つかるかも……」
「違う。この土の中に、だよ」
そう言って地面から土を集めて掌の上に乗せ、ミリアに見せる。
「そんなわけないじゃないですか。金色じゃないですし……」
「調べもせずに勝手に決めつけてたら、いつまで経っても立派な魔導士にはなれないよ?」
「うぅ……だって、それただの土ですもん……」
「土であり土ではない。これは色々な物で構成された物。ただ、それを人が土って名前を付けて、そう呼んでいるだけ」
ちょっと哲学的になってしまった。説明するって難しいな。
「うーん……難しいです。結局何なんですか?」
「この色々な物で構成されている土を、種類別に分けるのさ。その為には、この土に何が含まれているのか知る必要がある」
「タカシさんは、土が何で出来ているか知っているんですか……?」
「少しだけね。それで、簡単に言うとその中には青に燃えたり、緑に燃えたりする物質も含まれているんだよ」
物質名を言ったところで理解してくれないだろうから、簡単に説明することにした。
「土の中から、その部分だけを抽出して燃やしたら、当然炎の色が変わる。それを七種類作っているだけ」
「説明が突然雑になりました! その成分って何なんですか? そこが知りたいです」
「うーん、言ったところで自分で理解しないとイメージは出来ないんだよ……だから、銅貨を実際に触ったり燃やしたりして、土から銅を抽出できるように練習してみると良い」
「分かりました、練習してみます……うぅ……折角説明してもらったのに、全然分からないです……ちなみに銅って何色に燃えるんですか?」
「青のような緑だよ。ほら、こんな感じ」
――ボウッ
「わぁ……私もやってみたい……抽出……がんばります!」
「タカシすごい」
話した内容はあまり理解されていない風だけど、練習するのであれば色々と教えてあげよう。
それにしてもファラはさっきから聞いているだけで、あまり興味はなさそうだな。
「ところで、タカシさんは何でそんな事を知っているんですか?」
「うん、そうだったね。話が魔法の方に逸れたけど、正直に話すって約束したしね。でも、絶対に人には言わないでね?」
「分かりました」
「うん、やくそく」
真剣な顔で他言無用を伝えると、そこは理解してくれたようだ。
さて、何から話すか……。
「俺はね、この世界の人間じゃないんだよ」
「えぇ!? どういう……タカシさん、勇者……なんです……か?」
「違うよ。勇者じゃないよ。こっちの世界で生活しようと思って来ただけだから」
「どうやって?」
「うーん。お金払って? かな」
「そんな簡単に!?」
間違ってはないと思うんだけど、まぁそうだよな。お金を払えば渡れるような世界なんて、考えられないよな。
「あぁ、でも一方通行なんだよ。向こうの世界には、いくらお金払っても、もう戻ることはできないんだ」
「そうなんですか……」
「それでね、俺の能力なんだけどミリアは知ってるよね?」
「はい。えっと、タカシさんと仲良くなると恩恵を与えることができるとか、ですよね?」
その方向性で行こうかと思ったけど、何かもうここまでバラしちゃったら、今更だな。
「そう。恩恵っていうか、その人の潜在的な能力を伸ばすことができるんだ」
「えぇ!? ジョブを変えることが出来るだけじゃなかったんですか!?」
「うん。それもできるけど、能力も操作することができる。但し、俺が満足するっていうか、心が満たされれば、ね?」
あれやってこれやってと言われる前に釘を刺しておく。
「だから、キスしたり、エッチな事を……」
「タカシ、ちゅーしよ」
ここでファラが食いついてくるのか……。この子もこの子で、知った途端にキスしようとか、現金な子だな。
「ファラ、後でな。ミリアもちゅーする?」
「ん」
「しません! ……それで、どうやってそんな能力を?」
「あぁ、神から金で買った」
「はぁあぁ!?」
やばい。直球すぎたか。ミリアが今までで一番驚いてるかもしれない。顎が外れそうなくらいびっくりしてる。
ファラも珍しく目を見開いている。
「や、やぱぱり、やぱ、やっぱり、タカシさん勇者なんじゃ!?」
「タカシゆうしゃ」
「だから、違うって。そんな能力を買った。ただ、それだけ」
「でも、神様と! 神様と繋がりぃあるなら! ゆしゃ!」
全然口が回ってないじゃないか。テンパりすぎだろう。
ファラまで勇者とか言い出したし、どうしたもんか。
「大体、勇者って自分から名乗るものじゃなくて、周りが勝手に名付けるものだろう? それに、そんな面倒なことやるつもりはないよ。俺は、元からこっちで生活する為だけに来たんだから、ミリアとファラとエッチな事をして過ごせれば、それだけで満足」
「エッチなことはしません!」
「タカシ、しよ?」
何この正反対な回答。ミリアには、もう少しデレて欲しいな。
「まぁ、そういうわけだよ。さて、俺の秘密も話したことだし、そろそろお風呂にでも入ろうよ」
「えぇ! 一緒にですか!?」
「何当たり前の事聞いてるの? 一緒に決まってるじゃん」
「ん。入る」
ミリアは驚いた後、モジモジしているので放置。
さぁ、お楽しみの時間だ!




