第25話 彼氏
街に辿り着いたら、ひとまずギルドに向かった。
だって、1銀しか持ってないんだもの。
到着して早々、昨日のおじいさんが居たので早速換金してもらうことにする。
何か、ギルドに着いた瞬間にミリアの元気がなくなったな。
「おや、ミリアちゃん。それに彼氏さんも、また換金かい?」
「彼氏じゃないです」
「えっと、アイテムを売りたいんですが」
ミリアがまた否定していたが、俺もおじいさんも微笑んでスルーしながら話を進める。
「はいはい。それじゃあ、ここに出してくれるかい?」
おじいさんがトレイを出してきたので、ひとまず兎や猪と薬草などを載せる。
「ええっと、兎が21、猪が13、薬草が86だね?」
「はい、ひとまずこれをお願いします」
おじいさんはトレイを数回に分けて奥に持っていき、換金後、お金を持って戻ってくる。
「お待たせ。はい、44銀と86銅ね」
「ありがとうございます」
トレイに乗せて持ってきてくれたお金をインベントリに移したところで、おじいさんが絡んできた。
「良い稼ぎだねぇ。ミリアちゃんも、こんな人が旦那になるかもしれないってなると、鼻が高いんじゃないかい?」
「彼氏じゃないです」
「ミリアを幸せにする為、まだまだがんばりますよ!」
「彼氏さん、ミリアちゃんにベタ惚れみたいだよ? 良かったじゃないか」
「彼氏じゃないです」
「もうベタ惚れですよ。ミリアの為なら、何だってできますよ、ははは」
「若いっていいねぇ。ミリアちゃんも彼氏さんも、仲良くするんだよ?」
「彼氏じゃないです」
「当然ですよ! ミリアと喧嘩するなんて考えられません!」
「ウチは尻に敷かれっぱなしでねぇ。ミリアちゃんと彼氏さんみたいにお互い意識し合ってたら……おっとごめんね」
「彼氏じゃないです」
「いえいえ、それじゃ俺等はこれから昼食なので、これで失礼しますね!」
ミリアが壊れた玩具のようになっていたので、話を切り上げることにした。
ギルドを出て機嫌を取ることにする。
「ミリア」
「彼氏じゃないです」
ダメだ。何か変なモードに入ってる。
「ミーリーアーッ!」
モード継続中なので、名前を呼びながらお尻をモミモミする。
「彼氏じゃあああああああっ!?」
「ミリアの彼氏のタカシだよ?」
「違います! まだ彼氏じゃないです!」
頑なに否定するんだな。でも、まだってことは可能性はあるってことだよな。って、お尻のことより、彼氏否定が先かよ……。
「分かった分かった。それより、食事にしよう」
「もう……」
いつものようにミリアの頭を撫でながら、美味しい食事を出してくれるお店を聞いてみる。
「そういえば、この街の名物料理って何なの?」
「この街はオックスの肉料理が有名ですよ。ちょっと値段は高いので、この街に住んで居る人はあまり食べないですが」
「そうなんだ? じゃあ、そこに食べに行こう」
「えっ!? お昼からそんな贅沢をするんですか!? そんな高い食事いただけないです!」
ミリアは宿屋の娘として育てられていたが、奴隷でもある。昼から高い食事なんて考えられないのだろう。
「ミリアが贅沢に思うのも分かるけど、これからは冒険者として自分でお金を稼ぐんだ。だから別に遠慮する必要はないんだよ?」
「うぅ……いいんでしょうか。何か悪い気がします」
「大丈夫。その為にお金を稼いでいるようなものなんだから!」
そういって、ミリアの知っているこの街でオックス料理を出してくれる有名な店に案内してもらう。
「このお店です」
店構えはどう見ても酒場だが、ミリアが言うには、夜は酒場だけど昼は料理を出すお店らしい。
「本当に良いんでしょうか?」
「いいんだって。ほら、行くよ!」
遠慮して立ち止まっているミリアの手を引いて店に入る。
「はーい、いらっしゃーい。あらミリアちゃん? 手なんて繋いじゃってまぁ。噂は本当だったのねー」
「彼氏じゃないです」
何かもう、ミリアは行く先々で彼氏じゃないです、としか言ってないな。
そのまま少しのんびりしてそうなお姉さんの案内を受けて、隅のテーブルに座る。
「が、外食なんてしたことないので、緊張します」
「そうなんだ? まぁ、家が宿屋で料理も出してるなら、わざわざ外に食べに行くことなんてないか」
「はい。それにお母さんの料理、美味しいので!」
確かにミーアさんの料理は美味しい。でも、これからは違う街に行くことになる。慣れておいてもらうことにしよう。
それに美味しい料理を探すのも、楽しいものだ。
「ミリアちゃんが食べに来てくれるなんて、初めてねー」
「は、はい。先日冒険者になったので」
「あらあら、冒険者なんてミーアさんが良く許したわね。それで? そちらの男性が、噂の彼氏さんなのよね?」
「彼氏じゃないで「はい、彼氏です」」
またこのやり取りかと思ったが、今度は言葉を被せることに成功した。というか、この街の情報の流れ、どれだけ早いんだよ。
「そうなのねー。じゃあ、記念にいつもより腕によりをかけて作らなきゃねー」
「もう! だから……彼氏じゃ……」
「じゃあ、折角なのでこの店で一番お勧めのオックス料理をお願いします。予算は気にしなくて良いです」
「あらあら、流石ミリアちゃんが選んだ彼氏さんねー。将来、大物になるわよー?」
何かお褒めの言葉をいただいた。ミリアの為にも、大物になってやろうじゃないですか!
