29犠打目
横浜星港は甲子園春夏合わせて3回の優勝を誇る神奈川県最大の野球名門校。
首都圏各地から有力球児を集められるブランド力は長年の強さを安定させている。
だが、県内最強高校にも歪みはある。
3回の優勝を指導した名将が勇退し、30歳の若い監督に代わって2年半、結果がいまいちなのである。
さらに、現3年生の世代が入る年に小山監督に急遽バトンタッチしたため、前監督の指導を期待して門を叩いた3年生はなかなか小山の言うことを聞かない。
白縞はその噂をすでにキャッチ済みだった。
ついに躍り出た30年ぶりの準決勝でも津浜ナインは特に電車で囲まれることもない。
「どこのチームだって弱点はあるんだ、そうだろ山本」
特にキャプテン白縞ら3年生世代はチームの中心のわりに人気が出ない。
準決勝までの空き日を港南台大高のグラウンドで練習するナインはそれぞれ電車を利用して合流の運びなのだが、白縞山本に気づいた者がいても車内が騒ぎになる雰囲気はどこにもない。
「武蔵小杉は甲子園への熱量が絶対的に不足していたからな、シラ」
スーパー1年生の平野や近藤はそれでも可愛いとかフレッシュなイメージで人気沸騰傾向にあるのだが……。
「そして最強横浜星港はチームが真っ二つに割れているのは公然の秘密だ」
「現監督小山を認めた派とそうでない派だろ」
「前監督がカリスマ性がありすぎた故に悲劇か。おまけに小山監督になって過去4回の甲子園チャンスで出れたのは2回、それも甲子園では3回戦が限界と結果も今ひとつ出ていない。口うるさいファンやマスコミも小山監督を疑問視しだしている」
「それでシラ、それをどう活かすんだ? 相手の不和を突くってどうすればいいんだ? 武蔵小杉のときみたいにバント攻撃でやる気激減とか期待できないぞ? 奴らはどうしても甲子園制覇したくても横浜星港を選ん連中なんだから……こっちは口に指をくわえて勝手に崩壊するのを期待するしかないんじゃないか?」
「それがあるんだなあ……思いついたんだよ……」
「まじかよ……お前の悪知恵パワーどうなってるんだ!?」
「小山監督は選手を追い込まずできるだけ潰さない今どきの若手指導者ぽい方針を掲げている。反小山派はそれが気に食わなくてね……前監督のようにもっと練習すれば……少しでも選手に無理強いしたら甲子園でもっと勝てたと思っている……」
「去年たしかエースを起用せずに甲子園初戦敗退したよな……あれは賛否両論どころか否ばっかだった……エースは肘に多少違和感あったらしいがそれでも甲子園でエースが投げずに終わるとか去年の3年生がどれだけ不満を溜め込んだのは容易に想像できる」
「今年だってドラフト1位確実の矢坂を必要以上に温存してる……決勝につぎ込むためにウチには投げてこないとの予想ばっかだ」
「まあ確かに矢坂が投げる必要もないかもな、ウチ相手では」
「でもあと2試合で甲子園だろ? 連投くらいしてくれって3年生は思ってるはずだ。しかも矢坂はフィールディングが抜群に上手い」
「バント攻撃に対応可能か」
「2番手3番手がバント攻撃で崩され負けたら3年生はたまったもんじゃないだろ。だから反小山のナインは矢坂を投げさせることを要求するはずだ。監督は絶対って理念はもともと星港にはない……前監督もナインとの喧嘩同然の侃々諤々の議論を経ての偉大な実績だからな。小山監督だって現役時代は前監督に散々楯突いてその性格の強さで次期監督に指名されたようもんだし、選手が意見すること自体に小山は眉をひそめない……でも信念は動かさない……矢坂は決勝に取っておくってね」
「だからそれでどうするんだよ」
「矢坂が投げなければうちに勝機が出てくるだろ?」
「小山の信念の強さに賭けるのか?」
「天命に賭けるマネなど僕の流儀にもとるんだ……僕は動いて矢板を投げさせないようにする」
「またおかしいなこと言い出したぞ……つうかさシラ……普通さ相手の一番いい投手を打って決勝行きたいだろ?」
「僕は甲子園に行きたい! 過程などどうでもいい……ベスト4で終わったら所詮ローカル止まりの話題性だ……全国区になるのは甲子園行くしかない。僕はチヤホヤされたいんだ!! ダンボール一杯のファンレターとかもらってみたいんだ!! 甲子園開会式で「白縞くんですよね、バント野球の……一緒に写真撮ってくれませんか……?」と他校の選手に次々と言い寄られたいんだ!」
「で、どうやってやるんだ……(甲子園行ってもお前でなく平野近藤しか人気出ないと思うけど……)」
「まあ楽しみにしてくれ……準決勝の先発は矢坂じゃないから……それは絶対……」




