アイスクリームを作ろう2と本編
カロイドには生クリームを泡立ててもらい、クリアには卵と砂糖を混ぜてもらっている間、俺はウィステリア嬢と共にトッピングやフレーバーの為の材料を確認していた。
目の前に並ぶのは、イチゴやオレンジなどの各種のジャム、ココアパウダー、ナッツ、チョコレートのチップ、色々な味のクッキー、コーヒーや紅茶を淹れるセットだ。
「沢山種類がございますのね。これを私はどうすれば?」
「えっと、まずはナッツを砕いてもらおうかな」
「砕く…どのように?」
「こんな感じ。そんなに力はいらないからウィステリア嬢にもできると思う」
ナッツを一部別の器に移し、麺棒の尻で叩き砕いて見せる。
実演をした後、ボウルと麺棒を受け取ったウィステリア嬢は、最初は遠慮がちに叩いていたが慣れてくれば力を込めて叩けるようになっていた。その表情は楽しそうだ。
「ミラージル、もったりってこれくらいかな?」
俺がナッツを砕くウィステリア嬢を目の端でとらえながら濃いめの紅茶を淹れているとクリアから声がかかった。
クリアの持つボウルの中を覗きに行くと、丁度いい位のもったり感だ。
「うん、丁度これくらい。初めてなのによくわかったね?」
「僕料理の才能あるかも」
冗談めかして笑うクリア。
丁度その時、生クリームをも七分立て程に泡立ったようでカロイドからも声が上がった。
「ラージ、こっちも終わったぞ」
「お、丁度いいな。みんなでアイスのフレーバーとトッピングを選ぼう」
永遠にナッツを砕くウィステリア嬢の手を止めさせ、みんなでまずはどのフレーバーにするか選ぶ。
「材料の量が多いなとは思っていましたが、いろいろな味で楽しむためだったのですね!」
「そういうこと。アイスを自分で作るなんて中々ないだろうからね。ノーマルな味はもちろんだけど、俺はココアを混ぜてチョコレートアイスにしようかな」
「私は…このイチゴのジャムにいたしますわ」
「じゃあ俺はチョコチップクッキーにしよ」
「僕は…紅茶とプレーンのクッキーを混ぜてみようかな」
各々好きな材料を手に持ち、先ほどカロイドが泡立ててくれた生クリームの元へ戻る。
此処からはフレーバーごとにボウルを分けるため、秤の上に小さめのボウルを乗せて、生クリームの入った大きいボウルから当分に分けていく。計り終わったボウルはそれぞれの前に置いていく。
「その生クリームの中にそれぞれ選んだ材料を入れて軽くまぜてね」
皆が次々に材料を入れて混ぜる。すべてが均等に混ざったらここからがアイスづくりの本番だ。
「それじゃあ、これから冷やしていくから皆ボウルから手を放して」
「あれ、氷に塩をかけて冷やすんじゃないの?」
「うん、それより早い方法があるから見ててよ」
俺は皆がボウルから手を離したことを確認してから、ボウルに向けて手を伸ばし氷魔法を発動する。
ただ凍らせるわけではない。今回は凍らせながらも合間に撹拌をしないとなめらかなアイスクリームにはならない為、魔法の威力を調節しなければいけないのだ。
俺の手から放たれる氷魔法は、他の物を凍らせることなく、ただ静かにボウルの中身を凍らせていった。
「よし、皆、これくらいで一度混ぜてみて」
「す…すごい」
俺が、ふぅ、と息をつき、皆に声をかけるとその言葉に答える声は無く、ただ思わずといった様子でクリアがそう呟いた。
「ミラージル、本当にすごいよ。体外の物も凍らせられるたんだね!しかもただ凍らせるだけじゃない、威力も調節して、しかも触れずにピンポイントで凍らせるなんて…!」
「あはは、吃驚した?」
「すごく、びっくりしたよ」
珍しく興奮気味に語るクリアが目をキラキラと輝かせる。
「私も驚きましたわ…!殿下はやはり類稀なる魔法の才能をお持ちですのね!」
「それほどでも…ほら、溶けないうちに皆アイスを混ぜて」
ウィステリア嬢にもキラキラと輝く瞳で褒められるとなんだか照れ臭く、照れ隠しの為に言った俺の言葉に皆慌てて自分のアイスクリームを混ぜ始める。
混ぜ終わったらまた凍らせて、それを何度か繰り返せばついにアイスクリームが完成の完成だ。