上客が来たからか、お姉さんは若干スキップするような足取りで厨房の方へと下がっていった。
お姉さんの向かった先の厨房からは、よっしゃあ! など気合いを入れるような声が聞こえる。美味しい料理期待してますよ?
「ところでミリア。外食したことないって言ってたけど、本当なの?」
「はい。外食は贅沢です! 私は奴隷ですし、食事を出していただけるだけで満足です」
「これからは外食が基本になるから、慣れておこうね」
「そんな! 勿体ないです! 自分達で作りましょうよ!」
自炊しながら冒険をするつもりなのだろうか? 確かに野宿となると、そうなるかもしれないけど、街で自炊なんて無理だろう。そもそも調理する場所がないし。
「ミリア、料理できるの?」
「わ、私だって料理くらいできます! ……少し」
「じゃあ、他の街で自炊するとして、どこで調理するの?」
「えっと、宿屋で借りたり?」
「この宿屋は食事にお金が掛かるので食べたくありません。自分で作るから、調理場を貸してください。とか喧嘩売るの?」
「ごめんなさい」
宿屋の娘なだけあって、あまりの常識外れの行動に一瞬で気が付いたのだろう。すぐに謝ってきた。
「それに、冒険者が冒険で得たお金で宿に泊まったり、外で食事をするからこそ、宿屋も飯屋も続けていけるんだよ? 誰も泊まらない、誰も食べないじゃ、お店が潰れちゃうでしょ?」
「そうです……ね。確かに住人は、あまり利用しないです。そういうことだけは、タカシさんと話していると勉強になります」
「そういうことだけ……普段はミリアしか見てないから、ミリアの話しかしないけど、聞いてくれたら何でも教えてあげるよ?」
「本当ですか? えっと、それじゃあ……」
そういう話をしていると、お姉さんが料理を運んできた。
「お待たせー。当店自慢のオックスステーキセットよー? 今日は特別に一番良いところのお肉を使っちゃったわー」
「おお、これは旨そうだ!」
「うわわわ! お肉! すごい! こんなに大きいの初めて見ました!」
「でしょう? ここのお肉はねぇ、一匹につき、この一枚分しか取れない貴重な部位で、とても美味しいのよー?」
脂の乗った肉が乗った鉄製のプレートは、ジュウジュウ音がしており、目と耳で食欲を刺激してくる。
肉はまだ霜降りが見える状態で、自分の好みに合わせてプレートで焼くことができる仕様のようだ。
こんな高級そうなステーキ、元の世界でも食べたことないわ。
あと、腕によりを掛けるってただ焼くだけじゃねーか! と思ったが、一番良い肉を出してくれたし、聞かなかったことにしておこう。
「さぁ、ミリア。冷める前に食べよう!」
「は、はい! ……でもこれ、どうやって食べるんですか!?」
「まずこうやってねー。自分の好みに合わせてお肉を焼くのよー。そして、ナイフでお口に入る大きさに切って食べるのよー」
あとは彼氏さんよろしくねー。と言いながら、奥に下がってしまった。俺が普通に食べる準備をしているのを見て、大丈夫と判断したのだろう。
「ミリア。別にバカにしているわけじゃないけど、食事の時のフォークとナイフの使い方分かる?」
「ナイフは……パンを切るくらいしか使ったことないです」
「じゃあ見ててね? こうやるんだよ」
肉がレアな感じに丁度良い具合に焼けてきたので、早速フォークとナイフを使って肉を一口サイズに切って、それをミリアに見せる。そしてパクり。
「おお、とろける! こんな美味い肉初めて食べたわ。ミリアも食べてごらん?」
「はい……こうやって、こう。こう、よし! あむ」
「どう? 美味しいよね」
「んぅーっ! んんんんー!?」
口一杯に肉を頬張ってんーんー言ってる。可愛い。
ミリアもお気に召したようだ。
ライスが食べたくなったが、パンしかない。ここ数日で気が付いたが、どうやらお米を食べる習慣はないようで非常に残念だ!
「ミリア、こっちのスープも美味しいよ。あと、このサラダのドレッシングも変わった味で美味しい」
「はい! 食べたことない味です! 美味しい! すごいです!」
すごいすごい言いながら食べている。美味しそうに食べる人との食事は、一緒に食べているだけで幸せな気持ちになるな。
でも、俺が食べ終わった頃にはミリアの食べる速度が次第に遅くなってきた。小さな体には少し量が多すぎたのだろう。
「無理して食べなくて良いよ。後は俺が食べるから」
「いえ、折角出していただいた食事です! 全部食べないと……」
笑顔が徐々に崩れてきた。本当に限界に近いのだろう。無理して食べたり、食べさせられたりする食事なんて、ただの拷問だ。
そう思い、ひょいっとミリアの前にある肉を奪い取り、食べる。
「あぁっ! ダメですよ、私が食べないと!」
「美味しいご飯っていうのはね、思い出した時に苦しい思い出になってちゃダメなんだよ」
「っはい……ごめんなさい……」
「そこは、謝ることじゃないでしょ。ごちそうさまでした! で良いんだよ」
ミリアが食べ終わる前に俺は食べ終わっていたので、ミリアの肉を奪ったことで二人とも食べ終わり、一息入れる。
食後の紅茶の様な飲み物が出てきたので、それを飲みながら、少し話をする。




