罠
助三郎と格乃進は、動けなくなっている世之介の周囲を、素早く旋回し始めた。
世之介は油断なく身構え、二人の変化を見守っている。
二人の賽博格は世之介を中心として、円を描くように動いている。その速度が徐々に速まっていく。円を描く半径が縮まっていく。
──行くぞ、格乃進!
──おう!
二人が素早く高速言語で叫び合い、急速に世之介に接近してくる。
ガクランで加速状態にあるとはいえ、世之介は生身の人間である。賽博格である助三郎と格乃進の加速状態との速度の差は、如何ともしがたい。
助三郎と格乃進は必殺の気合を込め、世之介の急所を攻撃し始めた。
世之介は二人の攻撃を、的確な動作で受け止める。一撃されれば、骨が折れ、筋肉が弾け飛ぶような打撃も、ガクランによって防護される。
それでも、完全に防護されるわけではない。助三郎と格乃進の狙いは、単純な打撃だけにあるのではなかった。狙いは世之介が生身の人間である、という前提にある。
世之介は、不意に自分が危地に陥っていることを悟った。すでに自分は、賽博格たちの罠に陥っているのだ!
怒りに駆られ、世之介は賽博格らの囲みを脱出するため、遮二無二、突進を懸ける。
しかし、遅かった!
ぱくぱくと世之介は呼吸困難に口を開き、酸素を取り込もうと大きく呼吸する。
空気が足りない!
二人の賽博格が高速で動いたため、気流が突然の竜巻を作り出していたのである。竜巻の中心は気圧が下がり、酸素が少なくなっている。世之介はその中心にいたのだ。
世之介はがくり、と膝を地面についた。
ゆっくりと上体が倒れ掛かる。
気が遠くなり、世之介の加速状態が無くなり、通常の感覚が戻ってくる。
遠くで、爆発音に似た破壊の音が聞こえてくる。やっと格乃進がぶち壊した量販店の壁の破壊音が到達したのだ。
世之介は目を閉じた。