第12話 酒
俺とミリアとサラで肩を寄せ合い、何かしていることに対して、ヤキモチを妬いたのかもしれない。
ファラが俺に寄り掛かってきて、体重を掛けてきた。
「タカシ、ご、はん」
「お、意外に早かったな。それじゃあ行くか」
少し言葉に元気が無かったので、そのままファラを肩車する。
これで機嫌を直してくれると良いが……。
「おい、練習は終わりだ。飯の時間だぞ」
「「はい」」
「後は、時間のある時にでもやっておけ。但し、精神力が切れたら危険なので、絶対に一人ではやらないこと」
「「わかりました」」
四人で家まで戻ると、マリーが出迎えてくれる。
「あ、皆さんおかえりなさいです」
「おう、もう飯が出来たんだって?」
「はい。皆さんお待ちですよ」
「そっか。皆、待たせたな。それじゃあ食べようか」
本当に皆、席に座って俺達を待っているだけの状態だったので、早々に“いただきます”をして食べ始める。
皆が食べ始めたところで、アバンが話し掛けてきた。
「タカシ様。今日、皆さんが戦っている姿を見て思ったのですが、どうやら私は何のお役にも立てていないようです……」
「十分助けられていますよ。どうしたんですか、いきなり?」
「ミュウさん等は、こんなにも体が小さいのに、コボルトを一撃で屠っていたではないですか」
「え、えぇ。まぁ、確かにそうですね」
「昨日、私も何度かコボルトと相対したのですが、どうやっても、一撃で倒す事ができませんでした」
「そ、そうです、か……」
「それで、確信したのです。私は、このパーティーの中で最弱なのではないかと……」
確かにステータス的には最弱だ。
でも、長い年月鍛錬をしてきただけあり、今までノーダメージで戦っている。それはすごいと思うのだが……。
いや、最近戦闘を経験したばかりの幼女――ミュウにすら実力が劣ると分かったら落ち込むな。
そこは流石アバンというところなのだろうか。ショックを受けているのは間違いないようなのだが、卑屈にはなっていない。俺なら間違いなく、卑屈な態度を取ってしまうだろう。
少し励ましてあげるかな……全て俺のせいだし。
「あ、そうそう。アバンさん。俺、酒を持ってきているんですよ。飯が終わったら一緒に飲みましょう」
「へ? いや、あの、私は姫様の護衛も兼ねておりますので……」
「あいつらは放置で良いです。たまには男同士で飲みましょう」
「最近のお兄ちゃんは、ランの扱いが雑だと思うんだけど!?」
「そうよ、タカシさん? ランはともかく、私までランと同じ扱いというのは納得できないわ」
「ひどいっ!?」
二人が言い合いを始めたので、神心を使い、サラに話しておく。
――サラ。
「なにかしら?」
「へ? 何かしらってランのセリフなんだけど」
「あ、いや、えっと、違うの。ごめんなさい」
「何さー。あ、ひょっとして……」
サラのせいで、ランが含み笑いをしながら、俺の方を向く。
それにつられて、皆がこちらを向く。
――お前のせいで、バレバレじゃねーか……。
――――そ、その、ごごめ、んなさい……。わざとじゃないの! だって、いきなりだったから……。
――はぁ……もう良いよ。それでさ、アバンさんが落ち込んでいるみたいだから、酒飲んで励ましたい。だから、協力してくれ。
――――は、はい……。何をすれば良いかしら?
