第35話 マナポーション
朝起きたら、既にファラは起きていたようで、俺の腕の中でこちらをジッと見ていた。
「おはよう、ファラ」
「ん。おはよ」
ミリアの寝息が聞こえる。まだ寝ているのだろう。
ファラの頭を抱き寄せて、温かさを実感する。あぁ、幸せだ。
「昨日、魔法を使ってみてどうだった?
「かんたん。べんり」
「そっか。今日は、モンスターを相手に練習してみような」
「わかった」
起きたのは良いが、まだ夜が明けたばかりのようだ。窓から差し込む光はまだ薄い。
朝食にはまだ早いし、もう少しこの幸せな感じをまったり味わっておこう。
「タカシは、何でジョブ変えられるの?」
「うーん、何でだろうね? 俺にも分からないや。だから、これは秘密だよ?」
「わかった。今日どこ行くの?」
言われてみたら、そうだ。戦い方は決めたけど、何処で狩りをするか決めてなかった。
「何処にしようか。ここら辺のユニークは全部倒しちゃったしなぁ。ファラは、何処か行きたいところある?」
「いろいろなとこ」
「そっか。色々な所に行くの約束だもんな。じゃあ、今日は少し遠出してみようか」
「ん。約束」
ミリアが起きたら、何処か金になりそうなモンスターが居るところを聞いてみよう。
「ミリアが起きたら、聞いてみようか」
「ん」
本当素直な子だな。
ファラの頭をナデナデしていると、ミリアがモゾモゾし始めた。俺達の会話や動きで起こしてしまったのかもしれない。
「うぅん……、あ、タカシさん。おはようござます」
「あぁ、おはよう」
「おはよ」
「ファラも、おはようございます。……そっか、昨日魔法の練習中に私寝ちゃったんですね。ごめんなさい」
ミリアの中では倒れたんじゃなくて、途中で寝た事になっているようだ。
「寝たんじゃなくて、精神力使い過ぎて倒れただけだから」
「はぁ……もっと自分の事把握しなきゃですね……」
「そうだな。あとどのくらい使えるか、感覚をつかまないとね」
「はい。……それで、何で私、裸なんですか……?」
あれ? 今日は怒らないんだな。怒られると思って、少し身構えてたのに。
「俺が脱いだら、それを見てたファラが脱いじゃってね。どうせなら、皆一緒になろうかって事で、結果的にこうなった」
「へぇ。で、意識がない私を、無理矢理脱がしたんですか?」
「ファラが脱がした」
「うん。俺が無理矢理脱がしたんじゃないからな?」
ミリアも意識がはっきりしてきたのか、次第に責めるような口調になってきた。
「私は意識がなかったんですから、無理矢理じゃないですか! ファラもファラです! そんな簡単に裸になっちゃダメだよ!」
「タカシと一緒がいい」
「はぁ……もう! 着替えるから、外に出ててください!」
「俺、まだベッドから出たくない。そのままでもいいじゃん?」
「うぅ……何でそんなにイジめるんですか……」
ミリアに布団を取られた。
布団を巻いて、その中で着替えようとしているようだ。
「ミリアが布団取ったら、今度はファラが裸なんだけど?」
「あぅ……もう! どうしろっていうんですか!」
ミリアがそう言いつつ、ババっと服を着て毛布をこちらに投げてきた。もうちょっと見ていたかったのになぁ。
「はい、二人も早く着替えてください!」
「えー……早いっしょ。朝食もまだだろうし」
「い、い、か、ら! 早く着替えてください」
「分かったよ……ほら、ファラ。ミリアが怒るから着替えよっか」
「ん」
ファラが立ち上がり、昨日脱ぎ散らかした服を回収して戻ってきた。
パンツ一枚で目の前をウロウロしているので、俺はベッドから出ることができない。
「タカシさんも早く!」
仕方なく、布団の中で服を着る。
「はい、これで良い? それで、どうするの?」
「それが普通なんです! えっと、朝食に……」
「だから、朝食もまだ準備できてないってば。ファラおいで」
「ん」
ファラを俺の膝の上に乗せる。ファラはもう、ここを定位置にしよう。ちょうど良いサイズで落ち着く。
