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目は口ほどに  作者: とこ
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皇子教育

パチリ、と誰かに起こされるでもなく自然に目が覚めた俺の目に飛び込んできたのは、昨日新調したアンティークベッドの黒い天蓋。昨日までは起きた瞬間から目の端にギラギラと光るものが置いてあったが、この新しいベッドはなんとも目に優しくて落ち着く。


僅かな名残惜しさを抱えながらベッドから降りて時計を見ると、短い針は7を指していた昨日と同じくらいの時間だ。もしかしたらミラージルの身体は朝に強いのかもしれない。


昨日と同じように水を温め白湯に変えて飲み、ラジオ体操をしながら昨晩の事を思いだす。

昨晩、ついに爆発したアルミラ爆弾は両親から謝罪されて、俺と両親になだめられ、気を利かせた料理長からアルミラの好きなデザートを出されるまで赤く染まった頬を膨らませることをやめなかった。


俺的には盗み聞きされていたことは確かに恥ずかしかったが、なんだかんだ感動的な仲直りになっていたので、そんなに怒りは覚えない。しかしアルミラは違ったのだろう。アルミラは今12歳。実の兄に奇跡~や、神に免じて~と言っていたのを聞かれたのが相当恥ずかしかったのだろう。俺はその言葉が嬉しかった反面、一緒に食事をとって、謝罪をするだけで奇跡と言わせてしまったことに不甲斐なさを感じている。



昨日の寝る前にもしっかりとストレッチとマッサージを行ったので、昨日の朝よりも筋肉通は和らいだのではないかと感じながらラジオ体操を終えた。まだメアリも来る様子がない。そろそろと鏡に近づいて自分の姿を確認してみる。


長年の不摂生の代償かサラツヤではないものの、風呂には入っているので、髪の毛にベトつきは無く、フケもない。体型を確認するため、腕を上にあげ、ムキッとポージングをしてみる。…流石に劇的な変化はみられていないが、肌荒れはマシになったような気がする。


最後に臭いのチェックを…とポージング姿のまま自分の身体をスンスンと嗅いでいると、ドアの外からメアリに声を掛けられ何も考えず返事をしてしまったため、部屋に入ってきたメアリにその姿を見られてなんだか大分恥ずかしい。

しかし、そんな羞恥心で固まる俺を余所に、淡々と食事の用意をはじめたメアリに、いつの間にか椅子に座らされ、気が付いたら目の前に置かれた朝食に舌鼓を打っていた。


ちなみに、臭いチェックの結果は問題なしだったので、安心して食事を平らげることができた。





「プレーン先生、ここの数式なのですが…」


「どれ、見せてください。…ああ、これでしたら先ほど解いていただいたこちらの問題の応用ですよ」


朝食の後、満腹とはいかない腹を抱えながら毎日の運動ノルマをクリアした俺は今、今日から始まった皇子教育の真っ最中で、今はこのプレーン先生に数学を教わっている。


来年の貴族学園入学までに一通り学習を終えるためには、今までサボっていた分多少の詰め込み教育は覚悟しておかなければならない。ミラージルの頭脳の出来を俺は詳しく知らないが、攻略対象ではない為期待はあまりできそうにないので、ルージュリアを幸せにするためにはより一層努力しなければ。


最初にプレーン先生に数式を教えてもらい、その後はひたすら問題集を解く。分からないところがあれば先生に質問して…というのを繰り返す。今回は4年間のブランクがあるということで、新しい数式ではなく引き籠る前に勉強していたことを復習として行ったのだが、渡された問題集を見て、その問題の解き方がするする浮かんできて驚いた。なんだかんだ覚えているものなんだな。


「これで全部解き終わったかと思います。どうでしょうか?」


「お預かりいたします。…はい、大丈夫です。全問正解されていらっしゃいます」


俺の手渡した問題集を受け取った先生はうんうんと頷きながら内容を確認した後、よくできました、と呟きながら問題集に花丸を付けた。この世界に花丸っていう概念があることが地味に驚きだ。


「久しぶりなのに、よく此処まで解けました。流石でございます」


「いえ、先生の教え方が分かりやすいおかげですよ」


「とんでもないことにございます。昔からミラージル様は頭の良い方でいらっしゃったので、4年のブランクなど感じさせ無くても納得です。……また、ミラージル様の講師として選んでいただけて私は本当に嬉しいです。」


しみじみとそんな事を言われてしまうと、なんだか照れる。プレーン先生は俺が7歳の誕生日を迎えてから引き籠る前までにも数学の講師をしてくれていた先生で、俺が引き籠り始めた時は優秀な頭脳があるのにもったいない、と密かに悔やんでくれていたそうだ。

でも確かに、ミラージルの記憶力は俺が想像していたよりはいいのかもしれない、と今日の授業を受けて思った。


「僕もまた、プレーン先生に会えて、ご鞭撻いただけて嬉しいです。4年間空白の時間ができてしまいましたが、今後ともよろしくお願いします」


「ええ、優秀ななら空白の時間なんてあっという間に乗り越えてしまうでしょうから、私も気を引き締めてまいりますね」


「お手柔らかにお願いします」


過去に多少の思いを馳せつつ、今後の学習計画を先生と話し合っていたらあっという間に時間は過ぎていて、最後にプレーン先生からは復習と予習のための分厚い問題集が渡された。来週の授業までに終わるかな、これ。




並々と湯を張った湯船に身を沈めればふぃ~っと思わず声が出て、毎日お風呂に入れるのは皇族の特権だな、と手でばしゃばしゃと目の前のお湯を遊ばせる。


それにしても今日は大変だった。

今日から来てくれる講師は数学のプレーン先生と同じく皆ミラージルが引き籠る前にも俺についていてくれていた人たちで、皆一様に四年ぶりに再会できたことを大変喜んでくれた。


数学の次は剣術の時間だった。講師の名前はゴードン先生と言って、最初は引き籠って脂肪を蓄えた俺の姿をみて驚いていたが、すぐにこれからのダイエットカリキュラムを考えてくれた。やはり、本格的に剣術を学べるのはやはりある程度痩せてからみたいだ。与えられた課題は模擬剣による素振りを毎日50回。体力と相談して回数を増やしてよいと言われたが、正直50回も達成できる気がしない。そのことを正直に話すと豪快に笑いながら“気合で頑張れ”と背中をばしばし叩かれた。ちなみにその後実際に素振りをさせされて、終わった時俺は瀕死の状態だった。



最後の授業は語学で、数学で頭を使い剣術で体を使った後なので正直とても眠かった。加えて、語学担当のユメール先生の声が心地よいテノールで口調も優しいものだったため、眠気に耐えきれず何度か白目を剥いてしまった。そんな俺をみて先生はくすくすと笑いながら“気にしないでください”と言っていたが、終わるときに出された課題が辞典並みに分厚かったので、多分あれは密かに怒っていた。


この後処理しなければいけない課題たちに思いを馳せながら立ち上がれば、それに合わせてザバンとお湯が波立つ。ゴードン先生に扱かれた身体には未だ疲労が残っていてバスタブから出るだけでも一苦労だ。


なんとか風呂から這い出て、髪を乾かし服を着る。ストレッチをして、マッサージを終えたら、あっという間に就寝の時間になっていた。お気に入りのベッドに身体を埋め、大きなあくびを一つする。目をつぶったら余程疲れていたのかくっついた瞼が離れなくなってしまって、明日は伎楽と魔法と帝王学の授業があるな、と頭の中で呟きながら俺は夢の中へと沈んでいった。

最近難産です。

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