「お疲れ様。皆、この小皿に好きなフレーバーを取り分けて」
「僕はー…まずシンプルに何も加えてないノーマルなやつを食べようかな」
「あ、私もそういたしますわ!」
「じゃあ俺が取り分けるから、小皿貸しな」
恐らくアイスの取り分け等初めてだろうに、器用なこの男がアイス用のスプーンですくったそれは器用に丸く形作られている。
おお、と感心して見つめていれば、“ラージもノーマルで良いか?”と聞かれたのでありがたくその差し出された手に俺の小皿を受け渡した。
カロイドが皆の分を配膳し終わり、自身の小皿を持って席に座る。いよいよ実食の時だ。
「~~っ!冷たくておいしいね」
「本当ですわね!それに、自分で作ったということも考えると美味しさも一入ですわ…」
「うまっ…!俺実はアイスクリームなんて食べるの初めてだ…こんなにうまい物、もっと早く俺に食べさせてくれても良かったんじゃねえか?」
「はは、いつかびっくりさせてやろうと思って機会をうかがってたんだよ」
元々男爵家出身のカロイドは、勿論アイスクリームを口にしたことは無いとわかっていた。
食べたいと言われれば俺はいつでも作る気ではいたが、名前と存在こそ知っていたとしても、実際アイスクリームを口にしたことがないこいつが食べたいという発想に至ることも無く今日まで来た。
そもそもカロイドは私欲の為に俺に魔法を使わせるようなことはしない。それはたとえ小さなことでも、だ。
勿論俺が夏場に“冷たい飲み物が飲みたい”と言えば、俺が氷魔法を使えることを知っているカロイドは“じゃあ氷を出せ”と言ってくるだろう。
しかし、カロイド自身がどんなに暑くてどんなに冷たい飲み物を欲していたとしても俺に氷を出してくれと頼むことはしない。
こいつはそういうやつなのだ。
だから、先ほども口先ではもっと早く食べさせろなんて言っていたが、実際俺がカロイドの為にアイスを作ってやるなんて言ったら“そんなくだらない事に魔法を使うのはやめとけ”と断っていた筈だ。
あっという間にノーマルなアイスを食べ切った俺たちはお代わりを継ぎに行くが、今度は食べたいフレーバーが皆違い、各々好きなものを自分でよそって食べた。
「そういえば、ウィステリア嬢は夏季休暇の間はどこにいくんだい?」
俺はノーマルのアイスに濃い目に入れたなんちゃってエスプレッソをかけたアフォガードを食べながら問いかけた。
「私は、毎年この時期には避暑地にある別荘へ行きますわ。クリア卿は一度実家に帰られるのですわよね?」
「うん。明日には迎えが来るから夏季休暇の間はずっと実家にいることになるね」
「では、夏季休暇明けにはお土産をお待ちしておりますわ、ね、殿下」
「分かった。お土産を買って帰るよ」
「…?殿下も夏季休暇の間どこかに行かれるのですか?」
ウィステリア嬢は不思議そうに首を傾げ、アイスを食べる手を止めた。
対してクリア卿はどこか気まずそうに人差し指で頬をかく。
「ミラージルも、僕と一緒にノワール王国に行くんだ」
「え!どういうことですの?」
ウィステリア嬢は驚きを隠せない様子で目を白黒とさせた。
当たり前だ。俺は今日までこの計画をクリア、カロイド、両親とアルミラにしか伝えていなかったのだから。
「では、殿下は夏季休暇の間、ノワール王国の王宮に行かれるということですか?」
「いや、伯爵家の次男という体でクリアのご実家にお邪魔させていただくつもりなんだ」
父上は、俺がブロジットと結んだあの契約を知ったときから、ノワール王国を警戒している。
普通ならあんな契約は結ばないので何か裏があるのではないかと父上が考えるのは順道な事だ。
そしてその話を受けた俺は、ルージュリアは義妹を虐めているとの噂があること、その義妹とブロジットは仲睦まじげな様子であったことから、おそらくブロジットにとって邪魔なルージュリアを他国へ追いやって、更に義妹を虐めたルージュリアを貶めたいという思惑があるのではないか。だから敢えて醜悪だと噂がある俺との婚姻を提案したのではないかと父上に伝えた。
そして、ノワール王国の人間には俺がまともになったと知られてはいけないことも。
