乗り物
格乃進の後から外へ飛び出した世之介は、顔を仰のかせ、空を見上げた。
菫色の空。雲は微かに薄桃色がかって見える。確かに宇宙から眺めた番長星の大気の色と同じである。擂鉢の縁あたりに太陽が顔を出し、辺りに菫色の光を投げかけている。
空を素早く、極光が横切る。真昼間から、しかも、極地でもないのに、はっきりと見える。
用心深く光右衛門が、続いて光右衛門を守る体勢で助三郎が外へ出てくる。最後にイッパチが怖々と外へ出てきた。
うおおおん……と、遠くから騒音が近づいてくる。
はっ、と見上げた一同は、擂鉢の縁にきらきらと何か、金属質の反射光を認めていた。
「人です! 何か乗り物に乗っています!」
助三郎が指さし、叫んだ。世之介も真剣に目を凝らす。
だが、細部まで見ることはできない。さすがに賽博格の視力は大したものだ。
一斉に縁から雪崩落ちるように、乗り物はこちらに近づいてくる。うおおおん……と辺りにけたたましい騒音が満ちた。
ごつごつとした岩がちの地面を、跳ねるように近づく乗り物の細部が見分けられ、世之介はあんぐりと口を開け、叫んだ。
「あれは……二つの車輪で走っている。どうして転ばないんだろう?」
前後に二つの車輪を持った乗り物の中心に座席があり、そこに人が跨り、操縦するための把手を握っている。たった二つの車輪だけで走行しているのに関わらず、ちゃんと走っているのを見るのは、不思議な眺めであった。