――二人で飲みたいから、食後、皆と一緒に風呂に入ってスキルの練習をするよう誘導してくれ。
――――分かったわ。
俺は飯を食べながら、ポーカーフェイスを装って喋っていたが、サラは固まったまま返答をしていたので、バレバレだ。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんと何を喋ってたの?」
「うるさい。黙れ。毛を毟るぞ?」
「ひどいっ!?」
それでも、皆は俺の次の発言を待っているのか、食事を中断してこちらを見たままだ。ファラ以外。
「ま、まぁ、そんなわけで、アバンさん、今日は飲みましょう」
「いえ、ですから……」
「たまには良いじゃない、アバン。このパーティーで、タカシさんの言うことは絶対なのよ」
「姫様……」
「ちょ、お姉ちゃんが裏切った!?」
「うるさいわね、ラン。毛を毟るわよ?」
「お姉ちゃんまで!?」
ミリアは何かを悟ったのだろう。溜息を吐いて食事を再開した。
それにつられて、皆も食事を再開する。
「よし、そうと決まれば、マルカ。俺達はあっちの家で飲むから、後でツマミになる物を持ってきてくれないか?」
「ひゃいっ!」
「タカシさん、私達はどうすれば良いですか?」
「たまには俺以外の皆で風呂に入って、後はいつも通り魔法の練習をしておいてくれ。あ、サラも今日はミリアと一緒に居てくれ」
「分かりました」
「えぇ、分かったわ」
既に察してくれたミリアは、それ以外には何も聞いてこない。
ミリアは流石だな。惚れる。いや、もう惚れているか。
「私が一人で護衛するよりも、ミリアさん達と一緒に居た方が安全でしょうし、お任せいたします……」
「タカシさんから襲われないよう、しっかり護衛しますね」
「俺はモンスターか!」
「モンスターの方がまだマシです」
「ミリアも言うようになったな。お仕置き、期待しておいてくれ」
「しませんっ!」
ミリアではなく、サラに話し掛けた事に怒っているのだろうか。それはそれで、嬉しいな。今度たっぷり可愛がってあげよう。
「それじゃあ、食べ終わったら、あっちに行きましょうか」
「えぇ、分かりました」
何とか説得できたので、早々に飯を終わらせる。
アバンも食べ終わったようなので、食器を重ねて準備する。
――グイッ!
そのまま隣の家に移動するために椅子から立ち上がると、何かに服を引っ張られた。
振り返ると、俺の服を掴んでファラがこちらを見ていた。
「どうしたんだ、ファラ?」
「いく」
「ファラは皆と風呂に入って、魔法の練習をしておいてくれ」
「いく」
「どうしたんだ? 今日のファラは甘えん坊だな」
「そう。甘えん坊だから、いく」
「はぁ……分かったよ。邪魔はするなよ?」
「うん」
後の事をミリアに任せて、アバンとファラ、三人で移動するが、飲めるような部屋などなかったので、家を少しだけ改造し、飲めるスペースを確保する。
「やはり、タカシ様はすごいですね」
「そう、タカシはすごい」
「おいおい、お前が胸を張ってどうするんだよ」
「あはは、ファラさんはタカシ様が大好きですね」
「そう。大好き。ファラの旦那様だから」
そういえば、確かに嫁とは言ったが、ミリアもファラも年齢的に結婚などできるのだろうか……まぁ、良いか。
気持ち良ければ全て良し。ということで、気持ちの良いプニプニを膝の上に乗せておく。
「よし、準備完了。俺が持ってきた酒は、いくつかあるんですが、どれが美味しいですかね」
酒樽をいくつか出して、アバンに選んでもらう。酒樽と言っても小型の樽で、中身は5リットルまでいかない程度だろう。
「そうですね、私はこの中ではこれが好みですかね」
「じゃあ、これにしましょう」
コップを三つ用意し、それぞれに氷を入れて、酒を注ぐ。
「アバンさんは、薄めますか?」
「いえ、そのままでお願いします」
「ファラはこれな」
「ん」
ファラには、氷にシロップを少量入れ、水で薄めて渡しておく。
「それにしても、酒に氷とは……贅沢ですね!」
「クドラングでは、冷やして飲まないんですか?」
「えぇ、基本はそのまま飲みます。氷入りなんて初めてですよ!」
「おお、初体験ですか。それは良かった!」
氷入りの酒にテンションが上がっているようで、良かった。
「それじゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
「ん」
この世界に来て初めての酒だが、雰囲気に押されてぐっと飲む。
「ぐあぁぁっ! つえぇっ!」
「あはは、これは、そんなに一気に飲む酒ではないですよ」
少し濁っていたので大丈夫だろうと思ったが、想像以上に強く、度数の高い酒で驚いた。
味はウイスキーに近いだろうか。匂いが、ウイスキーのそれとは違っていたので、警戒していなかった……。
「これは効きますね」
「えぇ、獣人は強い酒を好みますから」
「俺が持ってきた他の酒も強い感じですか?」
「そうですね。一つだけ、この酒よりも強いのがありましたよ」
「それじゃなくて良かった」
「はっはっは、タカシ様はあまり飲まれないのですか?」
「そうですね……学生、あぁ、若い頃は良く飲みに行きましたが、今は全くですね」
危ない。普通に飲み会の雰囲気だったので、喋るところだった。
そこに、ちょうどマルカがおつまみを持ってきてくれた。
「お待ちゃせしました!」
「おう、ありがとうな!」
「ありがとう」
マルカはそのまま去っていき、おつまみに手を付けたところで、アバンの雰囲気が少し変わる。
「ふぅ……ところで、私と二人でということでしたが、何か相談事でもあるのですか?」
「え、いえ。特にないですよ? 前からアバンさんとは、ゆっくり話がしたかったんですよ」
「はははっ、私もじっくり話してみたかったのですよ?」
「最近は色々立て込んでたので……でも、やっと機会に巡り合えて良かったですよ」
「えぇ、私も同じ気持ちです!」
初めて会った時から、じっくり話したいとは思っていた。
色々とミリア達と出会った経緯などを聞かれ、セクハラ等の話で盛り上がり、酒もかなり入ったところで、ランの話になる。
「そういえば、ラン様ですが、何故タカシ様の事を、お兄ちゃんと呼んでいるのですか?」
「あぁ、あれですか。俺がとあるアイテムを入手できるかどうか、負けた方が何でも言う事を聞くという、賭けをしたんですよ」
「それで、ラン様が負けた、と?」
「そうです。それから、俺の事をお兄ちゃんと呼ぶように」
「ラン様は何をさせるつもりだったんでしょうね」
「あいつは、俺を奴隷にしたかったみたいですよ」
「なんとっ!?」
俺の事をお兄ちゃんと呼ばせるようにしたのも事実だが、性奴隷にしたことはランの為にも黙っておこう。
「それにしても、ラン様もお強くなられた……」
「そうですね。ただバカなのは変わらないですが」
何かしみじみ語り出したと思ったら、グイグイ酒を飲んでいる。
そんなに一気に飲む酒ではないと言ったのは誰だよ……。
それより、ファラが静かだなと思ったら、アバンが飲み干す度に酒を注いでやがる……原因はこいつか!
「しかし、この短期間でどうやってあそこまで強く……タカシ様はどんな魔法を使われたのですか?」
「おい、ファラ、注ぎすぎだ」
「だいじょうぶ、おもしろい」
「何を根拠に大丈夫なんだよ。面白いって何だよ」
「それに、ラン様がまだ小さい頃から見ていた私には分かります。あそこまで強くなられたのには、何かあったに違いありません」
俺とファラが話している間にも、アバンの語りは続く。もう既に酒が回っているのだろう。目を瞑り、語りモードに入っている。
これ以上は危ないので、ファラから酒樽を奪い返し、遠ざける。
「それに、サラ様もです。たった一日見なかっただけで、全く別人になっておりました。雰囲気も変わりましたし」
それは、まぁ、やることをやったからだろう……じゃなくて! 奪い返した酒樽、中身カラじゃねーか!
「マルカやミュウさん、パルさん、パロさん。皆ですよ。今まで、戦いの“た”すら知らなかった彼女達も、突然強くなりました」
空の酒樽と一緒に、他の酒樽もインベントリに戻そうとしたら、一本無くなっていた。
ファラの方を見ると、案の定召喚獣が一本持っていて、またアバンに注いでいる。
ファラには邪魔をするなよと言っておいたはずなのに、こんな事をするとは思わなかった……。
「おい、ファラ。お前なぁ……」
「だーじょぶ、おもしりょい、おもし? くっ……」
まさか……。
試しに、ファラの飲んでいたシロップジュースを飲んでみる――やっぱり! これ、酒じゃないか!