もし、俺はまともになったと知ったら、俺と婚姻を結ばせてもルージュリアを貶められないと悟り、別の方法でルージュリアを断罪する可能性が出てくるからだ。
俺の推測…ゲームの内容から考えるに殆ど事実だと思うが、を話した時父上は大変怒っていた。
元々親馬鹿な父上だ、実の息子との婚姻がそんな罰ゲームの様な扱いをされていて怒らないわけがなかった。
更に、腐っても俺は皇太子だ。どんなに醜悪でろくでなしでも、皇太子にこんな行為をするということは、俺個人だけでなく、フォードリア帝国自体を侮辱する行為でもあるのだから。
だから俺はフォードリア帝国の皇太子としてノワール王国を訪問するわけにはいかない。
でも俺は何としてでもこの長期休暇の間にノワール王国に行きたかったのだ。
それはなぜかと言えば、偏にルージュリアを交換留学生としてフォードリア帝国に呼びたいから。
そもそもゲームの始まりは、今年、ヒロインとルージュリアがノワール王国の学園に入学するところから始まる。
今まで、婚約者であるルージュリアを訪ねる名目でお屋敷にやってきては、暴君であるルージュリアとの会話に心労を募らせるブロジットを野に咲く花の様に可憐で穏やかなヒロインが癒す。ここまでは全攻略対象での共通ルートだ。
ブロジットルートでは、お互い密か心を通わせあっていた二人が、学園での生活の中でその距離を縮めていく。
元々ブロジットが少なからずヒロインに好意を持っているので、ヒロインに嫌がらせをしたルージュリアはどのルートでもミラージルの元へと嫁がされる。
話を戻すが、なぜ俺はルージュリアをフォードリア帝国へ呼びたいか。いち早く推しに会いたいから…ではなく、ルージュリアのヒロインへの行為は来年からエスカレートしてしまうからだ。
エスカレートしてしまう、とはいっても実際その行為をした場面がスチルなどで描写されていたわけではないので、クリアから聞いた不可思議な現象も踏まえて考えると、ルージュリアが本当に行ったかは分からない。が、少なくとも断罪される大きな要因を作ることにはなってしまう。
だからその前に、何としてでもルージュリアをヒロイン達から遠ざけたいのだ。
しかし、ルージュリアを留学生に選ぶには素行不良という噂が邪魔になる。フォードリア帝国とて、噂を根拠なく信じることはできないが、逆に噂を根拠なく否定することもできない。
その噂を払拭するべく、俺は直々にノワール王国に出向いて調査をすることにした。
影の者に任せることもできたが、クリアの話を聞いた限りでは、なにか仕掛けがありそうなので実際に俺の目を確認しておきたいと思ったのだ。
だが、俺がミラージルとしてノワール王国に行けば、俺がまともになっていることがばれてしまう。それはいけない。
そこで、白羽の矢が立ったのがクリアだ。
元々交換留学はお互いの国で人脈を作るためにできた制度なので、夏季休暇の際、フォードリア帝国で出来たクリアの友人が訪ねていってもおかしくない。
「ということで、ミラージルはフォードリア帝国の伯爵家の次男、カロイドは男爵家の三男っていう体で僕の家に来ることになったんだ」
「なるほど、百聞は一見にしかずと言いますし、ご自身の目で確認するというのはとても良い考えですわね」
事の成り行きを大まかに説明すれば、既に俺とブロジットとの契約や、ルージュリアについて話をしていたウィステリア嬢はすぐに納得してくれた。
「私もルージュリア様にお会いしてみたいですが、流石に異性のご自宅に宿泊は出来ませんし…ノワール王国に知り合いはクリア様以外おりませんので、あきらめるしかありませんわね」
「そうだね。その代わりお土産話を持って帰ってくるよ」
「ふふ、楽しみにしておりますわ」
ウィステリア嬢は口元に手を添え小さく笑った。
ルージュリアには留学生としてこちらに来てもらうから、その時仲良くしてもらえればよいだろう。
クリアがウィステリア嬢にお土産は何が良いかと話している声を聞きながら、俺は少し溶けてしまったアイスを口に運ぶ。これはこれで美味しい。
お読みいただきありがとうございます。