「あ、そうだミリア。今日は、ちょっと遠いところにでも行ってみたいんだけど。どこかお金になる場所とか、モンスターの居そうなところってないかな?」
「お金になる場所……モンスターですか……もうユニークは倒しちゃいましたし、特にこれと言って……。あ! 隣町にダンジョンが完成したばかりなので、攻略すればお金になるかも? です」
「おお、ダンジョンか! わくわくする……ん? 完成したってどういうこと? 人が作ってるの? ダンジョンを?」
「いえ、ダンジョンといってもモンスターみたいなものなんです。倒したモンスターなんかの思念が集まって、一つの空間が出来上がります。高度な空間魔法のような違う次元なので、そこは思念の大きさによってはすごく広いです」
モンスターの思念ってなんだよ。異次元を作りだす程の怨念じゃないのか? そんなことよりも、ダンジョンと聞いてワクワクしたけど、それ聞いた後だと怖いな。
「あぁ、思念の大きさってことは、ダンジョンが広ければ広い程、強いモンスターが居る可能性が高いってことなのか」
「はい。さすがです。そう。ダンジョンの中では、色んなモンスターが出てきます。中にはユニークモンスターや、レイドモンスターなどが出てくることもあります」
「それを一つのパーティーで攻略するのは難しいな」
「はい。中では他のパーティーと出会うこともありますが、入る時は次元を渡るので、複数のパーティーで一緒の場所に出ることはできません」
入る時は一つのパーティーじゃないと入れなくて、入ってしまったらダンジョンの何処に出るのか分からないのか。
じゃあ、入った瞬間にモンスターに囲まれてるとかいう状況があるんじゃないか? マジであぶねぇ。
「あれ? でも、入るのは入口があるとして良いけど、出る時はどうやるの?」
「出るには、出口を見つけるか、ダンジョンの空間を作っている、思念のコアを壊さないと出られません」
「うわ。難易度高っ! それじゃあ、一生出られないかもしれないじゃん」
「はい。昔から、まだ誰も出てきたことのないダンジョンもあります」
やばい。ダンジョンやばい。
まだこの世界にきて、目標であるハーレムの半分も条件を満たしていないのに、出られなくなるのは非常にまずい。嫌だ。
「ダンジョンはパーティーが5人以上になってから考えよう。まだファラも加わったばかりだし、そんなリスクは冒せない」
「そうですね……でも、そうなると後は地道に稼ぐくらいしか……」
「そればかりは仕方がないな」
ダンジョンの話をしていたら良い時間になってきた。そろそろ朝食も用意されることだろう。
ダンジョンは最低でも5人パーティーになってからだ。それまでは目標の為に金稼ぎだ。
「それじゃ朝食後、少し遠出して、依頼をこなしながら魔法の練習をしようか」
「はい!」
「ん」
三人で部屋を出て食堂に移動する。
俺とミリアが席に座ると、ファラはまだ奴隷の時の癖なのか、立ったままこちらを見ている。
「ファラ。これから先、俺がどこかに座った場合、俺の膝の上に座ること。食事の時は真横に座ること。いい?」
「わかった」
「膝の上って何ですか! 私にはそんな事言わなかったじゃないですか!」
「え、だってミリア恥ずかしがって嫌がるじゃん。俺としては、いつも座って欲しかったんだよ?」
「うぅっ……」
何回か誘ったのに、スルーして横に座ったりされたし。
「さぁ、今日はいっぱい練習するから、たくさん食べておこう」
「うー……」
「ん」
ミリアは唸っているが、スルーして食事をすることにした。
今度ミリアは強制的に膝の上に座らせよう。
練習で気を失った時でも良いな。いや、でも、出来れば気を失わずに練習させてあげたい。迷うところだ。
気を失うで思い出した。この世界に回復アイテムはないのだろうか。気を失わず練習させるならMPを回復させるアイテムが欲しい。
「ミリア、精神力を回復するアイテムってないの?」
「道具屋さんにありますよ。この国には魔術士はあまりいないので、需要が少なくて少し高いですが」
「一ついくらで、どのくらい回復するの? 使用せいげ……あぁ、用法用量とかあるの?」