いつ酒を注いだ!?
「突然強くなった、皆さんの共通点は、タカシ様です。彼女達に、一体何をしたのですか? あなたは何者なのですか? マリーさんの言うように、本当に勇者様なのですか?」
「え、ちょっと待っててください。おい、ファラ」
「やっぱり勇者様はファラさんなんですね。ではタカシ様は……」
「いや、そうじゃなくて、おい、ファラ」
「ん。タカシすき。ちゅーして」
いつファラが勇者になったんだよ。
「皆さんにちゅーしたのですか? 私はまだですが。あぁ……手を付けたから皆さん強くなっ……あ、私には手を出さないのですか」
「あなた男でしょう。それより、飲み過ぎです」
アバンが、召喚獣の持っていた酒樽で手酌している。
「タカシ、ここごしごし。いつものごしごし」
ファラが俺の手を掴んで自分の股間に持っていこうとするので、抵抗しておく。
「タカシ様、ごしごしってなんすか。私にもごしごしですか」
「しねーよ!」
「タカシはやく。あ、ちゅーがいい。あ、おっぱいでもいい。あ、やっぱりごしごしがいい。あばんごしごし、くくっ……」
「タカシ様、私しばらくちゅーもごしごしもしてないれす」
「だから、しねーよ!?」
もうやだ。誰か大人の人呼んできて!
「タカシ様、
「スリープ!」
――ゴッ!
アバンを指差し、眠らせておく。テーブルに額を打ち付けたが、大丈夫だろう。ごしごしよりマシだ。
「あばん、てーぶる、ごしごし。くふっ」
「お前なぁ……」
何が面白いのか分からないが、プルプル笑いを堪えているファラを抱っこして、アバンを浮かせながら、個別に用意しておいた部屋に連れていく。
ベッドに寝かせて、布団を掛ける。念の為、顔を横に向けるが、まぁ大丈夫だろう。
「あばん、ごしごし?」
「いいから黙ってろ」
「あい」
アバンとは少しアンノウンの事を話そうと思っていたが、邪魔が入ってしまったので仕方がない。また今度だな。
アバンを寝かせた後、酔っ払い幼女を連れて、家に戻る。
「あ、タカシさん、おかえりなさい」
「お兄ちゃん、おかえ、うわ、酒くさっ!」
「タカシさん、どうでした? アバンとは楽しめたかしら?」
「あぁ、もうファラが勝手に酒を飲んで、めちゃくちゃだったよ。アバンさんは酔いつぶれたから寝かしてきた」
「あばんごしごし、くふふっ」
まだ言ってやがる……何が面白かったんだよ。それより、アバンにゴシゴシするなよ? するのは俺だけだからな?
「もう、何やってるのファラ……」
ミリアが水を出してコップに注ぎ、ファラに飲ませる。
何か、最近のミリア。精神的にいきなり成長し、オカンクラスになっている気がするが……気のせいだろうか。
「俺も、久し振りに酒を飲んで眠たいから、ファラと一緒に寝る。後は任せたぞ」
「たかしはやく! はやくごしごし。あばんもごしごし」
「ゴシゴシを俺以外にしたら、本気で怒るからな?」
「あい」
返事の変わったファラも可愛いな。
抱っこしたまま、ベッドに横になる。
それにしても、明日、アバンの記憶は大丈夫だろうか。
落ち込んでいたら、また酒にでも誘おう。今度はファラ抜きで。
ふぅ。酒も入って良い感じに眠い。
ファラも寝たみたいだし、俺も寝ることにしよう。
「それじゃあミリア。お先な。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
皆の事はミリアに任せておけば問題ないだろう……おやすみ。




