47犠打目
津浜は昨年度秋、夏大会で大久保が肘を痛め離脱したために投手が河野だけになる非常事態に陥った。
そのため新たな投手を発掘するのが急務となり、川相は適正を見極めるために部員全員に投手練習をさせる。
その結果、手応えがあったのが弓岡と今宮だった。弓岡は130近いストレートと捕手らしいテイクバックのないフォームが打者を惑わし、今宮は168の低身長ならではの低い位置からのリリースポイントが独特で武器になると川相は判断しそれぞれに合格点を与えた。
だが、弓岡は一人捕手で弓岡が投手なら受け手がいないとの層の薄い公立校らしい理由で、今宮は投球練習しただけで肩に違和感を抱く軟弱さで投手候補からすぐに除外される。
その代わり浮上したのが白縞と島中。島中は単に左腕という希少価値、白縞は度胸とコントロールだけが取り柄で短いイニングならごまかせるとのなんとも消去法な理由で二人は河野のリリーフ役に指名された。
白縞はストレートだけしか投げれない自分を恥じて変化球を磨くことにしたが、カーブ、スライダー、シュート、チェンジアップなどを一通り投げてもいづれもしっくりこなかった。
「それでもフォークだけは20球に1球は落ちた……いや落ちたような気がした……捕手の弓岡はこんな精度じゃサインはとても出せんと封印を命じたが……どうせ打たれるなら……僕にはないはずの第4の選択肢を選ばさせてもらうぞ……遊ぶ……遊ぶ……この場面であえて遊ぶ……20球に一回しか落ちないフォークに遊びながら立ち向かう……もしフォークが落ちたら? 迫田はボールの上を叩き内野ゴロでダブルプレーでゲームセットかあるいは空振り……落ちなかったら? 110キロといつもよりちょっとだけ遅いストレート……120キロのストレートを漠然と投げるよりだいぶマシか……あ…でもフォークのサインなかったよなあ。なら僕から伝えよう」
白縞は何を思ったのか、フォークフォークと口で弓岡に伝える。もちろん迫田にも知られてしまう。
「は? また誘導作戦か……あのクソ野郎……最初から最後までなめたことしやがって……フォークもあるってことでオレを惑わしたいのかああ」
単純な迫田には効果てきめんのようだ。
白縞は初球を宣言通りフォークの握りから投じる。
ボールの軌道はリリースポイント時から完全に狂っており地面に叩きつけて、あらぬところに逸れそうになるが弓岡がなんとか食いとめ大ごとにはさせない。
「やっぱだめか……でも20回のうちの19回の裏目が出ただけだ。次は20回のうちの1回の表目が出るターンかも……」
川相はベンチで目を丸くしている。
「フォークを投げたってことより……あいつがあんな大ボールを投げたことにびびった。これ逆にいけるかもな……まったく根拠ないがそんな気がする……ストレートをド真ん中ばっか投げるよりどうにかなるだろ……あっちこっちに荒れた方が……」
もはやなにが起きてもポジティブに考えるしかない川相は最高潮に来て白縞と精神的同化を果たしてしまったのか。