「一つ20銀くらいだったかと。一度服用したら、全力の半分ほど魔法が使えるくらい? 一時間くらい掛けて回復するそうで、連続で飲んでも気分が悪くなるだけだそうです」
使用制限は一時間か。それで半分回復するなら上出来だろう。
これは買い占めておく必要があるな。
「よし、じゃあ街を出る前に道具屋に寄って買っておこう。練習には必要だしね」
「でも高いです。もっとお金を貯めてからにしましょう?」
「いや、そのお金を貯める為に魔法の練習をするんだから、これは先行投資だよ。それに、折角練習するんだ。二人には気を失わずに練習してほしいから、高くはないよ」
「ありがとうございます……」
少しでもミリアポイントを稼ぎつつ、食事を終える。
お茶のような何かを飲みながら、一息ついたところで食堂を出て、そのままカウンターのミーアに鍵を返す。
「そういえばさっき、あんた宛に荷物を預かってるよ。そこに置いてあるから持って行きな」
「おぉ、ありがとうございます。これでミリアとファラがもっとかわいくなります!」
「なんだいそりゃ。怪しい物じゃないだろうね」
「ミリアとファラの装備ですよ。ミーアさんもミリアのかわいい服見たことあるでしょう?」
今回はゴスロリじゃなくて、制服なんだけどね。
「あぁ、あれかい。あんたの選ぶ装備は、防御力が低いくせに高すぎなんだよ。人数も増えたんだ。これからは、無駄使いばかりしてんじゃないよ?」
「ごもっともです。でも、かわいい格好をさせてあげたいじゃないですか。これは大事な出費です」
「はぁ……可愛がる事に文句は言わないさ。ほら、今日も行くんだろ? さっさと行きな」
「わかりました。よし、それじゃあ二人とも、行こうか」
「ん」
「はい。まずは道具屋さんですね。こっちです!」
防具を受け取り、インベントリに入れた後、ミリアに案内されて道具屋に到着する。
店主がすぐにこちらに気が付き、向かってきた。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
「えっと、精神力を回復するアイテムを探してます」
「マナポーションですね。現在20個ほどございます。いくつお求めでしょうか」
20銀で20個。4金か。高い買い物だけど、これも二人の練習の為だ。仕方ない。
「あぁ、じゃあ全部ください」
「えぇ!? 全部買っちゃうんですか!?」
「うん、20個くらいすぐ無くなると思うし。別に二人の為だけじゃなくて、俺も使うだろうし、問題ないかなって」
「毎度ありがとうございます。それでは4金となります。商品はこちらになります」
カウンター横に20個並べてあったので、それを手に取りひとまず二人に5個ずつ渡し、残りは俺のインベントリに入れておく。
「あと、投げナイフ的な小さなナイフみたいなのが欲しいんですが、やっぱり武具屋に行かないとないですかね?」
「ウチでも取り扱っております。こちらなどいかがでしょうか?」
そう言って店主が果物ナイフのような物を持ってきた。
このサイズなら空間魔術で飛ばすこともできそうだな。ミリアの付与魔術の実験にも使えそうだから買っておこう。
「おいくらですか?」
「一本5銀となっております」
「じゃあ10本ほどください」
「はい、ありがとうございます!」
50銀渡そうと思ったが、銀貨を持っていなかったので、1金を渡す。
50枚もお釣りを貰うとは……邪魔だな。金貨と銀貨の間の通貨を作れば良いのに。などと思いながら50銀のお釣りをもらう。
「何かタカシさんって、すごくお金遣いが荒らそうです……」
ミリアが残念そうに溜息を吐きながら、そんな事を言っている。確かにそうかもしれない。次の奴隷を迎える為に貯めなきゃいけないんだが。
でもこれも二人の為だ。そう思うことにしよう。
「こんなもんかな。何か他にも興味のあるアイテムがあるので、また来ますね」
「はい、是非お越しください。いつでもお待ちしております」
店主に別れを告げてから店を出て、そのまま門まで移動する。




